51 2017年06月 統計をとったわけではないが、ここ20年で一番増えたジャンルは焼肉屋ではなかろうか。これといった料理人がいなくても仕入れルートさえ確保すれば誰しも始められると、新規参入した企業も多いと聞く。そんなことだから焼肉屋はいずこも同じで、近年、コレといった名店が見つからなくなってしまった。そう嘆いていたら我が知人の焼肉通が「城東区(大阪)にレベルの高い店がありますよ」と言って来た。行ってみたらかなりの質の良さである。しかも漬けダレがなく、揉み込んだ味で食べるという個性もある。関目高殿駅からすぐの焼肉店「じゅうじゅう亭」で、焼き肉大好き星人(?)の佐伯さんと共にいつものアレをやってみた。店主・𠮷田貞夫さんはいかに醤油と味噌を使ったのであろう。とくとご覧あれ…。

じゅうじゅう亭
𠮷田貞夫
(じゅうじゅう亭店主)
「湯浅醤油のことをテレビで見て
興味を抱いていました。今回、
タンを『樽仕込み』に40分浸し
ましたが、醤油自体がまろやか
なので辛くなりません。他の
醤油ならこうはいかないで
しょう」

あればラッキーな「極上厚切りタン

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地下鉄・関目高殿駅からすぐの所にある「じゅうじゅう亭」は、地元では評判の焼肉屋。価格も手頃なのにレベルの高い牛肉が出て来ると噂に聞く。その話を確めるべく、私が訪れたのは今月の1月だった。一昨年に一度計画したが、話が潰れてしまい、いわば一年越しの恋だったわけだ。案内役は、城東区に住む佐伯さん。私が“焼肉星人”と称している焼肉通である。彼の道案内のもと、「じゅうじゅう亭」に行ったのだが、私はこの辺りにはなじみがない。車でグルグル回ったようでも、聞くと渋滞を避けての道だそうで、何でも国道1号を走り、関目5丁目の交差点からちょっと入った所に位置するらしい。なんだ!電車でも車でもそんなに難しくないようだ。
「じゅうじゅう亭」は、元肉の卸しを営んでいた𠮷田貞夫さん夫妻が経営している。「卸しをやっているうちに焼肉屋もと思って始めたのだが、いつしか主従順転し、焼肉屋の店主になった」と笑う。人柄の良さそうな職人肌の人で、殊、仕入れにはかなり気を遣っているようだった。同店の特徴は、漬けダレが出て来ないこと。奥さんが作るタレが、あまりに旨かったので、提供前にそれに揉み込んでそのままテーブルの炭火で焼くスタイルを採用した。タレは勿論、企業秘密でレシピは明かさないが、このタレが甘すぎず、くどすぎず、和食でいうなら“いい塩梅”というフレーズか。タレをつけたまま焼くと、焦げが出るかと懸念したが、これは素人的発想のようで、そうならぬように設計(考案)されているのだろう。
「じゅうじゅう亭」の良さは、この揉みダレをつけた肉にある。色んな焼肉屋に行くが、ここはかなりのレベルの高さである。それであって上タン650円、上ミノ700円、上ロース1100円(ともに税別)は安い。中にはタンゾコ(舌の裏側部分らしい)400円というのがあるから驚かされる。𠮷田さんに聞くと、「3000円ぐらいで楽しめる」そうで、現に私は都合三回行ったが、飲んで食べて5000円ぐらいを支払っているのだからなかなかリーズナブルといえよう。

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焼肉通の佐伯さんが推すのは、極上ロース、極上バラ、上バラの三つ。この三つだけは「ミヤチク」から仕入れている極上品。「ミヤチク」とは、宮崎県にある肉屋で、宮崎牛を主に扱っている。九州ではかなり有名で、ここの肉は仕入れ値も高く、自ずと肉質レベルも高い。この金賞を獲るほど有名な「ミヤチク」と𠮷田さんはたまたまルートがあり、ロースとバラの極上品だけを引いている。「極上ロースは、一枚当たり200g前後で宮崎牛のA4~5ランクのものです」と言って出して来たが、見るからに旨そうで、味わえば歴然とわかる。「宮崎の人でもなかなか口にすることがないそうです」の言葉は信憑性がある。
佐伯さんが「あった!」と言って注文したのが「極上厚切りタン」(1500円)。これは牛一頭で一人前分しか取れない代物。舌の根の方を切ったもので、柔らかい。かなりの厚みだが、所々に包丁を入れているので食べやすくなっている。佐伯さん曰く、「このメニューは毎日あるとは限らないんです。メニュー表にもなく、ある時は貼り紙がしているだけ。しかも三食のみの超貴重品です」との説明。あまりの評判の良さに一人の客が全て注文し、すぐになくなるなんて例もしばしば。その一例が佐伯さんではなかろうかと私は密かに疑っている。
限定肉ばかり書くと、それのみの印象が強くなってしまうので一応断っておくが、肉は色んなものがある。輸入物も和牛もあり、最上クラスとして「ミヤチク」から仕入れた牛肉があるのだが、そんなラインナップだからメニューはバラエティに富んでいる。𠮷田さんの言う3000円は、それらをうまく組み合せて食べた値段。私や佐伯さんのように“極上”ばかりに目がいくと、支払額は高くなるが、それとて5000~6000円は懐ろに優しかろう。「うちは注文が通ってからしかタレには漬けません。味噌味のこってりしたタレですが、しつこくないのでいくらでも食せるんですよ」とは𠮷田夫人。要望を伝えれば、塩コショウでもOKだとか。「ホルモンは国産にこだわっています。硬さや甘みが違うんですよ。手入れをうまくするのでホルモン嫌いでもうちのは食べますね」と𠮷田さんが口を挟む。その言葉を聞きながら佐伯さんは「塩タン底」を焼いている。「量があるのにこれが400円とは安いでしょ。おつまみにいいんですよ」とは、かなり通わなくては出ないフレーズであろう。

舌一本を四つに分けて醤油・味噌に浸した

 

 

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さて、私めはこんな焼肉屋でも例のアレを実践することにした。料理とは違うのでどうだろうとの思いもあったが、後日伺うと𠮷田さんは注文通りに湯浅醤油と丸新本家の商品を用いて焼肉素材を作ってくれていた。湯浅醤油の新古敏朗さんが「じゅうじゅう亭」用にと送っていたのが「蔵匠 樽仕込み」と「柚子梅つゆ」「金山寺味噌」「ひしおもろみ」「赤みそ」だった。そのうち𠮷田さんは「樽仕込み」「柚子梅つゆ」「ひそおもろみ」「赤みそ」を使い、各々にタンを浸けている。
「タンは一本を使用。生で入ったものを漬けました。だいたい40分ぐらい漬けたのですが、これが限界かもしれません。これ以上時間を費やすと、染み込みすぎて辛くなると思いますよ」と𠮷田さんは話す。もう少し解説を加えると、液体である「樽仕込み」と「柚子梅つゆ」には舌の先の方を浸し、根元近くの部分は「赤みそ」と「ひしおもろみ」を片面だけ塗って40分置いている。厚みのあるタンは包丁を入れているので、そこからじんわりと染み込んでいくのだろう。

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「柚子梅つゆ」に浸したタンは、焼くとその特徴から酸味が舌に伝わる。こってりした焼肉が多い中で、これはあっさり派。「柚子梅つゆ」の適度な酸味がうまく牛肉に浸透しているようで、焼いたとてその味は生きている。「今回は漬けましたが、薄く切って炙り、『柚子梅つゆ』で食べると、旨いんですよ」と𠮷田さん。テスト段階でそんな楽しみ方も試したのだろう。

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「ひしおもろみ」を使ったタンは片面にそれを塗ったものを焼く。味噌を塗っていない方から焼いてひっくり返す。当然焦げることは考えておかねばならない。だから塗っていない方をじっくり焼いて全体に火を通し、味噌がある方は炙る気持ちぐらいの焼き方でいいだろう。𠮷田さんが「舌の元の方」と指摘しただけに確かに柔らかい。「ひしおもろみ」がしっかり入っていて濃い味付けになっているが、あまり邪魔しないから肉の旨みが十分楽しめる。

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「樽仕込み」に浸したタンは、万人に合う味で、期待通りの旨さである。湯浅醤油の商品は、コクがあるのに辛すぎないからいい。「普通の醤油でやると、40分も浸すと辛くて食べられないのではないか」というのが𠮷田さんの感想である。

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「赤みそ」は、𠮷田さんがアレンジを加えた。味見した時にこれだと辛さが目立つと思って若干砂糖を足している。チシャ菜とともにその味噌を出してもらったが、舐めるだけで十分酒のアテになりそうな味だ。これをタン元の方の片面に塗って40分置いた。味噌の甘みがうまく入り、これまた万人向けの品になっている。「赤みそを少しアレンジしたらいい揉みダレになりました。家内はこれで赤だしを作ったんですが、これがまた旨くて旨くて…」。𠮷田さんにそう聞いたので細君に確認すると、「濃縮の麺つゆをベースにしてこのアレンジ赤みそを入れました」と言う。「鰹だしを用いていましたが、麺つゆがうまく活用できるんで、この赤だしはそれをベースに作ったんですよ」と𠮷田夫人。これまた主婦の知恵である。

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一通りタンを食べてその味わいを確めてから、再度順にタンを焼いた。濃いものの後はあっさりしたもの(柚子梅つゆを使ったもの)が来て、また違った風味が味わえた。これだけタンのみで通したのに飽きが来ないのは、「じゅうじゅう亭」の肉質の良さと、𠮷田さんの工夫にある。味がしっかりつくわりにしつこさや辛さを感じない調味料の良さもその一因はあろう。
𠮷田さんは、以前テレビで湯浅醤油のことを知り、一度使ってみたいと思っていたそうだ。たまたま湯浅へ釣りに行く友人がいて買って来てと伝えたが、相手は釣り人、夜釣りに行って早朝帰るので店(蔵)はまだ開いておらず、期待した土産が手に入らなかったという。そこへ焼肉星人がやって来て、今回の話をしてくれたので興味もあってやっと使えたと感想を述べていた。人の縁とはこんなものである。思わぬ所からふと現れたりする。当然ながら今回の湯浅醤油版タンの焼肉は、普段「じゅうじゅう亭」にはない。私だけのスペシャリテである。でも「極上厚切りタン」や「上バラ」などは裏切ることのない定番(極上厚切りタンはない日もあって、一日三食だけだが…)なので一度味を確めたらどうだろう。文章に偽りなし!そんな言葉を添えておきたい。

  • <取材協力>
    じゅうじゅう亭


    住所/大阪市城東区成育5-21-10

    TEL/06-6933-2945

    営業時間/営業時間/17:30~22:30LO

    休み/月曜日(祝日の時は翌日)

    メニューor料金/
    メニュー/極上ロース    1800円
          極上バラ     1800円
          上バラ      1100円
          上ロース     1100円
          上ミノ       700円
          タンゾコ      400円
          極上厚切りタン  1500円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい