2014年07月
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観光ツアーはどこも花咲かり。あの手この手を使って色んな企画が立ち上がっている。少し乱立気味の嫌いがあるのだろうか、びっくりするほど面白いというものにはお目にかかれず、それを反映してか、いずこも苦戦が続いている。そんな中で募集すると、すぐいにいっぱいで締め切ってしまうというのが神戸が行っている「おとな旅神戸」だ。募集状況がいいばかりではなく、参加者の満足度も高いというからその人気ぶりも推して知るべしだろう。今回は同企画内でグルメツアーの案内役を務めた私めが「おとな旅神戸」の概要をお知らせする。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
神戸を巡るマニアックツアーが
ウケにウケている

市民アドバイザーが企画し、案内するツアー

神戸産の野菜

神戸市発の観光キャンペーン「おとな旅神戸」の評価がかなり高い。ワンランク上のまち感覚をテーマに掲げ、個性的なツアーを組んで神戸を巡るというこの企画は、発表するや応募が殺到、60弱あるツアーはすぐに埋まってしまうという好評ぶりだ。厳密にいえば、同企画は、神戸市、兵庫県、神戸商工会議所、神戸国際観光コンベンション協会らが作る「おとな旅神戸」実行委員会が主催し、60名の市民アドバイザーがそれぞれひとつずつマニアックともいえそうな個性的なツアーを考える。そしてその企画者自らが案内をかって出るというものだ。今年の冬に一度行ったが、あまりの好評ぶりに今夏(6/1~7/31)も実施、さらに次の秋冬も行う予定だと聞く。何あろう私めも市民アドバイザーの一人に選ばれており、7月18日に神戸酒心館内の日本料理店「さかばやし」にて‟淡路島・旬の大物ハモと灘酒を楽しむ、極上グルメ”と題したツアーを行った。

神戸産の野菜 これまで行政や地域が観光型のキャンペーンを何度も繰り返してきており、こう記してもただの食べ歩きや見学のツアーだと思うかもしれない。しかし、神戸のツアーがこれほどまでに成功しているのは、市民アドバイザーが企画し、案内役を務めるという点を強く打ち出しているからだろう。その案内役には作家の玉岡かおるさんのような有名人もいるが、大半は名前を聞いても一般人にはわかりにくいその道のスペシャリストばかり。彼らは全てある種のジャンルを極めている人なので、参加する方も面白い!と思うのだろう。

神戸産の野菜

ここで「おとな旅神戸」のマニアックなツアーを少し紹介しておこう。玉岡かおるさんが案内したのは「フロインド リーブ」。ヴォーリズ建築の「フロインドリーブ」でヴォーリズ夫妻を語ると題している。照明デザイナー・長町志穂さんと巡る神戸の街あかり‟光の魔法”というのがあれば、灘校OBの金井文宏さんと、かの難関受験校・灘校を訪問し、灘校ワールドにふれるというのもあり、行楽ライター・中島美加さんとともに有馬温泉・念仏寺へ行き、沙羅の花を愛でるというのもある。グルメでいえば、前述の私の企画を始め、ミーツリージョナルの元編集長・江弘毅さんの二系統の神戸洋食を味わうや、山口浩シェフが作る「神戸北野ホテル」の世界一の朝食を食べる、イスズベーカリー・井筒英治さんと美味しい神戸パンを作るなんていうのもある。その他、列記だけになるが、マニアックとも思えるツアーをもう少しだけ記しておく。「こなもんの町・長田でフルコース、マイコテ付き鉄板ツアー」「ナディスト慈憲一さんと地元・水道筋の名店ハシゴ飲み」「神戸元町別館牡丹園・王泰康シェフの早午餐(ブランチ)8品」「サ・マーシュ・西川功晃シェフに教わる米粉パンの作り方、楽しみ方」「アリさんと語ってめぐる海と山に挟まれたまち、塩屋百景」「田中まこさんとめぐる映画の人気ロケ地・旧居留地」「六甲山を知りつくした重慶恒夫さんと行く梅雨の六甲を彩るブナの巨木」などなど。機会があれば、一度パンフレットを見てほしいが、とにかく個性的で楽しそうなものばかりなのだ。

受付日朝でないと申し込めないほどの人気ツアー

神戸産の野菜

私がこの企画に参加することになったのは、前出の江さんからの依頼。「食に詳しいのだから面白いものを作ってよ」と声をかけられたのである。時期が7月ということだったので私は思わずハモをテーマに挙げた。このコラムや「名料理、かく語りき」でも書いているが、実はハモの旬は晩秋になる。それが7月~8月だと伝わっているのは、昔の京の料理人の陰謀(⁈)にほかならない。それなのにあえて夏に行うのは多くの人がハモの旬は夏だと思い込んでいるからで、やはりこの時季には参加者が見込めるだろうと踏んだのである。食事会冒頭の私の話では、ハモの旬は晩秋であると告げている。「旬のハモを食べましょう」と呼んでおきながら、旬じゃないと告げるのはどうかと思うが、そこがマニアックツアーのいいところ、そんな風に始めたとて玄人肌(グルメ)には受けてしまうのだ。ただ9月に産卵を控えた夏場も旨いことには違いない。だから参加者は由良漁港から直送された新鮮なハモに舌鼓を打てることは間違いない。しかし、これがそんじょそこらのツアーと異なるのは、2kg以上の大物ハモを提供したこと。一般では800gのハモを出す所が多いが、ここではあまりお目にかかれない2kg以上の大物を捌いて出している。これもグルメからすれば見逃せない点なのだ。

神戸産の野菜 参加者に話を聞くと、私のツアーは一日で埋まったそうだ。それも受付開始の9時~10時までに電話をしなければ参加できなかったほどの難関だったらしい。同席した夫婦は、「玄斎」上野直哉さんの‟ゆったり朝食・特別席”と私の‟淡路島・旬の大ハモと灘酒を楽しむ、極上グルメ”の二つを申し込んだ時点であとはジ・エンドだったと話していた。この話を聞けば、いかに凄い反響かはわかってもらえるだろう。現に私の知人も「申し込んでもいっぱいだった」と言っていたし、「友人なのだから何とか入れてほしい」と言ってきた人もいた(友人であろうが、無理なものは無理なのだが…)。

神戸産の野菜

さて、神戸市のこの企画は、今では全国の自治体に知れ渡っていると思われる。柳の下にドジョウは何匹いるのだろうか。もし同じような企画をやってうまくいかなければ、どこが違うのだろうと考えた方がいい。マネすればマネするほど、その見え方は変わっていくからおかしい。単純かつ、面白い仕組みは、そうそうマネできるものではないとわかってほしい。 (文/曽我和弘)

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