84 2020年03月高級住宅地を背景に持つ岡本(神戸市東灘区)は、学生街と相まって常に活況を呈している。最近、この街で"裏岡本"なる言葉が聞かれるようになった。発信源は、阪急岡本駅北側にある飲食店や雑貨店らしい。昔からの賑やかな駅南側を"表岡本"と称しながら、これらの店々は"裏岡本"と呼んで独自の文化を発しているのだ。そもそも駅の北側は、閑静な住宅だった。その一般住宅をリノベーションした商業施設がいくつかお目見得しており、"表"の岡本とは異なる雰囲気で、独自路線を展開しようとしているようだ。今回は、そんな"裏岡本"の中でも人気を博す「岡本コミンカ」を訪ねてみた。商業デザイナーとして活躍する店主に、湯浅醤油と丸新本家の商品を渡し、オリジナリティ溢れるカレーとかき氷を作ってもらった。

okamoto Comminca(岡本コミンカ) 家崎美明・中川聡子
(岡本コミンカオーナー)
「九曜むらさきは、金山寺味噌の
たまりからできた稀少な醤油。
味見した時に即、みたらし団子を
イメージさせました。
これでみたらしのタレを作り、
かき氷にかけてみたら面白いのでは
と考えたのです」

一般家庭をリノベーションして飲食店として使用

DSC00006DSC00009DSC00011

岡本・本山界隈は、神戸市東灘区の中でも繁華な地として知られる。ハイソな住宅地を背景にして色んなショップが林立し、そこに甲南大学などの学生たちが加わるために常に賑わいを見せているのだ。この岡本地区で最近注目を集めているのが"裏岡本"と呼ばれる一帯。一般的には阪急岡本駅の南側を"表"とし、人の往来が多い地域としている。それに対して"裏岡本"とは、阪急の北側を指す。閑静な住宅街で、以前は商業施設が見られなかったのだが、近年は岡本駅北改札口辺りにちらほら見られるようになり、そのほとんどが一般住宅を改装したものになっている。今回取材した「岡本コミンカ」もその類になる。「岡本コミンカ」は、阪急岡本駅北改札口からすぐの所に位置している。「コミンカ」のフレーズにあるように一般住宅を改装して店舗として使用しているので注意しないと通り過ぎてしまいそうだ。

DSC00055 DSC00023 DSC00022 DSC00017

同店を営むのは「ハグデザイン」の家崎美明さんと中川聡子さん。本職は商業デザインで地域活性化を行っている事務所でもある。家崎さんは、神戸市から声がかかって5年前から商店街に活性化を図るなど町興しをやるようになった。新長田にある六間道でその活動を行うようになり、自身でも民家を活用して「下町カレーヒーハー」なる店舗を運営していたそうである。そこでは、長田のボッカケ(すじ肉とコンニャクを煮たもの)を欧風カレーにトッピングして出していてかなりの評判を得ていたようだ。それが台風に遭って店舗として使えなくなり、ならばもともと事務所があった岡本でと、カレー店の企画ごと移転して来た。一軒家を借りて2階をオフィスとして使い、本職の仕事をする。1階は店舗としてスパイスカレーとふわふわかき氷を販売する「YEEHAW CURRY&CAFE」に。そして自らバイヤーとして仕入れたエキストラバージンオイルを売る「オリーブスタンド」として使っている。中川さんの話によると、築54年の住宅を最低限だけ大工さんに頼み、あとは自分たちで壁をはがして漆喰を塗ったり、ペンキを塗ったりしながら手作りのような形でリノベーションをしたらしい。現在、厨房とカウンター席のある部分は、前の家のダイニングキッチンで、4人がけのテーブルが並ぶスペースは六畳間を改造したもの。店内はカウンターとテーブルを合わせて10席ほどだが、その他にテラス席があり、小さな庭にはオリーブの木と季節の花が咲く。まさに岡本の住宅地に佇む隠れ家のような存在といえよう。
「岡本コミンカ」は、昨年の5月にオープンしたのだが、店舗コンセプトのユニークさによってメディアから注目され、テレビや雑誌に取材を受けた。そんなこともあってか、知名度は徐々に高まり、有名人が訪れることも。カレーとかき氷の評判も呼んで土日には行列ができるほどになっているという。ただ、家崎さんらの本業は、商業デザインや企画なので、あくまで「岡本コミンカ」は副業的存在になる。営業日が定まっておらず、月毎の営業カレンダーを店舗外に設置した箱に入れて知らせるシステムに(Facebookなどでも確認可能)なっているようだ。

人気のカレーに、湯浅醤油のエッセンスを加えてみる

DSC00042

「岡本コミンカ」の売りの一つは、スパイスカレーである。新長田では欧風カレーで売っていたようだが、家崎さんが岡本という土地柄を考えた場合、スパイスカレーの方が合うと判断し、新長田の店とは違った方向に舵を切った。ここでの人気№1は「海老とあさりのマスタードカレー」(1000円)で、5~6種類のスパイスを駆使したココナッツ系のカレーが女性にはウケるのだとか。同カレーは、オリーブでスパイスを炒める所からスタートする。粒マスタードを加えて炒め、玉ねぎ・にんにく・生姜を入れてさらに炒めてあさりと海老のだしを足す。ココナッツミルクが入ることで味はクリーミーになって食べやすい。家崎さんによれば、「マイルドビーフカレー」は、手間がかかるわりに女性には魅力がないのか、あまり出ないらしい。そう考えると、家崎さんの岡本での狙いは当たっていたことになる。カレーは月替わりで一種類が入れ替わるようだが、「ココナッツチキンカレー」(1000円)も人気で、あいがけ(1200円)や三種盛(1300円)があるためか、来店客は単体よりそれらを所望することが多いという。

DSC00031

ところで私は、今回も予め湯浅醤油と丸新本家の商品を渡しておき、取材用に新たなメニューにチャレンジしてもらった(この後紹介するのは、私用のスペシャリテである)。仮りに「茄子とれんこんの味噌キーマカレー」と題しておこうか。このカレーにはクミン・ブランマスタード・シナモン・クローブなどのスパイスが8種類ほど使われている。これらをゴマ油で炒めて香りを立て淡路島の玉ねぎと、にんにく、生姜を入れて炒める。そこに炒めた鶏ミンチを加え、「煮つけ醤油・淡口」と「赤みそ」で調味する。醤油と味噌はコクを出す役目で、小さく刻んだれんこんを入れて炒めると、水分が飛んでキーマカレーができあがるのだ。
皿に載せたキーマカレーの周りには、水分が見られるが、これはあえてだしを張ったもので、混合節で摂っただしに「煮つけ醤油・淡口」とみりんで調味したとの説明があった。これをカレーの周りに流し、ゴマ油で炒めたれんこんと茄子を大葉の上にトッピング。仕上げに「金山寺味噌」をちょっとだけ載せれば出来上がる。「今回は、醤油と味噌の味を感じてもらいたかったので辛くはしませんでした。元来、カレーと味噌は合うので違和感はないと思いますよ。送ってもらった『金山寺味噌』も使いたくて仕上げにちょっとだけ載せてはいますが、これを入れすぎると味の主張が強くなってしまいそうだったのでほんの少量に抑えました」と家崎さんは説明している。中川さんは「水分(だし)があるから食べやすいでしょ。全体を混ぜながら食べると、このカレーの良さがわかると思います」とも話している。
家崎さんの商品の印象は、「煮つけ醤油・淡口が、旨いのを前提に分量を普段通りに使った」そう。「赤みそ」は、濃厚で入れすぎると辛くなるかと思い、少しずつ加えながら味を見たとの話だった。あまり味噌が勝ちすぎると、カレーの風味が目立たなくなるので味噌もカレーも感じるように計算したようだ。

DSC00035DSC00058

ありそうでなかったのは「九曜むらさき」をみたらし風にしたかき氷。この醤油は、金山寺味噌からわずか3%しか採れない稀少なたまりで、減塩でまろやかな味に仕上げてある。この「九曜むらさき」でみたらしのタレを作り、かき氷にかけたのが「みたらしミルク」である。中川さんによると、この店のかき氷は、キンキンにせず、氷の温度を戻すことでふわふわに仕上げているらしい。そんなかき氷にミルクをかけ、みたらしのタレを上から垂らしている。最後に海苔をちょっと載せて完成するのだが、まさにみたらし団子のかき氷版のような雰囲気か。「和菓子っぽいイメージで創作しました。みたらしの甘辛さがかき氷にも合うと思ったんです」と中川さん。彼女は、長田でいかなごの釘煮を載せたかき氷を食べたことがあったそうだ。これが醤油の甘辛さを表した一品で、そんな印象を「みたらしミルク」に重ね合わせたのかもしれない。
食べると、みたらしの味がするので何となく安心感がある。「岡本コミンカ」オリジナルのミルクシロップも合わさっていい感じに味が納っている。「新古敏朗社長に聞くと、塩分は普通のたまり醤油より少ないそうですね。味見した時にまっ先に団子にかけたいと思いました。この店ではかき氷も売りにしているので、みたらし風にしようとすぐ思いついたのです。とろみ具合は少々調整しましたが、味はすぐにまとまりましたよ」と中川さんは言っていた。

DSC00038 DSC00014

「岡本コミンカ」は、家崎さんが「趣味の延長線のようなもの」と表現しているものの、着実にその雰囲気や味を支持する人が増えている。「味は3割、店の雰囲気が5割。あとはトークではないですか」と謙遜しつつ店舗の特性を説明しているのだが、ここのカレーやかき氷を目当てに岡本に来る人がいるのは事実。街の飲食店にない雰囲気が得られるとあって昼食だけでなく、お茶づかいや夕食に利用する人も目立って来ているのだ。「岡本コミンカ」では、より裏岡本の魅力が訴求できるように隣りの「マザーミーツ喫茶店」や雑貨店、はたまた近隣の占い鑑定サロン「アンジェリカ」などとも図って蚤の市や裏岡本学園など様々なイベントを催している。この細い路地に人が行き往うようになったのは、きっと彼らのPR効果に違いない。

  • <取材協力>
    okamoto Comminca(岡本コミンカ)

    住所/神戸市東灘区岡本5-2-5 岡本コミンカ

    TEL/078-940-1517

    営業時間/木日曜日11:30~18:00 金土曜日11:30~21:00

    休み/月曜~水曜日、不定休(営業日は月によって変更する場合がある。店が出すカレンダーか、フェイスブックもしくはインスタグラムで確認を)

    メニューor料金/
    メニュー/ココナッツチキンカレー 1000円
         海老とあさりのマスタードカレー 1000円
         マイルドビーフカレー 1000円
         あいがけカレー 1200円
         3種盛ヒーハースペシャル 1300円
         コーヒー 500円
         ミーコー 600円
         ラズベリーラッシー 500円
         杏仁豆腐 200円
         ハイボール 500円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい