13 2014年02月どの世界にも達人と呼ばれる人がいる。そういった人はいかにも職人然としており、新しいことを取り入れながらも昔の仕事もきちんとこなしている。今回は私が達人のひとりとして挙げる「十駕」の竹氏清貴さんに湯浅醤油の商品を使って料理を作ってもらった。和食のメッカである京の町で長年一線を守り通してきた人だけに興味深い話が沢山出てきた。色の出し方や、一番だしへのこだわり、竹氏さんならではの料理哲学とともに味わってほしい。

十駕(京都・両替町) 料理人/竹氏清貴
(十駕店主)
「主張しすぎる調味料はダメで、
バランスよくおとなしい味でないと
我々和の職人は使いづらいんです。
この白醤油はあまり主張せず、
バランスも丁度いいんですよ。」

古文書から料理を作り出す京の職人

十駕店主 竹氏清貴京都は日本料理のメッカというべき町だ。室町時代に今の日本料理の基礎がこの町で生まれ、それが戦国時代を経て江戸時代にある程度の完成を見た。京料理はどちらかというと、全国的に憧れの存在で、寺社などの京都観光もさることながらそれを食べに各地方から多くの人が訪れる。そんな和食激戦区・京都にあって美味なる料理をと日々追及している人物が「十駕」の竹氏清貴さんである。

地下鉄烏丸御池駅から程近い場所にある「十駕」は、京都らしく町家をリノベーションした日本料理店。京都のホテル「ハトヤ瑞鳳閣」で長年厨房を任されていた竹氏さんが独立して始めた店である。烏丸通りから一本西側に入った両替町に位置するこの店は、筍子の「駑馬十駕(どばじゅうが)」の句から名づけられている。駑馬十駕とは、駿馬は一日に千里を走る。だが、鈍い馬でも怠らず十日かければ千里に達するとの意味である。

十駕十駕

竹氏さんは「我々は天才ではないのですが、日々の努力でそれに近づける。そんな思いをこめて名づけました」と語っている。竹氏さんといえば、古い文献をもとに当時の料理を今風にアレンジして蘇えらせる。そんな知的で職人的技を持つ料理人としての印象が強い。現にホテル時代に醍醐寺の境内にある「雨月茶屋」で、彼らしい料理を披露していたことがあった。特に私は献立の中にあった「紙背文書」が印象に残っている。紙背とは走り書きに使った用紙を指す。昔、貴重だった紙は、走り書きなどをしていらなくなったものの場合は裏返しにして綴じて本にし、いる時にその紙を使用していたそうだ。ある時、春日局が三宝院門跡に送った書状が発見され、その中に筍のすもしが美味しかったと記されていた。すもしは宮中の女房の言葉で寿司のことである。竹氏さんはその書状をヒントに筍を少し濃いめに焚いて芯にし、海苔の代わりに湯葉で巻いた「筍のすもし」を作ったのだ。このように竹氏さんは、古文書を読み解き、今風のものに作り上げるのが得意。この探求心たるや、いつも頭が下がる思いである。

店内焚き合わせ 蕪の含め煮、鱈(たら)の子の旨煮、菜の花

そんな竹氏さんに昨年末、久々会った。たまたま暮れに京都に行く用事があり、夕食を食べようと「十駕」を覗いたのである。その時、竹氏さんは「何か刺激のあるものを持って来てよ」と言っていた。それをいいことに湯浅醤油の「白醤油」と「魯山人」醤油などを勝手に送りつけ、「これで特別に料理を作ってください」と頼んでおいたのである。年が明けて少し経った頃に「十駕」を覗くと、竹氏さんはリクエスト通りに三つの料理を考えていてくれた。

竹氏さんが私用にと用意してくれたのは、「焚き合わせ 蕪の含め煮、鱈(たら)の子の旨煮、菜の花」と「穴子のきぬた巻き」「大葉百合根の白煮」の三つ。ともに竹氏さんらしくシンプルながらも美しく、きちんと和の手法を踏襲したものばかりだ。今回の料理を作るにあたって竹氏さんは色をかなり気にかけていた。それは「魯山人」だけではどうしても仕上がりが黒く映ってしまうからだ。なので「魯山人」に薄口醤油を合わせて調味している。「大葉百合根の白煮」では本来なら砂糖、みりん、塩で作るのを「今日は白醤油があったので」と言い、それをうまく使用して味を調えていた。つまり醤油の工夫により色鮮やかな三品を完成させたわけだ。

まず一品目の焚き合わせを説明するが、これは蕪を一番だしで焚き、砂糖ほんの少しとみりん、醤油で味付けしている。醤油については前述したように色めだけを気にして「魯山人」に薄口醤油を合わせている。竹氏さんら関西の和の職人はどうしても色の美しさにこだわる。野菜を焚く時に醤油の黒さは合わないと言い、一般的には濃口よりも薄口で仕上げるケースがよくある。特に今回は蕪を使っているのでその色がうまく出せるように醤油を合わせている。蕪はあまり煮ず、さっと焚いて追い鰹をし、味を含ませる。熱い状態だと角が取れてしまうのでそれを嫌い、鍋の中で冷ますようにして味を含ませるらしい。竹氏さんは「もともと青いものなので、その色を残したい。美しく柔らかく仕上げるのがコツ」だと話す。黒く仕上がると、椀の蓋を開けた時のイメージがどうしても悪くなるからだと話していた。

「醤油の味は料理に直接影響してきます。だから使っている醤油が悪いと話にならないんですよ。この『魯山人』醤油はさらっとしてクセがなく、舌にその味が残らない。醤油の良さがうまく出ている逸品です。このようにベースになる醤油がきちんとしていると、味つけがしやすいんです」。普通の醤油だと味に丸みがなく、調味料を入れつつ丸みをつけていくそうだが、「魯山人」は全体的バランスが調えやすいのでそうする必要がないらしい。

目指すのは、鰹だしでも昆布だしでもない一番だし

次に「穴子のきぬた巻き」だが、これには蕾菜と針柚子が用いられ、味噌あんかけ仕立てになっている。穴子の白焼きを棒状に切って桂剥きした大根で巻く。それを竹皮で止めて軽く戻し、だしと1割の酒を加えて軽く焚いて作る。砂糖少量とみりん、醤油で味を調えるのだが、この醤油も先程と同じく「魯山人」と薄口を合わせたもの。二つを合わせるというより、交互に入れて色合いを見ながら調えていくそうだ。かける味噌あんは、味噌をだしで溶いて少し濃いめにしたもの。砂糖で甘さをつけて、とろみを出すのに葛を引いている。穴子のきぬた巻きは、味噌あんをかけるからあえて薄めの味に仕上げ、そこに田楽味噌の感覚で味噌あんを足しているのだ。

穴子のきぬた巻き付け合わせの青味は白醤油で。塩少なめで味は醤油から摂るように考えられている。「昔は塩を入れ、足らない所を醤油で補っていたんですが、今はそうではなく、むしろベースとなる一番だしが100%にできたなら醤油を入れなくてもいいくらいなんですよ。私がこの青味に醤油を使うのはだしの色をきれいな琥珀色にしたいがためなのです」。

大葉百合根の白煮最後の「大葉百合根の白煮」は、白醤油がいきた逸品だ。だし、酒少々、砂糖、みりん、塩を合わせ、直焚きで作る。白醤油(湯浅醤油の商品)を用い、味を調えるのだが、まさに時間勝負の料理といえよう。きれいに洗った百合根を浸る程度のだしに入れ、一気に火にかける。大きい百合根で1分半~2分ぐらい。火を入れすぎると花が咲いてしまい、ダメになるので9割ぐらい火が通ると冷水に取り、余熱で100%に仕上げるようだ。照りを出すのはみりんの役目。本来ならみりんと塩で仕上げるはずが、今回は塩控えめにして湯浅醤油の白醤油を用いている。竹氏さんは「醤油を入れると味がつきやすく、旨みが出る」と言う。例えばうすいえんどうを焚く時でもいい白醤油があれば使いたいと話していた。昔は白醤油といってもあまりいいものがなかったので職人はそれを用いると塩分が強くなることを嫌ったらしい。ところが今は品質のいいものができ始め、使いやすくなったそうだ。「この白醤油は、使いやすいですよ。何でも主張の強いものはダメで、バランスよくおとなしい味でないと使いにくいんです。今回の『白醤油』はあまり主張せず、バランスも丁度いいですよ」と竹氏さんは使った感想を伝えてくれた。

十駕料理人は慣れを重視することが多い。せっかく作り出した味だからと、昔から使っているものを使いたがる傾向にある。「それでは進歩しないのだ」と竹氏さんは主張する。和食はだしが命。竹氏さんは道南の真昆布と花鰹でそれを摂っているが、常に目指しているのは鰹だしでもなく、昆布だしでもない一番だし。そのどちらが勝ってもダメで、バランスがよく、旨みのある一番だしを作ることこそが料理人に課せられた使命だとも言う。「元がダメならいくら醤油が美味しくてもいい料理にはならないんです。例えいい材料を使っていても摂り方が下手なら同じこと。若い頃はそんな哲学的な話を聞いても何とも思いませんでしたが、煮方を10年やってからそれがわかるようになりました。そしてずっと精進していますが、未だに100%の一番だしを作れずにいます」と謙遜する。だが、その真面目さが竹氏さんを日本料理界でトップの地位につけたのだと私は思っている。

十駕かつて大阪で師匠の南條愛道さんと共に歩き、「北浜」などの名店を経て「ハトヤ瑞鳳閣」にやって来た。そんな彼に同社のオーナーは「京料理らしくないものを作ってほしい」と注文したそうだ。私が考えるに「ハトヤ瑞鳳閣」のオーナーは形にとらわれずに竹氏流でいいと思ったのではなかろうか。「京料理ってよく持て囃されますが、いったい何をもってそうなるのでしょうか。薄味のように思われていますが、決して薄くはありません。濃くはないですが、しっかり味付けられたものばかりですよ。私はしっかり味付けて少し甘めが京都の嗜好だと感じているんですが…」。

十駕そんな風に語る竹氏さんだが、料理はあくまでにシンプル。あまり技巧に頼らず、むしろ省く方に向かっている。竹氏さんはことさら昔の仕事にこだわりを見せる。昨今の若い料理人は流行を追うがあまりに昔の調理法をおろそかにする嫌いがある。しかし、先人達が残した技は時が経ったとはいえ、そうバカにしたものではない。「昔の仕事がいいに決まっているとは言いませんが、知らないよりは知っている方がいいはず。いい仕事は手間をかけても受け継ぐべきなんです」と竹氏さんは語っている。竹氏さんは献立を考える中で案が出てこない時は古い文献を紐解くらしい。レシピ本なんて今のもののように思っているだろうが、実は江戸時代にすでに発刊されている。一時期は古書店通いをし、参考になる文献を見つけては、それを今風にして表現していた。「今と江戸時代っていったい何が違ってきているのでしょうか。違うとしたら素材そのものの味かもしれません。昔の素材は味が濃かったんですが、今では水っぽくなっていると言いますよね。それに対して調味料はかなり進化している。それでうまくバランスが取れているのかもしれませんね」。そう言いながら新たな料理を作ろうとする竹氏さんの姿を見ながら私は「この人は面白い!」と心の中で呟いた。

  • <取材協力>
    十駕(京都・両替町)

    住所/京都府京都市中京区両替町通二条下ル金吹町478

    TEL/075-213-2234

    営業時間/11:30~14:30 17:00~22:30

    休み/日曜

    メニューor料金/
    昼コース:2800円、3900円
    夜コース:4400円、6400円、8700円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい