2015年08月
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日本人はウニ好きで、その消費量は世界一だと聞く。ウニというと、有名なのは北海道、続いて三陸や越前、下関などが挙げられる。けれど日本一旨いとされるのは、この有名地域のものではなく、何と近くの淡路島。それも由良の磯で海草や藻を食べて育つものが美味なのだ。今回は、幻とも呼ばれる由良の赤ウニを求めて四苦八苦。ただでさえ揚がらないのに台風ラッシュとあらば、まさに超貴重品だった。そんな狂騒のようなひと夏の話をしよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
淡路島・由良で獲れるウニが
日本一旨いといわれている!

由良のウニは、超高級品

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 今夏はまるで由良のウニ狂騒(・・)曲のようだった。好評の「おとな旅神戸」で二回、神戸酒心館の「旬を堪能する会」で一回の計三回も幻の由良の赤ウニを食べるというテーマの食事会を催したわけだが、これが台風と不漁が重なり、イベントが危ぶまれる始末。現に「旬を堪能する会」は一度延期し、1カ月後に行ったくらいである。
そもそも淡路島の由良で獲れるウニは、極上品とまでいわれ、市場になかなか出回らない。大阪湾側の某市の水産関係者が「由良のウニでイベントをするなんて無謀、無謀」と強調し、「価格もバカ高いだろうし、そんなに量も獲ることはできないからやめておいた方がいいですよ」と指摘したくらいだ。

genba031_photo02 日本人は、とかくウニ好きといわれ、世界一の消費国とまでいわれている。ただ世間に出回っているものの9割が北米やロシア、チリといった外国産ばかり。そう考えると、由良どころか、国内産でも貴重といわざるをえない。国産ウニというと、大半の人は北海道をイメージしてしまうだろう。北海道で獲れるバフンウニや紫ウニは、美味とされ、夏の観光(グルメ)の目玉にもなっている。そんな北海道を凌ぐのが淡路島のもの。中でも由良(洲本)沖で獲れたものは日本一とまでいわれ、グルメ垂涎の的になっている。ただ悲しいかな、我々は近く(阪神間)に住んでいてもそれを口にすることがめったにない。ほとんどが築地に行き、東京の有名料亭へと流れてしまうからだ。由良漁港で話を聞くと、淡路島産というだけで浜値で7~8千円、由良沖で獲ったものなら10000円はするそうだ。流通が入っていないのにこれだけの値をつけるのだから普通ルートで流れれば、少なくとも20000円の値はつけるはず。さらに東京へ行くと、50000円ぐらいで出されるそうだから‟幻”と表現してもおかしくはないだろう。

由良のウニは、甘みがあって口内でとろける

genba031_photo03 淡路島は漁業が盛んな地であるから誰もがウニを獲るのかといえばそうではなく、漁業組合で会員になり、潜る免許を取得した漁師しかウニ漁をすることができない。漁師は網や釣りで大漁を狙うわけだから、素潜りしながら一つずつ確保する潜り漁をやりたがらない人が多く、淡路島でも大半の人が潜りの免許を持っていない。ところが由良のウニは高価。それに魅力を感じる人もおり、大漁旗よりもウニやアワビを獲ることに生き甲斐を見出す者もおり、漁師の中でも幾人かの限られた人が素潜りを専門としている。
淡路島中のウニが由良漁港に集まるそうだが、中でも由良沖で獲ったものは、さらに甘みがあって美味。なぜなら由良沖の海草は、瀬戸内とまた違っており、この良質な藻やわかめを食べるからウニが美味しいといわれている。北海道のバフンウニや紫ウニも確かに美味だが、若干の苦みを有すため、苦みがなく、甘みが強い由良のものとは差が生じてしまう。ただ由良のウニは超貴重だけに出回っておらず、その味を体験した人が北海道産のものに比べて少なすぎるために世間で知られていないだけである。
genba031_photo04 出回っているウニの大半は、保存するためにミョウバンを使っている。これを使うと苦さが生じるためにどうしても甘さは少なくなってしまう。由良のウニとて例外ではなく、漁業関係者によればヘタな人ほどそれを使いたがるそうだ。腕のいい人は、殻から取るのも丁寧。先の細くなったスプーンを入れ、繊維を潰さないように取っていく。取ったものは初めは同じように見えるが、下手な人の場合だと、二日たったら溶け出してしまうそうだ。それに対してうまい人のは一週間たってもきれい。黄色の粒が並んで木箱に収まっていると聞く。ここでちょっと耳寄りな話を_。一見、黄色がきれいなウニの方がいいと思われているが、通は少し黒ずんだものを好むのだとか。その方が甘みが強いとされている。但し、少し黒ずんだウニは、磯の香がする。それが好きか、嫌いか、もし大丈夫ならきれいな黄色より少し黒ずんだものを選ぶべきなのだろう。
そんな話を以前したからか、神戸酒心館「さかばやし」のお客さんから「ぜひ由良のウニで食事会を催してほしい」と言われていた。彼らはグルメだからいいものにはそれなりの対価は払ってくれる。でも、「お金がかかってもいいならやりましょうか」にならなかったのは、量が揃う保証が全くなかったからだ。それでも彼らの熱望により、今夏企画することになった。それに「おとな旅神戸」が加わって企画が増えたのだ。
 ところが今夏は台風ラッシュ。運悪いことに計三回の食事会の前週か、当週に必ず台風が関西を襲った。普通の釣りなら海が穏やかになったら漁はできるが、潜りはそうはいかず、台風の前後で海の中が荒れて前が見えない状態になっては、決まって坊主となる。そんな日が続いた。漁協の人は、イベント告知しているから揃えねばならず、いつもより高い値段で買っている。「さかばやし」側も自ずと仕入れ費用がアップする。どこも儲からないイベントになってしまった。元来、獲れる量がしれているため、これらのイベント用に揃えてしまうと、巷に出回らなかったそうだ。口の悪い人は、「この夏、曽我さんがらみの食事会で大半のウニ(由良のもの)が消費された」とまで言っているほどで、そんな声を耳にすると、いかに由良のウニが貴重品なのかがわかってもらえるだろう。さて、これらのイベントに参加し、由良のウニを味わった人の感想は「今まで北海道が一番と思っていたけれど、由良のものを食べてそうじゃないことが分かった」とか、「これほど甘く、上品なウニは味わったことがない」といった声が_。やはり日本一旨いと噂されるのは、あながち嘘ではなかったようだ。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい