34 2015年11月野菜をテーマにした店が雨後の筍のようにオープンしている。だが、その大半は野菜オンパレードのメニューだったり、質も問わずただ産地だけを問題にして仕入れたものだったりするために、行ってがっかりすることが多い。北浜にできた「農家厨房」は、それらとは一線を画し、シェフの大仲一也さんが食べる人の健康を考えてバランスよく野菜を入れながら調理している店だ。OLに人気だという同店に、今回も私の我がままを通してみた。普段使わぬ和の調味料を中華のシェフはいかに用いたのだろうか。自作の野菜を中心に使いたいと始めた個性的な店の話とともに紹介しよう。

農家厨房 北浜店 (大阪・北浜) 料理人/大仲一也
(農家厨房店主)
「具だくさん金山寺味噌に潮州ラー
油を混ぜてお粥に会うものを作って
みました。他の金山寺味噌じゃあ、
まずこの味は出ませんよ。お腹いっ
ぱいだった人がお代わりをしたぐら
いの出来映えなんです」

自前の野菜を中心に体に優しい中華を

農家厨房農家厨房

肥後橋に「農家厨房」という中華がある。阪神高速・土佐堀ICのすぐ前で、車で走る人は階段に行列ができる様を見て「なんと女性に人気がある店なのか」と思うそうだ。OLが行列を成す理由は、この店のコンセプトにある。‟農家”と店名につけるだけあって店主の大仲一也さんは、堺市南区で農業を営んでいる。流石に料理をしながら作物を全て作るのは無理があるようで、できるものだけ自分で作り、あとは親戚に面倒を見てもらったり、知人の畑でできたものを買ったりして料理に使用する野菜を賄っている。大仲さんの論理は「遠方から来るA級ブランドよりも、B級ブランドだが、近くで穫れたものの方が鮮度は上」というもの。確かに畑でもいで食べる野菜は旨い。野菜の甘さがわかるからだ。それが収穫し、流通を経ていると甘みが損われる。野菜達は自分の持つ糖度を使って鮮度を維持しようとするためにどうしても日がたてば甘さはなくなるのだ。そう思って考えると、大仲さんの考え方は一理ある。「顔の見えない人が作ったものより、自分の手による方が安心だし、親戚や知人が作っているので肥料も指示しながら量を加減してもらえる」と話している。そんな野菜にターゲットを当てた店だから昨今のOL達が群がるのもわかる。大仲さんは、食べる人の健康面を考慮しながらメニュー組みしたり、調理したりするのでヘビーな中華にはならず、あっさりした身体に優しい料理を提供しているのだ。

農家厨房農家厨房

肥後橋の人気店「農家厨房」が二号店を北浜に出したのは、昨年の夏のこと。土佐堀川に面した店は、テラス席があり、川風を感じながら食事のできるスペースも有しているので、きっとこの春からは注目のスポットになると思われる。
大仲さんとは少なからず縁がある。彼の義父が私の古くからの知り合いで、大変世話になった、いわば恩人である。だから事務所近くに二号店がオープンすると同時に知らせをもらい覗いたのだ。もともと大仲さんは、日航ホテルのシェフだった。大阪でもそうだが、熊本の日航ホテルで働いており、長い間のホテル勤めを務めて店を出した。実家が農家であるのと、自身の健康への取り組みが「農家厨房」のコンセプトを生んだ。野菜中心と書くと、そればかりのように聞こえるが、肉類もきちんと使っており、大仲さん曰く「そのバランスが肝心なのだ」とか。先日も私が座長を務める食ビ研(関西食ビジネス研究会)で忘年会を行ったのだが、メインディッシュに出てくる分厚い鴨肉を最後に摂ると考えて、その前に魚や野菜を使ってメニューを構成してくれた。お腹がはち切れんほど喰ったはずなのになぜかすっきり。ここに大仲さんの健康的食事法が隠れていると実感した次第である。

お粥の味を引き立てる甘辛さ

農家厨房農家厨房

そんな大仲さんに私はいつもの醤油と味噌を渡す例のアレを行ってみた。手渡したのは「魯山人」醤油、「燻ししょうゆ」「具だくさん金山寺味噌」の三商品。ともに中華ではあまり使わない個性的な商品ばかりだ。
大仲さんは、これらの商品の味を確かめながら自店のコンセプトにあった料理に仕上げた。ここで説明しておくが、この三メニューは私だけのスペシャリテで、これを読んで「農家厨房」に行ったとしても出て来ない。このコラムの企画上のメニューと理解してもらいたい。
私が最も感心したのは、金山寺味噌を用いたお粥であった。「農家厨房」のお粥は他店のようにさらっとした水っぽいものではない。大仲さん自身が育てたヒノヒカリ(米)を炊き上げ、鶏油やゴマ油を加えてコクを出す。ヒノヒカリの特徴を上手に出しており、米のねばりがさらっとさせず、おも湯のような仕上がりになっている。大仲さんによれば、「香港の人は、お粥に辛味のある潮州ラー油をつけて食べることがよくある」らしい。そんなヒントから大仲さんはお粥に「具だくさん金山寺味噌」を使おうと思い、それに潮州ラー油を絡めて添えてくれた。味わってみると、びっくりするほどの旨さ。いつもの金山寺味噌に潮州ラー油の辛さが加わり、絶妙の味になっている。「農家厨房」のお粥だけでも十分な味なのに、それに甘辛い味噌がさらに旨みを伝えてくれる。大仲さんに聞くと、潮州ラー油とは唐辛子、玉ねぎ、にんにく、生姜をじっくり揚げて作るらしい。揚げ煮のような感じで仕上げて、調理の際に辛みをつけたりするために用いることが多いようだ。「お粥は、中国の人は朝に食べるんですよ。元気な人は勿論、弱っている人でも食の細い人でも消化がいいから食べて元気になるんです。ラー油だけだと辛いけれど、金山寺味噌の甘みが加わって食べやすい甘辛い味になっています」と大仲さんは言う。あまりの出来映えに常連の人にこのお粥を出してみたのだそう。すると「お腹いっぱいで食べられない」と拒否した人がペロリと平らげ、「お代わりできないか」と言ったそうである。

農家厨房

湯浅醤油が和歌山だからと地元(和歌山)をテーマに作ったのが「鯨のカルパチョ」だった。これは生の鯨肉に、黒胡麻と「燻ししょうゆ」でネギソースを作ってかけた前菜向きの料理である。熱い油に「燻ししょうゆ」と黒胡麻、塩、砂糖と味を入れた醤でソースを作っている。大仲さん曰く「一般的な醤油でやるのと全く違った味わいになった」そう。鯨の臭みが「燻ししょうゆ」で緩和され、旨みに代わると説明してくれた。鯨の赤身肉の上に、鯨の脂を載せている。「これは酒が進む料理でしょ。ワインでもメルローか、濃いめのものが合いますよ。勿論、紹興酒もいいです」。大仲さんの「燻ししょうゆ」評は、まず中華ではない味と香り。かけるだけで本物の燻製のようになるとのことだった。初めはサーモンの燻製のイメージでその手の料理が頭に浮かんだが、なめてみてそうじゃないと思い直し、鯨のカルパチョにしたそうだ。

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最後は、昨年末に催した食ビ研の忘年会でも出た「鴨のロースト わさびと燻しソースがけ」。合鴨のロースを焼く前に塩床に漬け、うっすらと味を入れる。この塩床は単なる塩でなく、塩、にんにく、エンシャロット、生姜、粉生姜でできている。味の入った鴨肉を表面だけ焼いてから、さらにオーブンで焼く。付け合わせの野菜は、金時人参、黄人参、菊芋、椎茸、つるむらさきの花、万願寺唐辛子。そこにソースをかけて提供してくれた。ちなみにこのソースは「燻ししょうゆ」とわさび、酢、ナンプラーを合わせて作っている。本来ならナンプラーを利かすべきなのだが、今回は「燻ししょうゆ」の香りをいかしたいので控えめにしたそうだ。わさびが利いているからか、味が締まっている。その上「燻ししょうゆ」が効果的に働き、燻製香を伝えてくれる。
大仲さんは、「ぜひ『魯山人』醤油で作った焼飯も食べて欲しい」と言う。だが、私のお腹はすでにいっぱい状態なので、「今度来た時に」と、せっかくの好意を断ってしまった。「あの醤油(魯山人)は、すごい旨ですよね。びっくりしました。醤油が舌に残らないですもの。ベースの醤油がよければ、何を作っても旨いですよ。『魯山人』醤油の焼飯は、何も技を用いずともそれをかけて、パッと炒めたら極上の味になりました」と話していた。
自分のお腹と相談しながら「もう一品」と言ってしまいそうだったが、次の機会に回すことにした。お腹はいっぱいになれど、なぜかもたれず、すっきりしている。これが大仲マジックなのだ。OL達がこぞって通うという「農家厨房」、その理由もわからぬわけではない。

  • <取材協力>
    農家厨房 北浜店 (大阪・北浜)

    住所/大阪市中央区北浜2-1-7 EDKビル1階

    TEL/06-6222-3330

    営業時間/ランチ 11:00~15:00
    ティータイム 14:00~17:00 LO
    ディナータイム 17:00~22:00 LO

    休み/日祝日

    メニューor料金/
    旬の野菜色々入ったセイロ蒸し   560円
    野菜の湯引き特製ソース      480円
    野菜の塩炒め           560円
    牛肉の赤身黒胡椒炒め       600円
    紀州梅鶏のカシュナッツ炒め    680円
    豚ヒレ肉のワイン酢豚       450円
    蝦のフリッター          720円
    医食同源ランチ          1000円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい