91 2021年02月 1月20日に世界初のカカオ醤油「カカオ醤」が発売になった。この商品は、カカオ豆と醤油を融合させたもので、粒タイプとペーストタイプの二種がある。2021年のバレンタイン商戦に向けて湯浅醤油とトモエサブールが販売するのだが、新発売に先駆けてマスコミ関係者を招いて発表会を2020年12月2日に行っている。今回の「名料理、かく語りき」は、その発表会で供された料理を紹介することにした。世界初の調味料を使って料理を作ったのは、「西洋料理店ふじもと」のオーナーシェフ・藤本直久さんだ。ホテルなどのフレンチで修業をしたにも関わらず、天皇の料理版・秋山徳蔵氏が作った料理を目指してオーソドックスな西洋料理を提供する個性的な料理人である。その藤本シェフが「できるだけカカオ風味を残すべく調理した」という五皿を紹介したい。当然、全ての料理に「カカオ醤」は使われているし、今回はそのお披露目会を兼ねているのですべての皿が新しい調味料をテーマに創作している。マスコミ人が評した五皿の料理と、「カカオ醤」の使い方をレポートする。

北新地 西洋料理店ふじもと 藤本直久
(北新地西洋料理店ふじもとオーナーシェフ)
「仮りにカカオ醤油が他ででき
たとしても淡泊な白身魚に用
いると、ついついそれが勝って
しまうものになるのでは…。
そうならないように設計できるのは、湯浅醤油の技術と味が
あったればこそ。
『カカオ醤』は、このメーカーだからこそ成し得た発明ではないでしょうか」

湯浅醤油だからこそ成し得たカカオ醤油の商品化

 

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「カカオ醤」の文字がネットで踊った_、202012月初旬のことである。湯浅醤油の新古敏朗社長とトモエサブールの礼谷可奈子さんは、2021年のバレンタイン商戦へ向けてカカオ豆で造った醤油(ペースト)を120日に発表することに決め、少し早いが2020122日にマスコミ向け発表会を企画したのだ。会場は北新地の「西洋料理店ふじもと」。当「名料理、かく語りき」に何度か登場した藤本直久さんの店である。参加したマスコミ関係のほとんどは、バレンタインを控えた2月くらいにレポートする予定らしいが、そのうちラジオ関西でパーソナリティを務める谷五郎さんは、いち早くその翌週(128日)に「カカオ醤」の話を流したのである。谷五郎さんは、自身の番組のHP(谷五郎の笑って暮らそう)でも「カカオ醤」について書いており、ラジオ放送と番組ブログがきっかけとなってネットで流布されたと思われる。

「カカオ醤」については、このコーナーの第88回・DSC01403礼谷可奈子さんの回でも書いたし、ホテル日航関DSC01287西空港の井口晃一総料理長も試作して使った感想を述べている。発売に先駆けてマスコミ向け発表会を「西洋料理店ふじもと」で催したのは、藤本シェフが試作段階から「カカオ醤」をもらって料理に試していたことにもよる。それと今回の新商品は、イメージが湧きづらいので、それを使ってきちんとした料理を作って、マスコミ関係者に食べてもらう方がいいと考えたから。藤本シェフが「カカオ醤」にふれたのは一年近く前かもしれない。まだまだ試作中だったものを一瓶新古敏朗さんが置いていったのだという。それからベースの醤油を「九曜むらさき」に替えるなどして商品は進化したが、藤本シェフはその発想のユニークさに商品化が待ち遠しかったのだとも語っていた。「インパクトを与えるのは粒タイプですが、私はペーストタイプの方が使い易く思えます。カカオ香が飛ぶ恐れがあるから火はあまり入れず使いたいですね」と感想を述べている。藤本シェフ曰く、「仮りに他の醤油メーカーがカカオ醤油に挑戦していたらこうはうまくいかなかったかもしれません。醤油の塩角や口当たりが強すぎると、せっかくのカカオ風味が死んでしまいます。そうならなかったのは、湯浅醤油の技術と味だから成し得たことではないでしょうか」とのことであった。それもそうだが、醤油変態の異名を持つ新古敏朗さんだからこそカカオで醤油を造ろうなんて突飛な発想が出来て来たと思われる。そう考えると、この蔵しか成し得ない_、藤本シェフの言葉もあながちおかしくはない。

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DSC01094ところで122日のマスコミ向け発表会で藤本シェフが供した料理は、①オードブル三種盛り(マグレ産鴨DSC01092の冷製、三種のカルパッチョ、イタリア産生ハムのサラダ)②バターナッツカボチャと安納芋のポタージュ③地鶏のソテー・カカオ醤(ペースト)のクリームソース④カカオ醤カレー⑤カカオ醤と安納芋のプディングの五皿である。当然ながら全てに「カカオ醤」が使われている。

まずオードブルだが、ここでは肉・魚・野菜に「カカオ醤」が合うことを訴求しようと、三種の料理が盛られていた。マグレ鴨とはフォアグラを取り出した鴨のこと。フォアグラを作るために育てた鴨なので栄養過多気味で、そのせいか味も濃いといわれている。「東京にカカオ専門店があるんですが、そこの記事を見ていると、カカオと鴨が合うことがわかります。カカオは煮込みに合うのですが、煮るとカカオ香は飛んでしまうから勿体ない。なのでこの料理には粒タイプの『カカオ醤』をダイレクトに使用し、厚めにカットした鴨肉に載せています」。カルパッチョは、白身が鯛で赤身がマグロ、青背はヒラマサで。「カカオ醤」でドレッシングを作り、これらの魚に合わせた。藤本シェフは「鯛とマグロは炙りにし、その香ばしさとカカオの香ばしさがマッチするようにした」そうだ。魚は淡泊だと醤が勝ってしまうのだが、そこは湯浅醤油の造った商品だからそうならないように設計されていると褒めていた。イタリア産の生ハムには、トモエサブールのカカオシロップ、カカオビネガーに、今回の「カカオ醤」(ペースト)を合わせてソースを作り、サラダ仕立てにした。このように一皿で、「カカオ醤」と肉・魚・野菜がフィットすることを証明したかったのだろう。

DSC01091バターナッツカボチャは、南米原産のもので米国でDSC01100人気。海外から入って来た品種だが、西洋カボチャの仲間ではなく、植物上は日本のカボチャに近い。ちょっと変わった形をしており、ねっとりしていてコクがあるのが特徴だ。繊維質が少ないためポタージュにすると滑らかな仕上がりになる。このカボチャに、これまた粘質性で水分が多く、焼くとねっとりした食感になる安納芋を合わせてポタージュを作った。塩を使わず、「カカオ醤」でその味を補っている。生クリームとの相性がいいからか、結構「カカオ醤」の香りがいきており、パンにつけて食べたらさらに「カカオ醤」感が広がるようだ。

 

「カカオ醤」がカレーに合わぬはずはない

 

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三品目はメインディッシュで、地鶏のソテーが出て来た。鶏肉に粒タイプの「カカオ醤」を塗って焼くと、チョコっぽい味と醤油の焦げた匂いが食欲を醸す。上のソースは、むしろ「カカオ醤」(粒タイプ)だけでシンプルに。単純な料理だけに余計に「カカオ醤」の風味が引き立つのだ。下に敷いたソースもペーストタイプを合わせ、生クリームで作った。「ペーストタイプの方が風味が残ると思い、こちらを選択しました」と話していた。鴨肉もそうだが、やはり「カカオ醤」は肉料理にフィットする。これは藤本シェフの発言ではないが、フレンチのシェフなどがジビエ料理に使いたいと話していたのを思い出す。「カカオ醤」開発にあたって藤本シェフを始め、何人かの料理人に試作してもらったのだが、全員が「カカオ醤」に高い評価を与えていた。初めは「カカオ醤油?」と訝しがっても使えば面白さを発見する_、そんな調味料のように思える。

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四品目は、合わぬはずがないと思われたカレーである。「ふじもと」のカレーには、かつて藤本シェフが修業をした帝国ホテルのエッセンスが窺える。しかも彼の師匠であるムッシュ村上仕込みの味だから旨いのも当たり前だ。カレーを一口食べ、その味を実感し、そこに「カカオ醤」をかけると、一挙にカカオ風味が広がっていく。「カカオ醤」をつけた後では、こうも味に変化が得られるのかと思うほど面白く映るのだ。バターと「カカオ醤」(ペースト)で炊いた自称“チョコご飯“に、鶏肉と牛肉を具材にしたカレーをかける。そして仕上げに「カカオ醤」(粒タイプ)を入れるのだ。「カカオ醤」をカレーに崩しながら食べると、コロッと味が変わる_、藤本シェフはそんな表現の仕方を試したかったようだ。

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最後のデザートは、粒タイプとペーストタイプの両方が使われている。プリンは安納芋で作り、キャラメリゼをせずにカカオシロップと「カカオ醤」粒タイプで火を入れないで合わせてかける形にしたそう。プリン自体は安納芋の濃厚さが利いている。「カカオ醤」とカカオシロップを混ぜて作り、後からかけて食べるのだが、藤本シェフに言わせれば「みたらし団子のような雰囲気で」食べるといいらいい。「ペーストを入れすぎると、しょっぱくなるので注意しました。当初はカラメルを作っていましたが、『カカオ醤』を加えたらそれがいらないことがわかりました」。キャラメリゼせずにあえて火を入れないで合わせたという。薩摩芋やカボチャは、醤油とも相性がいい。そんな点を考慮して創作したものと思われる。「安納芋の味が強いのですが、『カカオ醤』を入れると、その主張が薄くなります。だから両者がうまく中和するのでしょうね」。

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これら五皿を食べたマスコミ関係者は、「カカオ醤」の調味料としての可能性を感じたようだ。参加者の一人は、「世界初のカカオ醤油ができたと聞いてどんなものか想像できませんでしたが、今日料理を食べてわかりました。今までにない味で実に魅力的。本日は洋食での調理でしたが、和食や中華ではどんな風になるのか興味深い」と語っていた。藤本シェフも「今後も使って行きたい」と言い、要予約で「カカオ醤を使った料理が食べたいとあらかじめ注文してもらえば作りますよ」と言っている。

ちなみに今回の発表会会場になった「西洋料理店ふじもと」は、2号線沿いの北新地側にある。同店は、東京の帝国ホテルやホテルオークラ神戸な有名どころで修業をした藤本直久シェフが独立して始めた店で、要予約のみで店を運営している。天皇の料理番だった秋山徳蔵さんに憧れ、昭和初期に華族などが食べていた西洋料理を目指したいと開いた。なのでフレンチ出身にも関わらず、冠名の如く西洋料理を出している。春からは息子の藤本祐太さんも加わり、ソムリエの矢野貴代美さんともども店を営む。引き出しの多いシェフに、この発表会がきっかけで「カカオ醤」を使った料理が加わると思ったら、グルメは期待してしまう。礼谷可奈子さんによると、「カカオ醤」は、百貨店のバレンタインフェアなどで販売し、藤本さんのようなシェフにも供給していきたいらしい。一連の「カカオ醤」に関する記事を読んで「まだ想像できない」と思う人は、ぜひとも予約を入れて藤本シェフの店で食べて欲しい。

 

 

  • <取材協力>
    北新地 西洋料理店ふじもと

    住所/大阪市北区曽根崎新地1-10-16 永楽ビル5階

    TEL/06-6344-7881

    営業時間/未定(大抵は18:00ぐらいから翌2時ぐらいまで)


    休み/不定休(大抵は日祝日)

    メニューor料金/
    コース5000円、7000円、9000円他
    ふじもとのハンバーグ 1500円
    和牛ビーフシチュー 3800円
    ノルウェーサーモンステーキ 1800円
    デミグラスソースオムライス 1000円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい