2018年01月
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 2015年の冬から実施している酒粕プロジェクトが今年で四回目の冬を迎えている。酒粕文化の危機を謳って細々と始めたものが、歳月を重ねるうち大きなうねりとなり、いつしか関西の料理人の間で酒粕を使うことがブームになってしまった。先日も大阪の某ホテルにお邪魔した際、「ブームとなっている酒粕を用いてスイーツを作ろうと思っている」とパティシエが話しかけてくれた。酒粕ブームの仕掛け人で神戸酒心館とともに旗振り役を演じて来た私としては実に喜ばしい現象である。酒粕をもう少し若い人に認知させたい_、そんな思いもプロジェクトの中にあったために今回は大阪樟蔭女子大の授業の中で展開し、彼女らに酒粕の新たな可能性を追求してもらった。このコラムでは、その話についてふれていく。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
「酒粕って何ですか?」の質問から始まった大阪樟蔭女子大の授業から、
新たな可能性を見出したメニューが誕生!

三回の開催でブームを呼んだ酒粕プロジェクト

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秋から大阪樟蔭女子大学で教壇に立っている。週に一回、木曜の午前中に「フードメディア」なる講義をしているのだ。同大学がフードスタディという分野に注力し、学芸部ライフプランニング学科の中にその手の学問を持ち込んだのは三年前。その時に入った生徒が三回生となり、専門課程の中で私の授業を選択している。田中愛子先生や萩原雅也先生(ともに教授)から声をかけられた時に私のような人間が講義を担当するなら大学ではなかなかしづらかったものを持ち込もうと考えた。「フードメディア」とは、食とマスコミ関係を結びつけた内容のものだが、私はそこで一般社会の中に入って実践的なプランニングを体験させようと考えたのだ。丁度、毎冬になると取り組んでいる酒粕プロジェクトが格好の題材で、今冬拡大して神戸全域に広がった同プロジェクトに大阪樟蔭女子大の生徒達を登用してみようと思いついた。

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酒粕プロジェクトは、今年で四回目の冬を迎える。大手酒造メーカーが高熱液化仕込みを採用したことから酒粕が市場に出回りにくくなり、このままでは酒粕文化が危機を迎えてしまうと考えたことから始まったもので、2015年の酒粕鍋対決(御所坊vsさかばやし)からスタートし、翌年には神戸・岡本の街ぐるみの企画に発展した。メディアの注目度も高かったためにうまく広まって行き、今や関西のブームにまで達している。それを耳にしたシェフ達が「うちも参加したい」と声を挙げてくれたために今冬は約30の店やメーカーが参画し、そのうねりは神戸市中を包み込みつつある。             この旗振り役を頼んでいるのが「神戸酒心館」。清酒「福寿」を産する灘の酒蔵だ。同社は日本酒はもとより、その副産物の酒粕もかなり上質。太鼓亭の稲田敦士さんなどは、「酒粕鍋を商品化する際に一般的な酒粕を使うのと『福寿』の酒粕を用いるのとでは、全然味わいが違っていた」と高く評しているほど。この太鼓亭も今冬の酒粕プロジェクトに参戦しており、だし専門店「だし蔵」で酒粕鍋セットや具材も入った一人用酒粕鍋を売り出す予定になっている。

プロの向こうを張って酒粕料理を女子大生が創作

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さて、女子大での授業の方だが、若い子には酒粕はなじみが薄い。家庭でも粕汁を作る所が少なくなっているせいか、初めて目にする学生もいたようだ。そんな子達にまず酒粕自体を理解させることから始め、日本酒づくりとともにその生産工程で酒粕が生まれることを教えて行った。彼女らに「福寿」の酒粕をサンプルとして渡し、家庭や学校の調理室で試作をするように促した。三回生というと、20歳ぐらいで、酒すら口にしたことがない子もいるだろう。ましてや存亡の危機を迎えつつある酒粕なのだから、大半の子はどう使ったらいいのかさえ分からなかったのではなかろうか。
この授業の目的は、学生達を実際社会で行われているプロジェクトに参加させることにある。有名シェフや飲食店オーナーと横一線で酒粕メニューを考えさせていっしょになって同プロジェクトを盛り上げるのだ。これこそ実践型プログラムで、プロと同じ土俵に上げることで彼女達は商品づくり、メニューづくりの大変さや面白さがわかるであろうと考えての授業であった。今回彼女達が考えた酒粕メニューの中から優秀作を神戸酒心館蔵内にある日本料理店「さかばやし」で2月中販売する。それだけにやりがいも感じてもらえるだろうし、商売になるためにはどういった創造性を持たねばならないかを身を持って体験できるに違いない。
私の授業をとっている生徒を4つのグループに分け、まずブレインストーミングからスタートさせ、徐々にメニューの全貌へ近づくように話し合わせた。その結果、Aチームは「ちらっとちらし寿司」と「団子五兄弟」を、Bチームは「生とろどら」「おてん」、Cチームは「酒粕風味のハーモニーティラミス」「大人のあんみつ」、Dチームは「よりちゃんのおはぎ」二種を提案して来たのである。11月下旬に神戸酒心館の久保田副社長と「さかばやし」の幸徳伸也店長が授業に参加した。女子大生は、食のビジネスの最前線で働く彼らの前で料理を作ってプレゼンテーションを行ったのである。私や田中先生らの心配をよそに彼女らは精一杯創作し、酒粕メニューを披露してくれた。

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これはお世辞でも何でもないが、彼女らの作品は優秀で、甲乙つけがたかった。その中でも必ず一品は、選ばなければならないので一応総合的に考えて、「さかばやし」でメニュー化しやすそうなAチームの「ちらっとちらし寿司」に軍配を挙げることにした。これは酒粕にご飯を二層仕立てに詰めたもの。下が甘だれご飯で上を酒粕入り酢飯にし、海苔と玉子を敷いてその層を分けている。青黄赤白黒(しょうおうしゃくびゃっこく)と五色の素材を用い、彩りを出すことで美味しさを表現。ちなみに青は枝豆、黄は玉子、赤はサーモンとイクラ、白はご飯、黒は海苔となっており、「ちらっと」のフレーズ通り、ご飯の上にサーモン、海苔、枝豆、イクラを載せて使用している具材を見せている。
実際、店で出すとなるとコスト面や手作業の手間も考えねばならず、彼女らの案のままとはいかないであろう。あとは「さかばやし」の加賀爪正也料理長の手に委ねられ、きちんとしたメニューに調えられていく。ちなみにこの作品を考えたのは、川中恵莉さん、細川真衣さん、鍋島美帆さん、竹内明日香さん、山本亜由美さんの五名で、久保田副社長も「うちの特性を考えた上で創作したのがよくわかる作品だった」と褒めていた。彼女らの「ちらっとちらし寿司」が秀逸なのは酢飯に酒粕を混ぜた点。川中さんは「ご飯を炊く時に酒粕を用いることで風味がアップし、ほんのり甘くて酸っぱい味わいになります」と代表してプレゼンテーションしていたが、ご飯と酒粕を合わせるのは、プロも考えつかない技で、酒粕になじみがなかった点がこんな自由な使用法を生んだと思われる。
久保田副社長は、どうしてももう一作品をメニュー化したいと言い出し、Dチームの「よりちゃんのおはぎ」が「さかばやし」の酒粕プロジェクトメニューとして加わることになった。これは青木里穂さん、羽原里香さん、藤原千紘さん、森衣梨子さんが考案したものでメニュー名の「よりちゃん」とは、中心になってあんこづくりをしていた森衣梨子さんの名が冠されている。白と緑色のおはぎを二種作り、白いのは酒粕と冬をイメージさせている。「おはぎは甘い印象が強いが、酒粕が入っているために大人っぽい味になる」とは、彼女らのアピールポイント。酒粕が強くなりすぎないように豆乳でペーストして餡に混ぜ込む工夫がにくい。今までに酒粕を用いたおはぎを私は見たことがなく、大学生の自由な発想がここにも窺える。名探偵・ガリレオ先生じゃないけれど“実に興味深い”メニューとなった。
この原稿を書いている時点で2018年の酒粕プロジェクトの参加店と概要が整いつつある。この記事が掲載される頃には始まっているだろう。今年の同プロジェクトを“大きなうねり”と書いた。それくらい酒粕がブームになって来ており、今までの和食一辺倒な使い方と違って他の料理分野でも用い始め、酒粕の可能性はさらなる広がりを見せつつある。その一翼を大阪樟蔭女子大学の生徒が担えたならば、「フードメディア」の授業で酒粕を展開して来た価値が大いにあろう。そんな風に書けるぐらい彼女達は頑張ったのだから教える側も驚くべきことであった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい