30 2015年07月久しぶりに東京で仕事をしたのだから、話題のフレンチを覗こう。そう思って醤油と味噌を片手に麻布十番へ行った。目的地は、麻布十番の商店街から一本入った所にある「Liberte a table de TAKEDA」。
その年齢に似合わず、一等地で勝負するシェフの店である。
「東京最高のレストラン2015年版」にも掲載されている同店の武田シェフは、いかに醤油と味噌を使って‟自由な”フレンチを表現したのであろうか。
紹介する料理からシェフの考えと実力を読み取って欲しい。

Liberte a table de TAKEDA
(東京・麻布十番)
料理人/武田健志
(レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ店主)
「素材は限られるかもしれませんが、
使い方次第では色んな展開が
できると思いました」

コンセプトは、自由・気ままに

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダレベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

今回も東京にいる。
ネタを明かせば、前回の引き続きで、最近は時間が取れないのだからと自分に言い聞かせてフレンチを梯子することにした。目的地は麻布十番、武田健志シェフが営む「Liberte a table de TAKEDA(レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ)」である。
このレストランは、東京のミシュランでも一ツ星に輝いているし、東京最高のレストラン2013年版にも載っている注目店だ。
場所は大江戸線、もしくは東西線の麻布十番駅から歩いて5分ほど。
麻布十番の商店街から一本路地を入った住宅地の一角に位置している。
「超一等地の露面、しかも一階店舗と理想的。巡り会えたこと自体がラッキーでした」と武田さんが言うようになかなかの好立地。
しかも広い道から一本入っているので隠れ家的要素も備わっている。
自身の店で‟自由・気ままに”料理を作りたかった武田さんには程よい空間だと思われる。

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

 武田さんは、丁度脂が乗りかかった世代の料理人。次世代を支えていく一人と目されている。子供の頃からモノづくりが好きで、気づいたらそれが料理だったらしく、中学生の頃にはすでに料理人を志している。中学を卒業して調理専門学校へと駒を進めたかったそうだが、流石に親の反対もあり、高校を出てから専門学校へ入ったのだとか。卒業後は、名門「オテル・ドゥ・ミクニ」で修業。25歳で渡仏し、「トロワグロ」や「ジャルダンテ・サンス」で都合二年料理を学んでいる。帰国後は「ひらまつ」「サンス・エ・サブール」に勤め、2009年に神宮前の「Restaurant-1」で料理長に就任した。人の下で仕事をすること自体に飽き、2012年に念願の独立を果たしている。武田さんの話では「独立準備に二年ぐらいかかった」らしく、この好立地に巡りあえたことも準備の賜物だったのかもしれない。

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダレベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

前述したが、武田さんの店は隠れ家的要素も兼ねた麻布十番の住宅地の一角。扉を開けると、すぐにオープンキッチンがあり、その横に8~10名収容可能な個室がある。木の質感をいかした店舗は、一面をガラス張りに。外には水が流れ、夜になるとそれがライトアップされて雰囲気もぐっとよくなる。
武田さんは、この自分の城に「Liberte a table de TAKEDA」と名づけた。リベルテとは自由を意味する。そして気取らないフレンチを目指し、自由気ままに調理したいとの気持ちが込められている。本場でフレンチを学び、名店で料理をして来た自負もある。
その経験から生まれたのが‟自由に”というスタイル。堅苦しいフランス料理にカテゴライズされずに自分流に表現したいというのが武田さんの店のコンセプトなのだ。
なので気候や気分で調理法やソース、盛付が変わる。
国内外から届いた旬の素材をいかしながら、自分が今、食べたいと思うものをコース内に表現するのが武田流なのだ。

和の調味料をいかした岩牡蠣と小鳩

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

さて、私はここでもまた和の調味料を使ってもらうように依頼している。普段は出さないであろう、私だけのスペシャリテである。武田さんが用いたのは、湯浅醤油の「白搾り」「生一本黒豆」、丸新本家の「生姜のもろみちゃん」。当然の如く、普段なら使わない調味料ばかりだ。
武田さんは、自身のインスピレーションをいかして和の調味料で二つの料理を作っている。そのひとつが岩牡蠣を使った冷製料理。これは「どうしようか」と思案しつつ、この日に思いついたもので、即興に近い。まさに臨機応変に調理をしたい武田さんの真骨頂が表れている。岩牡蠣の下には、クレソンのピューレを敷き、上にその花を飾り、半透明のジュレを載せ、上から液体窒素で固めたクレソンベースの緑のパウダーをかけている。「ピューレにすると青臭さがなくなってしまうので、あえてパウダーにしました。クレソンの青臭さで、牡蠣特有の匂いを消したかったんです」と言う。半透明のジュレは、だしと「白搾り」で和風に仕上げた。クレソンベースのポン酢を想像してくれればいい。「牡蠣単体だとどうしても飽きてしまうのでジュレを載せたんですよ。この方がビジュアル的にも美しいし、フォーク、ナイフを入れてそれが崩れると緩和され、和の雰囲気がより醸し出されます」。緑のパウダーは牡蠣=ポン酢のイメージに合わせて作ったそう。余計なものは加えず、クレソンで統一したかったと話していた。
武田さんの意図していた通り、クレソンの青臭さが実に牡蠣にマッチしている。色みを出したかったから、あえて「白搾り」を使ったのであろうが、一般の醤油ほどその味が主張しないので、和の雰囲気と言いつつもきちんとフレンチらしさは醸している。「この醤油は、出しゃばらない点が我々フレンチの料理人には使いやすいんです。どうしても醤油が前面に出てしまうと、和の味になり、フレンチの域を脱してしまいます。それに醤油っぽい色がないのできれいに仕上がりますしね。普通の醤油だったらジュレを作った際に茶色くなってしまいます。醤油だが、醤油くさくない。そんな表現でわかりますか?」と武田さんは「白搾り」を評してくれた。以前、京料理の職人が素材そのものの色を出したいからと「白搾り」を用いていた。それに少し似ているのだろう。

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

 「鳩と味噌の組み合わせは、いつもやっているので」と前置きしながら出て来たのが二品目の料理。一品目同様、この日のための創作なのでメニュー名は当然ない。しいて言うなら小鳩のローストだが、これはその名の通りいったん小鳩をローストして「生姜のもろみちゃん」を載せて焼き直したものだ。武田さんはこの手の料理をくるみ味噌を使って作っているらしい。イメージ的には、それがあったので即興で作った岩牡蠣の料理よりやりやすかったのではないだろうか。小鳩にかけたソースには、「生一本黒豆」をちょっとだけ入れたそうだ。小鳩を焼き、取り出したフライパンに「生一本黒豆」をほんの少し入れて、鳩から出ただしと混ぜながら調味して行ったという。武田さん曰く「鳩とこのもろみ味噌(生姜のもろみちゃん)がよく合う」らしく、もろみ味噌の味で食べる料理だと表現していた。一方、ソースの方は余計なことをせずシンプルに。入っているかどうかわからない程度の醤油を入れ、アクセントまでいかず、隠し味程度に加えて調味している。まさに旨みだしの代わりといってもいいくらい。「味噌と醤油を前面に出す必要はなく、いい塩梅で仕上げている」とのことだった。

レベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダレベルテ・ア・テーブル・ドゥ・タケダ

「この『生姜のもろみちゃん』は、面白い調味料でしたよ。「フレンチでも使い方が広げられると思ったくらい。個性は強いのですが、フレンチでも大丈夫。素材は限られているかもしれませんが、いいですね。むしろ積極的に使いたいほどです」と武田さんも高評価だ。海外では醤油をソイソースと呼び、フレンチの中にも使用する傾向にあるが、日本でのそれは和のイメージが強いのか、彼ら(日本人シェフ達)はあまり使いたがらない。武田さんは「皆が和食の調味料としてカテゴライズするのがわからない」と言う。外にはっきりと出ていなければ、フレンチになるわけで、美味しければいいのでは…」と柔軟だ。「ベースがフランス料理なら、醤油や味噌を使ってもいいと私は考えているんです。そもそもフランス料理は色んな技法を取り入れながら進化してきました。こうして今日の料理が成り立っているのなら、どんどん取り入れるべきかもしれません。その証拠にすでに世界中のシェフは取り入れ始めていますよ」。武田さんは25歳で渡仏し、本場の料理に触れて来た。そして「こんなに自由でいいんだ」との結論に達したのだという。「何でもありでいい、楽しければいい」との言葉は武田さんのフレンチへ向き合う精神なのだろう。だから店名を「Liberte a table de TAKEDA」とした。‟枠にとらわれない上質感”がこの店のコンセプトである。「お客様を喜ばせるよう常に努力しているが、どう取るかは彼ら次第」と言う。料理にどれが正しくて、どれが正しくないとの二者択一はない。代価に対し、どう満足したかが大事なのだ。「喜ばせる努力はする」という力強い言葉は、武田さんの自信の表れでもある。だからこの一等地でやっていけるのだと思った。

  • <取材協力>
    Liberte a table de TAKEDA
    (東京・麻布十番)

    住所/東京都港区麻布十番2-7-14

    TEL/03-5765-2556

    営業時間/昼(水~日曜)11:30~15:00(LO13:30)
    夜(火曜~日曜)18:00~22:00(LO20:30)

    休み/月曜日

    メニューor料金/
    昼 5800円、7800円
    夜 10000円、15000円
    ※価格は全て税・サ別

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい