16 2014年05月フランスの風を肌で感じた経験がある人と、日本でずっと仕事をしてきた人とでは、ちょっとしたことに違いが生じてくる。海外経験があると、ヨーロッパをすぐ身近なものとしてとらえるだろうし、本場の情報をいち早く察知する術も知っている。それが皿の中に表れてくるのだから料理は面白い。今回は仏二ツ星店、三ツ星店で修業をしたという高田裕介さんの店を訪ねた。本町にあって海外っぽい料理を出すとの評判を博す「ラ・シーム」で醤油、ぽん酢、ひしおもろみを用いた料理を堪能した。勿論、いつもの如く私だけのスペシャリテである。

La Cime(大阪市中央区) 料理人/高田裕介
(La Cime店主)
「初めてひしおもろみに触れまし
たが、実に面白い調味料ですね。
チョコレートと合わせても
いいかもしれません。」

カジュアルな雰囲気で洗練されたものを出す

らぱんらぱん

知り合いの店が、年に一度ほどフランスから星付き店のシェフを招いて食事会を行っている。私もたまに参加するのだが、本場フレンチのシェフが作る料理は、何となく日本のフレンチと違うように思える。どちらがいい、悪いという問題ではなく、彼らが作る一皿一皿には芸術的センスが宿っていると思えて仕方がないのだ。そこには多分に「フランスから来て作るのだから、今の本場の流行が見られる」という期待感が加味され、同じような料理でもそう見えてしまうのかもしれない。
私よりはよっぽど海外に行く機会が多い湯浅醤油の新古敏朗さんが「ここの料理は、海外(フランス)で提供されているものに近い」と本町(大阪)にある「La Cime(ラ・シーム)」を紹介してくれた。この店は、日本版のミシュランでも星付きになっている。37歳とそろそろ脂が乗り始めた頃の高田裕介さんが営むフレンチレストランだ。高田さんは辻調理専門学校を卒業後、街場のフレンチやイタリアンで働いた。その時、居酒屋の立ち上げも手伝ったとかで、自身の経歴を「居酒屋から三ツ星まで」と紹介している。30歳ぐらいの時にこれまで経験したことや学んだことを確認する意味もあって渡仏している。何のあてもなく行ったものの、色んな縁があり、二ツ星の「タイユヴァン」や三ツ星の「ホテルムーリス」で修業することができた。高田さんによると、「ホテルムーリス」に勤めてみて、三ツ星店の凄さが理解できたという。「お客様一人に対してスタッフの人数のかけ方が違う。仕事量も違うし、当然下のクラス(二ッ星以下)とはクオリティも変わってくる。これまで働いてきた店とは何もかもが違っていたんですよ」との言葉は、食の仕事をしてきた者にとって本音なのだろう。日本料理でも一般店と有名店では作り込み仕事や、それに費やす人手の量が違うといわれる。そのことを間近に見て経験したからこそ出る言葉で、その結論が「三ツ星店はいかにムダを出すか、いかにゴージャスに演出するかにかかっている」の表現となっている。

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2年半フランスで働いて2009年に帰国した高田さんは、本町で「ラ・シーム」を立ち上げる。職探しをしている時にこの物件を見てピンと来たそうで、独立へと進んでいった。店を造る時に北欧で見た店舗空間を日本で再現しようと思ったらしい。カジュアルな中に洗練されたものを提供したくて純然たるフレンチレストランではない雰囲気をあえて導入している。「当初はアラカルトのみだったんですが、料理の単価と内装のバランスが合わなかったのか、厳しい船出を強いられました」。カジュアルな内装にクオリティの高い料理を出すというアンバランスさは、日本には前例がなく、当初は苦戦を強いられてたようだ。「2年は苦労した」と振り返るが、アラカルトからコース主体に変えたり、レストランの雰囲気を醸し出すためにテーブルクロスを掛けてみたり、日々変化していくことを心がけた店づくりをしていくうちに、いつしか評判店になっていった。高田さんは「奄美大島の出身なので、どこへ出たとしても文化の違う点は多い。だから大阪もフランスもあまり変わらないんです」と言う。要は自身がいかに情報量を持ち、それを料理にいかすかが大切で、料理は常に変わっていくというのが自論。だから定番は設けたくないらしい。そして料理も店のスタイルも常に変わっていくべきだと主張している。

フレンチなのに、なぜか焼鳥の味を思い浮かべる

らぱん

 某月某日、「ラ・シーム」のアイドルタイムを狙って高田さんを訪ねてみた。昨今は本場でも醤油を用いたりするシェフがいると聞く。そうは言っても醤油はフランス料理にとってまだまだ未知の領域で、日本のフランス料理店で用いることはない。私は遊び心で、高田さんに「九曜むらさき」と「ゆずぽん酢」「金山寺味噌」「ひしおもろみ」を渡して、「これで高田流のフレンチができませんかね」と聞いてみた。本場三ツ星店で修業をし、新古敏朗さんに「海外っぽい料理を作ってくれる」と言わしめた高田さんなら、いかに調理するだろうと思ったからである。
後日、その結果を確かめにいくと、高田さんは特別メニューだと前置きした上で3つの料理を運んで来てくれた。いつもそうだが、誰にでもこういったリクエストに応えてくれるわけではなく、私だけの特別編である(読者諸氏は私の役得だと理解してほしい)。メニューに列記してあるものではないので、当然、料理名はない。それでも記すなら一の皿を「ツブ貝とアメリカンチェリー、タピオカぽん酢」とし、二の皿を「ひな鳥とひしおもろみ」、三の皿を「鰊(にしん)、じゃがいも、紫芋」としておこう。

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まず一の皿だが、これはタピオカを湯がいてぽん酢(「ゆずぽん酢」)に漬け込むことから始まっている。ツブ貝は内臓を取り出し掃除をしてから先程のタピオカ、アメリカンチェリーと合わせて盛り、グレープシードオイルを掛けている。タピオカは6時間ほど漬け込まないと、染み込まないそうで、時間をかけることで調味料との一体感を出している。アメリカンチェリーを用いたのは意外性を加えたかったからで、酸味を醸し出す役割を演じている。ぽん酢に漬けたり、アメリカンチェリーを用いたりしているが、食べた感じはそんなに酸味は強くない。
高田さんは、「やはり日本人なので醤油やぽん酢、金山寺味噌を使うことに抵抗はない」と話している。この一品は、ぽん酢が凄く利いているわけではないが、清涼感は感じられるためにやはりそれが何らかの役割を演じているのだろう。高田さんは料理を考える時に、まずインスピレーションが来て、そこからイメージングしながら仕上げていくようだ。インスピレーションに加わるのが経験と情報。「だから情報は常に入手し続けないとダメだ」とも言う。

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 二つめの皿はひな鳥を使ったもの。ひな鳥の中にもも肉、ラード、フォアグラ、肝、アーモンドパウダーを詰めて作る。具材を詰めたらラップをして蒸す。鶏ガラで摂っただしと「ひちおもろみ」を合わせ、それを上から塗って焼いていく。仕上げにはひな鳥の皮を焼いたものをパウダー状にし、それとレモン皮をすったものを振り掛けるのだ。付け合わせにはラディッシュと玉ネギスライスを。こうして「ひしおもろみ」を使ったフレンチが出来上がる。
食べた印象を一言で表現すると、「まさに焼鳥!」。色んなものが詰まっていたり、最後の工程がアクセントになったりして確かにフレンチなのだが、不思議とあの焼鳥を彷彿してしまった。
「ひとおもろみに初めて出合ったんですが、面白いですね。やっぱりまだ知らないことの方が多いって思いました。いい経験になりましたよ」と話していた。これをフランスに持って行ったらシェフ達はどう反応するだろうとも思ったそうだ。焼いた玉ネギに「ひしおもろみ」をつけて甘みを出して加工したりしても面白いし、表現の仕方は色々あると考えたようだ。私が食べて「焼鳥!」と思ったのは、やはり「ひしおもろみ」から来るのだったのかもしれない。それほど日本人は醤油の味に慣れている証拠だろう。

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最後は鰊を用いた料理だ。ヨーロッパでは鰊を燻製にしたり、塩漬けしたりして食すそうだ。今回は生の鰊を塩漬けし、乾燥させている。湯がいたじゃがいもの上にそれを置き、ソースを掛ける。このソースは醤油をゼラチンに混ぜてミキサーで泡が細かくなるまで撹拌して作っている。そしてあしらいにはビーツをスライスしたものやオキサリスを付けている。「紫芋はギャグで」と言うように別になくてもいいが、紫のきれいな色が出ているので洒落で用いたのだとか。俗に色が同じもの同士は相性がいいといわれる。だから意味がないわけではなく、味の面でもこの料理に紫芋が利いている。
この一皿には「九曜むらさき」が使われている。同醤油は、金山寺味噌からわずか3%しか採れない希少な溜まりを使って造った湯浅醤油のオリジナルで、減塩でまろやかな味が特徴。高田さんは「九曜むらさき」の印象を「濃い味」と表現する。当然、日本人だから慣れ親しんだ味なのだが、「もしヨーロッパの人ならどんな印象を持つだろう」と思い、彼らなら「こう使うのではないか」と想像しながら調理法を探していった。それが楽しいのだとか。
高田さんは日本とフランスで修業を積んだためかもしれないが、その目は95%海外へ向いている。独学で料理を学び、情報を収集していると、本場の方へどうしても向いてしまうと語っている。フレンチを独学で勉強し、それを形にしてきただけに自由に表現できる環境にある。今回の和の調味料を用いての表現は、まさに高田流の料理。ヨーロッパの芸術性と和の調味料が融合した三皿に映った。醤油、味噌を渡され、使った結果、ことさら「ひしおもろみ」が気に入った様子で、「チョコレートと合わせたりできるって思いましたよ」と話していた。「日本にいながらまだまだ知らないことがある」と言いながらそのアレンジの仕方を最後まで考えている。その様子を見ているうちに、この人は料理人になるべくしてなったのだと思ってしまった。

  • <取材協力>
    La Cime(大阪市中央区)

    住所/大阪府大阪市中央区瓦町3-2-15

    TEL/06-6222-2010

    営業時間/12:00~15:30(13:00LO)
    18:00~23:30(20:00LO)

    休み/日曜

    メニューor料金/
    ランチコース 5000円(税・サ別)
    ディナーコース 7500円(税・サ別)
       〃    10000円(税・サ別)
       〃    15000円(税・サ別)

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい