12 2014年01月食のことを取材し、執筆していると、料理人との距離感が縮まってくる。親しくなるとわがままもきくし、彼らからの相談も受けることが多くなる。今回は野田阪神にあるカジュアルな割烹「日本料理 竹之内」の店主・竹之内孝男さんに私個人の注文として「魯山人」や「樽仕込み」を用い、我が大好物・ふぐの七味醤油焼きを作ってもらった。気心知れているからやってくれる料理人からのサービス。
その完成品を味わった時に調味料の違いでかくも味が変化するものかと実感した

日本料理 竹之内(野田阪神) 料理人/竹之内孝男
(竹之内店主)
「さらっとしているけど、ねばりが
ある。それが味わいにもなり、
照りにもなって料理自体を一級
のものへと押し上げているんです。」

懐ろにも優しそうな野田阪神の割烹

懐ろにも優しそうな野田阪神の割烹誰でもその店へ行けば、必ずコレを食べるというメニューがあるはずだ。私の場合は「紅宝石」(神戸・元町)の「豚バラの梅肉蒸し」とか、「えびす丸」(大阪・梅田)の「エタリのフランスパン載せ」とか、「民生」(加古川)の「水餃子」とか色々あって、挙げればきりがないほどだ。大阪・野田阪神にある「日本料理竹之内」では、それが「ふぐの七味醤油焼き」となる。今回は、そのお気に入りメニューに湯浅醤油の「魯山人」醤油や「蔵匠樽仕込み」を用いてもらおうと、あらかじめそれらを渡しておいた。

醤油を替えて作った「ふぐの七味醤油焼き」の味わいを説明する前に、「竹之内」なる割烹について少し話しておきたい。同店はJR東西線海老江駅2番出口から徒歩3分ぐらいの場所(阪神野田駅から4~5分というところか)にあるカジュアルな割烹だ。地域性もあるのか、割烹といえど安価で楽しむことができる。

カウンター席に座ると何も注文しなくても次から次へと料理が出てくる。「竹之内」の店主・竹之内孝男さんとは、彼が「蓮」で働いていた頃からの付き合いなのでかなり古い。かつて中津(大阪)にあった「蓮」は、連日満杯の人気割烹で、平塚さんという料理人が営んでいた。この店は数年前に閉じてしまった が、健在なりし時代は私のお気に入り店のひとつで、仕事帰りに覗くといつでも美味しい料理を提供してくれた。さも食通のような格好で店に入り、カウンター席に座ると何も注文しなくても次から次へと料理が出てくる。

入店したての竹之内さんは、いったい何者だろうと平塚さんに私のことを尋ねたことがあったそうだ。入った時は三番手ぐらいだった竹之内さんも時が経つと店を任されるようになり、料理長へと昇格。私と彼とは食べ手と作り手という、実にいい関係の時間を共有していった。

そんな竹之内さんが「蓮」を離れ、店も閉店してしまったので一時期つきあいのなかった頃もあった。でも、10年くらい前に十津川村(奈良)の旅館「神湯荘」が立売堀(大阪)に出店を作ることになり、その店を任せる人を探してほしいと依頼があり、その時に「店長にはこの人が適任」と私が竹之内さんを推薦したのが再会のきっかけであった。竹之内さんはその「神湯亭」で数年間、腕をふるい、一時は立売堀の人気店にまで仕立てたほどだ。ただ職人は常に上を目指すのだろう。何年か働いた後に独立。5年前に野田阪神で自身の店「竹之内」を始めている。自らの名を冠した「竹之内」は、庶民的な街に根ざした内容なので懐ろにも優しく、日本料理をリーズナブルに楽しめるのが特徴。十津川村の店時代に好評だった「ボタン(猪肉)のしゃぶしゃぶ」や「蓮」時代から作り続けている「ふぐの七味醤油焼き」などもラインナップに加えながら自分の色を出している。
ちなみにこの二品は「竹之内」の冬の名物となっているようだ。

七論で焼くと。餅や煎餅を焼いていた懐かしい匂いがする

ふぐの七味醤油焼きふぐの七味醤油焼きふぐの七味醤油焼き

「竹之内」名物の「ふぐの七味醤油焼き」は、ブツ切りの厚みのあるふぐを七輪で焼いて食べる。
味付けは醤油、みりん、酒を合わせたものでそれに七味を加えてから漬けている。普通、ふぐといえば薄く切ったものを想像しがちだが、この店では贅沢にも厚みのある背骨付きのブツ切りが―。焼いていくうちに醤油の香ばしさが漂い、何とも食欲がそそられる。私はこの日、遊び半分で「醤油を替えてみて」と竹之内さんに注文を出した。竹之内さんも心得たもので「いっしょに焼いて食べ比べしましょう」と俄然乗り気である。

竹之内さんは「魯山人」醤油をさらっとしているけど、ねばりがあると評している。それを8割、みりんを1割、酒を1割という配合にし、七味を加えてふぐの漬けダレを作る。それにくぐらせたブツ切りのふぐを七輪の上で焼いていくと、醤油の香ばしい匂いが店内に漂う。「普通の醤油をつけて焼くと、ただ香ばしいだけなんですが、『魯山人』醤油は餅や煎餅を焼いている匂いがするんです。昔、田舎で食べたそれを思い出しますよ」
と竹之内さんは話しながらふぐを焼いている。「魯山人」醤油の香りがいいことは、色んな料理人が認めている。神戸メリケンパークオリエンタルホテルの鉄板焼きでは、この醤油を鉄板に垂らした時に、お客さんがその香りの良さに振り向くという。しかもその振り向き方が一般の醤油の時と違うらしい。「大豆の香りがするんですよ。匂いからしてまろやかで、豆をゆがいた時と同じような感じですね。この独特の匂いは『魯山人』じゃないと出ませんね」と竹之内さんは彼なりの言葉で醤油の良さを表現していた。

魯山人を使ったもの魯山人を使ったもの樽仕込みを使ったもの樽仕込みを使ったもの

竹之内さんは、いったんふぐを焼き、再びタレに漬けて二度焼きにする。これも一般の醤油だと行わない行為で「普通なら辛くなりすぎる」と指摘する。焼けたふぐを口内へ―。二度漬けしているのに醤油辛さは感じない。「魯山人」醤油が利いたタレはまろやか。そして七味の辛さが後から追いかけてくる。「あまり入れすぎると、醤油の味を邪魔するように思えたので普段より七味は少なめです。普通ならお酒を欲するほど舌に辛さが残るんですが、そうならないのが不思議ですね」。

「蔵匠樽仕込み」でタレを作った方は、「魯山人」ほど香りが出ないが、こちらは醤油の味にパンチがあってまた違った風味が楽しめる。「樽仕込みは色も濃く、ちょっとたまりに近い感じがします。どちらもいい醤油だとわかるのは、一般の醤油のように漬けた時にさらっと流れない。ねばりがあるんですよ」。竹之内さんは「樽仕込み」は焼きものに合い、「魯山人」は造りなどシンプルな味のもの合うという。特にポン酢で味わうような淡白な白身に実にフィットすると話している。「魯山人醤油は、薄口でも濃口でもないと話していましたが、調理したらよくわかりますよ。素材に絡めると、薄口醤油ほど薄くはない。かといって濃口醤油では決して出ない味なんです」。だからふぐなどの淡白な魚に合うのだと竹之内さんは言いたいのだろう。

タラの白子焼きさて「竹之内」での二品目は「樽仕込み」を用いて「タラの白子焼き」を作ってもらうことになった。「魯山人」だと醤油の主張が少ないので塩焼きに近い味になるそうだ(でも塩焼きするより「魯山人」醤油を使う方が塩分が少ないのでヘルシーだと竹之内さんは付け加えていた)。それに白子だと先の七味焼きよりクリーミーさが出てしまうので醤油の良さがわかりづらいらしい。なので「樽仕込み」の方がこの料理に合うと話す。

出てきたものを味わってみると、表面に「樽仕込み」が塗られ焼いているから醤油のいい香りがする。潰してみると、白子が割れ、クリーム状の中身が出てくる。濃厚な白子にうまく醤油味がマッチして、口内でその旨みが合体するかのようだ。竹之内さんはその性質から、たまりっぽい醤油の使い方をしたい時には「樽仕込み」がいいと指摘する。しっかりした醤油の味が出ているために煮付けなどにもいいそうだ。

「『もろみ味噌』も『金山寺味噌具だくさん』も試食しましたが、かなりのレベルですね。何も調理せず、コレを漬けるだけで十分旨いですよ」

「樽仕込み」の味が利いた「タラの白子焼き」を食べていると、「遊びでこんなものを作ってみました」と「クエのもろみ焼き」を出してきた。この料理はクエに旨みを出すために少しだけ塩をしてさらっと焼き、その上に丸新本家の「もろみ味噌」を少しだけ酒を入れて延ばし、葱と混ぜて載せている。簡単な料理だが、酒のアテには丁度いい。塩分5.1%と薄塩で甘口のもろみの味噌が脂っこいクエの味を中和させているようだ。「『もろみ味噌』も『金山寺味噌具だくさん』も試食しましたが、かなりのレベルですね。何も調理せず、コレを漬けるだけで十分旨いですよ」と、高評価である。

「魯山人」醤油を用いたにゅうめん「竹之内」での最後は、「魯山人」醤油を用いてにゅうめんを作ってもらうことにした。探究心旺盛な竹之内さんに面白い素材を与えると、泉から水が湧くかの如く色んなアイデアが出てくることは予測できた。「あれも面白いし、これもいい」と思い巡らせていた竹之内さんに「一般人は『魯山人』醤油でにゅうめんを作ろうとは思わないだろうからやってみて」と私が背中を押した形で最後の一品は決まった。

「竹之内」では、にゅうめんは締めの一品として人気がある。それに贅沢な「魯山人」醤油を使おうというのだから美味しくないはずはない。竹之内さんは「魯山人」醤油の特性を加味しながらにゅうめんのだしを作っていく。ベースとなるのは昆布と鰹の合わせだし。そこに「魯山人」醤油とみりんを加える。みりんの量はいつもより控えめだ。そうすることで柔らかな味になるという。竹之内さんは油気が少しほしいと考え、鶏で摂っただしも加えている。「魯山人」醤油は薄口ではないのでだしの色は関西風に似合わず濃いめとなる。だが、飲んでみると、竹之内さんが言うように柔らかな味になっている。
「色と味のギャップが少し生まれますね。普通の醤油よりたっぷりめに使い、みりんも少なめにしたんですが、十分甘みがあるでしょ」。そんな竹之内さんの言葉が示すように口に運ぶと、ふんわりと優しい味が舌と喉に伝わってきた。

食材の良さもさることながら調味料も使い方次第でかなりアピール力が異なってくるものだなと実感した。「今日は醤油の違いで同じ料理が違ったものになることを確認させてもらいました。一度醤油をテーマにうちの店で食事会を催すのもいいですね」と竹之内さんは意欲満々で私の食す姿を見ていた。同じ「ふぐの七味醤油焼き」でも一般的な醤油(他社のもの)、「樽仕込み」「魯山人」とでは舌に与えるパンチが異なり、後味や香りもかなり変わってくる。食材の良さもさることながら調味料も使い方次第でかなりアピール力が異なってくるものだなと実感した。竹之内さんは、十津川村の旅館にいた関係上一時期は和歌山の醤油を使っていたこともあったそうだ。やはり醤油を使うなら湯浅がいい―、そんなことを思ったかどうかはわからない。でも少しはそのような思いが竹之内さんの脳裏を過(よ)ぎったのではないだろうか。料理を楽しそうに作っている竹之内さんの姿を見て私はそんなことをふと思ってしまった。

  • <取材協力>
    日本料理 竹之内(野田阪神)

    住所/大阪府大阪市福島区海老江5-4-16

    TEL/06-6440-0511

    営業時間/11:30~14:00(但し売り切れ次第終了)、
    17:30~23:00(土曜は夜のみ営業)

    休み/日祝日

    メニューor料金/
    おまかせコース 3500円、5000円
    ぼたんしゃぶしゃぶ(一人前) 1800円
    ぼたんみそ鍋 1800円
    海老芋の蟹湯葉あんかけ 800円
    白子の茶碗蒸し 800円
    ふぐの七味醤油 2500円
    タラの白子焼き 800円~
    にゅうめん 500円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい