82 2020年01月ラーメンといえば、基本は醤油。そして味噌、塩がそれに続く。そのうちの味噌ラーメンは札幌で生まれた。かつて大衆食堂だった「味の三平」で、店主の大宮守人さんが1955年に考案したと伝えられる。以来、色んな店で味噌ラーメンは提供されているが、これを鯛だしベースで作ってみてはどうだろう_、そんな挑戦を大阪の新進気鋭のラーメン店がこの取材で受けてくれた。「うまい麺には福来たる」には、これまで「イカワタ味噌白湯」のように赤味噌を使ったものや辛味噌で調味した期間限定品があったが、今回はこの取材を機に丸新本家の「丹波黒豆みそ」で新作ラーメンを作るという。それに挑むのは、先日「酒粕プロジェクト2020」にてラーメン部門の味の匠に選出された中村英司さん。和食出身でラーメン職人に転じた中村さんは、いかにこの希少味噌で味噌ラーメンを作ったのであろうか。とくとご覧あれ。

うまい麺には福来たる 西中島店 中村英司
(うまい麺には福来たる 西中島店店長)
「丹波黒豆みそは、丹波黒100%で
造ったもの。
一年半~二年ほど熟成しており、
旨みが一般の赤味噌よりかなり強い。
丹波黒の皮や粒が入っているのが
面白く、この点を考慮したスープに
仕上げました」

まさにエコ的発想!鯛のアラでスープを作った店

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最近のラーメンは、豚骨ベースが横行しすぎるきらいが強い。昔なら骨ガラや牛骨など色んなベースのものがあったが、なぜかしら豚骨がベーシックになってしまった。豚骨はそれなりの良さはあるが、こればかりだと味の広がりが持てなくなってしまう。大阪で三店舗を営む「うまい麺には福来たる」というラーメン店は、豚骨一辺倒の世の中にあって珍しく鯛だしで勝負をするユニークな店だ。同店が大阪・新町に店をオープンさせたのは2016年秋のこと。きっかけは、経営するエクセル・サポート・サービスの別部署で会席料理や仕出し料理を作ることが多く、何でも鯛の使用量は西日本で一番なのだとか。今までは刺身などに使った後の鯛のアラを捨てていたらしいが、今の世の中的にはそれもよろしくないと、エコ食材のような考えを用いて鯛のアラの使い方を模索した。こうして生まれたのが鯛だしラーメンなのだ。「うまい麺には福来たる」では、オープン当初、「潮仕立て鯛塩らーめん」一本で勝負していたが、もう少しパンチのある味にしてもいいかと、愛媛県のブランド鯛「鯛一郎クン」のアラで摂っただしに4種の醤油を加えて、さらに鯛から出た香味油を用い、「鯛香る醤油らーめん」を作った。これが話題になり、大阪の魚介系ラーメンの一角を占めるに至った。同店のラーメン開発には和食料理経験のある職人が絡んでいる。和の料理人は引き出しが多く、味のバランスを取るのが上手い。ラーメンといえど、しつこすぎず、スープにさらりと味を乗せて仕上げていく様は、そんな経験値から来るものであろう。何を隠そう、今回の取材先である「うまい麺には福来たる」の中村英司さんも和食出身の料理人。和食店で修業をした後、知人に誘われて尼崎のラーメン店で働いた。今でこそ兵庫ラーメンランキング1位に挙げられている店であるが、それを店主ととも一から立ち上げたという。オイルの使い方が有名な店で働いていたからであろうが、中村さんもオイルを上手く使う。中村さん曰く「ラーメンはオイルの量とかえしの量で味のバランスを調える。スープとタレをいかに使うかで印象が変わって来る」そうだ。そんな職人技が光る店が「うまい麺には福来たる」だととらえてもらっていい。

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少し触れたが、同店では愛媛の「鯛一郎クン」なる養殖鯛のアラを使っている。「鯛一郎クン」は、宇和島で育てられている鯛で、モチモチした食感と臭みがない味が特徴。全国で鯛の養殖多しといえども「天然より旨いのでは…」の声もあって高級魚に位置づけられている。それをエクセル・サポート・サービスの別部署が身を刺身や焼物・煮物に用い、残ったアラ部分を贅沢にもラーメンスープ用に使っているのだから、いいスープが摂れるのも当然だろう。「オイルにもこの鯛から出た脂を使っています。一般的な養殖鯛だと脂の匂いは残りますが、『鯛一郎クン』のアラは、そうではなく、すっきりしたもので、脂に甘みもあるんです」と「うまい麺には福来たる」のメニュー開発者が話していた。そこに干し海老やアサリ、干し貝柱などのエッセンスを加えて熟成させた醤油で味を調えていくそうだ。これが「鯛香る醤油らーめん」の味になっている。
鯛だしラーメンで人気を博す「うまい麺には福来たる」は、大阪市内に一号店の西大橋店と、西中島店、天五店の三つがある。店舗によって少々メニューは異なるが、前出の「鯛香る醤油らーめん」を基軸に、「潮仕立鯛塩らーめん」や「煮干醤油らーめん」「濃厚魚介鶏白湯らーめん」など。「食の現場から」にも記したが、酒粕プロジェクト2020から生まれた「酒粕香る四重奏鯛白湯」は、今年の2~3月の限定販売ラーメンとして提供していた。

「丹波黒豆みそ」を粗く挽いて甘海老と合わせる

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ところで、このラーメン店に私が「丹波黒豆みそ」を持ち込んだのは昨秋のこと。この取材を兼ねて丸新本家の味噌で味噌ラーメンを作ってみてはどうだろうと持ちかけたのである。同店のメニュー開発担当で、当時西中島店の店長を務めていた中村英司さんが、いたく「丹波黒豆みそ」を気に入り、「せっかくなら商品化できるようだものにチャレンジしたい」と言ってくれたのだ。酒粕プロジェクトの商品化もあったので、少し後回しになったが、「自信作ができましたよ」と年末に連絡が来たので1月の某日に西中島店をのぞいたのである。
中村さんは、丸新本家の「丹波黒豆みそ」を「味噌の中に豆の食感が残っているのが面白い。一般的な赤味噌より旨みが強いですね。豆の旨み、甘みが出ていて味の幅があります」と高く評していた。中村さんは、この特徴をいかすべく、「丹波黒豆みそ」をミキシングし、熟成させたいと思ったそうだ。「細かくミキシングすると、せっかくある粒々感がなくなってしまうので、あえて粗めにして使用しました」と話している。

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私の前にど~んと出て来たのは、有頭海老が一匹具として入り、存在感を出した一杯。この他に具には筍、菜の花、レアチャーシュー、かぼちゃ、レッドオニオン、あおさ海苔が使われていた。このラーメンも基本は鯛のスープ。そこに甘海老で味を調えて、春らしさを醸している。中村さんは当初、牡蠣で作ろうと試作していた。ところが酒粕プロジェクトと時期が重なってしまい、牡蠣のシーズンを逸してしまったらしい。なので春をイメージし、甘海老で調味することにした。生姜、ネギ、にんにくを炒めて香りを出し、「丹波黒豆みそ」と混ぜ合わせ、熟成させる。中村さん曰く「三週間以上寝かさないと味がなじまない」そうだ。この熟成させたものを味噌ダレに使用し、ラーメンに使う。味噌ダレと、カリカリに焼いて洋食技法を施した甘海老をミキシングして合わせ、ラーメンのベースの味を作る。それで鯛スープを割るのだ。「どうしてもラーメンのベースが鯛スープなので味噌の味が勝つと味噌汁に近づいてしまうんです。それを避けたかったので海老の風味をつけました。洋食の技法でカリカリに甘エビを焼いて味噌の中に閉じ込めています。油も入れてミキシングして逃すことなく海老の甘みを伝えているのです」と中村さん。スープを飲むと、味噌とともに海老の風味がパンチよく舌に伝わって来る。中村さんのこだわりは、さらに続き、麺と具を平げ、スープ全部を飲み干すと鉢の底に味噌の豆が残るようにしている。粗めにミキシングしたから豆が残るので、あえてそのこだわりをスープを飲んだ後に見えるようにしたのが心にくい。「粗く挽いた所にこのラーメンの妙が隠されています。味噌を溶くだけなら赤だしと同じなので面白くありません。鯛のあっさりしたスープでそれを上手く表現するには、甘海老や牡蠣といった味の濃い個性が必要だったのです」。この味噌ラーメンは、海老のオイルを使用している。スープを入れても層ができてオイルは浮いて来る。レンゲでそのスープをすくうと、まず海老のオイルが舌に当たり、そして味噌の風味が入っていく_、このように設計されているのだ。「オイルを制するとラーメンを制す」とはよく言ったもので、まさしくこの一品にうまく表現されている。
取材後、この「丹波黒豆みそ」で作ったラーメンは、商品化予定で進んでいる。中村さんの話では、「3月ぐらいに春の味噌ラーメンとして期間限定で発売したい」そうだ。丸新本家の「丹波黒豆みそ」は、一年半から二年の熟成を経てできるために品数もそんなに出回っていない。ならば供給量も限られるので「ひょっとしたら西中島店限定になるかもしれない」との話であった。この記事がアップする頃には「うまい麺には福来たる 西中島店」で食べられるのではなかろうか。商品化したなら再度味わってみたい_、そう思わせる一杯であった。

  • <取材協力>
    うまい麺には福来たる 西中島店

    住所/大阪市淀川区西中島5-9-2 新大阪サンアールビル東館1階 うまい麺には福来たる 西中島店

    TEL/06-6309-0141

    営業時間/11:30~15:00(14:40LO)
    18:00~22:00(21:40LO)

    休み/不定休

    メニューor料金/
    鯛香る醤油らーめん 820円
    潮仕立て鯛塩らーめん 840円
    煮干し醤油らーめん 820円
    煮干し醤油チャーシュー麺 1020円
    濃厚魚介鶏白湯らーめん 850円
    濃厚魚介鶏白湯チャーシュー麺 1050円
    酒粕香る四重奏鯛白湯(期間限定) 950円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい