22 2014年11月北新地にいつも賑わいを見せる店がある。私も何度か利用したことがあるが、料理も旨い。聞けば、元辻学園TEC日調西洋料理教授の藤本喜寛先生と知り合いなのだとか。これはいい機会を得たとばかりにいつもの如く、醤油・味噌を用いた特別料理を考案してもらうことにした。料理人の加藤吾郎さんは、和の調味料をいかに洋の一皿に用いたのだろうか。取材と称して私が食べて来た料理を紹介しよう。

カラーズ(大阪・北新地) 料理人/加藤吾郎
(「カラーズ」料理長)
「コレが醤油かと思うほど自然な
味がしました。一般的なものなら
たやすいかもしれませんが、これ
は強敵。自然な風味がする分、自
然な味付けにしないといけないと、
あれこれと考えたんです」

フォアグラとデミグラスソースの黄金コンビ

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北新地に蜆楽通りという名の横丁がある。ビルが当り前のように建つ同地では珍しい昔の名残がある通りだ。新地本通からまっすぐではないが、永楽町通まで貫く細い筋には10軒もが軒を連ねており、長屋型になった建物は築50年以上経っている。今回紹介する「カラーズ」は、その蜆楽通りの入口にあたる、新地本通に面した店。ジャンルを洋食カッポウとしているので、ちょっとした洋の一品一品を楽しむ店と理解してもらえればいい。
蜆楽通りにはこの「カラーズ」の他に、和食会席の「藤彩」、酒肆の「山吹」、手搾り酎ハイ専門店「蜆楽檸檬」、一口餃子の店「蜆楽紅鯨」の5店舗があり、それら全てを加藤ファミリーが経営している。長男が経営面を見、次男が和食を、三男が洋食を担当しているとかで、「カラーズ」はその三男の加藤吾郎さんが料理長を務めているのだ。前述のように「カラーズ」は、築50年以上の長屋の一角を改装したもの。一階がカウンター10席、二階が3つの個室という構成になっている。流石に洋食レストランだけにオシャレな感じにしているが、二階の天井は長屋の梁を残し、町家の趣を十分伝えており、そこに洋のものがうまく融合されて独特の雰囲気を醸し出している。

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 私は以前からこの店に注目していた。なぜなら新地本通を歩く度に賑わいが伝わってきたからだ。昨今は北新地とて苦戦を強いられている所も多い。そんな中でいつも活気立っている「カラーズ」を見るにつけ、「流行っているな」と思っていた。今回の取材以前に何度か「カラーズ」で食事したことがあった。料理もよく、二階は接待にも使え、それはそれは使い勝手のいい店なのだ。聞けば、加藤吾郎さんは、「グランヴィア京都」の有名料理人・佐藤さんの弟子にあたるという。料理がいいのも納得できる。おまけに我が友人の藤本喜寛先生とも知己がある。これは少しぐらい無理を言っても大丈夫だろうと思い、このコーナー特有の無茶ぶりをすることにした。ちなみに取材用にと湯浅醤油・丸新本家から直送してもらったのは「生一本黒豆」「蔵匠 樽仕込み」「蔵匠 白搾り」「高野山からの贈り物」の各醤油と「生姜のもろみちゃん」「オリーブ金山寺」の各味噌。加藤さんの話では、「醤油は味を足すのに使いやすいが、味噌は洋食にはどうしたらいいのか頭を悩ませた」とのことだった。以前「カラーズ」にいた若い子(料理人)が味噌を使って肉料理を作ったことがあったそうだが、今回の味噌はその手のタイプではなく、なめ味噌の部類。これだけでも食せるものなので、あえて調味料として使用するにはどうしたものかと少し考えたそうだ。

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 さて、取材日となり、「カラーズ」に訪れてみると、加藤さんは「うまく洋の皿に和の調味料を溶け込ませましたよ」と言い、二品を作ってくれた。いつものようにこの二品は、私だけのものなので、「カラーズ」のメニューには当然載っていない。だから料理名もなく、一品目を「フォアグラの料理」、二品目を「ブランダード」と称しておくことにする。前者は「蔵匠 樽仕込み」と赤ワイン、砂糖を煮て鶏から摂っただしをフォアグラに合わせたもの。もう少し詳しくいうと、カットした大根に砂糖をつけて焦がしながら焼き、それを醤油(蔵匠 樽仕込み)・赤ワインで柔らかくなるまで煮込む。その上に焼いたフォアグラを載せ、デミグラスソースをかけてトリュフを散らしている。加藤さんはデミグラスソースにこだわりを持っている。「昔はどの店でも作っていたのですが、最近は市販のもので済ます人が多くなりました。それでは美味しいデミグラスソースは味わえませんよね。当店では4年間追い足し、追い足しながらオリジナルの味を守っているんです」と話す。なので「カラーズ」では、「4年間追い足し!デミグラスビーフシチュー」(2100円)が名物料理になっているのだ。今回の一品もそんなデミグラスソースがかかっている。蛇足ながらこの店ではフォアグラがよく出るらしい。「フォアグラとマッシュルームのリゾット」(1400円)がその一例である。私が食べた一品は、その素材二つを使ったもので、美味しくないはずはない、まさに黄金コンビなのだ。

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 加藤さんは、4種送った醤油のうち、「蔵匠 樽仕込み」を選択している。理由は一番味がつけやすいと思ったからで、私の注文に醤油を利かさないとダメだろうから、あえて甘辛くしたと話していた。「この醤油をなめた時に自然な感じがしたんです。家では大手メーカーのものをなど色んな醤油を使っていますが、これはそれらに比べると強者的印象を受けます。味が濃いというのではなく、まさに自然な味。昔の人はこの手のものを味わっていたのだなって思ったほどです」。一般的な醤油だと、適当に入れても味の調整はできるが、この醤油はそれ自身が持つ自然な味をいかさなければならない。なのでいい加減ではなく、きちんと調整しなければと職人的な志を強くしたそうである。鶏のだしと醤油という組合せは当たり前すぎて面白くないので、赤ワインと合わせることにした。加藤さん曰く「醤油と赤ワインは、マッチしやすい」らしい。

ここにちょっとあったら旨いのに…と考えた

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 加藤さんがむしろこの方が難しいと言っていた「ブランダード」は、生の鱈を生クリーム、牛乳、ニンニク、ローリエを入れて低温でじわっと火を入れていく方法で作る。2時間漬けて味をなじませてから、茹でて水分を飛ばしたジャガイモと合わせている(中には鱈とジャガイモだけではなく、細く切ったネギも入っている)。その上に「生姜のもろみちゃん」とタップナードソース(オリーブのソース、アンチョビ、ケッパー、ニンニクを合わせて作っている)を合わせて載せているのだ。載っているものが黒く見えるのは、オリーブのせい。味がどうしても濃いので、口直しの意味も兼ねて野菜(カブ、トマトのコンフィ、カリフラワーのロマネスク)を添えている。
加藤さんが苦労したというように、やはりなめ味噌は洋食に使うには難しい。普通なら単純な合わせ方でもいいが、何せ注文の主(私のこと)が普通では面白がる人ではない。だから頭を悩ませたのだと本音で語ってくれた。色々と考えているうちにアクセント風に使いたいと発想したようだ。「ここにちょっとあったら旨いんだけどと思うようにして使ってみたんです。下はブールブランソースで、バターと味噌がよく合うんです。食べると金山寺味噌を使っているとわかるでしょ」。初めはドリア風にしようかと思ったらしい。でも、それだとミートソースには赤味噌の方が合うし、と考えあぐねているうちにこんな使い方をしたら面白いのではないだろうかとの結論に達している。加藤さんの「生姜のもろみちゃん」評は「素直に美味しい」といいうもの。個人的にはと前置きをした上で、「もっと生姜が利いてもいいか」と思ったそうである。

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加藤さんは今回のような無茶ぶりを楽しんでいる嫌いがある。洋の店に和の調味料を持ってくると、初めは「?」と思うが、いつもと思考が違ってくるために職人的要素をくすぐられるみたいだ。「いつも見るものと、違うものを見るから面白い」と言ってくれた。若くてもやはり職人なのだろう。
加藤さんの料理人人生は「パレスホテル」から始まっている。東京のそれでななく、当時は淀屋橋の「三井ガーデンホテル」内に「パレスホテル」の店が入っていたらしく、そこで2年ばかり修業をした。その後、三宮の「東急イン」や町場のビストロで働き、「グランヴィアホテル大阪」へ移り、佐藤総料理長の下で修業をしている。「カラーズ」は加藤さんが独立するのでお兄さんが作った店。初めは純然たるフレンチでスタートしたが、なかなか定着せず、半年ほどたった頃にある客が「北新地の店なのだからちょっとずつでいい。その代り色んなものが食べたい」と言ったことがヒントとなり、今のスタイル(洋食カッポウ)に至っている。「だから今はフレンチというより洋食。イタリアンもあれば、スペイン料理もあります。酒のアテ的なものが多く、締めはパスタで。一階ではカウンター前に食材を並べて『この素材でこんなものができますよ』という提案型料理を楽しんでもらっています」と言う。「わがままを聞いてなんぼ」という店で、そんな柔軟さもウケているのだろう。最近は社長(長男)が畑を持っており、そこで穫れた無農薬野菜を提供している。温野菜10品目なるメニューは、野菜を焼いたり、蒸したりしたシンプルなもので、あえて味付けもゴテゴテしたものではない。これが女性には人気があるのだとか。「北新地は私より年上の50~60代のお客様が主流。だから変なものを出すとすぐに悟られてしまう。きちんとした素材できちんと作る。それでなければやっていけません」と語る。そんな真面目さが料理に表れているように思える。だからいつも賑わっているのだと一人で納得してしまった。

  • <取材協力>
    カラーズ(大阪・北新地)

    住所/大阪府大阪市北区曽根崎新地1-6-7

    TEL/06-6345-5669

    営業時間/17:00~22:30LO(土曜は~21:30LO)

    休み/日祝日

    メニューor料金/
    オードブル盛り合わせ    1900円
    黒毛和牛のグリル      3300円
    うにのクリームパスタ イクラのせ 1900円
    活オマール海老のトマトパスタ   2900円
    フランス産ホロホロ鶏のコンフィ  3000円
    フォアグラとマッシュルームのリゾット  1400円
    4年間追い足し!デミグラスビーフシチュー 2100円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

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