2017年01月
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 野菜、果物、米、魚と神戸にはいいものがいっぱい。農水産業が盛んなわりに、泥臭いイメージがマッチしていないのか、そこにスポットが当たらない。そこで神戸市経済観光局農政部農水産課が、その魅力を知ってもらおうと企画したのが「KOBEにさんがろくPROJECT」だ。平成24年から実施しており、大学生が自主的に参加して市内の農水産物を使って商品化を考える。5~6月の応募から始まり、キックオフ会を経て7~10月で企画・制作する。そして11月のアイデア商品提案会でプレゼンテーションしてグランプリを決めるのだ。私も1票を投じているが、実に面白い企画である。今回は昨年11月に行われたプレゼン大会のことを中心に、このプロジェクトについて紹介しよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
大学生が神戸の農水産の未来を考える!?神戸市が真剣に企画した「KOBEにさんがろくPROJECT」ってなに?

大学生だけから生まれた商品化のヒント

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神戸市が市内産の農水産物の魅力を発信するために平成24年より毎年行っているのが「KOBEにさんがろくPROJECT」。大学生が生産者と企業のネットワークを作り、自ら考えた企画をその人達とともに商品化するという内容で、実にユニーク。私も一般審査員に交ってプレゼン大会で票を投じているが、年々そのレベルも上がっているように思う。

DSCF5516生産業者(第一次産業)が加工(第二次産業)・流通・販売(第三次産業)を兼ねるのが六次産業化といわれているが、同規格はそこに大学生のアイデアが加わったもの。タイトルにある“にさんがろく”とは、第六次産業化(1×2×3=6)をもじってつけている。プロジェクトのテーマは、①伝わるもの(神戸産の農水産物の魅力が伝わる商品)②伝えるもの(多くの若者がその良さを市民に伝えることを目的とした商品づくり)③若者の目線のプレゼンテーション企画(①~②のアイデアをPRする企画)の三つである。大学生(ゼミごとに参加している所も多い)がまず生産現場を訪ねて取材し、取り挙げるべき野菜や魚介類を選ぶ。その良さを伝えるべく加工品の企画をするのだ。加工については素人では大したことができないからプロを巻き込んで商品にしていく。だから11月のプレゼン大会ではちょっとしたものができあがっているというわけだ。中には作るだけではなく、自ら商品を売ってマーケティングリサーチまで行っているチームもあり、まさに社会人レベル。プロ並み、いやプロだからこそ考えつかない一品がこうして出来上がっている。
神戸というと、どうしてもオシャレなイメージで、土の匂いは付きにくい。けれども西区や北区は田畑が多く、都市近郊型の農業が盛んなのも事実。こういった取り組みによりそのことが訴求できればと神戸市経済観光局農政部農水産課は考えたのであろう。

 

 

 

 

ブルーベリーを食べるではなく、染色に利用した天晴れなアイデア

DSCF5549さて、昨年行われた「KOBEにさんがろくPROJECT」だが、11月22日にプレゼン大会が行われた。グランプリを獲得したのは、神戸松蔭女子学院大学の花田ゼミであった。彼女らは、神戸産のブルーベリーに注目。食べ物素材として利用するのではなく、その色をベースに発想した。商品にならないブルーベリー(この廃物利用の考えがまた光っている)を使用し、それを有馬温泉の金泉の染色として使った。テーマは、「社会福祉法人の身障者への農業支援による神戸ブランドの制作」で、kobe sweets Gardenやグランマーマのお針箱の協力をあおぎながら見事、“売れる商品”に仕立てたのである。

DSCF5553 私も以前、有馬の金泉染めの話を聞いたことがあったが、その色(温泉の色)からどうしても年寄りくさい着色になってしまうと教えてもらった。彼女らのように廃品のブルーベリーを利用することで、それがきれいなピンク色が出て、かわいらしい商品に仕上がるのだからびっくり。プロではなく、アマチュア(大学生)に初めて教えられたのである。これがプロならいざしらず、女子大生なのだから末恐ろしい。こんなユニークな発想をする彼女らを、企業は就活時に見逃してはいけない!花田ゼミは2015年度もグランプリを獲っている。二年連続のユニークな企画(前回はHull~ヘタに真珠~)で、彼女らを普段から指導している花田先生もさぞすごい人物なのだろうと思ってしまった。

DSCF55342016年のグランプリは食分野ではなかったが、「KOBEにさんがろくPROJECT」の出品企画はほとんどが食関連商品であった。その中で私が面白いと思ったのは、須磨海苔で商品化を考えていたのが2チームもあったこと。「神戸女学院大学Team CLOVER」と「神戸学院大学 農園~enjoy life」がそれだが、売りにくく、考えにくい海苔をテーマにしたことをまず誉めてあげたい。前者は須磨海苔を一人でも多くの人に知ってもらいたいと、海苔のレシピを作成。手に取りやすいリーフレットでPRをした。SNSを駆使したあたりが今の子らしい。後者は、その須磨海苔をカレー素材に使っている。一般的にカレーにすると、何でも食べやすくなるものだが、いかんせんカレーが強すぎてその素材の個性が消されてしまう。それがこのチームに至っては、十分海苔の風味を出していたのである。海苔の風味をうまく残している、ただそれだけでも評価できる。ちなみにこのチームには、須磨浦友会(漁業関係)とルミナスクルーズが協力している。

DSCF5538あまり目立たぬ素材にスポットを当てたのは、神戸松蔭女子学院大学の武智ゼミ。彼女らは、神戸で産される菊芋にスポットを当ててジャムを作った。菊芋というマイナーな食材を取り挙げようと思ったのが、海苔同様に評価に値する。彼女らは「菊芋本来の味を知ってもらうために、砂糖、レモン汁、生姜、蜂蜜をベースにジャムをつくりました」と説明してくれたが、これがちょっと出来すぎの感あり。ジャムとしては旨いのだが、味をうまく出そうとするあまり、菊芋の芋っぽさが少しなくなっていた。残念に思った私は、思わず名刺を渡し、「コンフィチュールkajyn KOBEの川良紀彦さんを訪ねて、菊芋らしさを醸し出す方法を聞いてくればいい」との言葉を残した。さて彼女らは川良さんを訪ねたであろうか。できればそのやる気を見てみたい気がする。
2016年度の「KOBEにさんがろくPROJECT」は、28チームが参加した。大学では神戸学院大学が多く、流通科学大学や神戸芸術工科大学などが目立つ。ゼミ単位で参加している所もあれば、有志でチームを組んでいるのもある。前述したが、このプロジェクトは大学生が中心となって進行している。プロの商品開発さながら時間をかけて行われる。キックオフから始まり、リサーチ(取材)をして生産の現場を知る。そして企業などのアドバイスを得ながら11月のプレゼン大会へと駒を進めるのだ。聞くところでは、すでに正式な商品になっているものまであるらしい。新入社員を募集している企業は、各紙に広告を出したりする前に自らの足でこの参加者を訪ねて行き、スカウトすることをオススメする。それくらい彼女(彼)らはユニークで、やる気と行動力を持っている。

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