62 2018年05月我々取材者は大阪に拠点を持つことが多いだけにどうしても京阪神の店が主体になる。和歌山や滋賀、三重、日本海側にもいい店があるはずなのだが、情報が少ないのと足場の悪さ(交通機関)からあまり取り挙げない。今回は湯浅醤油の新古敏朗さんが前々から「いい料理人がいるから機会があれば、取材してほしい」と話していた和歌山の伊料理店を紹介する。和歌山では街中にある店らしく(車で連れて行ってもらったので位置関係が定かではない)、聞けばこの近くから1カ月程前(取材時の話)に移って来たのだという。和歌山の魚介類をうまく使い、北新地にあっても不思議ではないくらいのレベルに仕上げた料理は、和歌山のグルメを魅了してやまないそうだ。普段は和の調味料を使わないという伊料理の職人に、それを用いてイタリアンを表現してもらった。

Amuni(アムニー)-da Maekawa 前川幸輔
(「アムニー」オーナーシェフ)
「味噌、醤油は直接的なので伊
料理を表現するのは難しいか
もしれません。それに出来上
がったものに和の印象も強く
与えてしまいがちなんです。
けれど『塩麹』は別格。素材
に塗って柔らかくなることを
期待して使えます。これから
も使いたいと思わせてくれた
調味料です。」

パスタより前菜の多さと内容に注目

 

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南海・和歌山市駅から10~15分ぐらい歩くのだろうか、城北公園(城北小学校)近くにレベルの高い伊料理店ができている。店主・前川幸輔さんに聞くと、この地に移ってからまもないらしい。以前は近くの駿河町で「オステリア アムニー」として伊料理店を営んでいたのだとか。前川さんが以前働いていた「クチーナ・ルナ・ピエーナ」の跡を継いでやっていたのだが、「もう少しお客様がゆっくりできるような空間を作りたい」と新たに西ノ店に店舗を移したのだという。オーナーシェフの前川さんは、現在36歳で、夫婦で「アムニー」を切り盛りしている。店はカウンターが6席、テーブルが三つの陣容で、計20席ぐらいだから私の理論(本当に旨いものを食べようと思ったら20席以内の店へ行くべし)にぴったりはまる

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そもそも前川さんは、大阪・天満の育ちというから生粋の街っ子である。アルバイトで勤めた梅田の店で料理人として就職し、修業をした。彼の話では何店舗かで働いていたそうだが、その中に本場・イタリアの店も含まれている。25歳ぐらいから約2年、イタリアで武者修行をしたらしい。「シチリアから始め、ローマ近郊、トスカーナ、リグーリア、シチリアと巡ったのですが、その中でもシチリアが永く、一年半ぐらい滞在しましたかね」と語っている。シチリアの店の厨房で働いた経験はかなり彼に影響を与えたようで、そのためか「amuni(アムニー)」という名前を付けている。ちなみにamuniとは、英語のLet’s goのようなニュアンスになる。「シチリアは島なので独特な雰囲気を持っています。魚介類が多いのもそうですし、アフリカも近いことからその影響も受けています」。前川さんが印象的だったのは、日本との水の違いで、現地は硬水なので魚や鶏の骨で摂った時のだしの出方が顕著だったという。「濃いだしができるように思えました。シチリアの硬水は味が出やすく、パスタもしっかり茹であがります。日本とはこんなに変わるのか?と衝撃を受けました」と話している。「アムニー」では、時折りシチリアで作っていた料理も取り入れている。私が食べた鹿バラ肉の煮込みには、クスクスが添えられていた。前川夫人に聞くと、北アフリカなどでよく食べられているクスクスもこの店ではよく作るのだそうで、こういった点にもシチリアでの経験がいかされているのだろう。

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「アムニー」は、常時決まったメニューがあるわけではない。その日入荷した食材によってメニューを決めるというから、昨日行ったからといって今日も同じものばかりという傾向がないのだ。でもその手の店はメニュー数が少ないのが一般的だが、ここはかなりある。特に前菜数が多く、これをアテに一杯飲ってほしいとの思いもあるのかもしれない。「パスタ料理は、日替わりの三種の生パスタを用いたものや、乾麺で作るものなどがありますが、うちは伊料理=パスタの印象は薄く、パスタを食べないお客様も多いのです」。肉類はともかく魚は日毎に替わるので、入って来たものを見てメニューを作るのだという。信頼できる「カネナカ水産」の中井一統さんが、その日のいいものを届けてくれるとかで、店では魚種を指定せず、キロ数のみを中井さんに伝えているだけ。基本的には和歌山で揚がった活締めの天然魚でメニューが作られることが多い。「自由に料理を作るというのがモットー。伊料理ベースですが、粋にはこだわらず作っています」。かといって和を感じさせるもの(醤油・味噌)はあまり使わないようにしているとの話であった。

 

伊料理にもはまる「塩麹」に期待

 

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そんな前川さんに、ちょっぴり意地悪をした。それは湯浅醤油の取材だからと称して、日頃使わないと言っていた醤油・味噌・塩麹などを渡したのだ。今回、前川さんが作ったのは三品。ともに本取材用で、私だけが味わうスペシャリテである。
あらかじめ(商品が着いたのは取材の前々日だったそうだが…)渡しておいた湯浅醤油、丸新本家の商品の中から前川さんが選んだのは「白搾り」「金山寺味噌」「塩麹」の三商品。伊料理なので普段は使わない調味料ばかりで、それをいかにイタリアンっぽく作るのが興味深い点であった。
まず一品目の「鰻の白醤油バルサミコ焼き フォアグラのテリーヌと白搾りの泡」だが、これは「白搾り」とバルサミコ酢、砂糖を甘く煮つめたことで味の基本線ができている。鰻を蒸して、それを先の甘く煮詰めたもので軽く煮込み、調味する。フォアグラのテリーヌに載せて供すのだが、その時「白搾り」を泡にして添えている。この料理は、昨年、新古敏朗さんらと鱧を用いて和歌山の商品を作ろうとイベントを企画した際に、他の人がみりん干しのようなものを作っていて、それをヒントに伊料理に落とし込んだものだそう。「白搾りなどを煮詰めて甘い味付けをしました。泡は見ためもさることながら味のアクセントに。煮詰めたものとは味が変わるようにとソース(泡)をかけています」。前川さんは、甘い味付けのものと鰻、フォアグラを合わすことがあるらしく、それを伊料理店風に表現したのだという。「白搾り」については、醤油っぽさが前面に出ておらず、伊料理でも使い易いと評している。「旨みのある塩味がつけられる」というのが率直な感想だった。

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二品目の「筍と金山寺味噌 ザバイオーネグラタン」は、一瞬見ためには筍と形がわかり、春らしい料理になっている。和歌山には山東(さんど)という地域があり、そこで採れる筍が有名だとか。根元まで柔らかいとの評判があるそうだが、この品にも山東の筍が使われている。茹でた筍を細かくカットし、金山寺味噌を載せてグラタンのように作る。ザバイオーネとは、伊・ピエモンテ名物のデザートを指す(仏料理ではサバイヨンという)。卵黄に砂糖を加えて泡立て温めながらシェリー酒、白ワイン、マルサーララインなどの洋酒を少しずつ加えて煮詰めたクリームである。この考え方をもとに前川さんは、卵黄と液体(水)でソースを作って筍の上にかけてオーブンで焼いた。「金山寺味噌は、味がしっかりしているので、それを柔らげる意味でザバイオーネを用いました。むしろ繋ぐためと表現した方がいいかもしれません」。金山寺味噌には味がしっかりついているので、ここでは酒や砂糖を使わずにあえて卵黄と水でザバイオーネソースを作ったと思われる。「味噌とチーズは好相性なので伊料理に使おうと思えば使えるんですが、金山寺味噌はおかず味噌の印象が強いのでなかなか難しいですね。ただ、筍を味噌で食べるので、それをヒントにザバイオーネと合わせて焼いてみました」。金山寺味噌には具材が入っているので、それもここではプラスαとして使えたらしい。筍に色んな具材があって実に複雑な味になっている。単なる筍料理になっていないのが食べたらわかった。

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三皿目の「塩麹を塗ったうさぎのインアグロドルチェ」は、和の調味料感を感じさせない伊料理そのものになっていた。前川さんが「今後も使っていくかもしれない」という「塩麹」を用いた一品である。前川さんは「うさぎの肉は、脂もなく、硬くなりやすい」と言い、「塩麹」を塗って柔らかく仕上げることを考えたそうだ。うさぎの背肉に「塩麹」を塗り、真空状態に。こうすることで時間をおいて複雑な塩味づけを行う。塩麹が落ちないように周りにホウレン草を巻いて真空にし、しばらく置いてから湯煎して仕上げる。うさぎの肉の上には人参の葉を揚げて飾っている。ソースは、南蛮漬けのように甘酸っぱいもので、前川さん曰く「シチリアにはこの手の味付けが多く、一般には塩を用いるのだが、今回は『塩麹』で代用した」そうだ。ちなみにこのソースは、玉ネギ、人参、セロリを炒めて白ワイン、砂糖、白ワインビネガー、「塩麹」で調味して作っている。

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何度もいうが、前川さんは和っぽくないようにと、味噌、醤油はこれからもあまり使わずに伊料理を表現したいと話している。でも、塩麹だけは別で塗っておくことで素材が柔らかくなるのを期待して今後も使っていこうかと思っている。今回の取材で改めて和の調味料を使ってみた感想とも受けとれる。「金山寺味噌は、モノとして確立してしまっているので、これを用いてイタリアンをといわれれば、まず難しいと考えるかもしれません。だが、『塩麹』は伊料理でも使ってみたいと思わせる調味料でした。普段使わないものでも、こうして再発見できれば面白い。和の印象が強い味噌、醤油と違ってこれならイタリアンでもうまく表現できそうです」と語っている。いくら粋にこだわらず自由に表現している伊料理でも、調味料の使い方で逸脱してしまってはいけない。けれどその範疇に入るものならどしどし使っていきたい_、そう考える前川さんは、伊料理に真摯であり、挑戦的でもある。これからの活躍が楽しみなイタリアンの職人のひとりだ。

  • <取材協力>
    Amuni(アムニー)-da Maekawa

    住所/和歌山市西ノ店17 ニシノタナノBldg. 1階

    TEL/073-425-5550

    営業時間/18:00~24:00(23:00入店)
    (土日祝のみ11:30~14:20営業、平日の昼は要予約で営業することが時にはある。但し、コースのみ)

    休み/月曜日(祝日の時は翌日休み)

    メニューor料金/
    おまかせコース 4200円
    ※5000円コースと7500円コースは要予約
    ローストビーフ3種のソース 950円
    パルマ産生ハムとマスカルポーネと苺、バルサミコソース 1580円
    天然鯛のカルパッチョ 1000円
    前菜盛り合わせ 980円
    トマトソースとチーズのシンプルなパスタ 1000円
    フォアグラのテリーヌ 柑橘とバルサミコソース 1400円
    ※アラカルトメニューは毎日替わる。上記は取材日の一例。





筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい