28 2015年05月ハラールなる言葉が、ニュースでも聞かれるようになった。外国人観光客が増える中、ムスリム(イスラム教徒)への対応は急務で、彼らが安心して食せる場を提供しないことには、真の国際化は遂げられない。ヨーロッパにはイスラム教徒が沢山いるため、ハラールフレンチなどは考える必要がなく、ムスリムの人が調理する店へ行けば、安心して食すことができる。ところが日本にはイスラム教徒は少なく、彼らが調理する店も皆無といっていい。彼らは日本に来たらどこで食事を楽しめばいいのか…。そんな問題が浮上している。そこで大阪府日本調理技能会の室田大祐会長が先陣を切ってハラール和食に挑んだ。今回はそんな話を書きたい。

むろ多店主(大阪・天保山) 料理人/室田大祐
(むろ多店主・
大阪府日本調理技能士会会長)
「思ったより規制が多いことにびっ
くりしました。そんな中で問題解決
に寄与してくれたのが「魯山人」
醤油。無添加は勿論、自然栽培の
原材のみで手作りした醤油は、コク
を出したり、味に深みをつけたり
するのに欠かせません」

豚、酒がダメという中で旨い日本料理を作る!

らぱんらぱん

日本政府のインバウンド政策により、門戸が広まってからは多くに外国人観光客を目にするようになった。先日、某所に旅行した時などは、日本人は我々のグループだけで、中国、台湾、タイなどのアジア圏の人で溢れていた。消費税が8%になってからは国内需要は低迷気味。彼ら外国人観光客がいなかったら、日本経済は大変なことになっていたのではなかろうかと考えるとぞっとする。
欧米やアジア圏の人が日本での食事を楽しむ一方で、苦慮している人もいる。それはイスラム教信者だ。彼らは宗教上、豚やアルコールを口にすることが禁じられているために、なかなか食事する場所が見つからないのだ。マレーシア、インドネシア、ドバイ、サウジアラビアなどは景気もよく、旅行にお金を遣える環境にある。しかし、日本では彼らムスリム(イスラム教徒)への配慮が薄いためにハラール対応したレストランが少ない。いや皆無といってもいいくらいだ。なのでムスリムの人達は、日本に訪れたくても訪れることができないのが現状のようだ。
「そんなことでは、真の国際化は遂げられない!」と立ち上がった人がいる。大阪・天保山にある「日本料理むろ多」の主人で、大阪府日本料理技能士会の会長を務める室田大祐さんである。大阪府日本調理技能士会では、日本ハラール協会や日本料理国際化協会と組んで、日本初のハラール調理師認定をスタートさせた。6月1日にハグミュージアムで、発足記念講習会を実施するのだが、その時、室田さんがハラール和食のデモンストレーションを行うことになっている。

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この取り組みは、海を越えてマレーシアまで聞こえている。4月に室田さんが作るハラール和食を体験しようと、マレーシアからテレビクルーが取材に来た。そして同国の女優が、彼の作る料理に舌鼓を打ったのである。今回は彼女達マレーシアのムスリムが食べたハラール和食について書く(6月1日のハラール和食発表会時は、ハラール調味料のみ調味しているので、これとは若干違い、「魯山人」を用いていない)。立夏の献立の中でも座付き、前菜、椀物、台物、ご飯を取りあげることにする。室田さんが「ハラール認証を受けた醤油や味噌はあるが、それをストレートに使ってしまうと美味しいのが作りにくい。無添加、しかも無農薬・無肥料の素材からシンプルに作った『魯山人』醤油がなければ、マレーシアのテレビ撮影時の料理は、成し遂げることができなかった」と語っているように、ここでも『魯山人』醤油が活躍している。それを踏まえて後の料理説明を読んでほしい。
室田さんが作ったハラール和食を紹介する前に、ムスリムのちょっとした知識について書いておこう。まず随所に出て来たハラールとは、イスラム教で認められたものを指す。つまりイスラム法で禁じられた食品や加工、調理してないものなら食べてもいいとのサインなのである。前述したようにイスラム教で禁じられているのは豚肉とアルコール。これは素材だけに及ぶのではなく、豚由来のものやアルコール由来のものを使っていてもダメで、これらが置いてある厨房でいっしょに調理してもいけないのだ。日本料理では、酒は重要な調味料であり、料理に酒を使うのは勿論のこと、みりんも使えない。煮切り酒なる手法もダメで、いくら火にかけてアルコールを飛ばしたとしても使うことを禁じられているため、味に深みを持たせることが難しい。そんな四方、八方ふさがり中で旨い和食を作ろうというのだから、その苦労は並大抵のものではない。

関西風すき焼きは、十分武器になる

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 まず初めに出てくる座付きの中でのポイントは、いちじくの天ぷらをゴマだれで食べさせている点。ハラール認証のみりんは、酒が使えないためにスイートソースのようになってしまっている。これではコクが出ないので「魯山人」醤油を足すことで補うしかないのだ。本来ならゴマソースでなくてもいいのだが、味にパンチをつけたいし、コクを出すためにはゴマの味が必要で、あえてそれを強調させるべく調理している。器には、いちじく、グリーンアスパラ、手作り豆腐が載ってあり、それをゴマソースとともに味わうようになっている。

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前菜は牛肉おこわ、一寸豆海老挟み揚げ、鱚一夜干し、鳴門金時レモン煮、ミニトマトクリーム。そして猪口にアボカドとサーモンの味噌マヨネーズ和えが入っており、グラスにはセリの芥子和えがある。中でも評すべきは猪口の料理。調味にはハラール認証の味噌を用いたが、白も赤もだだ辛い印象がぬぐえず、塩分が強いのでこれだけでは十分な味が出せない。室田さんは白と赤の味噌を合わせ、卵を加えて再度練って使っている。和食でいう玉味噌のやり方だ。そうしてできたものを冷し、その後に自家製マヨネーズで味を調えた。「味噌の塩分を消そうとすると、マヨネーズが勝ってしまう。なので程よい塩加減が残っている頃合いで止めた方がいいと判断しました」と室田さんは言っている。サーモンは水で洗った後に昆布締めをしているのだが、本来なら酒で洗うべきものを、それが使えないから昆布を用いて魚の臭みを取ると同時に旨みを入れている。
牛肉おこわの方は、本来なら酒を用い、しぐれ煮にしたいところをハラールによりできないので、水と「魯山人」醤油、ハラール認証のみりん、砂糖で煮ている。これまたコクと照りが出ないので、水飴を用いて調整したそうだ。室田さん曰く「水飴を入れすぎるとカチカチになるので注意すべき」とのことであった。素材的にはハラールの問題が起こらないものばかりだが、どうしてもマレーシアなどの人達を意識して味付けしていると、濃いものばかりになってしまう。なので鳴門金時をレモン煮にすることでアクセントをつけたのだとか。グラスのセリは、菜の花でも可。ただ、日本人は苦みのあるものの味が理解できるが、外国人にはわからないだろうと思って芥子和えにしている。繊細な味は、どうしても彼らにはわかりづらい。ここが正式な和食との違いで、いかにアレンジして味を理解させるかが、ハラール和食のポイントとなっている。

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 椀物は、豌豆擂り流し。すましにしたいところだが、ムスリムの人達はすましの味を理 解しないと思い、うすいえんどうの擂り流しにしたそうだ。これまた味のアクセントとコクをどう出すかが問題で、ハラール認証の醤油だけだと、どうしても締まらず、ダラ~ッとした味になってしまう。そこで「魯山人」を使うことで締まった味に変化させる。ハラールでは、どうしてもコクを出したり、アクセントをつけたり、味に締りをつけたりすることが規制(酒を使えない)によってできない。そんな時に「魯山人」醤油は便利で、これを用いないと、なかなか旨いハラール和食をできないと室田さんは述べているのだ。

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意外にもといったら語弊があるかもしれないが、すき焼きは彼らにとって最大の目玉になるかもしれない。というのは、彼ら(マレーシア人)は、牛肉が好きらしく、美味しいものを欲している。屠殺の仕方などの問題は残るかもしれないが、関西風のすき焼きは規制がなく、十分メインディッシュになるとのことだ。「割り下を使う関東風だと、酒を使ってしまうのでダメなのですが、砂糖と醤油のみで焼きながら味付ける関西風なら問題を難なく解消できます。先日、マレーシアのテレビクルーが取材に来ていましたが、喜んで食べていましたよ。ただ、彼らは生卵を食べる習慣がなく、そこに具材を漬けてなどはもってのほか。聞いただけで拒否しました。現地ではサルモネラ菌の問題があるのでそれもわかりますが、日本の卵なら大丈夫と説明すると、恐る恐るマレーシア人の女優が食べ出したんです。すると、彼女はぐっと目を見開き、『美味しい!』って叫んだんですよ。彼女の感想を聞くやスタッフも卵に漬けて食べ始め、『旨い、旨い』の連発でしたよ」。この話を聞くと、喰わず嫌いと思ってしまう。地域柄仕方のないことだろうが、室田さんは旨いものを体験させるために「郷に入れば…」の言葉を使って説得した。それが実って彼女らはいい体験をしたということだ。ともあれ、醤油の焼けた匂いが美味しく伝わるすき焼きは、ムスリムを受け入れる上で、いい武器になるということがわかった。
最後は鳥飯。ご飯の上に鶏ロースを煮たものを載せ、錦糸玉子と刻み海苔をちらしている。まず鶏、手羽を入れ、水、たまり醤油、砂糖、氷砂糖、「魯山人」醤油でだしを作った。鶏の皮目を焼き、湯をかけて脂を落し、焼き台で火を通す。八分まで火が通ったらフライパンに移して、ハラール認証されたてりやきソース、「魯山人」醤油、砂糖で調味する。この時、一番だしを使うのだが、例のてりやきソースだけでは、甘~い味のものになってしまい、締りがないので「魯山人」を入れて味を締めている。田中愛子先生(日本料理国際化協会理事長・食育ハーブガーデン協会理事長)の経験によれば、鶏のてりやきは、マレーシアでは大ウケだったそう。甘辛い味が彼らの嗜好に合致しているのか、現地イベントでデモンストレーションをやった時には長蛇の列ができたと話していた。そんな話をもとに室田さんは、この料理を出して来たのかもしれないが、これまでの繊細で芸術性に富んだ日本料理よりはわかりやすいからいいのかもしれない。

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ハラール和食を研究している室田さんに感想を聞くと、「豚・アルコールがダメと聞くぐらいではそんなに支障がないように思うかもしれないが、実はやればやるほど大変で、色んなものにアルコールが添加されていたり、豚由来のものが製造段階に使われていたりして、規制が多いことがわかりました。みりんなどの料理酒が使えないのがつらく、味に深みをつけたり、コクを出したりすることに頭を悩ませました」と話している。みりんは勿論のこと、酢が使えないのがつらいらしい。酢は醸造用アルコールを添加して造るのが一般的で、仮りにアルコール、酒精の表示がなく、米の表示であっても酒粕を原料としていることがあるので注意が必要である。ちなみに酢については、現時点でJHA認証商品がないようだ。
フレンチなど西洋料理に比べ、日本料理は用いる調味料の種類が多く、俗に調味料を駆使して作るのが和食だといわれている。ハラールの規制の中で、室田さんが日本人が食しても旨いと感じるぐらいレベルの高いハラール和食を作りあげたことを評価したい。ただこれらの料理は、本来室田さんが作る日本料理と比べて味が若干濃いのも事実。「そうしなければ、彼らには理解できない」というのはお国柄の違いだろう。この原稿を書いている時点でプロ(日本料理の調理師)へのハラール和食発表会があと三日と迫っている(6月1日ハグミュージアムで開催)。さて受講するプロ達は、どんな反応を示すのだろうか。これは次回の「食の現場から・・・」でリポートしてみたい。何はともあれ、「誰かがやらねば、真の国際化は果せない!」と立ち上がった室田さんの行動力を高く評したいものだ。

  • <取材協力>
    むろ多店主(大阪・天保山)

    住所/大阪府大阪市港区築港4-2-5

    TEL/06-6571-0034

    営業時間/11:30~14:00、17:00~22:00

    休み/月曜日

    メニューor料金/
    昼:二段弁当     972円
    松花堂弁当    2592円
    かにクリームコロッケ定食 1080円
    夜:つばき会席   7020円
    さくら会席   8640円
    あやめ会席   10800円
    ききょう会席  12960円
    天ぷらコース  4860円
    すしコース   4860円
    むろ多膳    4860円
    季節膳     3996円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい