102 2022年03月度々このコーナーに登場する「北新地西洋料理ふじもと」。今回は、いつもの藤本直久さんではなく、彼の長男・藤本祐太さんにスポットを当てる。同店は、その店名から西洋料理の店だとわかるが、内容はそんな単純なものではない。オーソドックな西洋料理に根ざした自由表現のある店とでも言っておこうか。かくいう私も新古敏朗さんもこの店の虜になっており、足しげく行っているのだ。いつもなら藤本直久さんに私のムチャぶりを具現化してもらうのだが、最近は彼の息子・祐太さんもそのターゲットに入って来た。ならば若き料理人の腕だめしとばかりに今回は、「具だくさん金山寺味噌」と「カカオ醤」などを手渡し、ユニークな使い方を考えてもらった。さて西洋料理店の若きバッターは、いかにムチャぶりに応えたであろうか。とくとご覧あれ。

北新地 西洋料理店ふじもと 藤本祐太
(「北新地西洋料理店ふじもと」料理人)
「西洋料理では、ほぼ使わない
金山寺味噌を手にした時、
いかにこれで調味してやろうかと考えました。
結果、金山寺味噌と
ヴァンブランソースの融合に。
共通点は発酵食品で、できるだけ塩を用いることなく、
その特性で調味してみたんです」

野球も料理も父子鷹

 

 私が近年とみに通っている店がある。その一つが北新地に立地する「西洋料理店ふじもと」だ。同店は、東京の帝国ホテルやホテルオークラ神戸など名門を歩いて来た藤本直久さんが営んでいる。藤本直久さんは、天皇の料理番として知られる秋山徳蔵の料理を目指しており、流行に左右されずひたすらオーソドックスな料理を追求しているのだ。

本人は「うちの料理は映えない」と謙遜するが、本質的なものを追いかけるのは、まさに王道。昭和の初めに華族などが好んで食べていた西洋料理を今に具現化する店は早々ない。写真映えはしなくともグルメにとっては面白い。洋食ではなく、西洋料理店とは、うまく冠したものだと感じてしまう。藤本直久さんは「曽我さんは無理を言って来るから」と冗談めかしく話しているが、私のムチャぶりにも、いつも創作意欲を持って接してくれている。それでいて西洋料理店の範疇に収めて料理表現をしてくれる所が実にいいのだ。なので彼をプロジェクトについつい巻き込みたくなってしまう。

最近は、私の無理強いは彼の息子にまで及んでいる。今回の主役である藤本祐太さんは、直久さんの長男。以前は有名なゲストハウスに勤めていたが、コロナ禍になってからはそこを辞め、お父さんの店で調理場に立っている。何を隠そう藤本祐太さんは、元甲子園球児なのだ。直久さんが元野球少年で名門校・東洋大姫路の野球部出身だったこともあり、藤本家は野球一家である。球界ともつながりがあるのだろう_、彼らの店には時たまプロ野球のOBや現役選手も食事に来るという。藤本祐太さんは、ボーイズリーグで野球をし、その後甲子園の常連校・履正社に入学した。2008年のセンバツでは、甲子園(全国大会)に出場している。今でこそ履正社は高校野球の優勝候補に挙げられるが、当時は甲子園での勝利がなかったそう。「私が出場したセンバツが初勝利で、その時はベスト16まで進みました」と藤本祐太さんが教えてくれた。彼は履正社ではクリーンナップを打っており、その時の二学年下にヤクルトの山田哲人がいたそうだ。藤本祐太さんのチームは、三回戦で埼玉の聖望学園に敗れた。その年は聖望学園が準優勝したというから藤本祐太さんのいた履正社は少々不運で、その実力校に7対5で負けたことになる。ちなみにその時の優勝は沖縄尚学で、投手は今もソフトバンクで活躍する東浜巨であった。

 藤本祐太さんは、大学でも野球をやっていたが、卒業すると、父親と同じく料理人の道を志す。父の伝手を頼らず入ったのが、神戸・北野町にあった「ジャンティオジェ」。名店「ジャンルーラン」のDNAを継ぐフランス料理店である(「ジャンティオジェ」の話は「食の現場から」第40回参照)。同店で仏料理の基礎を学んだ祐太さんは、いくつかの店で修業し、最終的には「ガーデンオリエンタル大阪」で厨房に立っていた。ここは結婚式などを行うゲストハウスなので多人数の料理を学ぶには適していたと思われる。藤本直久さんも「祐太は父親に頼ることなく、自身の目的に合った店を探して就職していました。若い時に大規模宴会の調理を学ぶのはいいことで、その段取りを覚えていれば、どんなパターンでも応用できます」と言っていた。当時は昼に忙しいゲストハウスで仕事をし、夜は父親の店に顔を出す日々だったが、コロナ禍になってから父親の勧めもあって「西洋料理店ふじもと」に専念するようになっている。

藤本祐太さんは、就職先で色んな料理人に仕えて来たが、師匠は父親になるのだろう。藤本直久さんの影響を受けていると思われるのは、「西洋料理を突き詰めたい」と言っていることだ。ただお父さんが「目指すのは天皇の料理番・秋山徳蔵」と言っているのに対し、彼は「伊・仏限定ではなく、もっと大きな枠で西洋料理を捉えたい」と語っている。ここが経験値の差かもしれない。藤本直久さんは、色んな意味で料理を知り尽くしている。だから「かつて日本の華族が食べていた西洋料理」と限定しているのだ。同じ西洋料理枠でもベテランと若手では捉え方も変わって来る。これからは二人の複合がコース内に表れていけばより面白くなっていくのだろう。

現在、藤本祐太さんは、同店でパスタ系やデザート類を任されている。そういえば、酒粕プロジェクト(「食の現場から」第101回参照)での参加作品では、彼が考案した「酒粕パウンドケーキ」を作っていた。この品は、旧来のパウンドケーキよりかなりしっとり系に。中心が80~85℃にすることで、中まで火が入ったわりにしっとりと仕上がるそう。「温度が高いと、酒粕の香りが出ず、パサつくのでそれを避けた」と説明していた。焼き立てだとしっとりしすぎるので固まりにくく、一日冷蔵庫で寝かせて仕上げる。すると酒粕香が漂い、しっとり酒粕が残った味わいになる。酒の弱い人は、このケーキでも酔ってしまいそうになるぐらい酒粕が利いている。これとて私のムチャぶりに応えた仕事であり、直久さんにしてこの子ありの仕事ぶりである。こんな腕前を見せてもらうと、またムチャぶりする候補者が増えたと私はほくそ笑んでしまう。

「カカオ醬」の個性を生かし、タイプ別に使い分けを

 

 さて、本題の料理の話に入ろう。「西洋料理店ふじもと」では、普段から湯浅醤油を使っている。それに「カカオ醤」新発売に向けてのマスコミ発表会を同店で催したので、すでに商品特性を理解済みだ。ならばお手のものだろうと、藤本祐太さんに「カカオ醤」と「具だくさん金山寺味噌」を使って新たな料理を考えてもらった。彼が創作したのは、①「カカオ醤とあえみそを使った若鶏のキノコリゾット」②「鯛とアサリのポシェ 金山寺味噌を使った白ワインソース」③「カカオ醤のパンケーキ」だ。タイトル通り②には「具だくさん金山寺味噌」が、①と③には「カカオ醤粒タイプ・ペーストタイプ」が用いられている。さらに①には「かけるだし」を、②では「あえみそ」も使っているのだ。

 まず「カカオ醤とあえみそを使った若鶏のきのこリゾット」だが、これは前日から「あえみそ」と「カカオ醤ペーストタイプ」を合わせたものを、さらしで包んだ鶏肉に日本酒で延ばして準備することから始める。「直接塗るのではなく、鶏肉をさらしに巻いてその上から塗りつけ、マリネするんです。そうすると、香りが上手く入り、上品な味わいになるんですよ」と藤本祐太さんはその手法を説明していた。リゾットは、玉葱・舞茸・戻し椎茸・エリンギをソテーし、生米と合わせて椎茸の戻し汁とブイヨンで炊く。出来上がって来たと思ったら「かけるだし」で調味するのだ。一晩寝かした先程の鶏肉をさらしから取り出し、弱火で色をつける。スライスして表面をバーナーで炙り、味噌の香りが立つように。こうすることで食べた時に口内に味噌の香りが漂うようになるらしい。この鶏肉をリゾットに載せて芽葱「カカオ醤粒タイプ」を載せれば出来上がる。

二品目の「鯛とアサリのポシェ 金山寺味噌を使った白ワインソース」は、見ためよりかなり複雑な工程を辿って出来上がる。まず白ワインソースづくりからスタートを。鯛のアラからだしを摂り、ここにアサリを入れてその汁を出す。これがベースのだしになると考えて欲しい。その横で別工程を進めておく。表面に焼き色をつけたマッシュルームに生クリームを加えて煮詰める。エシャロットを細かくカットして白ワインを注ぎ、液体がなくなるまで煮詰めて行く。これを先ほどの生クリームに入れ、沸騰するくらい火にかけてから裏漉しするのだ。こうすることでヴァンブランソースが出来る。「ヴァンブランソースは、本来なら魚のだしで作るのですが、今回はアサリと鯛のだしで仕上げています。アサリがあることで旨みがアップし、味噌を使うのに適したベースになるんですよ」。

次に皮付きの鯛を皮目だけ焼き、身は生の状態に保たせ、皮のみをはがしておく。皮は弱火で熱をさらに加え、皮せんべいのようにしておく。カットした鯛身は、アサリのだしと先程のヴァンブランソースで蒸し焼きにして置いておく。鍋にヴァンブランソースとアサリの身を入れ、軽く温めて「具だくさん金山寺味噌」を加えるのだ。「こうして金山寺味噌とヴァンブランソースをなじませます。塩味は、金山寺味噌自体にあるものを用いて調味するんですよ」。パスタを茹でてソースを絡めるのだが、このソースは鯛の入った鍋の中にアサリとヴァンブランソースが残っているので、そこに鯛のだしを入れて混ぜて仕上げるという。ソースを絡めたパスタの上に鯛身を盛り付け、鯛の皮と芽葱を載せれば完成する。

お父さんの藤本直久さんも「見ためはシンプルだが、かなり複雑な工程を経て出来上がる」と解説しており、「モノは無駄なく使えてロスがほぼない」と評していた。塩コショウは使わず、ほぼ金山寺味噌のみで調味している点も面白い。

 三つめは、藤本祐太さんお得意のデザート。ここでは甘くないデザートを「カカオ醤」で表現している。まずソースは、グラニュー糖でキャラメルを作り、苦くならないようその手前で火を止める。水を注ぎ、濃度をゆるめ、生クリームをその余熱でとかしていき、キャラメルソースを作っておく。次にマスカルポーネに生クリームを加え、8分立てに泡立てる。ここに「カカオ醤粒タイプ」を入れて仕上げるのだ。生地に「カカオ醤ペーストタイプ」が入ったパンケーキを焼き、中に先程のマスカルポーネを挿入。仕上げに「カカオ醤粒タイプ」を加えたキャラメルソースをかける。このようにして甘くないデザートが出来上がる。

甘く感じるのは、キャラメルソースのみ。これとて「カカオ醤」が入っているので甘々ではない。マスカルポーネもパンケーキも「カカオ醤」を用いているので十分塩味を感じ取れる。この塩味のあるデザートをマスカルポーネとキャラメルソースでいい塩梅(あんばい)のスイーツにしているのだ。「カカオ醤は、チョコレートの風味を持つものの、やはり醤(醤油)なので塩味は十分にあります。火を入れるとカカオの香りが飛ぶので、いかにそのまま使えるかが、課題でした。甘くないデザートを目指しましたが、塩味を足したりせずに『カカオ醤』の持つ塩味のみで仕上げるようにしました」と藤本祐太さんは説明していた。ペーストタイプは生地に入れてなじませ、粒タイプは食感がわかり、味わえるようにその用途を区切った。こうすることで食べた時の「カカオ醤粒タイプ」の良さが出るとも話していた。

この仕事からもわかるように藤本祐太さんは、デザートに関してユニークな創作をしようとしている。そこは、お父さんの目指すは秋山徳蔵の料理とは少し違う点だろう。「よくお土産がほしいと言われるので、将来は持ち帰りが可能なデザートをメニュー化したいと思っているんですよ」と話す。その辺りが具現化すれば「西洋料理店ふじもと」は、また別の顔を見せるのかもしれない。現在、ランチもやっており、それは藤本祐太さんが任されているようだ。父と子_、西洋料理という土壌の中でも若干の表現差を持つ。これが今後の店の個性に繋がって行くのかもしれない。

  • <取材協力>
    北新地 西洋料理店ふじもと

    住所/大阪市北区曽根崎新地1-10-16永楽ビル5階

    TEL/06-6344-7881

    営業時間/ランチ11:30~13:30LO
    ディナー17:00ぐらいから(大抵は17:00~22:00まで)

    休み/不定休(予約がなければ日祝日)

    メニューor料金/
    コース 5000円、7000円、9000円他
    ふじもとのハンバーグ 1500円
    和牛ビーフシチュー 3800円
    ノルウェーサーモンステーキ 1800円
    デミグラスソースオムライス 1000円
    1プレートランチ 800円



筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい