47 2017年02月 某洋酒メーカーの企画でバー探訪記を書いていると、各地で面白いバーテンダーに出会う。彼らは総じて技術が高く、カクテルコンペで優秀な成績を修めている。今回登場する「BAR 中原」の中原淳史さんもそのひとり。以前、私が見に行ったサントリーカクテルアワードでも最終選考会に残り、関西を代表するバーテンダーとして見事な創作カクテルを披露していた。ただならぬ中原さんの力量を見込んで、湯浅醤油のこの頁に登場してもらおうと、醤油と味噌を送っておいた。そしてカクテルとそれらを用いたアテという課題を出したのである。さて堺のカクテル名人は、いかなる創造を巡らせたのであろうか、とくとご覧あれ。

BAR 中原
中原淳史
(BAR 中原店主)
「九曜むらさきは、味がしっかりし
た醤油。でも辛くないので、今回
のようなベーコンの塩気もうまく
出してくれます。ゴマ油と合わ
せることでまろやかさが表現で
き、いいアテになりました。」

和ハッカで作るジンフィズ

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南海堺駅から程近い場所に「BAR 中原」というオーセンティックバーがある。湯浅醤油の新古敏朗さんともつきあいが深い、老舗包丁メーカー(和泉利器)8代目・信田尚男さんも通う店で、南大阪を代表するバーテンダーのひとり、中原淳史さんが営んでいる。中原さんは、新都ホテルの「エトワール」にいて、その後、堺東のバー「アッセンブルエイト」で働き、独立した。現在、NBA関西統括本部の要職にあり、南大阪支部本部長を務めている人物だ。「BAR 中原」に行き、彼の作るカクテルを飲めば、その腕前はわかるはずで、日本バーテンダー協会でそれなりの地位に就いているのも理解できる。カクテルコンペティションの受賞歴を聞くと、HBAカクテルコンペ全国3位を始め、マリーブザールカクテルコンペ準優勝にサントリーカクテルアワード入選と輝かしい。このうち2010年11月に京王プラザホテルで開かれた「2010サントリーカクテルアワード」は、私も見学したもので、全国から選り抜かれた猛者(もさ)が一同に会して創作力と技術を披露していた。この大会で予選を勝ち抜き、関西代表のひとりとして中原さんが出場していたので凄く記憶に残っている。
昨年、バー探訪記の取材の折りに、「名料理、かく語りき」にも出て欲しいとお願いしたら中原さんはあっさりOKサインを出してくれた。そこで1月の某日に南海電車を堺駅で降り、「BAR 中原」へ向かった次第である。
「BAR 中原」は、洗練されたオーセンティックバー。8席のカウンター席には間接照明が施され、仄暗いムードの中でお酒が楽しめる。カウンター席の後に位置するボックス席は、どうやらカウンター席の待ちスペースらしいが、ここが何となく落ち着くとその場で飲る人も少なくないそうだ。何かにつけ、同店はオシャレで大人のムードたっぷりの社交場。ここで夜な夜な信田さんが一杯飲っていると思うと羨ましい気すらしてくる。

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今日、オープンしてすぐに入ると、中原さんがいきなり和ハッカについて喋り出した。
「和ハッカは、アールエフグリーンなるハーブの研究所が出しているミントで、一般のスペアミントより柔らかく、沢山入れても味の邪魔をせず風味をいかしてくれるんですよ」と中原さんは、その特徴を説明する。ここで言葉が混同するといけないのでハッカについて触れておこう。ハッカとは日本語で、これが英語になるとミント、ラテン語ならメンタになる。よく使われるペパーミントは、スペアミントとウォーターミントの交配で生まれたもので、これらを洋種ハッカと呼ぶ。欧米ではミントといえば、スペアミントを指し、多くのバーテンダーがそれを使っている。中原さんが言う「和ハッカ」とは、和種ハッカのことなのだろうか。とにかくミントの一種で“和”と付くくらいだから強(きつ)くないのだと思われる。
中原さんがそれに出合ったのは、一年程前。南大阪支部の人達でハーブの研究所に行った際にそれを紹介してもらい、面白いと思ったようだ。「一般的なミントより抑えられるし、葉も柔らかいのでいっしょに食せるぐらい。シェイカーに多めに入れてもうまく収まるんです」と感想を述べていた。

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今回は、この「和ハッカ」を使ってカクテルを作ってくれるという。ミントのジンフィズで、ジン(ビーフィータ47度)を40~50ml、レモン果汁20~25ml、シロップ適量に、和ハッカを沢山入れて作るのだそう。こう説明すると、中原さんは、グラスに適度のミントを入れてペストルで軽く潰し、苦みが出ない程度に香り出すようにした。前述のレシピの分量でシェイカーに氷を入れるとすぐさまシェイクする。そしてグラスに注ぐや、ソーダを適量に。レモンピールをグラスの上からと横から振りかけて完成するのだ。ちなみに上だけにすると、飲んでしまうとその風味が消えるからで、横に振りかけることで少しでも長持ちするようにしている。流石(さすが)理論派バーテンダーである。
飲んでみると、従来のジンフィズより少し甘め。かといって甘ったるいことはない。ミント(和ハッカ)の爽やかさはしっかり出ており、うまく味の設計がなされているなと感心することしきり。中原さんの言葉を借りれば、「従来のようにさっぱりしているとミントを強く感じない」そうだ。そこで甘みを補い、バランスを調えて味に厚みを出しているのだと話していた。「BAR 中原」では、この「フレッシュミントジンフィズ」(税込1300円)をここ2カ月はよく作っているそうで、モヒートを好む人向けに提供しており、好評を博しているという。「ミントが強(きつ)くないので、料理を食べながらでも大丈夫。ビール感覚で飲れるカクテルです」と中原さんも説明していた。

 

燻したベーコンに「九曜むらさき」の味をプラス

 

 

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さて、このコーナーでの肝心の料理だが、「フレッシュミントジンフィズ」と合わせるようなものが出てきた。もとい、実は逆である。中原さんは湯浅醤油の商品を使い、料理を先に考えているので、そのアテ(ベーコンの燻製)に合うようにと、「フレッシュミントジンフィズ」を作ったことになる。
あらかじめ中原さんに湯浅醤油の商品を送って料理を考えてもらったのだが、彼が選んだのは「九曜むらさき」と「具だくさん金山寺味噌」。「燻ししょうゆ」も面白いと思ったが、先にベーコンの燻製を発送していたので、かぶるのではないかと懸念して「九曜むらさき」を選択している。
「BAR 中原」では、付き出しに燻製が出てくる。自身もそれに凝っていてベーコン、ソーセージ、チーズ、竹輪、蒲鉾、沢庵、玉子、焼豚などを燻して作り、日替わりで三種をセットにして提供している。私だけのスペシャリテ(この料理は、「名料理、かく語りき」の特別版なので通常メニューにはない)は、ここからアレンジを加えたもの。自身で燻製にしたものを使っているそうだが、これはベーコンを味付けせずに厚めに切り、グリルで炙り焼きにする。それから「九曜むらさき」とゴマ油でタレを作り、それを焼いた後にかけている。
「初めはそのまま食してください。それから『具だくさん金山寺味噌』を載せて食べると、少し味の違いが感じられていいですよ」。箸休めにはトマトスライス、ここにも「九曜むらさき」とゴマ油を合わせたタレがかかっている。「九曜むらさきは、味がしっかりしていていいですね。かといって辛すぎることもない。まろやかな味だからゴマ油と和えると使いやすいですよ」。中原さんは、初めて味見した時に、少し刺激的かなと感じ、醤油をストレートでかけるより、ゴマ油でまろやかさを出そうと考えたようだ。「醤油の味は濃くなく、これだとベーコンの塩気も出ているでしょ。金山寺味噌を載せて味わうと、甘味がプラスしてさらに美味しく感じるはずです」と言っていた。加えて「具だくさん金山寺味噌」の感想は、「実に旨い!これならいらぬ手を加えずともいい」。当初はベーコンに載せるつもりだったが、野菜も沢山入っているので別添えにしたとはなしていた。

 

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この一皿は、濃厚な燻製ベーコンと、そこに具がいっぱい入った金山寺味噌が甘みを添えている。一見濃そうな味をさっぱりさせてくれるのが「フレッシュミントジンフィズ」で、この組み合わせは、ベストのような気がする。
ところで中原さんは、流石に近年はNBA技能競技大会(NBAカクテルコンペ)には、出場しなくなったが、新作カクテルは続々と発表している。彼はまず作るものを決めて、そこから発展させていくタイプで、今回私が飲んだカクテルなら、和ハッカありきでジンフィズを作ろうと思い、それに合うようにアレンジを施したそうだ。「和ハッカでモヒートを作っても面白くないでしょう。ジンフィズならいけると思ったけれど、和ハッカの優しさでは酸味に負けてしまう。そこで甘くすることにしたんですよ。普通のミントより和ハッカの方がバランスが取りやすく、柔らかな感じになる。だからこの手の濃厚なものと飲ってもうまく融合するのではないでしょうか」。
バーの良し悪しは、バーテンダーの力量で決まるといい、それを判断するにはカクテルの出来だと私は思っている。ましてや中原さんのように創作で、新しいカクテルを作り続けている人は、それを飲むのがいいのかもしれない。今日、改めて思ったのは、このバーがいいということ。堺周辺に暮らしていれば通うのにと思いながら「フレッシュミントジンフィズ」を飲んでいた。

 

 

  • <取材協力>
    BAR 中原


    住所/大阪府堺市堺区戎島町2丁30 ターミナルマンション1階

    TEL/072-282-7766

    営業時間/営業時間/19:00~翌2:00

    休み/無休

    メニューor料金/
    メニュー/フレッシュミントジンフィズ   1300円
          ジントニック           900円
          モヒート            1200円
          マティーニ            900円
          ラフロイグ10年        1100円
          ボウモア12年         1000円
          サラミとトマトのピザ      1000円
          特製カレーライス         900円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい