69 2018年12月 今回は第61回に登場した藤本直久シェフの店を再度訪れることにした。1月に行われる泉佐野産(もん)のキャンペーン「松波君(松波キャベツ)の嫁探し」に藤本シェフが参戦しているからだ。7人の料理人が競演する同企画は、和洋中の料理長が仲人役となり、松波キャベツにふさわしい嫁(素材)を探してマリアージュを実行するもの。ほとんどの人が食材を嫁役にしているのに対して藤本シェフは、湯浅醤油を嫁候補に選んでいるのだ。藤本さんが惚れ込んで日頃から用いている「かけるだし」と「ゆずぽん酢」がそれで、この調味料を使いながら松波キャベツの個性が引き立つ二品を考えている。今回のオリジナルメニューは、一月いっぱい店で出すのだという。ならば、このコーナーで紹介したいと、同キャンペーンが始まる前に取材して来た。さて調味料を駆使してキャベツの個性を強調した料理とはいかなるものだろうか。

北新地 西洋料理店ふじもと 藤本直久
(「西洋料理店 ふじもと」オーナーシェフ)
「ゆずぽん酢は、醤油メーカーが造
るポンズで、無添加でいいですね。
柔らかい酸味なのに、柚子の風味
は利いている。優しい味でも十分
存在感があるんです。真ん中にき
ちんと芯がある_、そんな調味料
ですよ。」

「松波君の嫁探し」に湯浅醤油が一役買う

 

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キャベツは、栄養価もあって料理には欠かせないもの。ただ、それをメインにしたメニューとなると、ロールキャベツしか頭に浮かんで来ないのは私の頭の中が貧困なのかもしれない。大阪府の南_、泉州地域に位置する泉佐野市は、環境の良さから農業が盛んである。産物としては、水茄子や玉ねぎが有名だが、市ではそれに続く第三の産物として松波キャベツを売り出そうとしている。その甘みから地元では、お好み焼きの具材に欠かせないといわれているが、それだけではアピールする要素が薄いとばかりに"松波君の嫁探し"を企画することになった。松波キャベツを男性のように擬人化し、相性のいい素材(嫁)を探すことで、一挙に松波キャベツをメニューの主役にしてしまおうとの試みだ。同企画は、一月に大阪・神戸の7人の料理人が行うのだが、それに北新地の「西洋料理店ふじもと」の藤本直久さんが参戦している。食材を嫁に見立てるシェフが多い中で藤本さんは、なんと嫁候補に湯浅醤油を選んだのである。

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"松波君の嫁探し"キャンペーンで、藤本さんは「松波君と近江牛の焼きロールキャベツ」と「松波君タルタルの鶏南蛮サンド」の二品をエントリーしている。泉佐野市が発行したニュースリリースでは、「私は『近江牛ミンチのミルフィーユ仕立て』と『播州地鶏の南蛮仕立て』(この料理名は、企画時点のもの)の二作品をエントリーしました。前者は近江牛をミンチにし、ミルフィーユ仕立てにしたもので、大きくカットしてその断面(ミルフィーユ風に)を見せます。湯浅醤油の『かけるだし』を用いることですき焼き風味に。甘みの多い近江牛と松波キャベツの甘みを合わせ、加えてすき焼き風味にすることで"甘み"テーマの洋食にします」と述べている。もう一方の料理については「南蛮仕立てにした播州地鶏をキャベツのタルタルソースで味付けし、パンで挟んだもの。ビジュアル的にはキャベツたっぷりのクラブハウスサンド風一品に。松波キャベツ独特の風味に湯浅醤油の『ゆずぽん酢』がマッチし、甘酸っぱい一品になりました」と説明しているのだ。藤本さんは、当初、松波君の嫁候補に普段からよく使う近江牛を当てていた。ところがキャベツといえば、コールスローの印象がどうしても頭から離れずに二作品をエントリーすることになったそうだ。それで嫁候補の共通点を模索していたら、これまた普段から使用している湯浅醤油がいいとなったわけである。藤本さんは、「どちらも洋食に和のエッセンス(調味料)を加えたものですが、湯浅醤油の商品特性が実にいきているので面白い一品になったと思います」と話している。普段キャベツに接していながら、なぜか主役になりえなかったものが、醤油やポン酢を通して主役になっていくかと思うとなかなかユニークである。
藤本さんは、東京の帝国ホテルやホテルオークラ神戸、ガーデンホテル関西(三井ガーデンホテル)など名門ばかりを歩いて来た。フランス料理が本職にも関わらず、独立する時は、むしろ古くからあった日本の洋食に目を向けている。「時流に逆らって明治から昭和初期にあった西洋料理を目指すべくやっています。目標は当時の華族などが食べていた洋食なんですよ」と私に店のコンセプトを説明していた。ならば、今回の洋食_、殊に「松波君と近江牛の焼きロールキャベツ」は、それを具現化したと考えても不思議ではない。

すき焼きは、日本の洋食から派生した

 

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さて、ここで以上の二品について詳しく掘り下げてみよう。「松波君と近江牛の焼きロールキャベツ」は、タイトルでもわかるようにロールキャベツのアレンジ版だ。一般的に煮込んで作るロールキャベツをオーブンで焼いていると思ってもらえればいい。そして中味は豚ミンチではなく、高級食材・近江牛なのだ。この料理は、まず松波キャベツをボイルすることから始まる。近江牛は中の赤さが残るくらい軽く焼く。そして「かけるだし」をベースにざらめと日本酒で作った割下(刻んだ山椒を加えたタレ)を軽くまぶす。キャベツと肉はミルフィーユ状にし、丸めてアルミホイルで包み、オーブンで焼く。「煮込むより焼こうと考えました。まさに言葉通り焼きロールキャベツですね」と藤本さん。赤万願寺唐辛子、玉ねぎ、エリンギ、水菜を添えて出て来るこの料理は食べると、なんとすき焼き風味になっている。この料理のポイントは、すき焼き風味の根幹を成すタレにあると思う。藤本さん曰く「甘みがあっていい」という「かけるだし」をベースにし、ざらめと「福寿」(日本酒)で作った割下に刻んだ山椒を加えて煮込むらしい。藤本さんの話では「最低でも、一日寝かさないと味がなじまない」ようだ。ざらめを用いてもあまり甘ったるくないのがポイント。山椒を刻んで入れているために甘辛い醤油味に山椒の辛さがうまく付いている。「かけるだしは、鶏エキスや昆布をうまく使って造っている醤油。独特の甘みがあるんですが、決して甘ったるくない。このシャープさをよりいかそうと、山椒を加えたんですよ」。藤本さんは当初、すき焼き風味というと和食になってしまうのではと思っていたそうだ。でもすき焼きは日本の洋食に端を発して生まれたもの。幕末に西洋の文化がどっと入って来て牛肉を食べるようになった。その味わい方として生まれたのが牛鍋で、やがてそれがすき焼きに発展していくのだ。そんなストーリーから考えると、すき焼きは日本の洋食に属してしまう。こんな話をすると、「ならばいいか」と踏ん切りがついたみたいだった。「西洋料理店ふじもと」は近頃、「割烹ぽくなって来た」と冗談まがいに言われるらしい。「夏の某日、いい魚が入ったので切り身にしてそのまま出した。それを見てそんな風に笑う人がいるんですよね」。でも、これは歴とした洋食なのだからそんなに心配はいらないと私もフォローしておいた。

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二品目の「松波君タルタルの鶏南蛮サンド」は、キャベツのコールスローで食べる播州地鶏がテーマ。サンドイッチにしたのは、11月27日に行われる同キャンペーンのマスコミ発表会を意識したもの。これなら会場での調理がいらないだろうと、持って行きやすいようにパンで挟んだ。藤本さんは、「最近、コンビニでコールスローが売られているんです。手にしたらこんな簡単なものなのにけっこういい値がついているんですよ。それくらい出してまでコールスローを買う人が多い証拠。人気があるんですよね」と言う。藤本さんの話では、今回の品は、松波キャベツを大きめにカットし、コールスローにしたタルタルソースが決め手だそうだ。
播州地鶏を「ゆずぽん酢」でマリネし、卵と小麦を打って揚げる。松波キャベツはその味がよくわかるようにとザク切りに。マヨネーズでもんで一時間寝かし、軽く水気を絞る。そしてタルタルソースと混ぜて松波キャベツのコールスローを作るのだ。南蛮ソースは、ざらめと「ゆずぽん酢」、蜂蜜で作っている。ざらめは焦がしてキャラメリル状にし、「ゆずぽん酢」と合わせてとろみを出した。ここに蜂蜜をあえて用いるのは、甘みの調整のためだとか。パンに辛子バターを塗って少量のタルタルソースを載せる。そして揚げたチキンに、先程のタレをかけ、タルタルソース(松波キャベツのコールスロー)をたっぷりかけてパンで挟むのだ。「松波キャベツをザクっと切るのが味のポイント。この方がキャベツの食感が出て美味しくなるんですよ」と説明する。
ガブリと食べたが、鶏よりキャベツが旨いと思った。牛肉や豚肉ではなく、個性の強くない鶏肉を用いたのはそんな狙いがあったのだろう。「ゆずぽん酢は無添加で造られているので、舌にまとわりつかず、後まで味を残さない点が秀逸ですね。柔らかい酸味が実にいい。かといって柚子風味は利いている。真ん中に芯がある_、そんな調味料ですよ」。藤本さんは、湯浅醤油の「ゆずぽん酢」を気に入っており、常々から使用している。柚子の存在感がきちんとあるのに優しい味がする点が気に入っているのだと話していた。
先日、取材して来た泉佐野の農家では、今年は台風の影響から松波キャベツの出荷が遅いと言っていた。「でも"松波君の嫁探し"キャンペーンが始まる頃(2019年1月)には、甘くていいものが出来ているそうだ。ならば一月は「西洋料理店ふじもと」へ出かけて今日取材の二品を食べねばなるまい。

  • <取材協力>
    北新地 西洋料理店ふじもと

    住所/大阪市北区堂島1-3-4 谷安ビルB1

    TEL/06-6344-7881

    営業時間/未定(大抵は、18:00~翌2:00くらい)。要予約を

    休み/不定休

    メニューor料金/
    松波君と近江牛の焼きロールキャベツ   3000円
    松波君タルタルの鶏南蛮サンド 1200円
    本日のアミューズ 600円~
    ローストビーフのサラダ         1800円
    ふじもとのハンバーグ          1500円
    和牛ビーフシチュー           2800円
    サーモンステーキ            1800円
    ナポリタンスパゲッティ         1000円
    オムライス               1000円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい