2017年03月
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最近は地野菜がブームになっている。遠くのブランドより近場の新鮮品をと、都市周辺の産物が人気を集めているのがその要因だ。このブームに乗じて、我が町の野菜の名を高めようとの動きも目立っており、関西でも色んな町があの手この手でPRを行っている。その中で泉佐野市農林水産課が農業支援の一環としてプロジェクトを立ち挙げ、3月10日にユニークなペーストを具現化させた。生産は市内の農家の奥さん方で組成された泉佐野農産加工部「なすの花」が行い、「レストフォー」や「いただきますねっと」の通販を主に販売する。今回はこのプロジェクトから生まれた「魔法の松波キャベツ(ペースト)」についてレポートしたい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
泉佐野の松波キャベツをメジャーに!行政と農家、有名料理人がタッグを組んで誕生させた新感覚調味料とは…。

泉州に隠れていた名素材

TTPはアメリカの離脱で行方がわからなくなりそうだが、もし実施されていたとしても農政にはどれだけ影響が出ていただろうか。私が考えるにTTPもさることながら、深刻なのは農業就労者の高齢化で、あと20年もすれば農家がなくなってしまうのではと危惧している。 どこの行政でも農業を活性化しようと躍起になっており、色んな取り組みを行っている。その中でも、このところ話題にのぼっているのが泉佐野市(大阪)のプロジェクトだ。泉佐野といえば、昔から農業が盛んな地で、専業農家も周辺の町に比べて多い。代表的産物は、水茄子と泉州玉ねぎ。これらはすでに全国的に有名になっていて泉州の代名詞ともいえよう。同市がこの二つに続いてメジャーにしようと目論んでいるのが松波キャベツ。このキャベツは、寒玉と呼ばれる冬キャベツの一種で甘みが他種に比べて強いのが特徴。静岡の石井種苗場が開発したものだが、これが泉佐野の土に合ったのか、いつしかこの地に根づき、泉佐野産が有名になってしまった。

泉佐野でキャベツ栽培が盛んになったのは昭和30年代で、玉ねぎの端境期に適していると導入されたのがきっかけ。松波キャベツに関しては昭和50年代に入って来ており、以来その栽培が脈々と根づいている。泉州の人に聞くと、「お好み焼きには欠かせない」と言い、キャベツを並べていても松波キャベツの方から売れていくらしい。ところが、この名前が轟いているのは泉州地区のみ。京阪神ではプロの料理人でも知らないのだ。泉佐野市が2015年から実施している「泉佐野産(もん)商品化プロジェクト」では、10人の料理人が参加し、市内産の野菜を使ってレシピを作った。これに関しては、このコーナーの第37回で詳しく述べている。10人が寄せた29レシピの中で同プロジェクトのブレーンであった「レストフォー」の森靖子さんと「いただきますねっと」の杉森史明さん(売る側のプロで、通販の実績がある)が着目したのが「御所坊」の総料理長・河上和成さんが作った「松波キャベツの茶碗蒸し」だったのである。河上さんは、この料理を作る際に松波キャベツをペースト化して使用した。森さんや杉森さんの意見では、料理そのものを冷凍やレトルトにして売り出すよりもペーストにして調味料として使用させた方が汎用性が高く、松波キャベツの名も広がるのではないかということだった。

泉佐野市農林水産課では、彼らの意見を参考にして松波キャベツをペーストにすることに絞った。加工するのは、泉佐野農産加工部「なすの花」の面々。つまり市内の農家の奥さん達である。河上さんはペーストの造り方を彼女らに伝授。それを加工産では一つ一つ手作りしながら商品にしていく。プロと主婦、空港のある町同士のコラボとなり、商品は3月10日に誕生することになった。

 

 

 

 

調味料として松波キャベツを売り出す

こんな経緯を経て完成したペーストは、「魔法の松波キャベツ(ペースト)」と題して瓶詰めで売り出される。河上さんが添加物を嫌うのでそれは一斉使わず、素材のみで造られているのも特徴だろう。「魔法の松波キャベツ(ペースト)」は、泉佐野産の松波キャベツを単純にペースト化したものだが、なかなか使い手はある。例えば、味噌汁に入れると、キャベツの甘みが加わり、コクが増す。みりんが不要なくらい甘みが出るのだ。河上さんのレシピでは、だし540ml、味噌80g、「魔法の松波キャベツ(ペースト)」100gを材料にして鍋で沸かす。一般的な味噌汁のように味噌を溶いてそのペーストを入れるだけ。あとは灰汁を取れば出来上がる。これまで玉ねぎペーストはあってもキャベツペーストはあまり目にしない。それが松波キャベツを使ったものとなると、今回が初である。この商品の発案者的な「御所坊」の河上和成さんによると、煮物や炒め物の際に少し加えるだけでもいいとのこと。

それにこれを使ってソースを作ってもいい。河上さんはキャベツコロッケのソースとして、「魔法の松波キャベツ(ペースト)」大さじ2、ケチャップ大さじ1、とんかつソース大さじ1の材料で作っていた。キャベツというと、洋風料理素材に思いがちだが、このペーストは和洋中何にでも使える。コクと自然の甘みを加えるわけだから一種の隠し味に。

何にでもOKというわけで、河上さんはムース(スイーツ)にまでそれを用いていた。

 

 

 

 

 

 

キャプチャ2月28日夜に梅田・グランフロント大阪のキッチンで「魔法の松波キャベツ」商品発表が行われた。参加者はマスコミ関係者と料理研究家。河上さんがレシピ本に載っている料理をその場で作ってふるまったわけだが、どの品も上々の評判で、大盛況だった。新聞社や放送局の人達は「これまで泉佐野にこんなに甘いキャベツがあるなんて知らなかった」と言い、ペースト化した商品を見て「面白いし、実用的」と評したのである。
この商品については、今年度は試作段階で1000個しか生産していない。この反応を見ながら次年度からは、本格生産に望みたいとし、できれば春からの松波キャベツの味を示す商品にまで成長すれば面白いと考えている。テスト販売なのと、1000個と少量の生産で販売場所が限定されている。泉佐野市内の農産品販売所「こーたりーな」(泉佐野市松風台3-1-3)へ行くか、神戸の「神戸酒心館蔵元ショップ東明蔵」(神戸市東灘区御影塚町1-8-17)へ行くかすると求めることができる。また「御所坊」関連では「有馬食堂」(神戸市北区有馬町979 有馬玩具博物館2F)にもあるし、昨年度同プロジェクトに参加した岡本商店街内の「気仙沼まただいん」(神戸市東灘区岡本1-11-20 アルフィー岡本1階)でも売っている。泉佐野や神戸まで足を延ばせないという人は、「レストフォー」(☎06-6532-1130)や「いただきますねっと」(☎0120-531-510)に問合せをすれば、購入することができる。ちなみに「魔法の松波キャベツ(ペースト)」は、瓶入り250gで640円(税込)で販売されている。

 

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい