2021年12月
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 飲酒運転禁止の罰則強化や健康問題など、巷では酒を飲みたくても飲めない人が増えて来ている。そんな社会的背景を伴ってか、ノンアルコールの需要が高まっているのだ。当方も車で仕事に行くケースが多く、当然ながら食事シーンでは酒が飲めなくて困っていた。ノンアルビールはあるものの、飲んでも一杯ぐらいで、あとはお茶…。烏龍茶やソフトドリンクでは食事が楽しめないのだ。酒を恋しがっても仕方はないので、飲めない日は自分ならではのノンアルの楽しみ方を導入したいと考えた。そこで目をつけたのがお酢の効果。お酢はアルコールと分子構造が似ており、吸収の仕方も同じようなので、アルコールの代替になると思った。なので食酢大手メーカー「Mizkan」(以後ミツカンと書く)を巻き込んでオルタナティブアルコール(お酢ベースのノンアルカクテル)のレシピ開発とその普及を目指したのである。昨秋発表して、今秋は二回目_、ならば目玉となる企画も必要とばかりに世界初(?!)のお酢ベースによるオルタナティブアルコールコンテストを行うこととした。今回はその話も含めながらオルタナティブアルコールの波及について話したい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
世界初(?!) オルタナティブアルコール(お酢ベースのもの)コンテストの栄誉は誰の手に?バーテンダーも参加したノンアルコールプロジェクト。

なぜお酢を使ったノンアルカクテルが持て囃されるのか

あ 昨年ぶち上げたオルタナティブアルコール(ノンアルカクテル)は、各所で多大な反響を呼んだ。グランフロントで開催した記者発表会効果もあって新聞やテレビ、ラジオなどのメディアがこぞって紹介してくれたのだ。事の起こり等々については、以前のこのコーナー(第88回参照)でも書いているので読んでほしいのだが、今年はコロナ禍で緊急事態宣言中の酒提供禁止もあったので「その期間は重宝した」と言っている店もあるくらい影響を及ぼしている。我々が提唱するノンアルコールドリンクは、お酢をベースにしてレシピを作っている。これまでにもノンアルカクテルは様々存在したものの、ジュース類の域を脱せなかったようだ。

いそれは、果汁や炭酸を重ねただけのミックスジュース的な作り方が災いしてそうなってしまったと思われる。アルコールが入ることによってキック力が芽生え、割材の味も引き立てながら融合させる。これがあるなしではかなり風味に違いが生じてしまう。ところがお酢は、アルコールと分子構造が似ており、身体での吸収の仕方が同じようになるので、ノンアルカクテルといえども近い働きが生じる。だから食酢や食酢飲料をベースにカクテルを作ることで、本格派と見紛うレベルのものができあがるというわけだ。加えてお酢は、血管を広げる作用もあってアルコールと同様に血流を促進する効果も期待できる。こられの要因が、これまでのノンアルカクテルとは大きく異なる点で、飲んだ人は何となく酒を飲んだかのような気分になると思われた

う こういった要素をふまえながらドリンクのプロであるバーテンダーにレシピづくりをしてもらった。特に2017年に香港で催された「オールワールドオープンカップ」にてカクテル世界一に輝いた森崎和哉さん(「サヴォイオマージュ」オーナーバーテンダー)の作品は素晴らしく、凝ったものもあれば、素人でも簡単にできるものもある。中でも「シャイニーフレグランス」「ガーネットラブ」「サニーブレッシング」の三つは、食酢飲料「フルーティス」とお茶、炭酸を1:2:2で割っただけでできあがるとあって「提供しやすい」と色んな店が導入している。

え ノンアル分野は、そのものズバリ、ノンアルコールカクテルと表現するものもあれば、擬似を表すmockとカクテルを指すcocktailから造語を作ってモクテルと呼ぶこともある。さらにフルーツビネガーを用いたものでは、シュラブと称すのだ。我々は、あえてそれらの名称を使わずに「オルタナティブアルコール」と呼ぶことにした。オルタナティブとは、既存のものに代わる新しいものの意で、ここではアルコールに代わるものとしてお酢を使っている。

てこの呼び名が功を奏したのか、「さかばやし」の幸徳伸也さんは、「緊急事態宣言中は、お酒を飲めない人の欲求を満たしてくれました。『ノンアルですよ』と説明していますが、アルコールとついているから多少はその風味を出しているのだろうとお客様が理解し、これを注文するケースが多かったです」と話している。まさにオルタナティブ的な役割を果たした事例であろう。

ゴルフ場やバーもオルタナティブアルコールを導入

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 昨年発表したオルタナティブアルコールは、色んな場所へとその需要を波及させている。その一つがゴルフ場での提供であろう。昨秋テレビのニュースでオルタナティブアルコールの存在を知った「魚国総本社」の中右賢治さんがゴルフ雑誌の記者を通じて接触して来てくれた。「魚国総本社」は、レストラン経営だけでなく、メディカルダイニングやスクールダイニングなど幅広く手がける企業。ゴルフ場内のレストランも運営を任されており、「城山ゴルフ倶楽部」や「泉ヶ丘カントリークラブ」「パインレークゴルフクラブ」など9つのコースのレストランがそれにあたる。ご存知の通りゴルフ場へは車で行くケースがほとんどで、飲酒運転禁止による罰則強化から酒の提供量が減っていた。そんな流れの中で少しでもドリンクの需要を促したいとオルタナティブアルコールの導入を決めてくれた。中右さんは、各ゴルフ場のレストランと調整を図りながら我々の作ったレシピでオルタナティブアルコールを作って提供していたのだが、いっそのことならゴルフ場に合ったノンアルを作るべきとの思いがあり、ミツカンと相談しながら「魚国総本社」オリジナルを出すことにした。

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ここでも世界的バーテンダー・森崎さんを起用し、夏ごろから創作を続けて来た。ゴルフをテーマにしたカクテルでは、「ホールインワン」なるクラシカルなものがあるので、それをヒントに森崎さんは、「ナイスイーグル」なる一杯を創作している。このオルタナティブアルコールは、ミツカンの食酢飲料「フルーティス シャルドネ」をベースに、オレンジジュースやレモンジュース、ソーダを加えて作ったもの。オレンジジュースを用いることで、お酢独特のツンとした味を抑え、レモンジュースのクエン酸で爽快感を持たせている。タンブラーに注ぎ入れ、見ためにもハイボールっぽく見えるために、いかにも酒を飲んでいるかのよう。味わいもそこまで甘くはなく、酸味もあるのでプレー後の一杯には適していると思われる。

き これまでノンアルとは縁が薄かったバーも導入を考え始めた。殊に春以降は、コロナによる感染を防ぐために店での酒提供禁止もあってバーは営業自体できなかった。そんな時に酒と見紛うノンアルコールがあれば、少しは役に立つのではと考えたのか、このオルタナティブアルコールを始め、色んなノンアルカクテルにチャレンジする店が増えた。そんな動きもあって我々は、若手バーテンダーに限定してオルタナティブアルコールのコンテストを考えた。

く二回目となる発表会では、目立となる企画が欲しかったので、世界初(?!)のオルタナティブアルコール(お酢ベースのもの)コンテストと銘打って1028日のマスコミ向け発表会内で催すことにした。募集を7月から始め、8月末までに集ったのが33作品。流石にバーテンダーらしく傑作揃いで、レベルの高い作品ばかり。それらを9月に書類選考し、5作品を本選へ。1028日のオルタナティブアルコール発表会で一位を決めようとした。

け最終選考(コンテスト出場)に残ったのは、藤村謙造さん(Bar K6)の「桂川」、中島悠輔さん(Alcobareno)の「エレガンス」、田中志歩さん(Lounge&Bar 1867)の「フルッテート」、井口真太郎さん(神戸みなと温泉蓮)の「サルーテ・ポモドーロ」、小濱藍さん(ラウンジ&バー グランブルー伊丹空港店)の「ポム・オ・レ」だ。

こコンテストの審査員は、当日取材に訪れた記者の方々と、オルタナティブアルコール新作づくりに参加してくれた大阪樟蔭女子大学の8人の4回生が務める。色んな項目で審査を行うのではなく、自分が美味しいと思った作品に一票を投じる選挙スタイルにし、コンテストをわかりやすくした。さて誰の手にその栄誉が手渡されるのやら、1028日の発表会が興味を帯びて来た。

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しコンテスト当日のトップバッターは、藤村謙造さんで、「フルーティス シャルドネ」をベースにキュウリジュースと炭酸を割り材として「桂川」を作っていた。真夏に考案しただけに爽快感のある一杯になっている。鮎との組み合わせを念頭に置いて考えたという。キュウリをグラス内に入れて、しかもキュウリジュースで割っているので、その味が強く、素材を聞かなくても飲んだだけでキュウリを使っているのがわかる。まさに和食に合いそうなオルタナティブアルコールである。二番手の中島悠輔さんは、健康と美容をテーマに「エレガンス」を披露。こちらは「フルーティス ざくろラズベリー」「純リンゴ酢」に、皮ごと使用したリンゴジュース、アクアファバ(ひよこ豆の煮汁)などを用いている。材料をシェイカーに入れてシェイクして混ぜ合わせるのだが、ローズシロップの華やかさが感じられる上に、バラと金粉で装飾していて、きらびやかな一杯だ。「忙しい毎日でも美容や健康に気を遣いながら一息つけるようなカクテルにしました」と中島さんは紹介していた。田中志歩さんの「フルッテート」は、「一日の終わりにご褒美として飲んでもらいたい一杯」だそう。「フルーティス」のシャルドネとざくろラズベリーを使い、自家製のミルクウォッシュダージリンティーやレモン&ローズマリーシロップなどで作っている。ざくろラズベリーを煮詰めて濃縮させ、酸味より甘みを際立たせるらしい。ザクロの赤と透明感のある色がきれいで、ローズマリーが添えてある。爽やかさの中に少し甘みがあって飲むほどにその甘みが舌に伝わるよう設計されていた。トマトを丸ごと器にしたユニークなオルタナティブアルコールが、井口真太郎さんの「サルーテ・ポモドーロ」だ。「リンゴ酢」をベースに、トマトの実やオレンジジュース、バジルソースなどで作る一杯で、飲むとトマトの旨みがよく伝わる。井口さんによると、「食前に飲むことで食欲を増進させる狙いがある」そうだ。さっぱりしたドリンクでサラダ代わりにも使えそう。伊料理にはぴったりじゃないだろうか。最後の「ポム・オ・レ」は、伊丹空港の保安検査所内にあるバー「ラスィート・グランブルー伊丹空港店」小濱藍さんの作品である。彼女は「りんご黒酢」を使って、牛乳・生クリーム・キャラメルソースでそれを作ってシナモンスティックを添えていた。鹿児島の出身らしく、黒酢で何か作りたいと考えたようだ。「コロナ禍で家族で過ごす時間が増え、皆で楽しんでほしい」と創作した。甘めのオルタナティブアルコールで、子供から高齢者まで万人ウケしそうな味になっている。キャラメリゼされたリンゴを飾り、リンゴをイメージさせ、カフェオレから連想するよう「ポム・オ・レ」と名づけたという。

 これら5作品の中で、第一回オルタナティブアルコールコンテストの優勝を射止めたのは、「フルッテート」を考案した田中志歩さんだった。準優勝の中島悠輔さんの「エレガンス」とは、かなり僅差で甲乙つけ難い評価だったようだ。「フルッテート」は、沢山のフルーツがある果樹園の意。「お疲れ様の気持ちもこめて心も身体もリラックスできるように」と提案した田中さんの作品が、日頃から走り回るマスコミ陣の心を射止めたのだろう。どの作品も好評価だが、少しだけ彼女の作品がこの会場では勝っていたということか。コロナ禍での報道疲れした記者陣には、ぴたっとはまったのだろう。

すせそた

ちつ

 

 

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい