88 2020年11月 「チョコレートを生活の中に取り入れて豊かな時間を」。そんな思いから世界中の高品質なチョコレートを日本に紹介しているのが「トモエサヴール」の札谷加奈子さんだ。彼女はチョコレートのソムリエであり、バイヤーでもある。インターナショナルチョコレートアワードの審査員も務め、一年に約1000ものチョコレートをテースティングするのだという。そんな札谷さんが、湯浅醤油の良さに惚れ抜いて、欧州のショコラティエに醤油を紹介した。この活動の中で生まれたのが、デンマークのフリスホルム社が造った板チョコ「メダクラソイ」である。この商品は、2019年に欧州で発売し、日本でも2020年のバレンタイン商戦に登場している。「メダクラソイ」に続き、札谷さんらが仕掛けるのが、2021年1月半ばに新発売する予定の「カカオ醤(ジャン)」。この商品は、世界初になるカカオを使った醤油で、湯浅醤油の新古敏朗さんを札谷さんがベトナムのカカオ産地ツアーに誘ったことからプロジェクトが始まっている。チョコレートの風味を有したカカオ醤油とは、どんなものなのか?今回は、札谷さんに取材することで発売前にちょっとだけその内容を見せることにする。

トモエサヴール 札谷加奈子(トモエサヴール代表取締役社長)
(チョコレートソムリエ&バイヤー)
「カカオと醤油の両方を感じ取る
ことができる、今までにない味。
『カカオ醤(ジャン)』は、甘い
だけじゃないカカオの楽しみを
伝授できる画期的な商品になる
はずです。
もはやこれはチョコレートの第五の
発明と言われてもいいかもしれませんね」

インターナショナルチョコレートアワードの審査員をも務める女性

 

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カカオを使った醤油が世に出ようとしている。湯浅醤油の新古敏朗さんと、「トモエサヴール」の札谷加奈子さん、そして仏国「エリタージュ」のアーノード・スタンジェルさんの三人がコラボした商品で、2021年1月半ばに発売予定。「カカオ醤(ジャン)」と名づけられたその醤油は、世界初のものとして話題になるに違いない。今回、取材した「トモエサヴール」の札谷加奈子さんは、「カカオ醤(ジャン)」の開発のきっかけを作った人物だ。チョコレートソムリエとして活動し、高品質のチョコレートや食品をセレクトして日本に紹介する仕事をしており、自身が営む「トモエサヴール」でも高品質なBean to Bar(カカオ豆からチョコレートまで一貫生産すること)を販売している。
札谷さんがチョコレートを生業にするきっかけは、高級輸入チョコレート専門店に勤めたことによる。チョコレートというと、バレンタインデーが最大の商戦だが、その時期にだけ買いに来る人が目立つ。札谷さんが店長をしていて思ったのは、ショップ自体が春から冬まで閑散としていること。そしてバレンタインデーのプレゼントに買う習慣が根づいているだけでその購入者自身が食べていない現実があった。こういったことから札谷さんは、日本ではその歴史はあってもチョコレートを楽しむ文化が根づいていないことを実感したという。「もっと身近かにチョコレートを生活の中に取り入れて、心も豊かになるような時間を過ごしてもらいたい」と独自で活動をスタートさせた。カカオ生産者の思いやメーカーの思いを届けたいと考えて「トモエサヴール」を設立させている。社名のトモエとは"巴"を指し、サヴールは味を意味している。身体によくて、精神が満たされ、その上、地球にもいいとの三方良しの考えからつけられた名らしい。札谷さんは、2014年よりインターナショナルチョコレートアワードの審査員に加わっている。特にカカオ生産国の審査や米国大会では最終選考員を務めており、計7名いるメンバーで日本人は札谷さんだけだとか。一年でテースティングする審査用チョコレートだけで約1000サンプルにも及ぶというから凄い。2013年から札谷さんは、高品質なBear to Barを日本に紹介。タブレット(板チョコ)のみを展開するタブレットミュージアムを阪急うめだ百貨店と共同プロデュースしている。こんな活躍もあって今では日本でも多くのタブレット専門店が認知されて来た。イベントでテースティング会を催したり、カカオ産地ツアーを実施するなどその活動は多岐に亘っているようだ。

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そんな札谷さんが、湯浅醤油の新古敏朗さんと知り合ったのは、「コパン・ドゥ・フロマージュ」の宮本喜臣さん(名料理、かく語りきvol.78参照)がきっかけ。宮本さんが札谷さんを伴って湯浅の醤油蔵見学を行った。その翌年、札谷さんが主催するベトナムのカカオ豆の産地ツアーが行われ、それに新古敏朗さんも参加している。チョコレートも発酵食品だと知っていたので気軽に参加したようだが、一週間ベトナムに滞在し、カカオ発酵施設を見て歩く中で、「カカオに麹菌をつけたらどうなるのだろう」と頭に浮かんだらしい。実験用に少し持っていた麹菌をつけてはみたが、うまくいかなかったようだ。2018年のツアーでは、湯浅からもう一度麹菌を持って行き、現地でカカオ豆にそれをつけている。やがてこの研究から世界初のカカオ醤油が生まれるとは、この時誰もが予想しなかったろう。

 

 

湯浅醤油を用いたデンマーク産の板チョコ

 

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札谷さんと新古敏朗さんのコラボは、「カカオ醤(ジャン)」が初めてではない。その前にできたのが板チョコ「メダクラソイ」である。このチョコレートは、デンマークのチョコレートメーカー「フリスホルム」が造った。札谷さんの企画するタブレットミュージアムに同社のミッケル・フリスホルムさんを招聘した折りに、彼女は、デンマーク人の氏に畳の部屋で泊まってもらいたいと考えた。そして加太淡嶋温泉「大阪屋ひいなの湯」を予約したのだ。そのついでに訪れたのが湯浅醤油の蔵で、そこでフリスホルムさんは醤油づくりを見た。それがきっかけとなり、湯浅醤油を使った板チョコ「メダクラソイ」が完成する。ミッケル・フリスホルムさんは、和歌山の産物がいたく気に入ったようだ。湯浅醤油と、和歌山産の柚子、ぶどう山椒を用いた三つのチョコレートを造っている。このうち「メダクラソイ」は、2019年のバレンタインデーに販売しているのだ。
「メダクラソイ」は、板チョコなので醤油を用いるといっても当然ながら水分は入らない。なので「樽仕込み」のもろみを凝縮させてフリーズドライのパウダーに加工して使っている。チョコレートの表面がツルツルしているのに対し、裏面がざらついているのは、醤油パウダーが入っている証し。裏面を舌につけると、醤油の味が伝わり、旨みを感じながら溶けて行くのがわかる。チョコレートの風味と醤油の旨みが口内で混ざり合うのが実感できるのだ。札谷さんが間に入ることで完成した「メダクラソイ」は、現在、「トモエサヴール」のオンラインショップで購入することができる。ちなみにメタグラとは、ニカラグアのカカオの単一品種名。穫れる量が限られているカカオであまり流通していないらしい。ソイは大豆の意で、海外では醤油のことをソイソースと呼ぶようにここでもその意から名づけられている。

ボトル白抜き(ペースト) ボトル白抜き(粒)_n DSC00579

ところで、冒頭の「カカオ醤(ジャン)」であるが、これは2021年1月半ばの発売として決まった。遊びのような感覚で始めたものだが、あれこれと試行錯誤しているうちに四年の歳月が経ってしまった。そもそも醤油は、大豆と小麦で造る。その比率や熟成度合によって濃口になったり、淡口になったり、たまりになったりするのである。2017年にベトナムに行った時は、カカオ豆に麹菌を遊びでつけてみたが、当然うまくはいかず帰国している。翌年、試した際は、和歌山から再び麹菌を持って行き、現地でカカオ発酵を試した。その時は、カカオの果肉には麹菌がつきにくく、茹でて干すとつくのがわかったに過ぎなかった。それから大豆の代わりにカカオ豆を用いたり、小麦を使わず造ったりしたが、結局、チョコレートのような風味は出なかったそうだ。チョコレートを造る時にカカオの実をローストするので、そのようにしないと風味が出ないのではと考え、改良してみると、見事にその手の風味を持ったものに仕上がったという。最終的に行き着いた手法は、醤油にローストしたカカオを漬けて寝かせること。しかもどんな醤油でもいいかというと、そうでもなく、金山寺味噌のたまりから造る「九曜むらさき」が一番適合していた。醤油にローストしたカカオ豆を融合させ、瓶内発酵させることでチョコレートのような風味を含ませる。このようにしてできたのが「カカオ醤(ジャン)」なのだ。
これを口に含むと、一瞬甘いと思ってしまう。砂糖を添加していないのにそう感じるのは、過去の食経験からだろう。醤油なのにそう思わせてくれる不思議さがこの商品にはある。札谷さんは、「カカオと醤油の両方の風味を感じ取る、今までにはない味」と表現している。ちなみに価格は140gで1500円(税別)で粒タイプとペーストタイプの二種がある。ともに「トモエサヴール」と湯浅醤油からネット販売し、2021年のバレンタイン商戦では、札谷さんのトモエサヴールコーナーにて販売する予定になっているそう。加えてアーノード・スタンジェルさんの「エリタージュ」もカカオ醤油プロジェクトに参加する。湯浅醤油と「トモエサヴール」「エリタージュ」の三社で、「発酵(HAKKO)エレメンツ」なるブランドを作り、世界発売を視野に入れて動き出す計画も進んでいる。

  • <取材協力>
    トモエサヴール

    住所/大阪市中央区平野町3-3-7-408

    TEL/06-4963-3349

    営業時間/TEL/06-4963-3349
    FAX/06-4963-3717
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    ※問合せはHP問合せフォーム又はメール(info@t-sav.com)にて


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい