104 2022年05月 その土地ごとに住民から愛されている店がある。池田(大阪府)でいえば、それが正弁丹吾グループの店々だろう。正弁丹吾グループは、昭和7年に「正弁丹吾寿司」創業を機に90年間池田市の食文化を支えて来た食のチェーンで、「池田では悩んだらココ」といわれるぐらい街に根づいている。今回はグループの中でも阪急池田駅から歩いて3分と至便な地にある「頓珍館」で、いつものアレを行って来た。正弁丹吾グループの平川好子会長は、バイタリティ溢れる経営者で、今回の私の取材に際して事前にグループ内で料理コンテストまで実施して臨んでくれたのである。そのコンテストで点数を獲得したのが、今回紹介する四つの作品。「頓珍館」のオーナーシェフ・平川千磨さんを始め、光瀬晴彦さん、貝掛真太郎さん、そして「ひら川」の藤本弘志さんが考案したものである。同グループのパワー溢れる作品をここに紹介しよう。

「頓珍館」(とんちんかん) 平川千磨
(「頓珍館」オーナーシェフ)
「魯山人醤油は、濃口でも淡口でもなく、
バランスの取れた逸品。
さっぱりと醤油の甘みをも感じ取れますし、
それでいてコクもある。
今回はそんな商品が引き立つように考えて作りました。」

「池田で悩んだらココ」といわれるぐらい街に根づいた店

今年の初めに田中愛子先生(料理研究家・フードアクティビスト)から池田の人気店を紹介してもらった。世はコロナ禍で、まだまだ飲食店は苦境を強いられていたはずなのに、池田市役所そばにある「頓珍館(とんちんかん)」は元気で、この夜もなかなかの盛況ぶりだった。「頓珍館」を運営するのは、正弁丹吾グループ。池田市内に「ひら川」「頓珍館」「シーホース」「ベストサーブ」を運営する飲食チェーンで、「池田では知らない人がいないくらい有名だ」と池田在住の友人も話している。正弁丹吾グループを運営するのは、会長の平川好子さん。大阪外食産業協会でも重鎮で、バイタリティ溢れる外食産業の旗手である。そもそも正弁丹吾グループは、昭和7年に創業した「正弁丹吾寿司」に端を発している。昭和45年に自社ビルを建て1階で寿司屋を2階で甘辛党の店「たんご」を、3階でその座敷スペースを営んでいたという。平川好子さんによると、「和風ファミレスの走りのような店だった」とか。以後、パブ「シーホース」や居酒屋「頓珍館」を次々に開き、池田の食文化に寄与して来た。平川好子さん自身も「びーだん べったん こめんじゃこ」や「ナニワの商いの道~商売なめたらあかんで~」を出版したり、講演も多数行っているから池田の名物経営者と言えよう。正弁丹吾グループは、HPでも「池田で悩んだらココ」と打ち出しており、池田市民にはすでになじみの存在であることが理解できる。

阪急池田駅前で、池田市役所すぐの所にある「頓珍館」は、〝はいから酒場〞と銘打って昭和58年にオープンしている。5年程前に全面改装し、リニューアルオープンして今のスタイルになったそうだ。割烹ほど気取らず、居酒屋ほどくだけていない、使いやすい店である。女性が好みそうな内装に改装してからは若い層も増え、年代幅が広がり、府外からも訪れるようになったという。「100%手作りで、小鍋が食べられるのが一つのコンセプト。四季によって色々と替わり、年間70品目を食せるようにしました」と平川好子さんが説明してくれた。〝鍋り始まり、食材と技法にこだわり、小鍋に極まる〞というフレーズを打ち出しているほどで、「寒鰤のレモン鍋」や「鱈の白子みぞれ鍋」「鯛しゃぶ鍋」と色々あり、店名の付いた「頓珍館鍋」を名物としているようである。ちなみにこの鍋は、伝承料理研究家の奥村彪生先生のレシピを買って作った料理で、スタミナ味噌鍋になっている。

そして池田らしいのが「呉春鍋」の存在だ。池田は銘酒「呉春」が有名。池田はかつて呉服(くれは)の里と呼ばれたことから〝呉〞の字に酒を表す〝春〞の字を組み合わせて命名された日本酒で、池田酒の伝統を伝えるものである。呉春は五月山の伏流水を井戸から汲み上げて造る酒で、甘からず辛からずを基本としており、味のバランスがいいことでも知られている。特に〝呉春特吟〞と呼ばれる特別吟醸酒は、かつてはなかなか手に入らぬ酒とされ、幻の酒とも呼ばれた。だから呉春を置いている店は、何となく特別感があったのだろう。正弁丹吾グループは、「呉春」の蔵元と同じ池田にあることからなじみが深く、特別な関係に。だからだろう。以前から「呉春」のある店として名が通っていた。「呉春」の酒粕を使って作る味噌味の鍋がその名もズバリ「呉春鍋」で、2001年の食博で料理コンテストグランプリを獲得している。

この「頓珍館」を任されているのは、平川好子さんの三男で専務を務め、同店のオーナーシェフでもある平川千磨(かずま)さんだ。平川千磨さんは、京都の「やげんぼり」で修業をし、渡仏してパリの名店「ラトリエ・ドゥ・ジョエルロブション」で勤めた。ロブション氏との仕事は、超刺激的だったようで、TVの仕事を中心に彼の裏方として働いた。こういった経験が帰国後の「ベストサーブ」(ケータリング)での仕事に役立ったという。和と洋の店で経験を積んだことは、「頓珍館」のメニューにも色濃く出ており、飾りや色あいにそれが窺える。「まず視覚から入る」からだろう、提供された料理は客に美味しそうに映る。そんな効果が和洋折衷の料理に垣間見えるのだ。

現在、平川千磨さんは、厨房を光瀬晴彦さんや貝掛真太郎さんらに任せ、ホールに出ることが多くなっている。顧客と接することも必要と考えたからで、厨房での仕事は2割程度にとどめているらしい。平川千磨さんが8割方ホールでのサービスに務めていられるのもしっかりした板場がいるからで、チームワークの良さで「頓珍館」がうまく運営されている証しでもあろう。今回、「名料理、かく語りき」の取材を申し込んだ際に、平川好子さんや社長の平川千人さんが「正弁丹吾グループ内でコンテストを行ってその優秀作を取材してもらおう」と言い出した。湯浅醬油・丸新本家から商品を送ってもらい、おのおのがそれを駆使して新料理を考えたのだ。これから紹介する四つの料理は、グループ内コンテストで点数がよかったものである。一回の取材に対してここまでやる気を見せてくれた例は少ない。それほど本取材と掲載に期待を寄せてくれたことが窺える。

社内コンテストを勝ち抜いた四作品

 

コンテストでの順位はわからないが、高得点を獲った料理を順不同に紹介していくことにしよう。まずは「麵料理ひら川」の料理人・藤本弘志さんの「豆腐の味噌漬けと黒毛和牛のピンチョス」から述べる。ここでは「あわせみそ」と燻製醤油「燻(くん)」を使用している。水切りした豆腐に「あわせみそ」を挟み、一晩寝かせてから間にクリームチーズと炙った牛肉を挟んで作る。その上にある豆腐は味噌漬けしたものである。

牛肉を挟んだ豆腐を串で刺すことでピンチョス風に仕上げているのだ。彩りを持たせるためにベビーリーフを飾り、野菜でヘルシー感を醸し出す。そして所々に燻製醬油「燻」を垂らすのだ。出来上がった一皿は、和食なのにフレンチの趣きがあって美しい。殊更女性にはウケそうな一品になっている。「あわせみその持つしょっぱさが牛肉とクリームチーズでまろやかになります。そこへ燻製醬油が加わることで、味が締まるのです」と制作者の藤本さん。豆腐と野菜のヘルシーさを訴求しながらも味噌漬け豆腐を用いることで和の味わいを施す。燻製香漂う醤油がさらに味を締めるという設計は見事なまでである。

次の「彩り野菜と海鮮カルパッチョ」は、「頓珍館」の料理長・光瀬晴彦さんが考案したもの。横長の皿に彩りを考えて素材が配されている。光瀬さん曰く「見ための美しさと迫力にこだわった一品だ」そう。割鮮は本マグロ、カンパチ、サーモンで、それを盛り立てるようにキュウリ、オクラ、こごみ、つぼみ菜、パプリカ、紅芯大根が置かれ、彩りを出している。この一皿は、刺身を洋風に見せたもので中央に添えてあるオイルに漬けて食べるとカルパッチョ風になるように考えられている。このオイルには、燻製醬油「燻」が用いられているのだ。「燻製醬油を味見した時に、醤油自体が旨かったので、これで何かできないかと考えました」と光瀬さん。

燻製香が強めだったので、普通の使い方をすればそれが勝ってしまうのではと思ったらしい。そこでオリーブ油を合わせることにしたという。「オイルと合わせると、燻製醬油の個性は柔らぎますが、その味は変わらず、相乗効果を生み出すのです。醤油をオリーブ油に沈めるというより混ぜることで香りが広がるんですよ」。割鮮が主だが、どちらかというと野菜が美味しく食せる味としてうまく表現されているようだ。カルパッチョに「燻」のスモーク香を足したような風味に仕上がっている。

三つめは、「焼きゴマ豆腐とベーコンのソテー」。こちらは「頓珍館」の料理人・貝掛真太郎さんの作品である。ここで用いられている湯浅醬油の商品は「白搾り」。貝掛さんは、この白醤油を「淡口に近い味わいで、塩味が立っている」と思ったそう。そこで普段使っている白だしと合わせることで割り醤油を作り、温かい料理の仕上げとして用いることにした。ゴマ豆腐に片栗粉をまぶし、フライパンで焼く。ベーコンは角切りにし、これらを合わせ盛りする。ここで使用しているゴマ豆腐は、「頓珍館」で常に提供しているものだが、貝掛さんはそれをボイルして冷まし、片栗粉をつけてフライパンで焼くスタイルにしたという。

「いつもと調理法を変えて温かいものに醤油が立っただしで食べるようにしたんです。揚げだし豆腐はやっていますが、焼くスタイルはやっていません。本葛で作ったゴマ豆腐自体の味は変わりませんが、片栗粉をつけて調理しているので味を吸いやすくなる利点が生まれます。初めはお椀に盛っていたのですが、それでは面白味に欠けるので小鍋にしたんですよ」。菜の花で色目をつけて、プラス〆の味としてベーコンが入っている。これでバランスのいい味になるのだという。

最後は「頓珍館」のオーナーシェフ・平川千磨さんの「海鮮〝和〞ユッケスタイル」である。彼の経験値から和洋混合がうまく合わさった一品と見受けられた。用いた商品は「魯山人」醤油と「わさび金山寺味噌」で、平川千磨さんによると「見ためは洋風だが、味は和で、あえてそこを狙って創作した」らしい。写真を見るとわかるが、段層ごとに素材が違っている。最下段はマグロを四角く切り、新玉葱を加えてオリーブ油とレモンでマリネしたものになっている。そこにゴマ油で延ばした「わさび金山寺味噌」が用いられている。下から二段目は角切りサーモンにパセリを加えたもので、三段目はズワイ蟹。三段目はレモンとオリーブ油、ブラックペッパーで調味している。そして最上段にアボカド・紫蘇パープル(洋風大葉のような爽やかさを持つもの)・イクラの醤油漬けが載せられ、飾りとしてパルミジャーノレッジャーノのガレットを刺している。「下のソースが『魯山人』を用いたユッケソースになっています。『魯山人』醤油はバランスが取れた逸品で、濃口でも淡口でもなく、さっぱりしていて醤油の甘みも感じられます。それでいてコクもある。ソースにするのにこの醤油に砂糖とゴマ油を加え、甘辛く味付けました。料理としては、あまり洋風にならぬよう、醤油の味がうまく出るように作ったのです」と平川千磨さんは話していた。平川千磨さんは、「魯山人」醤油を高く評しており、「何に漬けても美味しい。刺身でもステーキでも用いることができる」と言っている。

「頓珍館」には、普段から「マグロとアボカドのユッケ風」なる一品がある。平川千磨さんは、それを下敷きにして湯浅醬油バージョンにしようと知恵を巡らせた。いい商品を用いるのだからシンプルな方がいいと思い、この一品に辿り着いたのだそう。なので、「見ためは『頓珍館』風だが、味は『湯浅醬油』が引き立つ料理だ」という。平川千磨さんは、本取材において「祇園(京料理)で5年修業をし、パリの『ロブション』で仏料理を覚えた。だから和洋折衷をうまく表現できる料理人になりたい」と言っていた。その意味では、「海鮮〝和〞ユッケタルタル」は、その雰囲気を持つ一品に仕上がっていたのではなかろうか。

今回の「名料理、かく語りき」にあたり、グループ内での料理コンテストまで行って取材に臨んでくれた正弁丹吾グループの姿勢には感謝する。そこまでやろうと思ってくれた平川好子会長や平川千人社長、そして平川千磨さんを始め、料理人達の心意気が感じられる取材であった。池田に「正弁丹吾グループあり」のフレーズは、こんな所にも十分表れていたのである。

  • <取材協力>
    「頓珍館」(とんちんかん)

    住所/大阪府池田市城南1-2-3

    TEL/072-751-0870

    営業時間/ランチ11:00~14:00 ディナー17:00~24:00


    休み/月曜日の夜のみ

    メニューor料金/
    頓珍館コース 3200円
    頓珍館華コース 4000円
    頓珍館彩コース 5000円
    お造り・鯛めしコース 3200円
    ほんまん会席コース 4900円
    頓珍館鍋 2100円
    呉春鍋(一人前) 2400円
    鴨ねぎま鍋(一人前) 1300円
    陶板焼 藤 2980円
    陶板焼 華 1980円
    陶板焼 梅 1350円
    石鍋炊き鯛めし(一人前) 1100円
    特選黒毛和牛のタタキ 1580円
    自家製スモーク盛り合わせ 920円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい