61 2018年04月店をジャンル決めするのは我々編集者の悪い癖かもしれない。時には和洋中のジャンルにはまり切らない店もあるし、提示金額を告げるだけでその日のお薦めを作ってくれる店だってある。北新地にある「西洋料理店ふじもと」は、西洋料理とジャンル分けははっきりしているものの、洋食屋とは言いにくいレベル。客の大半は、嗜好や値段をシェフに告げ、シェフが作るオーソドックスな西洋料理を堪能している。今回は営業時間や休みも明確化していないのに、グルメ達がその日に味わいたいものを求めて足を向けるという、一見風変わりな店を紹介する。尊敬するのは天皇の料理番・秋山徳蔵で、目指すは明治期に華族や貴族が食していた西洋料理という藤本直久シェフの店で、いつものアレをやってみた。

北新地 西洋料理店ふじもと 藤本直久
(「西洋料理ふじもと」オーナーシェフ)
「ゆず金山寺は、塩分が少なく、
バランスが実にいい。柚子の塩味
も勝っていないのに不思議と柚子
風味を主張しています。私が目指
している料理には、最高のパート
ナーとなるべき調味料かもしれま
せん」

洋食屋ではなく、西洋料理店

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北新地に「西洋料理店ふじもと」なる店がある。この店を他人(ひと)に紹介するには少々難しく、一言で説明しにくい。ジャンルは洋食になるのだけれど、一般人が思い浮かべるそれではない。でもグランドメニューに載っているのは、和牛ビーフシチューに、ナポリタンスパゲッティ、オムライス、ハンバーグといったもので、この料理名から察すると、どうしても洋食屋といわざるをえないからだ。同店を営む藤本直久さんが北新地に店を構えたのは2年程前のこと。それまで彼は、東京の帝国ホテルやホテルオークラ神戸、ガーデンホテルス関西(三井ガーデンホテル)などといった名門ばかりを歩いて来た。そんな藤本さんは自身の経歴をいかす意味で、洋食店を作ろうと考えた。しかも単なる洋食屋ではなく、大人が、グルメが通う店を。そして秋山徳蔵がかつて作っていたような華族や貴族が食べた西洋料理を提供したいと思って独立した。なので店名は“洋食屋”ではなく、“西洋料理店”の冠が付く。新しい料理をという現代に逆らって明治の頃にあった西洋料理をと目指し、原点回帰を謳いながら調理する、そんな店なのだ。だから下準備もあまりせず、注文が通ってから調理をスタートさせる。効率性を考えての作り置きは一切やらず、作り手自身が7~8分待ってもらってもきちんとしたものを出した方がいいとの考え方を持っている。例えばハンバーグは、一般のようにミンチ肉を練らず、肉の粘質だけで作り、空気を含ませて焼く。繋ぎもほぼ入れず、肉々しさを持たせている。「玉ネギを入れると、繋ぎがないからバラバラになるんですよ。ふわっとさせた握り加減が大事で、銀シャリの如く潰さぬよう整形してパティを作ります」と話す。なので料理は若干時間がかかるが、その分、手作り感たっぷりで「待たせた分、期待を裏切らない料理を出す」と断言している。

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時間がかかる時は、ソムリエールの矢野貴代美さんが相手をする。この店ではワインを中心に日本酒、焼酎と色んな名酒が揃っているが、料理に彼女がうまく合わせた酒をチョイスするとともに蘊蓄も存分に語られる。むしろそれが面白いと、酒にソースを合わせてほしいとの注文も時折り入るそうだ。店は小さく、カウンターのみのたった10席だが、その空間がまさに旨いものを提供するのに丁度いい大きさに映ってしまう。それくらいこの店では、藤本さんの西洋料理世界が広がっていくのだ。

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料理予算は3000~6000円ぐらいが目安で、ここに酒がプラスされる。かといってオムライスだけを食べて出れば1000円で済む。使い方は客次第で、洋食屋的味わい方をしてもいいし、コースのようにしてもらい、酒と料理を堪能するのもまた一興。そして食後にバータイム的に使用し、ちょっとつまんで飲むのもいい。とにかく色んな楽しみ方ができるのが「西洋料理店ふじもと」なのである。「零時以降にピアノの生演奏を楽しみに訪れる方もいます。お客様は99%が口コミで、アットホームな雰囲気も売りの一つ。なので営業時間もあえて設けずに予約があればいつでも開ける気満々で営んでいるんです」と藤本さん自身の店を説明していた。…とはいっても書き手としては営業時間の目安がほしい。聞いた話では月から土曜までの18:00~翌2:00が基本線というところか、「けれど昼間でも予約が入れば開けるし、それが二人ででもOK」というからまさに説明しづらい。要は一度電話を入れてから行ってみてとしか書けないのだ。

醤油が替わると作り方まで変化する

 

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そんな藤本さんに湯浅醤油と丸新本家の商品を渡してみた。すると、彼はかなり気に入り、これまでの調味料を一新させるが如く、それらを使い始めたのである。藤本さんがまず気に入って常時使いたいとしたのが「樽仕込み」と「かけるだし醤油」。前者を「ぎゅっと詰まったコクのある味」と表現し、バターとよく合うと、焦がしバターのサーモンステーキを作った。「醤油が替わると、作り方まで変化しました。以前は某メーカーの生しょうゆを使っていたんですが、気に入ったので今後もこれで調理します。『樽仕込み』は塩角がなく、味わいが強いから下味の塩味も少なくて済みますね」と説明していた。
「サーモンステーキ」(1800円)は、その身が美しいノルウェーサーモンを用いた一品だが、常時作っているこの料理にうまく「樽仕込み」が出合ったことになる。この日、私に作ってくれた「ノルウェーサーモンステーキ イクラ添え 焦がしバター醤油ソース」は、まさにその醤油特性を考えたものであった。サーモンを仏料理でいうミキュイの技法で作っている。ミキュイとは人肌の意で、生っぽい所を残しつつも人肌まで温度を入れて仕上げること。そして冷めてもタタキのように味わえるのだ。「ミキュイの技法で火を入れて、醤油漬けのイクラを載せて焦がしバターソースをかけるだけのシンプルなものです。以前はほとんがバターだったのが、これは醤油がメインのソースです。『樽仕込み』がしっかりしているので下味の塩味も控えることができるんです」。藤本さんによると、「サーモンステーキ」は、この店でも人気がある品だそう。ただでさえ人気があったものが、「樽仕込み」を得てさらにグレードアップしたかのよう。「かなり気に入りました」は、お世辞でも何でもない。

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藤本さんがもう一つ、かなり高く評していた「かけるだし醤油」は、自社で丸鶏から摂ったチキンエキスが使われている。この特性をいかして彼は近江牛のA5の肉(カイノミ)をステーキにした。近江牛は、神戸牛や松阪牛と比べて脂があっさりしている。A5のカイノミは、柔らかくて脂身も少ない。その肉を表面を炙って一旦除けておき、その油が出たフライパンで淡路島産の玉ネギや京都産聖護院蕪、パプリカ、菜の花をさっと炒める。それを鉄板に載せて、先程の近江牛も載せる。タレは、「かけるだし醤油」とざらめ、酒(灘の「福寿」が使われている)を合わせたもので、まさにすき焼き感覚のステーキになっている。最後に有馬山椒を散らし、溶いた黄身に漬けて味わうのだ。「まず、バランスがいいという印象です。『かけるだし醤油』は、他のだし醤油とは全く別の物。甘みを感じたので、すき焼き風に調理しようとすぐ思いましたね」。藤本さんは、「かけるだし醤油」の香りも一級品と捉えていた。「この一品も醤油がベースの料理。野菜は塩コショウせず、『かけるだし醤油』の味わいだけで調味しているんですよ」との解説も加わっていた。

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三品目は、「春のグラタン 金山寺味噌風味」である。いつもならベシャメルに生クリーム、チーズで仕上げるのだが、今回はホワイトソースに「ゆず金山寺」を加えて作ったそうだ。具材はとり貝に、ホタルイカ、菜の花で、これまた塩コショウせずに「ゆず金山寺」のみで調味している。「ゆず金山寺」は、塩分が少なく、味のバランスがいいというのが藤本さんの感想。柚子が勝ちすぎるわけでもなく、塩味が強いわけでもない。かといって柚子の風味がしっかりしたグラタンになっており、ホワイトソースの旨さも十分伝わって来る。藤本さんが「私の目指す料理にぴったり。調味料として最高のパートナーになりそう」と絶賛していた気持ちもわからぬでもない。
グラタンは、洋食の定番だが、大半の店がソースを作り置きにして冷蔵保存している。効率を考えれば、仕方ないことではあるが、藤本さんは「決してそれをしたくない」と断言し、ソースも注文が通ってからしか作らない。「作り置きしているのと、仕上がりの香りが違うんですよ」と言うように、7~8分待ってもらっても美味しいものを出す方がいいというのが彼のこだわりなのだろう。

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いつもなら今回の一品一品は、私だけのスペシャリテと書くところだが、今回はそうでもないらしい。それは「西洋料理店ふじもと」がグランドメニューはあってもそれは文字的な表現に過ぎないからだ。この店の面白さは、客の嗜好によって技法が変わったり、具材が替わったりすることで、一口にグラタンと称してもその時々によって色々と変化していく。嗜好とは、好んでそれに親しむとの意。まさに藤本さんは個々の嗜好に合わせて西洋料理を作っている。オーソドックスな料理でも調味料などを替えることでかくも味が変化する_、それを地でやっていることが凄い。だから私は冒頭に洋食屋とかくのを躊躇ったのだ。

  • <取材協力>
    北新地 西洋料理店ふじもと

    住所/大阪市北区堂島1-3-4 谷安ビルB1

    TEL/06-6344-7881

    営業時間/未定(大抵は、18:00~翌2:00ぐらい。要予約を)

    休み/不定休

    メニューor料金/
    ふじもとのハンバーグ     1500円
    和牛ビーフシチュー      2800円
    本日の魚料理         1500円~
    サーモンステーキ       1800円
    4種のチーズドリア       1200円
    オムライス          1000円
    ふじもと特製コース      4200円、6000円、7800円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

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