120 2023年09月三田で飲食店を展開する福助グループ。その規模は、近年になってより拡大し、高槻や木津などにも進出。店舗数は今や30店舗近くにのぼるという。福助グループの中でも好調なのが、JR三田駅近くに立地する「ごはん家のTasuke」だろう。この場所では、以前から福助グループが居酒屋展開を行って来た。これまでに「でんすけ」や「田助」として地場の居酒屋として親しまれて来た。それを「ごはん家Tasuke」と変えてリニューアルしたのが昨年の2月ぐらいか。おばんざいと日本酒、焼鳥をメインに打ち出しており、リーズナブルに日本酒片手に一杯飲りながら食事も楽しめるとあって三田の人達の間で上々の評判を取っている。今回は、そんな三田に根づく居酒屋で、湯浅醤油・丸新本家の商品を使って料理創作を行った。福助グループの中谷世志樹マネージャー(第77回参照)と同店の宮本好剛料理長が頭をひねって考えたという五つの料理をご覧あれ。

ごはん家Tasuke 宮本好剛
(ごはん家Tasuke料理長)
「一般の醤油のように醤油辛さが
出ると、それを使っての豆腐づくり
は無理でしょうが、『生一本黒豆』
を用いると、色も抑えられ、豆腐の味も上手くいきます。
昔ながらの醤油という感じで、旨みがよく出ています。」

老若男女から支持される三田駅近くの元気印

居酒屋が受難の時代を迎えていると聞く。発端はコロナ禍で、明確な理由がないまま、酒がコロナ蔓延に関与するかのように言って(実はまっ赤な嘘なのだが)、酒席を持つ居酒屋形態がその煽りを喰った。以来、居酒屋に客足が戻り切らないとも聞くし、某飲食店経営者からは「居酒屋の時代が終わったのでは…」とも囁かれていた。日本酒、焼酎、ウイスキー(ハイボール)、ワインと色んな酒が楽しめ、料理も和洋中と異なるジャンルのものが食せる居酒屋は、まだまだ魅力のある形態だと思う。その証拠に日本に訪れる外国人からは、居酒屋が多大な評価を受けており、「リーズナブルにこんな色んなものが味わえる店はない」と人気の的となっているのだ。ならば「居酒屋の時代は終わった」との評価は、コロナ禍とそれ以降現状のみを嘆いた言葉であって世間のニーズとは合致しないだろう。インバウンドが戻りつつある今こそ、外国人観光客に向けて打って出るネタがそこにあるのだ。
そう考えていたら、三田(兵庫県)で元気な居酒屋を見つけた。三田で多くの飲食店を展開する福助グループの一つ、「ごはん家Tasuke」がそれである。同店は、JR・神鉄三田駅からすぐの立地。駅から三田市役所へ向かう道筋にある。福助グループは、経営者の福西文彦さんが、三田で居酒屋「福助」を立ち上げ、年々店舗数を伸ばして来た。グループ内には日本料理店、居酒屋、ラーメン、焼肉と色んなジャンルの店があり、彼の実家が三田の農家だったこともあって野菜や米を作る「福助ファーム」も傘下に持っている。「ごはん家Tasuke」は、その一角を担う居酒屋で、かつて「田助(でんすけ)」と称した店をリニューアルして開いた。同店がリニューアルしたのは、やはり居酒屋受難のコロナ禍でのこと。コンセプトを変えてメニューを一新することで、苦難の時期に立ち向かえるようにと福西さんが考えた。くしくもその時期に別事業に配属されていた中谷世志樹マネージャーがグループの飲食部門に戻って来たので彼にコンセプトづくりを託したようだ。

中谷さんは「ごはん家Tasuke」を開く際に三つの柱をコンセプトに掲げた。①おばんざい②日本酒③焼鳥で、これらをベースにメニューづくりを行うと共に、女性にウケそうな一品も充実しようと考えた。オープン時は、まだコロナ禍で、酒席利用だけではなく、おばんざいを充実することで食事利用を促したのだ。そのターゲットが女性客で、「長芋のステーキ」や「トマトとクリームチーズのカプレーゼ」など女性が好みそうな料理を作り、盛り付けも女性ウケを狙ったようだ。それが功を奏したのか、おばんざい6種とメイン料理、三田コシヒカリか、十穀米を選べる「おばんざい定食」は、ほのぼの感があって栄養バランスがいいと主婦に人気だそう。
「日本酒は一般の店より50%ぐらい安いです」と中谷さん。もともとは、コロナ禍で酒蔵(日本酒メーカー)が苦しんでおり、支援する意味で始めた企画だが、消費者のニーズにぴったりはまり、いつしかこの店の売りの一つになった。「この辺り(三田)だと都心と違うので平日に日本酒を飲む人は少ないんです。その因は、日本酒だとまあまあ値が張ってしまうから。それに料理をプラスすると、一人6000〜7000円の支払いになるんです。二人で1万円を切る献立が実現すれば、日本酒片手に一杯という向きも増えて来ると思ったんです」と中谷さんは話す。そこで日本酒の値を下げ、求め易くした。価格帯もわかりやすく純米酒が300円均一、純米吟醸や季節限定酒は400円均一、そして純米大吟醸は、「獺祭(だっさい)三割九分」が600円、「獺祭二割三分」800円、「久保田萬寿」700円といった具合いに。「獺祭二割三分」は一般店なら1300〜1400円する所がこの値段なら日本酒好きは飛びつくだろう。「日本酒は蔵元に直接行って買ったりしていますし、日本酒専門の酒屋からも仕入れています」と店長の木下正浩さんが話していた。「スタッフが味見してそれに合うように料理を考えて行くのも強味」と言う。時季ごとに銘柄を替えながら提供しており、今や三田で日本酒で飲るなら『ごはん家Tasuke』とのイメージが付いて来たようだ。
加えて昼は1980円のコースが主婦層に人気だとか。この日の内容は、穴子の茶碗蒸し、炙りイカのカルパッチョ、鮭の西京焼きとおばんざい四種盛り合わせ、三田和牛の陶板焼、鯛の釜飯、漬物、味噌汁、デザート。本来なら2980円で出すものを地域のフリーペーパーとコラボして安価に提供しているのだという。「色んな要素が重なり合うせいか、うちは老若男女の全て層から支持されているんですよ」と中谷さん。単に酒に頼り切った営業ではないのが好調の要因らしい。居酒屋苦難の時代に勝ち抜く術が彼らの会話から垣間見られた。

エッ?!水の代わりに醤油で豆腐を作るなんて!

ところで今回も予め湯浅醤油・丸新本家から商品を「ごはん家Tasuke」に送っておき、本取材用に料理を創作してもらった。料理担当は、「ごはん家Tasuke」で料理長を務める宮本好剛さんである。宮本さんは、福助グループで約25年間調理を担当しているベテラン職人で、入社以来グループ内の「宴 福助」や「三福」でも腕をふるっていた。どちらかというと、寡黙な職人の印象を持ち、「腕はしっかりしているし、イメージしたことを上手く具現化してくれる」との評価があるようだ。
そんな宮本さんに「ゆずぽん酢」「生一本黒豆」「白搾り」「金山寺味噌」「あわせみそ」を渡し、それらに合う一品を作ってもらった。宮本さんは、以上の商品にマッチする料理を創作するだけでなく、コース仕立てになるように考えてくれたのだ。それが①平目の薄造り②自家製醤油豆腐③里芋とトマトの金山寺味噌ミルフィーユ④鱧の白焼き⑤鯛にゅうめんである。造りから始まり、麺で締めるという、まさにコース風になっている。

まず「平目の薄造り」だが、これはシンプルに鮮魚の造りになっており、「ゆずぽん酢」で食べる。「湯浅醤油の『ゆずぽん酢』は、優しい味わい。だから女性に受け易いように思います。流石に醤油メーカーの品だけあって醤油が美味しい。酸味も強くないので酒に合う味だと思って作りました」。こう宮本さんが話すように、まずは「ゆずぽん酢」ありきで造りができあがった。当初は鯛でと考えていたようだが、鯛は脂乗りがあって平目の方が淡泊な魚なので、この調味料にはより合うように思えたから素材にはそちらを選んだと話していた。宮本さんは「ゆずぽん酢」を高く評しているようだ。「醤油味がしっかりしているので鍋物に添えても追い足ししなくてもいい。酸味が強いタイプなら徐々に薄まって来てどうしても追い足ししてしまうんですよ。その心配が『ゆずぽん酢』にはいりませんね」。料理自体はシンプルで、コースのスタートとしては適切なもの。ポンズとケンカしない食材がトップバッターのマストアイテムなら上々のスタートを切ったように思える。

二品目は、ちょっとびっくりするような料理であった。「自家製醤油豆腐」と聞いて一瞬話を聞き流してしまったが、ようよう聞けば豆腐を醤油・にがり・豆乳で作ったというのだ。「ごはん家Tasuke」では普段から店で豆腐を作っている。だからできた一品で、水の代わりに「生一本黒豆」を入れて豆腐を作っていた。「醤油メーカーとのコラボなので、最大限に醤油を使いたいと思い、これを考えました。掛ける、混ぜるはどこでもやるので、うちは醤油を使って豆腐ができないかと発想したのです」。豆腐を食べる時に醤油をかける。それが染み込んだならこれぐらいの量が必要だろうとイメージして豆乳やにがりと合わせたそうだ。「にがりも塩分なら醤油にも塩分があります。だから合わせても不思議ではないと思いました」。にがりとは、海水から摂れる塩化マグネシウムを主成分とした食品添加物である。ナトリウムとタンパク質で固まるので醤油の味は邪魔しないだろうと考えたようだ。「一般の醤油のように醤油辛さが出ると、豆腐作りは無理でしょうが、『生一本黒豆』だと重くならず、醤油の旨みもあって上手く使えるんですよね。色だけ考えれば白醤油という案もありますが、塩分が強いタイプより濃厚な方がいい。送られて来た中に丁度いいのがあった(生一本黒豆)ので、それを用いて豆腐づくりにチャレンジしてみました」と宮本さん。豆腐料理にとって醤油は本来脇役だが、「口の中では主役を張れるように」と考えてレシピ化したらしい。水を醤油に代えて作った「自家製豆腐」の出来映えに宮本さんもご満悦気味。聞けば、今後この店でメニュー化する予定だとか。日本酒に合う一品が本取材にて誕生したことになる。

ス1

三つめは「金山寺味噌」を使った「里芋とトマトの金山寺味噌ミルフィーユ」。湯浅醤油から送られて来た「金山寺味噌」を試食した際に宮本さんは、「一般市販品より醤油味がしっかりしていて、そこまで甘くはない」との感想を持った。生姜も中に入って味のアクセントを加えており、これだけでも十分酒のアテになるなと思ったそうである。この味噌をさらに柔らげ、もう一皿分食べられるようにしたいと考え、里芋、オクラ、トマトを加えることにした。宮本さんは、常々トマトと金山寺味噌が合うと思っており、この品ではそれを試している。トマトが入ることにより水っぽくなるのを防ぐために里芋を使った。そして食べていくと最後に塩分が口内に残るので、リセットする意味もあってオクラを加えている。「里芋は炊いてから潰して団子にし、周りにゴマをまぶして油で揚げています。トマトは湯むきして『白搾り』で地漬けを。オクラは塩ゆがきしてそのまま添えています。ちなみにトマトとオクラは、福助グループの自社農園(福助ファーム)産を使っています」。器には、まず「金山寺味噌」を敷き、素材に「金山寺味噌」を挟むように盛り付けしている。三層になっており、まさにタイトル通りミルフィーユ調だ。

ソ1

四つめは「白搾り」で味付けた「鱧の白焼き」だ。鱧は、塩焼きで火を通し、醤油を香りづけに用いる。アツアツを食べると、ほんのり醤油香があるが、冷めたら塩味が主張をする。本来、塩焼きだと生臭さが生じるのだが、この品は冷めてもそれがない。「臭みを消す役目を醤油が担っている」と宮本さんは説明していた。「料理は必ずアツアツのものを食べるとは限りません。宴席だと話がはずみ、料理が冷えてしまうことも。そんな時には醤油の魔法が効くのです」。醤油はアツアツの時と冷めた時では効果も変わる。温度で香りの立ち方が変わって来るのだ。鱧の焼物も一旦醤油を塗ると、臭みが出にくくなる。それを宮本さんは、「白搾り」で表現したのだろう。「白搾り」は、濃口や淡口とは異なる白醤油なので、塗っても鱧の色を邪魔しない_、そんな効果も狙って用いている。

チ1

最後は、コースを想定しているので締めの一品となる「鯛にゅうめん 味噌仕立て」を。にゅうめんは、普段から吸物代わりとしてこの店で出ており、今回はそれを味噌仕立てにしてアレンジしている。使った商品は「あわせみそ」で、だしに薄めの味噌汁の地を張ってそこににゅうめんを加えて提供してくれた。具材は、「福助ファーム」で獲れた茄子。どうやら一緒に料理創作した中谷さんが茄子の味噌汁が好きらしく、彼の嗜好に合わせて宮本さんが作ったみたいだ。「あわせみそは、風味があって切れもある。そんなに甘みも強くないから使い易いですね。車に例えるなら操作しやすいマニュアル車のようです。甘くしたいと思えば、調味料を加えればいいし、設計がしっかりしているから上手く使えるのですよ」。こう表現しながら宮本さんは、「あわせみそ」を試したそうである。

テ1

今回は、このようにコースに仕立てながらも湯浅醤油・丸新本家の商品特性を上手く引き出してくれた。共に「ごはん家Tasuke」のメニューに組み込まれていてもおかしくない品々で、居酒屋らしいラインナップであった。同店は、中谷さんが言うように日本酒とそれに合う肴が人気だが、この五品も各々日本酒片手に飲るにはぴったりな味だと思った。特に「自家製醤油豆腐」は、思考といい、その調合の仕方といい、味わいといい、かなりユニークな存在といえよう。中谷さんや宮本さんもその出来映えに自信を持っており、「今後メニュー化したい」と話していた。本取材は、企画上の特性から私だけが味わうものとして紹介するケースが多いが、「メニュー化したい」なら一般の方も味わえる可能性が出て来る。取材から新商品が誕生することは、まさに喜ばしいことである。

 

  • <取材協力>
    ごはん家Tasuke

    住所/兵庫県三田市中央町4-24

    TEL/079-564-8844

    HP/ Instagramはこちら


    営業時間/11:00〜15:00
    17:00〜23:00

    休み/月曜日

    メニューor料金/
    おでん5種盛り合わせ 980円
    京風おでん 大根 220円
    厚揚げ 200円
    和牛すじこんにゃく 580円
    炭火焼鳥 だき身 240円
    ささみ 180円
    皮 150円
    大海老と季節野菜の天ぷら 1280円
    絶品のだし巻き玉子 550円
    豆冨と大根の揚げだし 480円
    三田ポークのレアチャーシューと淡路玉ねぎのサラダ 880円
    長芋の丸太ステーキ 780円
    豚肩ロースの西京焼き 880円
    北海道生じゃがフライ 400円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい