57 2017年12月 三田で20店舗ほどを有する「福助グループ」。地元を愛する福西文彦さんが営む飲食チェーンで、三田市内で和食や居酒屋、ラーメン店などを展開している。そのグループの「三福」をこの度卒業し、三田駅前でくずし割烹の店を開いたのが和の職人・西川弘之さんだ。彼は「ふく助」や「三福」で料理長を務めながら福西さんを支えて来た。そんな仕事に報いたかったのだろう、「そろそろ独立の準備を」と言いながら西川さんが活躍できるステージを福西さんが用意してくれたのだという。「大バコ店や中型店でできなかった丁寧な仕事をしたい」と割烹を構えた西川さんの小ぶりな店「にしか和」にお邪魔し、湯浅醤油・丸新本家の調味料の特性が出た五つの料理を作ってもらった。

にしか和 西川弘之
(にしか和店主)
「魯山人醤油を初めて使いました
が、濃さがあるのにまろやかと
いう不思議な感じがしました。
塩味が控えめで、バターと半々
量で合わせてもまろやかさが
あるからうまく中和するんです。
他に何も足さなくても十分味わい
深く仕上がりました」

ずっと働いて来た職人に報いるべき独立支援システム

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三田で20店舗ほど有す「福助グループ」には、そこで働く人を対象にした独立支援制度がある。何年か同グループの飲食店で働いていよいよ独立をという人に向けて会社をあげて支援していくユニークなシステムだ。この独立支援制度に則って昨夏、独り立ちを果たしたのが西川弘之さんである。西川さんは兵庫県西部の作用の出身。花隈の「鈴江」や有馬温泉の「有馬荘」で働き、三田にあった寿司屋「宮脇」へやって来た。この時に「福助グループ」の福西文彦さんと再会し、時折り、余った時間を利用して彼がやっていた店でアルバイトをしていたのだそう。西川さんと福西さんは有馬時代からの繋がり。これまたアルバイトをしていた有馬の居酒屋にサラリーマン時代の福西さんが出入りしていたのが知り合ったきっかけなのだとか。西川さんは、いったん赤穂の料理屋に行くものの、また三田へ舞い戻っている。当時、福西さんは「ふく助」が順風満帆のすべり出しをし、二店目の「すず家」を始めた頃だった。かつての知己が幸いし、「うちに来ないか」と声をかけられた。その後、西川さんは「ふく助」の厨房でも6年、三田駅前の「三福」で8年働いた。「三福」では料理長をしていたのだが、三年ぐらい前に福西さんから「独立の用意をしておくように」と言われていたらしい。それから福西さんは機を見て西川さんのステージを用意して晴れて2017年の8月に独立店「にしか和」を構えるに至ったわけである。

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福西さんは、「ふく助グループ」から巣立つ料理人やスタッフに常に不安を抱いていた。それは雇われ仕事しかしたことがなく、経営者として失敗するケースを何度か見たためだ。「単に調理するのと、経営するのでは全く違った知識が必要となるんです。失敗してボロボロになって戻って来る姿を目にする度に、彼らがいかにしたら失敗せずに店運営ができるかを考えるべきだとの結論に達したんですよ」と福西さんは言う。彼の支援制度は店を造り、軌道に乗るまで「福助グループ」で手伝っていくというもの。だからコンセプトもいっしょに考えるし、メニューも同様。それでうまく行けば、独り立ちできるようになる。なので西川さんも「一年目は暇でも我慢して支援する。二年で順調に行くまでにしてほしい」と福西さんから言われたと語っていた。まさに従業員への愛情が詰まった制度なのだ。
8月下旬に開いた「にしか和」は、西川さんが「とにかく一から調理がしたい」と始めた店。14席と小ぶりでサービス担当スタッフを除けば西川さんが一人で切り盛りできる形になっている。西川さんは一から仕込みを始め、17時の開店を目指して料理ができる状態にしていく。「三福」では、どうしても中型店なのでスタッフの手を借りねばならない。その点、「にしか和」の席数だと自分一人でまかなえるので細かい仕事や丁寧な仕事をやれる。それを西川さんは待ち望んでいたものと思われる。
JR・神戸電鉄三田駅すぐ近くに位置する「にしか和」には“地魚料理”のコンセプトがある。海に面さない三田でなぜ地魚と付けているのかと問うと、西川さんは「魚は天然ものにこだわりたい。なので養殖は使わないんです。それと三田の地の野菜を用いるのも合わせて“地魚料理”と銘打ったんですよ」と話してくれた。これとて福西さんのアイデアだそうで、こんなユニークさが彼の真骨頂でもあるのだ。
「にしか和」は仕入れた素材もよく、使っている器も上物。メニューは手書きで記され、その日の材料によって変化する。最も特徴的なのは5000円からの「おまかせ会席」。この日のものは①先付②地魚造り五種盛り③たら白子入り茶碗蒸し④焼魚と肴の盛り合わせ(助子、バイ貝、筑前煮)⑤おまかせ煮物⑥一口牛ロース炙り⑦海老と穴子の天ぷら⑧松茸と海鮮の土鍋めし、これに味噌汁と香の物が付く。この8品で5000円ならかなりお得である。大阪の繁華街なら8000円ぐらいは優にするだろう。何しろ、技が効いている。西川さんが一品ずつ時間をかけて細かい仕事をしているからそうなるわけで、こんなくずし割烹が近くにあればと思ってしまう。

細かな仕事が光る八寸風の大皿

 

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西川さんが湯浅醤油・丸新本家の商品を使って5つの料理を考えてくれた。大皿に盛って出て来たのは八寸で出て来てもおかしくないような代物だ。一つめはタコと梅「魯山人」醤油和え、二つめは鰆ともろみタルタル焼き、三つめはふぐのポン酢漬け炙り焼き、四つめは風呂吹き大根とあん肝「魯山人」のバター醤油焼きである。
一品目は「勢粋梅」を叩いて「魯山人」で梅醤油を作り、湯引きした明石のタコに包丁を入れて和えている。「梅のすっぱさがタコに合うと思って作りました。『魯山人』を初めて使いましたが、濃さがあるわりにはまろやかという不思議な感覚。濃く感じたのに塩分控えめで、くどさが全くないんですよ。今回は梅より醤油の方が多いんですが、辛く感じないでしょ」と言って出して来た。二品目は鰆を田楽風にしたもの。マヨネーズと玉ねぎ、らっきょ、卵黄、ほんの少しのレモン汁でタルタルソースを作り、「もろみ味噌」と卵黄でソースを作って塩焼きした鰆に塗って表面だけを炙っている。「もろみ味噌の粒が大きいのをいかして噛むことでタルタルソースの味が広がるように設計しています。これが『もろみ味噌』だけだと辛くなる気がし、タルタルソースを入れることにしたんです。そうすることで油が入るから塩味を少なく感じるのではと思って調理しました」。もろみ味噌は焼くと旨みが出、タルタルと融合する。口内で最後に『もろみ味噌』の味が来るというようになっていた。
三品目はふぐを「ゆずぽん酢」に30分浸けて焼いたシンプルな料理。活けのふぐを用いており、一時間前まで水槽で泳いでいた魚なのでいかってなかなかポン酢が入っていかない。西川さんはそれを計算して捌いている。このいかり具合でポン酢がふぐの表面で止まり、中まで入らないのである。だから30分浸してもふぐの淡泊な味は出ていると思われる。使用しているのは淡路島の三年とらふぐで、肥えていて身もモチモチ。西川さん曰く「二年ものと比べても甘みが違う」らしい。四品目は、風呂吹き大根にあん肝のバター醤油焼きを載せている。大根は地のもので、それを風呂吹きにしながらもステーキのように使っている。「魯山人」とバターを半々ぐらいに混ぜてあん肝をバター醤油焼きにした。西川さんは「この醤油はまろやかさがあるからバターとうまく中和するんですよ」と感想を述べていた。

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五品目は豚汁。「丹波黒豆みそ」9に、田舎みそ1の割り合いでだしに溶いて汁を作っていく。具材は三田豚のロースに、大根、人参、こんにゃく、ごぼう。豚肉を炒め、野菜も炒め、次に豚だけを炊く。こうすることで豚肉でだしを出してその後で野菜を加えて味噌汁を作っていく。豚汁というより味噌煮椀の感覚で、小さめにカットした大根が汁に染みていい味になっている。「黒豆みそは、後口が甘くて旨い。バランスのいい味です。黒豆の皮が入っているから時折りそれを噛むことで旨みはさらに増します。黒豆の甘みがうまく出ており、しつこくなくすっと甘みが消えて行くんです」。
西川さんが作った五品は、調味料の特性をいかしたもので、見るからに細かい仕事が垣間見られた。このくらいの料理を出していると、きっと人気店になるに違いないと思ってしまう。「とにかくこれまでできなかった丁寧な仕事を売りの店にしたいんですよ。昨今はシステム上、どうしても便利な品が横行しますが、うちは一からの調理をモットーに料理を提供して行きたいんです」と話す。聞けば、三田にはこの手の割烹は少ないそうだ。会席を頼んでもいい(要予約)し、一品料理をアテに一杯飲ってもいい。こんな自由なスタイルが受け入れられれば、そのうち評判を取るだろう。職人が持つこだわりと、丁寧な仕事がしたいとの思いがひしひしと伝わって来る割烹であった。

  • <取材協力>
    にしか和

    住所/兵庫県三田市駅前町8-7 1F

    TEL/079-569-8080

    営業時間/17:00~翌1:00(24:30LO)

    休み/日曜日

    メニューor料金/
    天然石鯛うす造り   1600円
    三田味鶏朴葉焼    700円
    剣先いかつみれ白菜ロール 600円
    蒸し松葉かに酢    800円
    バイ貝煮       650円
    穴子一本揚げ     1200円
    おまかせ会席     5000円~


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい