74 2019年05月先日、湯浅醤油の北山さんに連れて行ってもらった「WAKAYA津屋」がなかなか面白く、このコーナーで紹介したくなった。店ジャンルは大衆食堂になるのだろうが、文字で表現しづらいほどオシャレで雰囲気もよく、そのレトロ感が心を誘う。聞けば、元漁協の建物をリノベーションして食堂にしたらしい。売りは竈で炊いた白飯で、薪をくべて直火で作っている所がいかにも食欲をそそらせる。肴はズバリ、漁港の近くにあるので灰干し(干物)と魚の煮付など。各々が単品ずつ頼み、自分なりの定食を作って食べているのだ。スペースは50席とやや大バコなのだが、常に満席状態が続くという。少々不便にも関わらず、車で行きたくなってしまう和歌浦の食堂についてレポートしてみよう。

WAKAYA津屋 森下裕次
(WAKAYA津屋料理長)
「魯山人醤油は、しっかりしてい
るのに味が強くない。なので淡
泊な鯛でも十分素材感をいかす
ことができます。まろやかなの
で鯛飯にしやすかったですね」

連日盛況を見せる和歌山の食堂

 

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最近の若者は魚料理を欲している_、そんなデータが各所で見られる。私が編集した「漁師めし絶品101選関西版」(プレジデント社刊)も売れに売れて毎年重版を行っていることからもそんな動向が読み取れる。一般的に飲食店で魚は仕入れづらさが生じるようだ。値も一定しないからコストがかかり、肉のように日持ちもしない。なのでどうしても肉中心のメニューにならざるをえない。そういった傾向を肌で感じるからか、はたまた家庭で調理しづらいからか、「魚を食べたい」と彼らは訴えているのだ。
魚中心のレストラン…、あるように思えて意外と少ない。ましてや日常使いの店となると尚更だ。和歌浦にある「WAKAYA津屋」は、そのニーズをうまく捉えている店といえよう。JR和歌山駅から車で15分と少々便の悪い地(和歌浦口バス停から徒歩1分)にも関わらず連日満席状態で、まさに和歌山のグルメスポットになっている。この店をプロデュースしたのは、源じろうさんこと、半田雅義さん。「源じろう計画事務所」を運営し、空間プロデュースをも手がける人物で、湯浅醤油によると、和歌山ではなかなか名の知れた人だそう。
そもそもこの場所は、かつて和歌川漁業協同組合があった所で、長年使用されていなかったのを源じろうさんがリノベーションして大衆食堂に仕上げた。言葉では"食堂"と一括りにしがちなのだが、レトロな雰囲気がオシャレで、うまく昔のものを融合させ今風の大衆食堂を表現しているのだ。あくまでも大ぶりな古い建物をいかし、竈を据えて昔ながら食堂風景を演出している。店内にも古い看板を配し、いかにも大衆食堂らしいテーブルを並べ、まるで昭和にタイムスリップしたような気にさせてくれる。時折り薪をくべながら竈で炊き上げる白飯は、湯気とともにその温もりが伝わって来るようだ。

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「WAKAYA津屋」の店長・崎山健治さんにコンセプトを聞くと、「竈で炊いた白ご飯が売り。そこに灰干しや地魚が加わってこの店の特徴を表現しています。メニューは単品ごとの注文で、組み合わせれば自分なりの定食が食せるようにしています」とのことであった。灰干しは、この辺りでは盛んだそうで何軒かがその作り方で干物を作っている。「WAKAYA津屋」ではそんな一軒「紀州高下水産」から引いている。一夜干しというと、だれもが天日干しを思い浮かべるだろう。だが、そのやり方ではどうしても身が酸化してしまう。灰干しは文字通り灰の中に閉じ込めて干物を作る手法で、このようにすることで酸化せずに干物ができる利点がある。だから料理人の間では、天日干しより好む人が多い。
同店のメニューは、白めし(並・小盛。大盛とも)200円、めしの友として海苔、佃煮、浅漬、肉味噌(ともに50円)などがあり、灰干焼魚にさんま(390円)、鯖(580円)、鮭(570円)、ほっけ(580円)、あじ(780円)、金目鯛(1180円)などがある。煮付と造りは時価で、森下裕次料理長が近くの雑賀崎漁港から直接魚を仕入れて来てはそれにあてている。時化などで魚がなければ、勝浦の生マグロを造りにして提供しているとの話であった。「一般的に多いのは、おかず、ご飯、豚汁、漬物ですかね。だいたい千円以内に収めて食す人が多いですよ」と崎山店長は言っていた。この日、私が求めたのは、灰干しさんま、豚汁、白ご飯、それにめしの友として浅漬と肉味噌、昆布の佃煮をプラスした定食風。テーブルには、ウスターソースや醤油、湯飲みが置かれていてそれを食べる雰囲気が漂っている。特に醤油は湯浅醤油の「樽仕込み」なので和歌山らしくていい。
私が「WAKAYA津屋」に行ったのは平日の昼過ぎ。もう14時だというのに満席であった。崎山店長によると、昼はもとより夜も同じように自分なりの定食を味わうために訪れる人が多いそう。そんな食事シーンに酒が加わる。灰干し焼魚や造りをアテに一杯飲る姿も目立つという。「交通の便が悪いのに」と感心すると、左党は代行タクシーを利用するらしい。そこまでして一杯飲りたい気分はわからぬでもない。そうこうしているうちに時折り竈からパチパチと薪がいこる(炭が赤くなった状態の方言)様が見て取れる。"天候により炊飯中、煙や煤が舞う場合がございます"と但し書きがあるのがわかった。これがリアリティがあって、風情をかきたてるのだ。竈で炊いた白ご飯と焼魚がごちそうであることに気づかせてくれる瞬間でもある。

いつもの「樽仕込み」だけではなく、他の商品も使ってみた

 

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予めこのコーナーで「WAKAYA津屋」を取り挙げたいと申し出ていたら森下裕次料理長から嬉しい報告があった。「ならば、湯浅醤油と丸新本家の他の商品も使って取材用に料理提案しましょうか」との話である。同店は、常に「樽仕込み」を使っている。今回は「魯山人」や「あわせみそ」「金山寺味噌」も使用して特別メニューにチャレンジしようということだった(但しこれらの料理は本取材用なので常時存在しない)。
竈で炊いた飯がこの店の売りなので、今回はそれを鯛飯にしてくれたのである。森下さんによると、炊き込みご飯はたまに出ることがあるそう。その時は一般的な調味料を用いているが、今回は「魯山人」で調味して作っていた。「この醤油は、実に美味。しっかりした味を持っているのに強さがありません。だから鯛めしが作りやすかったですね」と森下さんは感想を述べている。彼曰く「だしを作ってみて改めてその良さを確認した」のだとか。鯛は淡泊なので強い調味料だと、素材の味を殺してしまう。ところが「魯山人」はまろやかなので鯛の味が十分残ると話していた。「だしに『魯山人』、みりん、酒を入れてご飯を炊きました。鯛は別に焼いて炊く時に載せます。うちはガス火と違って薪をくべて炊くので燃え具合で味が変わって来るんですよ。直火なので米の甘味も出ますし、香ばしいおこげが付くのがこれまた魅力です」。味付けは薄め、でも「魯山人」なので醤油の旨さは出ている。鯛の味を邪魔することなしにうまく炊けていると思った。

この日のメイン(おかず)は、鰈の煮付。雑賀崎で水揚げされた大ぶりのものである。この鰈をシンプルに「樽仕込み」とだし、みりん、酒、若干量の砂糖で煮込んで作る。森下さんによると、みりんと砂糖で少し甘みを持たすことで醤油の個性を引き出すらしい。「鰈も淡泊な魚なので、用いる醤油を選びます。『樽仕込み』は、しっかりした味ですが、決して辛さはない。淡泊な食材にもうまく絡むんです」。先にも触れたが、近くに位置する雑賀崎漁港では平目、鯵、カマス、もんごいか、足赤海老と色んな魚種が揚がる。森下さんは、漁港に出かけ、水揚げを見ながら直接買い付けて来る。船の前で売っているらしく、鮮度は折り紙付きだ。「悪天候や不漁があるので入手できない日もありますが、それを見越して多めに仕入れて店で保存しています」と説明していた。この日は大ぶりの鰈があったのでそれを煮付けたようだ。

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菜の花の白和えにも同社商品が使われている。ここで用いたのは、和歌山らしく「金山寺味噌」。塩茹でした菜の花に潰した豆腐を加え、すりゴマを入れてみりんと「金山寺味噌」とで調味した一品だ(仕上げにはゴマを振っている)。森下さんは、「金山寺味噌」を用いると、そこに具材も入っているからいいと話し、普段の白味噌で仕上げたものより「味噌感や具材の食感が混ざり合って旨い」と表現していた。丸新本家の「金山寺味噌」なら甘みも程良く仕上がるそうだ。
今回は豚汁にも丸新本家の「あわせみそ」を用いてもらった。いつもは甘口の味噌を使うそうで、それよりは味が締まってよかったと評している。同社の「あわせみそ」は、甘ったるくないので、抑えた味わいになったよう。
写真でもわかるように盆にそれらの品を並べると、なかなか豪華な定食ができあがる。以上4品にめしの友が付き、食指が動くことこの上ない。流石に港近くの利点をいかしているだけあって魚が秀でている。「これなら十分売れますよ」と笑いながら評していたのだが、そんな感想を持つのは私だけではないと思う。旨い魚と竈で炊いた白ご飯_、色んなモノが溢れている今の時代に、これこそが求められているのではなかろうかと実感した次第である。

  • <取材協力>
    WAKAYA津屋

    住所/和歌山市和歌浦東2-6-2

    TEL/073-444-0525

    営業時間/水曜~日曜日 11:30~14:30、18:00~22:00 
    火曜日11:00~14:30

    休み/月曜日、火曜日の夜

    メニューor料金/
    かまどご飯 200円
    灰干さんま 390円
    灰干さば 580円
    灰干鮭 570円
    灰干ほっけ 580円
    海苔 50円
    納豆 80円
    生石高原の生卵 80円
    豚汁 200円
    だしまき 200円
    しらすおろし 150円
    カボチャ煮 100円
    きんぴらごぼう 150円
    煮付 時価
    造り 時価


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい