38 2016年03月いつもなら私の遊び心につきあわせ、「湯浅醤油」の商品をシェフに渡してスペシャリテを作ってもらうのだが、今回はそんな必要はない!なぜなら行く所が「シャンパンラ醤油バー」なのだから。醤油とシャンパンをテーマに店づくりをしたという世にも珍しい「フルートフルート」は、かの激戦区・北新地に根を生やして既に5年がたつ。歴とした界隈の人気店なのだ。他者の醤油を横目に眺めつつ、今回は「湯浅醤油」の特性が出た料理三品を味わって来た。自称・発酵オタクの同店・大土橋努さんは、いかに蔵の特性を見出しながらメニュー化したのであろうか。店でも人気があるという三品について聞いて来た。

フルートフルート (大阪・北新地) 料理人/大土橋勉
(フルートフルート醤油の旅人)
「九曜むらさきは、そのできた過程
から考えても味噌っぽい味わいを
有しているように思えます。他の
市販の醤油ほどとげとげしさがなく
、甘味があって風味豊か。もう一
味欲しい時にはぴったりはまる調
味料なんです。」

シャンパン×醤油の意外な出合い

フルートフルート醤油の旅人フルートフルート醤油の旅人

醤油とシャンパン_、一見、似つかわしくないアイテムを結びつけているのが北新地にある「フルートフルート」だ。この二つのテーマを交差した店をと考えたのは、「かめいあんじゅ」の杉山さん。「日本人は結局、醤油・味噌に戻る」と言い、当時企画しようとしたシャンパンバーに醤油を結びつけたのだとか。杉山さんは「湯浅醤油」の新古敏朗さんと知己があり、協力を得られるからとこの不思議な交わりを具現化した。
「フルートフルート」は、今年で5年目を迎える。激戦区・北新地で5年も人気を保っているのだから、「かめいあんじゅ」の企画は見事的中したといえよう。同店には、シャンパンがボトルで30種以上、醤油は100種をも超える銘柄が蔵されている。自称発酵オタクで、名刺に“醤油の旅人”と書かれている大土橋努さんがこの店での案内人。店長とともにこのマニアックなテーマを追求している。大土橋さんは、元フレンチの料理人。この店を始めるまで、吸物には薄口醤油が合うといった、ごく少ない知識しか持っていなかったそうだ。それが醤油の研究を重ねるうちにその奥深さを知り、今では全国の醤油蔵を歩いて隠れた名品を探すほどに。関西はもとより北陸、東海、九州、関東と色んな醤油メーカーを訪ね歩いている。だから名刺の肩書きは“醤油の旅人”。でも最近は店が忙しく「日帰りの旅人になってしまいました」と笑っている。

フルートフルート醤油の旅人フルートフルート醤油の旅人

大土橋さんが歩いた成果が「醤油の味比べ」(300円)で見て取れる。これは6つに分かれた皿に各社の醤油を垂らし、味の違いを試すメニュー。いわば「フルートフルート」の入門編でもある。モッツァレラチーズが出され、それを色んな醤油に漬けて味わうのだが、この醤油の選択は大土橋さんが行う。私の前に出されたのは「湯浅醤油」の「白搾り」と「かけるだし」、それに熊本の釜田醸造の「御膳醤油」、これまた熊本ハマダ醤油の「荒炊き醤油」、そして奈良の濃口「濃厚醤油」、愛知の「オーガニックたまり」の6つだった。白醤油あり、甘口あり、生姜風味ありと6つの異なる味を試しながら“醤油の旅人”の話を聞いてくるうちにどんどん色んなものを試したくなってしまう。でも流石は醤油バー、思いを伝えると大土橋さんの解説とともに色んな醤油が出て来るのが面白い。たぶん日本中探したとてこんな店はないだろう。
「冨々」では、鶏はクセがなく柔らかくてジューシーな大山鶏を使用。野菜は京野菜を中心としたもの、牛肉は佐賀牛、米は近江米と地域の産物を取り揃えながらシンプルな調理を施している。林先生の話では、「魚セット」や「地鶏セット」などのセット物を頼み、あとは一品料理を取って楽しむ人が多いらしい。ちなみにブリーゼタワーには、今もサンケイホールブリーゼが入っている。だから「冨々」は、一般の店と違って色んな混み方があり、催し次第では始まり前と終わった後からどっと入店してくることがあるようだ。

顧客のイメージを裏切りたいと思ってメニュー化する

菜彩旬美 冨々フルートフルート醤油の旅人

大土橋さんは、醤油の奥深さを知ってしまったために色んな調理に醤油を用いてしまうらしい。だから塩なんて使わず、醤油で味を出してしまうこともある。「原価がかかってしまいますが…」と言っている通り、時にはコスト高になる(儲けが少ない)メニューもあるのだとか。  醤油談義をしていると、話がつきない。そうそう私は、「湯浅醤油」のコラムのためにこの店へ足を運んだのであった。そのことを思い出し、大土橋さんにグランドメニューの中から「湯浅醤油」を使っているものを作ってもらうことにした。
まず前菜として味わったのは「ぷりぷり海老とアボカドのポテトサラダ 柚子梅ジュレ醤油」(900円)である。これは男爵芋と海老を、マヨネーズ、塩コショウ、ディルと、ブラックオリーブ、玉ねぎ(ともに刻んだもの)を混ぜて作っている。ゼリーと芋の間に塩コショウ、マヨネーズ、シャンパンビネガーを加えたアボカドを入れる。そして上から「湯浅醤油」の「柚子梅つゆ」をジュレにして載せるのだ。「柚子梅つゆは3倍濃縮なので1:3で水で割り、シャンパンビネガー、蜂蜜をほんの少し入れてゼラチンで固めているんです。仕上げはミニトマト。これは色をつけるためのものです」とは大土橋さんの弁。店では、これをポテサラと言っているが、どう見てもポテサラじゃない。そう思って口に運ぶと確かにポテトサラダのような味がするのだ。「ポテサラと聞いてもこの料理を見ればそう思わないでしょ。お客様のイメージを裏切りたい一心で創作したものです。名前と見ため、そして味のギャップがある。それがいいんですよ。うちは全般的に洋風ですが、どこかには醤油を使わなくてはいけない。どこに入っているか想像がつかないという反応を見るのも料理人冥利につきるんです」と大土橋さんは話す。

フルートフルート醤油の旅人フルートフルート醤油の旅人

二品目の「シャラン産鴨肉のロースト 九条葱柚子胡椒ソース」(1600円)も仏と和の合作のようなメニュー。ここには「湯浅醤油」の「九曜むらさき」が使用されている。
まずシャラン鴨(フランス産)の胸肉に切り込みを入れて表面を焼く。みりん、赤ワイン、「九曜むらさき」を合わせだしに浸け、低温で火を通す。氷水に鍋ごと浸け、そのまま保存。それを切って出すのだという。仕上げは熊本の「御膳醤油」。これは鰹と昆布を合わせた旨口醤油で、甘い味が特徴。芽葱とEXオリーブオイルをかけている。
「九曜むらさき」は、金山寺味噌からわずか3%しか摂れないたまりを使って減塩でまろやかな味に仕上げたもの。大土橋さんが言う「味噌っぽい味」は納得できる感想で、彼は味噌づけのイメージでこの料理の下味に使っている。「九曜むらさき」は、一般の醤油が持つとげとげしさがなく、風味豊かで甘みもある。コレを使うことで鴨肉の旨みが引き立つんです」。大土橋さんは、醤油と味噌の中間といい、香ばしさが出るから脂身がクセなく食せると言っていた。彼曰く「もう一味欲しい時や味のつなぎに適役なのだ」そう。

フルートフルート醤油の旅人フルートフルート醤油の旅人フルートフルート醤油の旅人

三つめは醤油ではなく、「丸新本家」の金山寺味噌を使用した一品。しかもデザートっぽいものにそれを使っている。「フォアグラと金山寺味噌のマカロンサンド」(600円)は、仕上げの一品として人気がある品だという。
黒コショウとバニラの生地で、中にはバニラエッセンスが入り、上から黒コショウを振って焼いている。フォアグラは、あえて味付けせず、風味づけとして酒が入っているくらい。仕上げにペースト状にした金山寺味噌を載せ、そのフォアグラを生地で挟んで食べる。まさに発酵マニアの本領を発揮した品で、フォアグラなり、金山寺味噌なり、普段ならスイーツに使わぬものが使われているところが面白い。「うちは醤油バーなのであまり味噌は使っていないんですが、新古さんの所の金山寺味噌は美味しく、甘みや旨みが強いのでぜひ使いたいと思ってこんなメニューを考えました」。
シャンパン×醤油と聞いて一見変に思うが、この三品には実にシャンパンがよく合う。つながりは“発酵”かもしれないが、シャンパングラス片手に、これらの料理を味わっていると、大土橋さんがはまった域についつい足を踏み入れてしまいたくなるようだ。
「フルートフルート」では、このように各社の醤油の特徴を見極めながら大土橋さんがメニューを考案している。時に銘柄を替えると、味がガラリと変わるそうで、その変化を見るのも楽しいと言う。「生の魚を食べながらシャンパンを飲ってもどうかと思うが、このように調理したものだと合うんです。醤油がクッションの役割りを果たしてくれるんです」。醤油は単なる調味料で、どこのものでも同じだと思っている人がいる。でも造り手が変われば味も変わるし、地域が異なれば風味も変わっていく。ぜひとも蔵によって醤油が異なることをこの店に行って実感してほしい。100種以上の銘柄が揃っている店は、そう他にはないのだから…。

  • <取材協力>
    フルートフルート (大阪・北新地)

    住所/大阪市北区曽根崎新地1-2-3 新地東商ビルB1

    TEL/06-6347-1900

    営業時間/18:00~翌2:00

    休み/日祝日

    メニューor料金/
    フルートフルートセット(日替わりアテ4品) 1500円
    シャンパーニュセット
    (日替わり料理6品とシャンパン2杯付きのぺアコース) 
    一人5000円
    モッツァレラチーズと燻製醤油 600円
    自家製漬けイクラ柚子の香り 醤油ラスクを添えて 1100円
    トスカーナ産オリーブの醤油マリネ 500円
    こだわり卵のふわふわオムレツトリュフバター添え 800円
    牛ホホ肉の赤ワイン煮込み とろとろマッシュポテト添え 1800円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい