59 2018年02月 近頃は熟成肉流行りで、色んな焼肉店がそれをイチ押しのようにメニュー化している。大阪・長居にある「又三郎」も熟成肉を大きく謳った店。でもここが、他の店と違うのは仕入れから自店で行い、自分の所で冷蔵庫に入れて熟成していること。つまり牛肉の仕入れ、熟成、提供を一貫して自店で行っているのだ。ここまでこだわっている店は、全国でも少なく、同店の大森淑伸料理長も「数えるほどしかないでしょう」と話している。「又三郎」では、部位ごとに熟成期間を分け、ドライエイジングと呼ばれる熟成を施している。このこだわりがウケて多くの人が訪れているのだろう。今回は長居駅前にある「又三郎」本店に訪問し、「湯浅醤油」や「丸新本家」の商品を用いて私だけのスペシャリテを作ってもらった。まさに取材者が得られる特権かもしれない。私と新古敏朗さんが取材で味わった四品をレポートしよう。

熟成肉と本格炭火焼肉 又三郎 大森淑伸
(「又三郎」料理長)
「燻ししょうゆは、火を入れても香
りが保たれています。普通は飛ん
でしまうのですが、これはそうな
りません。だから一風変わった
風味づけした料理ができたんです。
燻製香の残った一皿になりました

仕入、熟成、提供を自分の所で行う店

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ここ数年、熟成肉がグルメの話題に上るようになった。熟成肉とは、低温で一定期間貯蔵して熟成させたものをいう。生肉を腐敗させることなく、寝かせたもので、旨味や香り、甘みなどが凝縮されるといわれている。そもそもは冷凍や冷蔵で肉が保管できなかった時代に干して保存したのが始まりなのだが、この手の研究が進むにつれ、一般的な牛肉よりも旨味や柔らかさが増すことがわかった。1980年代に入ってから米国でドライエイジングなどの熟成方法が次々に研究され、現在のブームに至っている。肉を熟成させるにはいくつかの方法があるが、ここでいうドライエイジングとは、温度や湿度、風を調整して行うものを指す。余分な水分を飛ばし、タンパク質やミネラルを凝縮させて、そのうちのタンパク質を旨味成分のアミノ酸に変える効果がある。
熟成肉ブームによって色んな所が“熟成肉”を看板に商売しているが、そのほとんどは肉屋で熟成してもらい、それを仕入れている店なのだ。いっそ熟成肉にこだわるなら自店で仕入れた牛肉を熟成させて提供しようというのが長居(大阪)にある「又三郎」の考え方だ。

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同店は熟成肉と本格炭火焼肉の店で、JR阪和線長居駅前に位置する長居パークホテルの一階にある。熟成肉には前述したドライエイジングと、ウエットエイジングがあるといわれているが、「又三郎」の熟成方法は前者を指す。真空パックせずに部位ごとに分けてそのまま肉を冷蔵庫へ入れて寝かせるやり方を採っているのだ。「又三郎」では、土佐褐毛牛(土佐あかうし)と黒毛和牛の中からポテンシャルが高い肉のみを自店の熟成庫で2~8週間ゆっくり寝かす。温度と湿度、かすかな風と寝かせた時間の影響を受けながら表面にカビを纏わせる。そのカビこそが重要で芳醇な香りを放ちながら内側では酵素がタンパク質を分解してアミノ酸に変えていく。このアミノ酸の量は4~10倍ほど増えるというからいかに旨味が増すかがわかってもらえるだろう。
同店で料理長を務める大森淑伸さんによると、部位ごとで熟成期間も異なるそうで、フィレなら2週間以上、ももは1カ月、骨付きロースと骨付きリブロースは2カ月を要するとのことだった。取材に行った1月某日に使うものは、11月に冷蔵庫に入れたものだと話していた。フィレ肉の貯蔵期間が短いのは、肉の個体が小さく繊細だから。あまり長い時間熟成させる必要がない。一方、骨付のロースは上は脂で、それとL字の骨で覆われており、空気に触れる所が少ないこともあってじっくり熟成させるのがいいらしい。

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「又三郎」は、初めから熟成肉に注力していたわけではなかった。オープン当初は長居で焼肉屋として商売している。それが熟成肉を扱い出したのは2005年ぐらいから。長居パークホテル一階に8年前に移転し、さらにその特徴が強まって行ったようだ。「私はこの店に来て10年になりますが、これほど熟成肉に力を入れている所は珍しいですよ。仕入れから行って自店で熟成、提供までをしている所は日本中探しても数えるほどでしょうね」と大森料理長は語っている。彼によると、熟成することでアミノ酸の量が何倍にも増えるのは勿論、少しナッティな香りがつく特徴が得られるそう。そして「腱繊維が破壊されることで柔らかく感じる」利点もあるという。ただ何でも熟成すればいいかというとそうではなく、「美味しくない肉を熟成しても旨くならない」と説明していた。この店では、ポテンシャルの高いものを選んで寝かせている。黒毛和牛もあるが、特化しているのが土佐あかうしと呼ばれる褐毛牛。この手の牛は高知と熊本にしかいず、ここでは高知県産のそれを素材として活用しているのだ。「和牛と呼ばれるもののうち、96%が黒毛和牛で、あとは褐毛牛、短角牛、無角牛(これは市場にあまり出回らない)の都合四種を指して和牛と言っています。当店が褐毛牛を使用するのは、この肉が熟成肉に合うと判断したから。脂の風味といい、赤身の質といい、黒毛和牛とは異なります。赤身と霜降りのバランスがいいんですよ」。一頭買いすることでコストを安くし、焼肉と熟成肉とで使う部位を分けている。こうすることでリーズナブルな価格で出せるのだと教えてくれた。

フィレ肉をサンドした豪華な一品

 

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さて、ここではいつものアレをやらねばならない。予め醤油と味噌を「又三郎」に送っておき、私だけのスペシャリテを取材用に作ってもらったのだ。まず出て来たのは、熟成肉を使った「燻ししょうゆ」のそぼろ。これは熟成肉を提供する際に必ずヘタが出るのだが、その部分を包丁で粗く刻み、少量のサラダ油でしっかり焼き色がつくまで炒めて作っている。酒と「燻ししょうゆ」、三温糖に軽く塩をして水分を飛ばす程度に煎り炒めて仕上げる。松の実と花穂紫蘇をトッピングして出来上がる。「ビビンバか、すぐきの混ぜご飯のいずれかとともに出すようにしました。松の実が入ることでナッティな感じがし、単調になりやすい味に変化をもたらせてくれています。すぐきの漬物の酸味によく合うと思って添えたんです」と大森料理長。熟成肉だから肉に濃さがある。これがミンチだと「燻ししょうゆ」の味が勝つ嫌いが強い。粗く熟成肉を刻んで作ることで醤油と調和する味に仕上がっていると思われる。

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大森料理長は「菜の花とフルーツのサラダ」でも「燻ししょうゆ」を使っていた。これは酸・苦・甘が一体となって口内で交わるように設計された一品で、酸と甘をフルーツトマトで、苦を菜の花で醸し出しており、ここに「燻ししょうゆ」で調味することによって塩気と燻香が加わるのだ。「シンプルに仕上げたサラダです。『燻ししょうゆ』にオリーブ油、ゴマで味を調えています。酢を用いずともドレッシングの役割を十分果たしてくれました」。大森料理長の「燻ししょうゆ」評は、「火を入れても香りが保たれている点が秀逸。普通なら香りが飛ぶのだが、そうならなかった。なので一風変わったものができる」とのことであった。だから調理しても燻製香の残った一品ができると説明していた。

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三品目として出て来たのは、「又三郎」自慢の「フィレステーキサンド」のアレンジ版。同品は、テイクアウトもしている名物料理で、肉しか挟まないという贅沢品。それを熟成のフィレ肉でやっているのだから応えられない。「カツサンドはあれども、フィレステーキサンドは珍しいはず。うちは熟成肉を売りにしているから肉で勝負したいとあえて野菜などは挟まずに出しているんですよ」と言う。価格は4300円也。ハンバーガーと名乗ると高そうだが、挟んでいるのはフィレステーキなのだから決して高くはない。
このフィレステーキサンドには、いつもは特製の味噌だれを使っているそうだが、今回は「しょうゆもろみ」で作ってくれた。フィレ肉にそれを塗ってバンズで挟んだシンプルなメニュー。でも、かぶりつくとフィレ肉が柔らかく、パンと一体感があった。大森料理長は「繊細なフィレ肉を用いることで、パンと同じ柔らかさを表現したかった」と言っていた。ロースだと脂が口内に残るので、こんな雰囲気は得られないだろう。断面を見て驚かされるインパクトの大きいビジュアルといい、その柔らかさといい、さらに口内での満足感といい、まさに考えられた一品だ。まろやかな旨味があって粒々感も存在する「しょうゆもろみ」が実にいい調味を果たしている。

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最後は「牛タン金山寺味噌焼き」が登場した。これはタンヅラと呼ばれるタンの底辺りの肉で、脂や筋があるために焼肉では敬遠してしまう部位らしい。これをあえてスライスし、「具だくさん金山寺味噌」と大葉を刻んだものを混ぜて上下にスプーンで練り込んだのだという。それをラップで巻いて3~4時間置いてから素材として使用している。片方だけ味噌を取り、その部分を鉄板の上に載せた網で10分間オーブンで熱を加える。こうすると上の味噌だけに焦げめがつくのだ。今度は焼けた面の味噌を取って焼くのだそうで、裏返しては取った味噌をタンヅラの上に塗って焼いている。そのはがした味噌が皿に添えられていた。焼き上がったタンヅラにそれを少し載せて食べる。「金山寺味噌の具をいかしたかったので、スライスしたタンヅラに風味だけ移して、焼いた味噌は別添えにしました。私は西洋料理のシェフですが、実は料理人生を和食店でスタートさせたので金山寺味噌にはなじみがあったんです。焼いた金山寺味噌の味が物凄く旨かったので、あえてこの手の料理を作ってみたんですよ」。大森料理長は、タンヅラに食べやすいように隠し包丁を入れている。だから口に運んだ時にそんなに硬さは感じずにホロっと解(ほど)けたのだろう。火が入った「具だくさん金山寺味噌」は香ばしく、肉の旨みを伴っている。流石にタンヅラなのでよく噛まないといけない。その分、複雑な味が味わえて味噌が口内に残る。柔らかい肉だとこうはいかないであろう。蛇足だが、このタンヅラは熟成肉ではない。
今回は特別に色んなアレンジをしてもらい、取材用として四品を提供してくれたのだが、グランドメニューとして土佐あかうしのリブロース(熟成期間6~8週間)を注文すると一枚(150g)が6300円、もも肉(熟成期間4~6週間)一枚(150g)4950円という値段である。単品もいいが、わかりやすいからか、7~8割はコースを注文するそうだ。中でも人気のあるのが「熟成肉と焼肉を味わうコース」(7800円)で、両方とも味わえると注文する人が多いという。何はともあれ、こだわった熟成肉を一度お試しあれ。

  • <取材協力>
    熟成肉と本格炭火焼肉 又三郎

    住所/大阪市住吉区長居2-13-13 長居パークホテル1階

    TEL/06-6693-8534

    営業時間/11:30~14:00 17:30~23:00

    休み/日曜・木曜日

    メニューor料金/
    昼 コース  6500円(税サ別)
    夜 コース  13000円(税サ別)


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい