55 2017年10月 世の中にはパスタを主料理とした店が沢山ある。その大半は、乾麺を用いながら具材やソース、調理技術で他店と差別化している。生麺や手打ち麺で売っている所もあるが、これは珍しいと思える麺はなかなか出合うことがない。城東警察署近くにある「アヒージョ&パスタ」は、個性豊かな生パスタを用いている店だ。店主の芝田晴道さんがパスタ嫌いだったこともあって彼が納得するようなパスタを製麺所に作らせた。それが要因で他店とは差別化できる個性が生まれた。パスタ料理とアヒージョ料理にスポットを当てて運営する「アヒージョ&パスタ」で今回もあろうことか、いつものアレを行った。オリジナルパスタを使うこの店は、和の調味料をいかに使ったのだろうか。とくとご覧あれ。

ajillo and Pasta×三谷製麺所 (右)芝田晴道・(左)濱治嘉輝
((芝)アヒージョ&パスタ店主・バーテンダー、(濱)アヒージョ&パスタ料理人)
「初めて使用する材料ばかりで、
どうしようかと頭を悩ませましたが、
イメージ通りに仕上がったようです。
『白搾り』はしっかりした塩味があり、
イタリアンやスパニッシュでも用い
やすい。くどくない味で、後味も
すっきりしています。」

ショーケースを色使いや形で華やかに変えた職人

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一つの麺が店を生むことがある。城東警察署近くにある「アヒージョ&パスタ」は、特注麺がきっかけで誕生した店だ。看板にある「ajillo and Pasta×三谷製麺所」の文字がそれを物語っている。同店のオーナー・芝田晴道さんに看板に記された製麺所の意味を聞くと、「三谷製麺所は鶴橋にあるラーメン屋。生麺の小売りもやっており、そこでうちのパスタを作ってもらっているんですよ」とのこと。別に資本関係はなく、単なる仕入先だとか。それが何故に店の看板にまで書かれているのかと問えば、「私がよく通っていた店で、久しぶりに覗いたらパスタを作っていたんです。ラーメンだけじゃなく、生パスタができるのであれば、それを仕入れればパスタ屋は営めるなと思い、すぐに伊料理をやろうと思いついたんですよ」と答えてくれた。
実は芝田さんは単なる経営者ではなく、15年ぐらい前から生野区で「バー・ブリーチ」を経営するバーテンダーなのだ。ある時、不動産屋から飲食店をやらないかと声をかけられ、見たのが城東区のこの物件。芝田さんにとっては縁りのない地域だったが、場所的にもよかったのだろう、ここで商売することを決めた。
前述のように芝田さんは、「三谷製麺所」とは知己があり、そこでオリジナルのパスタが作れるのであれば、パスタの店をやるのも面白いと思ったようだ。「もともと私はチーズが嫌いなのでパスタ屋に行くことがありません。でもそんなパスタ嫌いな私でも『三谷製麺所』なら気に入る麺ができるに違いないと思っていたんです」。芝田さんが同製麺所に依頼したものはかなり個性的。ラーメンの太麺を彷彿させる麺で、弾力性があってソースとも絡みやすい。実際に「アヒージョ&パスタ」でお客さんにアンケートを取ると、「他店の生パスタと全然違っていい」との声が聞かれるそうだ。確かにそば屋は具材ではなく、そばが主役で、うどん屋もそう、パスタ店とて同じである。そこに差別化の要素を見出そうとした芝田さんの勝利ではなかろうか。

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現在、「アヒージョ&パスタ」は、店を二人で仕切っている。芝田さんはバーテンダーなのでサービスが主で、時折りデザートカクテルなどを作っては本職の腕前を披露している。料理を作るのは、もっぱらもう一人の濱治嘉輝さん。シェフの濱治さんもユニークで、この店を始めるまではアヒージョを食べたことがなかったらしい。伊料理店で仕事をしていたことから芝田さんに呼ばれたそうだが、看板の一つであるアヒージョを知らないとあってはと、二人してアヒージョの店に出かけた。ところが、試食したそれが口に合わず、もっと自分達の嗜好に合うものにしようと帰って来たという。アヒージョというとにんにくの風味が売りである。濱治さんは、にんにくを焦がすと匂いが強くなってしまうので、焦がさずに大きめにスライスして入れることにした。これなら口臭を気にする女性でも取り出して食せるだろうと思ったからである。

同店のアヒージョの中でイチ押しは、「おまかせ盛り合わせ」(2~3人前1600円)。海老、タコ、イカなど魚介類がベースで、そこに鶏肉や野菜と、具材がたっぷり入っている。それらをにんにくオイルで煮る。ローズマリーなどの香草を入れて風味づけしており、決してにんにく臭くない。客からも「さっぱりしている」と評判だそう。「冬場には牡蠣や鱈の白子が入ったりするんですよ。魚介のだしがオイルに染みて美味しいんです」と濱治さんは説明している。男性向けはボリュームのある「スペイン産栗豚の鉄板アヒージョ」(950円)がオススメ。200gある豚の肩ロースをアヒージョにしたもので、量があるからか、昼夜とも出るという。
もう一方の看板・パスタは、前述のようにオリジナルの生麺を用いて作る。「カルボナーラ」「ペスカトーレ」「ボロネーゼ」など定番が並ぶが、オリジナルの生パスタを使っているので他店とは味に差ができる。芝田さんの話では、乾麺は用いず、この店ならではの味を追求しているそうで、魚介トマトソースの「ペスカトーレ」(950円)は、魚介の味をシンプルに出していると評判だそう。「有頭海老やアサリ、タコ、イカ、サーモンもしくはカンパチと具材があるために原価率の高い一品ですよ」と芝田さんは話していた。

初めての経験だったが、イメージ通りにできた

 

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文字通りアヒージョとパスタを売りにしている店で、あろうことか、金山寺味噌や白醤油を使ってもらった。ご存知の通り、私だけのスペシャルメニューである。「この手の調味料は使うことがないので初めての経験」と言う濱治さんが湯浅醤油と丸新本家の商品をベースにして考えてくれたのが三つのパスタ料理である。三つともこの日が初めてのものなので当然メニュー名はない。一つは金山寺味噌を用いたナポリタン風、二つ目は白味噌を使って作るスルメイカのパスタ、三つめは「白搾り」で調味したアヒージョで、漬け麺風にしていると、とりあえず書いておこう。
まず初めに出て来たのは、その表現からもわかるようにナポリタンをアレンジしたものだ。濱治さんは、「麺をいつもの倍の時間茹でた」と言っていたが、柔らかめにし、ソースを焦がすイメージで作っている。「金山寺味噌は、味がしっかりしていて野菜がいっぱい入っているので具材のような使い方ができると思い、牛ミンチと合わせました。フライパンでソテーをして、ナポリタン風にしたかったので、トマトソースを加えたんですよ。味噌を焦がして風味をつけたんですが、こうすることで味噌の味が引き立ちました」と話している。金山寺味噌はミンチと好相性なので当初はミートソース風にしようかと考えたそうだが、やってみるとナポリタンの方が合っていた。粉チーズをかけると、ナポリタンと見紛うかもしれないが、歴とした金山寺味噌の料理である。その証拠に味噌の香りが漂っている。「初めて使いましたが、甘みがあって味がしっかりしているので、他の調味料は全くなくてもいいですね。野菜が沢山入っていたからその役目を十分補ってくれました」。この料理のポイントは麺の茹で時間と味噌を焦がすことにある。そうすることで味噌風味のナポリタンができあがる。

 

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二つ目の皿は、イカわた、スルメイカ、「白みそ」をソテーしてソースを作り、麺に和えた料理。濱治さんは、「白みそ」とイカわたで十分味が出るだろうと予測し、和風っぽく仕上げたかったので隠し味に濃口醤油(樽仕込み)を用いた。「白味噌で風味づけをするとともに味の決め手にしています。醤油は補う程度の量でOK。加えることでコクが出るんですよ」。用いた「白みそ」は大さじ一杯分、この分量でまったりさせるとともにくどさを感じずに食せるように設計している。味噌を抜くと、一気にイカわたが強調され、伊料理っぽくなるに違いない。味噌が入ることで和に近づくのだが、食べ慣れた味だからか、たぶんイカわたが苦手という人でも食せる味になっているように思える。トッピングは水菜と海苔_、全体的に濃い味に仕上がっているが、これはくどくならない。新古敏朗さんが、「俗に味の濃いパスタは飽きるが、これは飽きない」との感想を述べていた。

この取材を持ちかけた時に芝田さんは「漬け麺をやりましょうか」と冗談っぽく言っていたが、三つめは本当にそれが出て来た。牡蠣、蛤、しめじ、三ツ葉でアヒージョを作り、そこに同店のオリジナル麺を漬けて食す。ナポリタン風の麺が柔らかめだったのに対し、こちらは硬め。アヒージョとしても食せる料理だが、漬け麺なのでいつもより濃く味付けているそうだ。ここにスダチを搾って少し酸味をつけて味わう。濱治さんは「白搾りをしっかり入れた」と説明していたが、これが牡蠣と合うのだろう、そこまで辛くはなく、魚介類とうまく合っていたように思う。どうしても和の調味料で味を調えると、和食傾向になりがちだが、決してそうではなく、きちんとしたアヒージョ料理になっている。どうしてもこの手のものは醤油を入れたとしても隠し味程度で、にんにくとオイルで味を決めてしまいがちだが、これは「白搾り」の個性もあってやや和より。それがかえって新鮮さを醸し出している。「この醤油はしっかりした塩味を有しています。でもくどくなく、後味がすっきりしているんですよ。アヒージョで白醤油を使うのはほぼないですが、魚介系だったので合うだろうと思って用いました。濃い色の醤油ではなく、白醤油なのでオイルも濁らず、イメージ通りにできました」と濱治さんは話していた。

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そうこうしていたら芝田さんが思いもかけぬ一杯を持って来てくれた。車で来ている私のことを気遣って、ノンアルコールのカクテルを作ってくれたのだ。「濃口醤油(樽仕込み)を使ったミルクセーキ風です」と出して来たカクテルは、まさに醤油の風味がする。飲んでみたが、それが苦にならず、醤油がココアとか、チョコレートとか、コーヒーのような役目を果たしているようだ。それにプラスしてもう一杯ノンアルコールカクテルも出て来た。これは湯浅醤油から送っていた梅干を用いたもの。梅干を叩いてグレナデンと合わせてシェイクし、ソーダで割っている。即興でアレンジの効いたカクテルが出てくるのも、やはりバーテンダーならでは…。聞けば、この店では食事と酒(ワインなど)を楽しみ、仕上げに芝田さんのカクテルを注文する人が多いらしい。一軒で食事もバー(酒)も楽しめる、ユニークな店が城東区にはある。

  • <取材協力>
    ajillo and Pasta×三谷製麺所

    住所/大阪市城東区中央1-11-6

    TEL/06-4255-6699

    営業時間/11:00~14:30 17:00~23:00

    休み/水曜日

    メニューor料金/
    パスタ:モッツァレラとトマトソース   850円
        ボロネーゼ          750円
        ペスカトーレ         950円
        博多明太と大葉のバター醤油  950円
        有頭海老とズッキーニのガーリックオイル 950円
    アヒージョ:シャウエッセンときのこ  650円
        タコと色々野菜      650円
        スペイン産栗豚の鉄板アヒージョ 950円
        おまかせ盛り合わせ       1600円
        国産鶏もも肉と色々野菜     650円



筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい