80 2019年11月第61回と69回で紹介した北新地の名店「北新地西洋料理店ふじもと」。流行を追いかけず、かつて華族が食べていたであろうオーソドックスな西洋料理をコンセプトにする_、そんな藤本直久シェフにファンが多くついている。本物をわかるグルメ達は、奇をてらうことなく本質を求めているからこの店に通い続けるのであろう。そんな藤本さんの店が昨年11月に移転してスペースが広くなった。藤本シェフ念願のオープンキッチンで、これまで以上にハッスルしていそうな気すら感じる。カウンター8席、テーブル二つの陣容だが、キッチンは広く、客席もたっぷりスペースがあるのだ。新装移転祝いも兼ねてこのコーナーで再び取り挙げようと思い(実は以前の記事を読んで出かけてもらっては場所が違っているので困ると思って…)、「魯山人」醤油を手に訪ねてみた。藤本シェフはこの手土産をどのように使ったのかレポートしよう。

北新地 西洋料理店ふじもと 藤本直久
(北新地西洋料理店ふじもとオーナーシェフ)
「他の醤油に比べて実にマイルドな
味で、アミノ酸の量の凄さに
驚かされました。
後味がいいのも特徴の一つで、
塩味は消えるけれど、甘味は舌に
残っています。
まさに飲める醤油です。」

藤本シェフの店が移店。場所は変われど値段とコンセプトは同じ

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このコーナーに過去二回登場している「北新地西洋料理店ふじもと」が昨年の11月に移転した。前の店は北新地の南にあったのだが、今度は北側、国道2号線沿いの永楽ビル5階に移っている。カウンター10席と小ぶりだったのが、今度はカウンター8席に、4人がけテーブル二つ、計16名まで収容でき、スペースがぐんと広くなっている。藤本直久シェフ念願のオープンキッチンで、我々は彼の仕事ぶりを見ながら料理を待つのだが、藤本さんはその様子がおかしいらしく、「まるで旭山動物園のよう」とたとえている。以前の店ではそうでなかったのかといえば、やはり視線は彼に注がれていた。ただ料理人と客席の間が近すぎたためについつい話しかけてしまい、今のような感じではなかったのだ。今の店も同様に話しかけはするが、調理が立て混んでくると、調理場がちょっぴり遠のいたせいか、黙って見るしかない。まさに動物園の熊か虎を眺めるようにである。ただ、今度はカウンター席全方向から見えるので、なかなか面白い。藤本さん曰く「王子動物園の手長猿が調理しながら話しかけられている」は言いえて妙だ。

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藤本さんは、東京の帝国ホテル、ホテルオークラ神戸、ガーデンホテル関西(三井ガーデンホテル)と、名門ばかりを歩いて来た。歴としたフレンチの料理人なのでフランス料理の店をやるのかと思いきや、洋食の分野で独立したのだ。洋食といっても町場のそれではなく、実に北新地的な店。ワイン片手にハンバーグが何となく似合うのである。時間によっては藤本さんの友人のピアニスト・村田敏明さんの演奏が入る。これを"洋食屋"と言ってしまうと、誤解を招く恐れがあるので、私は看板にあるように"西洋料理店"とジャンル分けすることにしている。
昨今はインスタ映えよろしく、味よりも見ためを重視する料理が増えたように思う。それが時流といってしまえばそうかもしれないが、私はそんな風潮を好ましく思っていない。藤本さんのいい所は「私の料理はオーソドックスな西洋料理なので決してインスタ映えしない」と言い切る点。メニューを見てもハンバーグだの、サーモンステーキだの、ビーフシチューにオムライスと、変わったものはない。だが、彼の料理を口に入れると、パッとその世界観が輝いて見えるからびっくりする。"人は外観によらぬ"じゃないけれど、料理は決して奇抜である必要なんてない_、そんな風に思えるのだ。
「北新地西洋料理店ふじもと」のコンセプトは、大正期や昭和初期に華族が食べていた料理。目指すは天皇の料理番・秋山徳蔵と話している。ちなみに天皇の料理番でも佐藤健ではなく、堺正章の方らしい。その昔、秋山徳蔵はビフカツを初めて食べてコックになろうと思ったそうだ。藤本さんは、堺正章演じる秋山徳蔵を見て料理人を志したという。先日、私が食べに行った時、そんないわくありげなビーフカツレツを作ってくれた。本来は仔牛でやるが、この日は近江牛A5ランクのイチボで。仔牛を叩いて伸ばしてパン粉につけるというウインナーシュニッツェルではなく、刺しのある牛肉をコルドンブルー風に作ってくれたのだ。肉の間にモッツレラチーズを挟み、部厚めの近江牛にパン粉をまぶしてバターで焼く。ソースは伝統的な赤ワインで作ったデミグラスソース。素材も良ければ、味も優しい。舌に吸いついたかと思えば、パッと離れて行く。その別れ際が実に心残りなのだ。こうしたアレンジは引き出しの多さであり、調理のオーソドックスさは安心感につながっている。言葉というのは、何となさけないものか、それ以上の表現がなかなか上手くできない。それほど藤本さんの料理は魅力的なのだ。

 

「魯山人」醤油の特性を考えたら人肌で

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ところで、私は今回も湯浅醤油の品を手土産にして彼に渡し、「これを使って料理を作って」とリクエストした。この店では前から湯浅醤油製品を気に入って使っており、「樽仕込み」「かけるだし醤油」「柚子ポン酢」を茶目っ気たっぷりに三種の神器なんて呼んでいる。西洋料理といえど、これら醤油の活躍の場は多いらしく、藤本さんも「ヘタにいじくるより優秀な醤油をつけて食べる方が旨い」と言っている。藤本さんの技術が加わったソースと比べると、またジャンルが違うのだろうが、私もシンプル・イズ・ベストがけっこう旨いと思っている。
藤本さんは、お客さんに「湯浅醤油を使っている」と話したら「魯山人は?」と聞き返されることが多いらしく、藤本さんも前々から一度それを使ってみたいと思っていたようだ。そこでこのコーナーの取材用に「魯山人」醤油を渡すことにしたのである。
この「魯山人」醤油を味見した時に藤本さんは、かなりレベルが高い醤油なので火を入れて加工したくないと思ったそうだ。そこで鹿児島産黒毛和牛のヒウチ(A5ランク)を炙りにしてシンプルに「魯山人」醤油で味わう料理を作ることにした。ソースは「魯山人」醤油に「かけるだし醤油」を少し加え、静岡の生わさびと有馬山椒(山椒の佃煮のこと)で作っている。「あまり仕込みをせず、素材感を持たせたい」としている。炙った方が脂は旨いというが、これも素材感が傷まぬ程度に炙っているので中はレア状態に。「これはミキュイという調理法で、人肌仕上げの意味です。バターを焦がす手前で火を止めます。まさに泡立つくらいがそのサインなのです」と藤本さんは教えてくれた。人肌という調理法なので熱いのをかけてしまうと意味がない。バターの甘さと醤油の甘さで、刺しの入った牛肉を食べる_、そんな料理がこの「鹿児島産黒毛和牛のヒウチの炙り 魯山人ソースで」なのだ。

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二品目も「魯山人」醤油をいかした一皿。こちらはノルウェーサーモンを使っている。今でこそノルウェーサーモンは当たり前になっているが、藤本さんが修業していた35年前は凄いブランドだった。ノルウェーでは、コンピューター管理を行っていて一匹ずつ個体がわかっているらしい。そして北海道と変わらぬぐらいの鮮度も保っているという。藤本さんは「魯山人醤油に勝つにはノルウェーサーモンしかない。紅鮭では負けてしまう」と言い切っている。そんなノルウェーサーモンを塩コショウし、バターソテーにする。初めは強火でさっと熱を入れ、周りに火が通ったら寝かせる。すると、身にじわっと熱が入り、人肌くらいになるという。上にイクラを載せ、ソースは「魯山人」醤油+バター。この時の「魯山人」醤油には一切火が入っておらず、バターの油が影響して、かけるとまだらになってくる。「普通、サーモンは冷めたらパサパサニなってしまいますが、これは人肌感覚だから大丈夫。先の牛肉同様、ミキュイの技法を施して作っています」とは藤本さんの解説だ。
今回は「魯山人」醤油をテーマにしたためにその風味を損なわぬようどちらもミキュイなる調理法を用いたようだ。取材の時に印象的だったのは彼の修業時代のエピソード。師匠がある日、「お前達の料理はフランス料理じゃない!フランス風の和食なのだ」と言い切ったそうである。別に技術うんぬんを指摘したのではなく、文化の違う国に育ったのだからそうなっても仕方がないと師匠は言いたかったのだろう。よく日本のフレンチで、「私はフランス料理を作っているのだから醤油や味噌を使うなんてもってのほか」と言うシェフがいる。でもフランスへ行くと、現地のシェフ達は何か新しいものを見つけたかの如く、醤油を平気で使っている。日本人のフレンチシェフが使わず、フランスの料理人達が好んで使用する_、この構図って変な気がしてならない。藤本さんは、そんな師匠の教えがあるからか、平気で醤油も味噌も使って西洋料理を作っている。いらぬ垣根など取っ払ってしまっているようだ。だから"西洋料理店"であり、彼の作るのは面白いと断言できる。
最後に藤本さんに「魯山人」醤油の印象を聞いてみた。「これまで『樽仕込み』を定番として使って来ましたが、それよりはマイルドな味。繊細で、後味がいいですね。舌から塩味は消えるけれども、甘味が残っている。まさに飲める醤油ですよ」。またまた北新地の匠が一人、この醤油のファンになったようである。

  • <取材協力>
    北新地 西洋料理店ふじもと

    住所/大阪市北区曽根崎新地1-10-16 永楽ビル5階 北新地 西洋料理店ふじもと

    TEL/06-6344-7881

    営業時間/営業時間/未定(大抵は18:00~翌2:00ぐらい)。
    要予約


    休み/不定休

    メニューor料金/
    メニュー/コース 5000円、7000円、9000円
         ふじもとのハンバーグ 1500円
         和牛ビーフシチュー 3800円
         ノルウェーサーモンステーキ 1800円
         デミグラスソースオムライス 1000円
         4種のチーズドリア 1500円
         本日の魚料理 1500円~
       スペイン産ベーコンと淡路島玉ねぎのナポリタンスパゲッティ 1000円
       ビーフカツレツ   3800円(近江牛使用なら4500円~)


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい