78 2019年09月湯浅醤油・新古敏朗さんからよく評判を聞いていたのが紀の川市にある「コパン・ドゥ・フロマージュ」だ。ここの店主・宮本喜臣さんがかなりユニークなチーズづくりを行っているらしく、湯浅醤油のもろみ(ひしおもろみと同じもの)をイタリアに持ち込んでチーズをつくったそうである。新古さん曰く「チーズ変態と検索するとトップに出て来ますよ」とのこと。私達、食のマニアックな仕事を好む種族は、よく"変態"なるフレーズを用いてその仕事ぶりを讃え合う。そういう新古敏朗さんもその部類なのだから面白い。"醤油変態"である新古敏朗さんが"チーズ変態"と絶賛する人物ならぜひとも会って話を聞きたい。そう思って取材を申し込んだ。今回は、本取材のために「金山寺味噌」を使って作ってくれた一皿と、宮本さんの仕事をリポートする。あら川の桃で知られる紀の川市桃山町で出会ったチーズ職人について記すことにする。

コパン・ドゥ・フロマージュ 宮本喜臣
(コパン・ドゥ・フロマージュ店主)
「取材に際して金山寺味噌を見つめ
たら、チーズとの新たなマッチン
グが浮かんで来ました。醤油のも
ろみで作った『モロマッジョ』も
そうですが、湯浅醤油は地元の名
産として職人的気質をかきたてて
くれる商品ばかりです。」

欧州のチーズに和歌山のエッセンスを挿入

 

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少々言葉が悪いかもしれないが、「変態チーズ」とか、「チーズ変態」と検索してみると、トップに出て来るのが「コパン・ドゥ・フロマージュ」の宮本喜臣さんである。宮本さんは、和歌山では珍しいチーズ専門店を営んでいる。あら川の桃で知られる紀の川市桃山町の住宅街に店を構えており、わかりづらい場所にも関わらずなかなかの繁昌ぶり。どうやらその世界では名が轟いているらしく遠くから車を走らせて訪れる客が多いようだ。宮本さんのチーズづくりは国内はもとより海外からも注目されているようで、BBCまで取材に訪れている。冒頭のフレーズを考えたのは、かのコヤマロールで有名な「パティシエエスコヤマ」の小山進さんだそう。ある表彰式で宮本さんを「ヘンタイレベルのものづくり」と称えてたのがきっかけ。「加太淡嶋温泉大阪屋ひいなの湯」の赤間博斗料理長も宮本さんの作った「モロマッジョ」を紹介する段で「チーズ変態宮本氏が作り出す世界初のチーズ」と記しているくらいだ。

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さて、チーズ変態と称される宮本さんとはどんな人物だろう。宮本さんは、元サラリーマンで業務用食品会社に勤めていた。趣味が高じてチーズ専門店を開いたらしく、会社員時代に難関試験で知られるCPA認定チーズプロフェッショナルの資格を取得している。宮本さんは、プロセスチーズの印象が強かった時代にナチュラルチーズの存在を知り、「試食したらチーズの概念がこわれた」と言っている。独学で勉強するものの、和歌山ではナチュラルチーズを求める場所がなかった。そこで一念発起し、2014年11月末にこの地で「コパン・ドゥ・フロマージュ」を開いたのだ。これほどまでにわかりづらい場所で独立店舗を構えたのは、コスト的リスクを避けるため。それとある人に「チーズと暮らしなさい」とアドバイスを受けたから。そこで自宅を建てる時に一階部分にチーズ保管庫を設けた。いずれは独立をと考えての建築であったと話している。「コパン・ドゥ・フロマージュ」は、貴志駅やJR船戸駅が最寄りだが、そこからも15分かかるし、岩出根来ICからも25分かかる。この不便な所で商うには何か特徴がいる。なので「今までにないチーズを作る必要があった」と述べている。「神戸や大阪市内ならチーズ専門店として商売は成立しますが、和歌山はチーズ普及率や消費率が全国で最下位。ならばうちなりの個性を打ち出さなければわざわざ買いに来ないでしょう」と説明していた。

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同店では、ベースのチーズを仏、伊、英、スペインなど欧州より仕入れている。それに宮本さんが風味づけして新たな息吹を加えていく。特に地元和歌山を意識したものが多く、湯浅醤油のもろみや醤油を使ったものも見られる。「ブル・アッラ・カネッラチーズ」もその一つで、これは中野BCとコラボして作ったものだ。和歌山は梅の産地で、家庭で梅酒を仕込む習慣がある。梅酒メーカーである中野BCの中野さんと"梅酒を愉しむチーズ"を世界に向けて発信したいと考えた。「ブル・アッラ・カネッラチーズ」は、中野BCのスピリッツ「貴梅酎」を用いて作っている。このスピリッツでブルーチーズを洗ってほのかに梅の香を持たせる。表面にシナモンとニッキをまとわせて作り上げる。ニッキは和歌山・清水のもので、日本で唯一自生しているものだとか。ニッキの香りが強すぎてもダメなのでシナモンでマイルドにさせているようだ。「梅酒に合うチーズとして考案しました。チーズにも梅酒をいかした風味づけを施しましたが、ブルーチーズに甘口白ワインを合わせた雰囲気に似ています。外国のニッキだとこうにはならないですね。日本のニッキを使用した点もいきています」。宮本さんは、これをイタリアから発信したいと考え、あえて伊のチーズを「コパン・ドゥ・フロマージュ」風に仕上げた。

調和と引き立て役をテーマに一皿を考案

 

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前述したように赤間料理長が絶賛していた「モロマッジョ」は、湯浅醤油「蔵匠 樽仕込み」のもろみ(ひしおもろみと同様のもの)を用いて作る逸品。醤油のもろみをイタリアに送り、フレッシュチーズをそれに漬け込む。酵素がチーズのタンパク質を分解するからだろう、熟成のスピードが速くなるそうだ。通常一年半で熟成するところを一カ月くらいしかかからないと説明している。「普通、塩水に漬ける所をひしおもろみに代えているんです。そうすると独特のフレーバーがついて今までにない旨みが生じました」と話す。今は一次加工したものをイタリアから出荷させ、二次加工をここで行って仕上げている。レストラン専用の販売で、チーズのまん中だけを切って使うという贅沢なカットで売っている。「外国ではそんなことは決してしないでしょう。いい所だけを使うという日本的発想から作っています」。まさに和の雰囲気を有したチーズで、チーズの外側と内側で味が異なる。湯浅が日本の醤油発祥の地で、そこで造られたもろみを使うわけだから本当に和歌山ならではのチーズといえよう。ちなみにこのチーズは、100gが1800円。1ホールをカットして売っているだけなのでグラム数がまばらな販売ということであった。

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ところで本日は、この取材用にと宮本さんがチーズに丸新本家の「金山寺味噌」を合わせた一品を披露してくれるという。一つの皿に載ったチーズは左からカマンベール、パルミジャーノ、ヤギチーズ。このうちヤギチーズは、「鈴」と名のついた商品で、和歌山県内で初めてヤギの乳製品をつくっている有田川沿いの「生石高原やぎ暮らし」のものを使っている。同牧場ではヤギは牧草しか食べないために出て来るミルクもクセがなく、それで造ったチーズは臭みがない。
今回はカマンベールの上に「オリーブ金山寺」を、パルミジャーノには「にんにく金山寺」、ヤギチーズに「わさび金山寺」と、各々趣きの違った金山寺味噌を合わせた。「オリーブ金山寺は、甘みがあって食べると風味の余韻が長い。クセのあるもの同士がうまく調和しています。一方、パルミジャーノににんにく金山寺を載せたのは、料理のような発想です。当初は伊やスペインのチーズにしようかと思ったんですが、乳脂肪が高いとにんにくとは合わなかった。その点、パルミジャーノは脱脂しているのでいいと思いました。こうすることで金山寺味噌が引き立つんですね」。ヤギチーズは、夏場がベストだとか。春には香りがあるもののコクがなく、逆にススキを食べ出す(秋)と香りが落ちてコクが出る。季節ごとで色んな特性を持っている。食べると、臭みもクセもなく、ざらっとした舌ざわりがする。そんな感じが「わさび金山寺」にマッチするのだと宮本さんは言う。「まさに具材とチーズが調和した一品ですね」と宮本さん。できれば、ワインではなく、日本酒のアテにしたい_、そんな雰囲気を持った一皿であった。

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宮本さんは、この一皿で金山寺味噌との調和やその引き立たせ役をチーズで表現したかった。パルミジャーノは金山寺味噌の引き立たせ役だったのに対し、あとの二品はチーズと金山寺味噌の調和をテーマにしている。三つのチーズと三種の金山寺味噌で、これだけ世界が広がるのだ。「できれば、チーズと日本酒が合うことを証明したいですね。この二つの組み合わせはイメージが湧きにくいという向きもいますが、実はワインより合うんじゃないかとさえ思っているんですよ」。ちなみに先の「モロマッジョ」は、古酒やシェリー酒に合うらしい。「甘みが合ってひねているものとマリアージュさせたい」と話していた。このように色んな視点からチーズを仕上げていくのが宮本さんの特徴。だから個性的な店として「コパン・ドゥ・フロマージュ」が消費者やプロの料理人に映っている。わかりづらい場所でもこれだけ繁昌している理由がこの取材でも垣間見られた。

  • <取材協力>
    コパン・ドゥ・フロマージュ

    住所/和歌山県紀の川市桃山町調月769-136 コパン・ドゥ・フロマージュ

    TEL/0736-60-7175

    営業時間/火・水・金・土曜日10:00~16:00

    休み/日・月・木曜日

    メニューor料金/
    モロマッジョ 100g1800円
    ラングル酒粕仕上げ 100g1200円
    BUKOきんかん味噌づけ 850円
    BUKOトロピカルフルーティ風 900円
    コンテ・エクストラ 金山寺味噌和え 800円
    ウイスキーチェダー 100g1200円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい