15 2014年04月東日本大震災の被災地・気仙沼を支援しようと、TUMUGUプロジェクトなるものが始動した。この試みに賛同した湯浅醤油では、岡本商店街オリジナルの「魯山人醤油で造ったオイスター醤油」を開発している。PB商品とはいえ、せっかく新たな醤油ができたのだからと、その味を確かめに神戸・岡本商店街まで出かけてみた。目指す先は、阪急岡本駅とJR摂津本山駅の間に位置する「KŌCHAN’S STEAK HOUSE らぱん」。パフォーマンスを見せながらステーキを焼くという寺田孝次さんが、その「オイスター醤油」と金山寺味噌を用いて4品を作ってくれるという。さて、どんな料理が出てくるやら…。

KŌCHAN’S STEAK HOUSE らぱん
(神戸市東灘区)
料理人/寺田孝次
(KŌCHAN’S STEAK HOUSE らぱん店主)
「なかなかの代物(しろもの)で、
調理に用いた折りになめてみた時
以上の味が出てきました」

被災地支援から生まれたかき醤油

らぱん

東日本大震災からすでに3年の歳月が流れた。地震や津波の記憶は日に日に薄れがちなのに復興は遅々として進まない。震災直後もさることながら3年ぐらい経ったころが大変だろうと立ち上がったのは、阪神淡路大震災を経験している神戸・岡本商店街の面々である。この話については、以前「食の現場から…」で書いているのでここでは詳しく述べないが、この取り組みにぜひとも参加したいと唯一兵庫県以外から手を挙げたのが湯浅醤油だった。そして気仙沼×岡本商店街×湯浅醤油のコラボで生まれたのが「魯山人醤油から造ったオイスター醤油」で、同商品は3月17日から岡本商店街内のショップで販売されたり、飲食店で使われたりしている。今回はこの醤油の味を確かめる目的もあり、岡本商店街内にある「KŌCHAN’S STEAK HOUSE らぱん」を覗いた。

らぱんらぱん

「らぱん」はステーキ一筋に仕事をしてきたという寺田孝次さんが営む店。この地にオープンしてから15年が経つ人気店だ。寺田さんは、三宮の「ステーキランド」で修業をし、いっしょに働いていた上司と共に「ステーキゾーンあかひげ」に移り、その立ち上げを経験。15年前の独立までそこに勤めていた。「あかひげ」はロッキー青木の「BENIHANA」にいた人がオーナーを務めていたために、肉などを焼く時に見せるパフォーマンスが売りになっている。寺田さんも「あかひげ」で10年間パフォーマンスをみっちり学んだことから自店でもそれを行っている。そんな寺田さんを見て口の悪い客は「動きまわらなくても焼けるでしょ」と冗談交じりに言うそうだが、彼は「やらないより、やった方が楽しい」と言って今も続けている。

らぱん

いつもながらではあるが、私は職権を乱用して「らぱん」に通常ではないメニューを作ってもらうことにした。今回テーマに挙げたのは、岡本商店街オリジナルで湯浅醤油が造った「オイスター醤油」を使うことと、あと「生一本黒豆」や「金山寺味噌具だくさん」も用いて調理してもらうことの二つだ。こんな私の我儘(わがまま)な注文にも応えてくれて寺田さんは4品を提供してくれた

らぱん

まず今回の主題となった「魯山人醤油から造ったオイスター醤油」について触れておこう。この醤油は表題通り「魯山人」をベースにしている。広島ではかきの産地らしくかき醤油が造られているが、個人的感想として鰹風味がやや強すぎるように思っていた。かきの養殖が盛んな気仙沼で聞くと、かき醤油を使う文化がないという。関西ではそれをだし醤油的な使い方をしたり、卵かけご飯に用いたりしているのに、やはり広島の食文化は遥か東北の地までは届いていないようだ。そこで岡本商店街振興組合では、かき醤油を使用するという文化ごと東北に持ち込みたいと、湯浅醤油に依頼している。注文したいのは、今あるかき醤油らしい味にしてほしいことと、それよりは鰹風味を抑え、かきのエキスをたっぷり入れてほしいという二点。そんな依頼を踏まえて湯浅醤油では、気仙沼大島産のかきを使って、「オイスター醤油」を仕上げている。岡本商店街振興組合に加盟している寺田さんもこの商品にはかなり高い評価をしており、醤油といえど十分かきの味がすると言っている。私からの難題にも当初は「醤油だけでネタになるのかな」と思ったそうだが、使ってみると「なかなかの代物(しろもの)で、調理に用いた折りになめてみた時以上の味が出てきました」と驚いていた。

らぱんらぱん

そんな寺田さんが私に提供したのが「オイスター醤油を使って煮込んだ大根の牛しゃぶ載せ」だ。言葉にするとわかりにくいかもしれないが、要はおでん(関東煮)の大根と考えてもらえばいい。その上に牛しゃぶを載せている。鰹だしに少しのみりんを加え、「オイスター醤油」を足す。その中で大根を煮込んでいくと、薄口醤油ではないのでかなり色は濃くなるのだが、食べた感じはそれほど辛さはない。この大根をバターを使って鉄板で炒め、そこに、タレの中で熱を入れた牛肉を載せる。このタレも先ほどのだしをベースにし、ごまダレと合わせている。寺田さんの話では肉の味が薄いのでごまダレを作ったのだとか。大根との接点を持たせたかったのでタレと合わせたという。「イメージはおでんの大根なんですが、これは鉄板で焼く作業を加えているので、うちらしいと思いまして…」と話している。しゃぶしゃぶにした肉を載せたのは、おでんの筋肉を思い浮かべたからで、食べると鉄板焼きなのに何となく肉じゃがの印象が強い。但し、じゃがいもだと口内でとろけないが大根なので溶けていく。口に入っていくと「オイスター醤油」の風味がすごく広がる。まさにこの調味料の良さを表現している一品と言えよう。

さりげなく、金山寺味噌の風味を表現したい

らぱん

二つ目は、いよいよ「らぱん」の真骨頂が発揮される。料理名は「鹿児島のざき牛の金山寺味噌づけ焼き」。のざき牛とは寺田さんが好んで使っているブランド牛。他の肉と較べると、ランクは同じでもこちらの方が旨味があるという。その肉に粗めに叩いた金山寺味噌を載せ、ラップをしてから冷蔵庫で一晩寝かせる。これを鉄板上で焼くのだ。鉄板で熱を加えることで味噌が焦げて香ばしさが出、金山寺味噌の甘みと味が牛肉の味と混ざり合う。ちなみに今回はA4クラスのロースを使用している。寺田さんは「金山寺味噌具だくさん」を味見した際に、直感的にロースだと判断したようだ。「フィレだと味噌が勝ちすぎてしまうように思うんです。初めはステーキに金山寺味噌を添えようかと考えたんですが、それじゃあ面白くも何ともない。口に入れた時に初めて味噌の味がする方が創造性もあるでしょ」と語っている。寺田さんの狙いは、まさにピッタリ。私も鉄板で焼いて出す肉を見て味噌が使われているのがわからなかった。食べてみて初めてわかる、そんな遊び心が「らぱん」風かもしれない。

らぱん

三つ目はステーキハウスには想像しがたいフレンチの一品。淡路島で獲れた鯛のアラでフュメドポワソン(だし)を摂り、生クリームと合わせ、煮詰まったところに「金山寺味噌具だくさん」を加える。これは香りづけ程度に使用するもので、あくまで魚料理に金山寺味噌は主張させない。通常は生クリームだけで仕上げるらしいが、洋と和のコラボを出したくて金山寺味噌を用いたそうだ。金山寺味噌を入れると、生クリームだけで仕上げるよりは優しい味になるという。この料理で「金山寺味噌具だくさん」が果たす役割は、あくまで香りづけと隠し味。鯛のアラでしっかりだしを摂ることが肝心要である。鯛の身と丹波しめじはバター焼きにし、そこにソースをかける。これは私だけの特別料理だが、「らぱん」ではステーキだけでなく、この手のフレンチっぽい一品料理も常時味わえる。その代表が「魚介の鉄板焼ブイヤベース風」だ。「ステーキ屋でなんでブイヤベース?」と思うだろうが、寺田さんに言わせれば、これはブイヤベースを鉄板で表現したものだとか。かつて「ホテルプラザ」で腕を誇った加山シェフがこの店を訪れた時に「ブイヤベースを鉄板焼きで表現してみたら?」とアイデアを投げてくれた。そのお題に応えて誕生したのがこの料理なのだ。  こうした面白さが「らぱん」にはある。原石を与えると、いかに加工して料理にするかが醍醐味だと語る料理人は多い。寺田さんも彼らと同じように「なんでもいいから面白いものを」と依頼されるより、テーマを設けて工夫していく方がやりやすいと話している。

らぱん

最後は「ついでにこれも考えました」と出してきたのがサラダ。いわゆる茶そばサラダで、マヨネーズに醤油をかけてソースにしている。この日、仕入れに行ったらたまたま茶そばがあったらしく、それをサラダに用いた。料理自体はマヨネーズをかけただけのシンプルなもの。「私はマヨネーズに醤油を加えた味が好きで、その旨さをどうしても出したかったんですよ」と言うが、むしろ寺田さんが「生一本黒豆」を入手した時に作って食べたいと思ったものではなかろうか。「料理人がやると、知恵がないと言われるかもしれませんが、悔しいかな醤油に漬けて肉を食べるだけでも旨いんですよね。だから某常連客には、焼いたステーキを「生一本黒豆」だけで味わってと言って出しました」。だからだろう、寺田さんは自分の嗜好に合わせた茶そばサラダに「生一本黒豆」を用いている。肉のプロがしつこい脂にも負けないと言うだけにその評価は高い。

らぱん

 「らぱん」では、フィレ、サーロイン、ランプと色んな部位を楽しめるようなメニュー組みがなされている。寺田さんによると、昔は6対4でサーロインを好んだそうだが、今は健康志向もあってか、8対2でフィレを頼む客が多いのだとか。世間の嗜好はそうかもしれないが、私も寺田さんもサーロイン派。だから客として通常の状態で行くなら「宙(そら)ぱんコース」(5860円)がお得なように思えた。あまり大きな声では言えないが、これは鹿児島のざき牛のサーロインを使っており、フィレのコースよりお値打ちになっているそうだ。「ランプは認知度が低く、堅いとの誤解を生んでいますが、旨いモモ肉ならむしろフィレより上かもしれませんよ。それに安いロースなら高い赤身(モモ)の方が旨いんです」。その証拠にランプを使用した「ぷちぱんランチ」は、この店の人気メニューとなっているようだ。そんな風に肉のことを教えてくれる寺田さんと話をしていると、時間がいくらあっても足りない。あっという間に4品を平らげ、さらに追加を頼もうかとメニューをしげしげ眺めている自分がいる。改めて開いたメニュー表には「花ぱんコース」3560円、「月ぱんコース」4710円、「雪ぱんコース」5860円と記されている。この値段で、このレベルなら「安い!」。やはり人気店になるのは、そんな要因もあるのだろう。

  • <取材協力>
    KŌCHAN’S STEAK HOUSE らぱん
    (神戸市東灘区)

    住所/兵庫県神戸市東灘区岡本1-5-14 第2伸幸ビル2F

    TEL/078-412-4649

    営業時間/11:00~14:00LO
    17:00~21:00LO

    休み/月曜(祝日の場合は営業)

    メニューor料金/
    昼:プチぱんランチ 
    S 70g 1340円/M 90g 1550円/L 130g 1960円
    フィレぱんランチ(フィレ肉使用)
    S 2270円/M 2680円/L 3500円
    夜 :花ぱんコース(特上フィレステーキ100g) 3560円
    月ぱんコース(特上フィレステーキ100g・魚介の鉄板焼ブイヤベース風またはロース薄切り貝割れ巻) 4710円
    雪ぱんコース(特上和牛フィレステーキ100g) 5860円
    宙ぱんコース(特上和牛サーロインステーキ100g) 5550円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

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