96 2021年08月 TVによく出る料理の先生が作ったものを実食したい。それは視聴者万人の願いかもしれない。かつてTVの情報番組でレギュラーを持ち、かの有名なジャニーズ系タレントに料理指導を行っていた藤本喜寛先生の料理を一般の人たちが味わえるきっかけがやって来た。それは元辻学園の同僚(辻クッキングなどの先生)の林幸司先生と藤本先生がタッグを組み、今夏から「藤林館」をスタートさせたからだ。「藤林館」と名付けてはいるものの、実店舗ではなく、「Fujimotoキッチンスタジオ」のスペースを利用してのもの。つまり藤本先生と林先生が仕事の空きを利用してヤンコギ鍋なる韓国風ジンギスカンのコースを提供しようと目論んでいるのだ。出す羊肉は、生後4ヶ月までの仔羊で、フレンチで使用する上物らしい。これをジンギスカン鍋で焼いて醤油ダレと味噌ダレなどで味わう。しかもこれらのタレには、湯浅醤油・丸新本家の醤油と味噌が使用されている。今回は、いち早く藤本・林両先生が作ったヤンコギ鍋を体験して来たので、タレづくりとともにそのコース内容をレポートしよう。

仔羊肉鉄鍋料理 藤林館 藤本喜寛(左)、林幸司(右)
(藤林館(Fujimotoキッチンスタジオ内))
「萬醤は、甘口の醤油で奥行き
がある。
味わいも深いために韓国風
ジンギスカンのタレづくりには
ぴったりでした。
醤油や味噌の旨みや甘みをいかし
ながらフルーツなどで酸味の
バランスをとっていいタレが
出来上がりました」

いい仔羊肉ありきで、韓国風ジンギスカンをスタート

 

 松屋町(大阪市中央区)にある「Fujimotoキッチンスタジオ」は、藤本喜寛先生の仕事場。ここでメーカーや飲食店向けの料理を開発したり、食をテーマにした講座や料理教室も行ったりしている。時折りテレビ局が料理の収録をすることもあり、ひょっとしたら画面で観たことがあるかも。とかく幅広く活躍しているのだ。藤本先生と私とのつきあいは、かなり永い。私があまから手帖の編集部に籍を置いており、藤本先生が辻学園T E C日調の教授として活躍していた時代からだから、かれこれ30年にはなろうか。藤本先生は、現在、「Fujimotoキッチンスタジオ」を運営。食品メーカーにも影響力があるし、文化人的にも存在感がある。一時期はTV番組でも毎週コーナーを持つほどだったので、関西の食の巨匠の一人といっても過言ではないだろう。そんな藤本先生が今夏より自身のキッチンで新たな試みを始めるという。聞けば、かつて辻学園で同僚だった林幸司先生と一緒に料理提供する場を作るのだとか。

林先生は、何度かこのコーナーに登場している料理のプロデューサー。これまでにいくつもの店舗の立ち上げを行っている。林先生は、どちらかというと、中華料理と和食がフィールド。藤本先生が仏・伊料理がベースなので、二人そろえばどんな料理でもできてしまう(とはいえ、元来辻学園の先生はオールマイティなのだが)。この二人の先生方が画策しているのが、なんと韓国風のジンギスカンである。「Fujimotoキッチンスタジオ」は藤本先生の仕事場だが、予約があってスタジオが空いていれば、ヤンコギ鍋の料理屋として変身させるそうだ。メニューは、ヤンコギ鍋のコース一本のみ。内容は、①8種のナムル②ムール貝のスンドゥブ仕立て③ヤンコギ鍋④ニラキムチ⑤韓国カムジャ麺⑥デザートになっている。これが一人前4,000円で提供ならかなりお値うち品だろう。飲み放題を加えたとすると5,500円になる。完全予約制で、最低4人から。一日一回(昼or夜)一組限定で、12人まで対応が可能。これなら他のグループと一緒になることはなく、貸切状態で密にならずに楽しめるのでコロナ禍の今に合っているように思える。ちなみにヤンコギ鍋を提供する時は、「Fujimotoキッチンスタジオ」ではなく、「藤林館」となる。いわば、藤本・林の料理屋というわけだ。

 藤本先生がヤンコギ鍋を始めるきっかけは、いい羊肉がはいるルートがあったから。従来のジンギスカンでは面白味がなかろうと、韓国風のスタイルを導入した。藤本先生に聞くと、韓国にもジンギスカンスタイルで出す店は少しあるらしい。羊肉も食すが、北朝鮮に近い地方に多いそう。大抵は串刺しにして提供し、焼く時にクミンを沢山つけるのだという。ヤンコギ鍋のヤンは羊を指す。コギはプルコギで、ヤンコギ自体で仔羊の意味もある。「ジンギスカンというと北海道のイメージ。韓国は牛肉なので羊肉を焼く印象が薄いですね。私達は、いい仔羊の肉を使って韓国風ジンギスカンを提供したいと考えました。単品ではなく、コース仕立てにし、野菜も鍋だけではなく、その他の料理にも使うことで沢山食べてもらえるように構成したんですよ」と藤本先生が話す。

 

「藤林館」のスタートは、まずいい仔羊があることから。両先生ともが韓国料理好きだったために、ヤンコギ鍋に行き着いたというところだろう。私も新古敏朗さんと一緒に食べたが、かなりボリューミーだった。メインのヤンコギ鍋の肉が多いだけではなく、その他の料理も充実しているために満腹感に浸る。料理は一人前が4,000円と書いたが、もしそれで足らなければ肉や野菜も追加ができる。ちなみに追加の肉は、一人前肩ロース1.000円、もも肉800円。野菜は一人前が200円だ。

「萬醤」と「あわせみそ」を使ってヤンコギ鍋のタレを

 

 藤本先生と林先生は、「藤林館」のヤンコギ鍋を始めるにあたってタレの検証を行った。よくある一般店のような市販のタレは、その名にかけても使えない。ならば、ベースの醤油や味噌を湯浅醤油・丸新本家から仕入れて自分たちでオリジナルのタレを開発しようと考えたわけだ。予め、新古敏朗さんからいくつかの商品を送ってもらい、自店に合うものをチョイスした。それが「萬醤」であり、「あわせみそ」だった。「タレの考察をするにあたって私は、色んな仕事で何十回と作って来ているので、何が必要で、コレとコレが合わさることでどんな味になるのかの知識がすでに備わっていたのです。甘みを出すにはコレが、深みを加えるにはアレがという具合いに経験値がものをいいます。『萬醤』は、甘くて奥行きがしっかりした醤油です。この味わい深さに、さらに旨みを加えるために色んなものを足して完成させました」と藤本先生は説明してくれた。

レシピは秘密だが、リンゴが入ることで味がしつこくなりにくいのだろう。予め作っておいたものに生醤油を足して仕上げることで風味づけを行うらしい。メインのヤンコギ鍋は、醤油ダレ、味噌ダレ、ポン酢、オリジナル塩のいづれか好みのもので味わう。醤油ダレは、「萬醤」の味が生きるように設計し、あっさりめで食せる。一方、味噌ダレは少し甘めの設計に。味噌(あわせみそ)の旨みや甘みが出ており、リンゴの酸味で味のバランスを調えている。「醤油ダレにも味噌ダレにもリンゴを使っています。味噌ダレがことさらに人気があり、甘辛くこってりした味がうまく脂をぬぐってくれるようです」とは林先生の弁。「韓国では、すりおろしの梨をよく使う」との専門家らしい蘊蓄も披露してくれた。

 さて、私達が食べたヤンコギ鍋のコースを写真と文字で追って行くことにしよう。まず前菜の一つとして出てくるのが「8種のナムル」だ。これは野菜を沢山食べるようにと作られている。韓国料理でのナムルと違う点は、日本料理の八寸のように美しく盛り付けられていること。ナムルは、定番に季節感のあるものを導入しているために日によって替わるのだが、この日はアボカド、切り干し大根、人参、オクラ、茄子、アメーラトマト、エリンギ、ズッキーニだった。林先生曰く、「感触があって面白いと、あえて切り干し大根を使って作った」そうだ。

もう一品の前菜は、「ムール貝のスンドゥブ仕立て」。スンドゥブのスンとは柔らかいの意。ドゥブはトゥブの濁音化で豆腐を指す。ここでは、「家庭ではあまり食べないだろうから」とカナダ産のムール貝を使っており、そこに豆腐ではなく、絹揚げを加えている。これがちょっぴり辛めでいいスープ代わりの役割りを果たしている。

ここに手作りのニラキムチが付いてメインへと移って行く。

 主菜の「ヤンコギ鍋」は仔羊の肩ロースともも肉が_。ジンギスカン鍋よろしく真ん中が盛り上がった鍋で羊肉を焼いて行く。その油が鍋の縁に落ちると同時に、それを吸って野菜が美味しく仕上がる。「実は、この仔羊はかなりの上物で、仏料理に使う素材を焼いています。ちょっとレアぐらいが旨いんですよ」と林先生。

 

羊は高タンパクで低カロリーなので女性ウケもいい。「軽いから数も食べられて翌日も楽」と話していた。文脈からすでにわかっているだろうが、この羊肉は、湯浅醤油・丸新本家の商品から作られた醤油ダレ・味噌ダレで味わうのだ。

藤本先生が「羊肉だけでなく野菜もたっぷりと味わってほしい」と、添えの野菜も沢山出て来た。これらは羊肉の油を吸って焼かれるので味もよくなる。

 ヤンコギ鍋を食べ終わると、「韓国カムジャ麺」が出て来る。カムジャ麺は、ジャガイモで造られた麺で、韓国ではよく使われているらしい。それをゴマ豆乳のスープで出しており、少しピリッとしているがあまり辛くはなく食べやすい。藤本先生によると、コース内で最も苦労したのは麺だったよう。麺を食べているのか、スープを飲んでいるのかバラバラでわかりにくかったのがその理由。このカムジャ麺を見つけて来たことで納得のいく、アフター麺になったという。

最後はデザートで、コレとて西洋料理の先生らしく洗練された味になっている。こんな所とて手を抜かない両先生のプロフェッショナルぶりが窺える一品であろう。

ところで、このヤンコギ鍋コースは、いかにして食せるのか?まず希望日時を決めて藤本先生の携帯電話(090-7968-6887)まで連絡を入れたし。藤本先生や林先生の仕事が詰まっていなければ、その日で決定!あとは人数を告げるだけ。ちなみに最低人数は4名で、12名までは120分間の貸切りで対応してくれる。時間は、11:30~21:30までで、昼一組、夜一組の予約が取れると考えてもらいたい。くれぐれも当日突然の入店は不可なので注意を。完全予約制で運営しているのだ。いつもならTV内で活躍していたあの先生方の料理実食が叶うのだから、価値ある食事会になると思われる。

  • <取材協力>
    仔羊肉鉄鍋料理 藤林館

    住所/大阪市中央区瓦屋町1-8-11 Fujimotoキッチンスタジオ内

    TEL/TEL/090-7968-6887 FAX/06-6776-2868

    メニューor料金/
    メニュー/
    ヤンコギ鍋コース 一人前4,000円
    飲み放題付きプラン 一人前5,500円
    肉追加 肩ロース1,000円
    肉追加 もも肉 800円
    野菜追加 200円 

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

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