123 2023年12月某マーケッターの話では、コロナ禍を経て街が徐々に変化しつつあるらしい。その人は、「今、街が熱いのは、大阪市内では福島と鶴橋」と話していた。そんな言葉に誘われてではあるまいが、福島の店を取材する事にした。JR東西線福島駅から徒歩2分と至使な地に立つのが「創作和食やすらぎカルモ」である。この店は、私がお世話になっている業界人の行きつけ。「面白い店があるから」と一年ぐらい前に連れて行ってもらったのがきっかけだ。店主・田村弘子さんは、料理人出身ではなく、好きが高じて店を開いたタイプ。話していると「カルモ」オープンまでの道のりがユニークで、当方も取材したくなった。福島のサラリーマンが集う店のオーナーは、いかに湯浅醤油・丸新本家の商品を使ったのだろうか。ご覧あれ。

創作和食 やすらぎ カルモ 田村弘子
(「カルモ」店主)
「一瞬、ドレッシングかなと
思ったくらいの出来映えでした。
掛けるだけでは
勿体ないので和え物に。
すっぱくなく使い易いのがいいですね。」

エッ?知らない人から「行ってみたい」との電話が・・・!

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〝止まり木″という言葉がある。本来の意味は、鳥籠や鳥小屋の中に設置した横木で、鳥が翼を休める場所。この〝止まり木″を我々は、時折り店になぞらえる。特にバーや行きつけの小料理屋などに用いるケースが多く、仕事終わりに息つく場所としてそのように表現するのだ。JR東西線福島駅から徒歩2分、環状線の福島駅からでも5分ぐらいで行ける「創作和食やすらぎカルモ」が、私には〝止まり木″のように思えてならないのだ。夜の帷(とばり)が降りると、ビジネス街からサラリーマン族が集って来て一杯飲る_、そんな光景が〝止まり木″を想像させてくれる。
私が「カルモ」を知ったのは、約一年前。仕事でよくお世話になった元広告代理店の田中實さんに連れて行ってもらったのがきっかけである。田中實さんとは、某放送局の雑誌づくりも一緒にやったし、元有名アナウンサーのエッセイづくりも行った。何より湯浅醤油が「魯山人」醤油を新発売する際のプレス発表も手伝ってもらっている。情報通で、グルメでもあり、今でも時折り一献傾ける仲なのだ。そんな田中さんから「福島で行きつけの店がある」と紹介を受けて「カルモ」に行ったのが最初であった。
「カルモ」の店主・田村弘子さんは、なかなかユニークな経歴を経て同店を2008年に開いている。私が初めて訪ねた際は「淡路島に移住するのが夢」と話していた。私は、母親の出身地が今の淡路市にあたる関係上、親戚や友人が淡路島に沢山いる。ならば「もし夢を叶えるなら情報を集めましょう」とその日は盛り上がった。田中さんも久々に一杯飲るのが本論だろうが、そんな狙いもあって私を連れて行ったと思われる。

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田村弘子さんは、ユニークな経歴から「カルモ」を開いたと書いたが、実は前身は飲食店ではなく、マンションの一室から物語りが始まっている。当時、田村さんは箕面に住んでいた。箕面の滝と猿で知られる阪急・箕面は大阪のベッドタウンでもあり、箕面公園を散策する観光地でもある。田村さんによると、「そんな場所故に建物に高さ制限がある」らしい。田村さんの住んでいたマンションは、周辺に高い建物がなく、前は箕面山と見晴らしがよかったそうだ。その上、彼女の部屋には15坪の広いバルコニーがあって天気のいい日にはお茶でも飲りながらくつろぐのにぴったりだったとか。ある時、田村さんは友人をそこに招いた。友達は、ウッドやタイル、芝生を敷き詰め、花々が植えられているそのバルコニーを気に入ったようだった。そして景色のいいバルコニーでケーキを食べた話を自慢げに話したのであろう。後日、全く知らない人から電話がかかって来た。「友人から景色のいいバルコニーでケーキを出す所があるって聞いたんですけど…」。そんな内容の電話だったそう。田村さんは、「商売をやっておらず、個人的に招いただけだ」と断ったらしいが、その電話の主は「一度だけでも行きたい」と主張する。知らない間柄ながら何と田村さんは「一度だけなら」と条件を付けて料理を作って招くことにした。「その時は、全く知らない人が4人来ました。幕の内を作ってふるまい、ケーキとコーヒーも出したんですよ」と田村さんは当時を振り返ってくれた。
その一回こっきりが、なぜか口コミで広まった。すると、またまた知らない人から「景色のいいバルコニーで料理を出す所があるそうですね」と電話がかかって来たのだ。そしてまた田村さんは、リクエストに応えることにした。口コミとは恐ろしいもので噂が噂を呼んで広まって行く。気がついたら自宅が一日一組限定の食事処となって行ったのである。田村さんは、マンションの理事長の了解を得て、それを企画化するようになる。リビングで食事し、バルコニーでお茶とケーキを楽しむ。時にはバルコニーで食事を出す時もあったそう。「マンションの最上階に位置していたために景色は抜群でした。バルコニーも手入れしており、私が言うのもおかしいかもしれませんが、美しかったんです。虹が出ても遮るものがなく、180度景色が楽しめたんですよ」。田村さんは、いくばくかの材料代をもらっていたが、商売だと思っていないので自分の空いている日と、先方の都合が合えば招いて会席料理とケーキを振る舞った。それでも二年間で都合400〜500人がやって来たというから驚く。「メニューは会席料理とケーキ、幕の内弁当とケーキ、ケーキセットだけのいずれか。それでも評判がよかったのか、周辺の町の人だけでなく、大阪市内からも来客がありました。まさにマダム達のやすらぎの場。常連客の一人が、今『カルモ』で働いている岩元松枝さんなんですよ(笑)」。ただこれだけ評判になると、やっかむ人も出て来る。住民から次第にクレームが寄せられることになる。了承を得て始めたにも関わらず、クレームが出て来れば仕方ない。田村さんは、マンションを引き払い、箕面から去ったのである。

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箕面を後にした田村さんは、本格的に飲食店を出そうと物件を探し始めた。そして友人が福島の店舗を紹介してくれ、今に至っている。2008年にこの地で構えた店は、創作和食店で、名を「カルモ」と命名した。カルモとは伊語で、穏やかなとか、やすらぐの意。癒しの言葉を意味した小さな店で、サラリーマン達の〝止まり木″になれるように営んだ。
「カルモ」は、大きなテーブルに8席、カウンターが6席という小ぶりな店。酒の肴が中心で、季節の野菜を使うからグランドメニューはなく、黒板にその日、作るものを書き出すスタイルになっている。随時色々と替わるのが特徴で、季節感を醸すように定番を置かず創作しているのも魅力なようだ。中でも「おでん」が名物で、これとて季節のものを用いるから50種以上にも。一日でも26種は作って提供しているらしい。酒は、季節酒も含めると日本酒は数種、ビールはもとより焼酎やワイン、カクテルまである。「特筆すべきは、自慢のおにぎり。うちでは、締めは決まって小ぶりな塩むすびに。『これを食べたら他店では食べられない』と好評で、皆が注文するんです」と話す。「カルモ」は、米にこだわっている。田村さんの母親が新潟出身で、親戚が玄米のままコシヒカリを送ってくれる。店の裏に精米機を設置してそれで精米して炊いている。「時々、甥の嫁の実家(岐阜の東白川)からも送ってきます。とにかく当店は玄米で仕入れ、店で精米して使うのでブレンドしたものを買っている所とは、香りも味も違うはず。炊いたら米の旨みがあるんですよ」と言う。そして塩にもこだわっているそう。詳細は企業秘密だが、自店でブレンドして塩を作って出す。自称「魔法の塩」は、しょっぱくなく、甘みもあるものに。だから「カルモ」では揚物も天つゆでなく、塩で食べる。田村さんは「おにぎりにすると、丁度いい塩加減になる」と話していた。

いつもの醤油と味と色も違って工夫してみた

ところで、私は「カルモ」でもいつもアレをしたくなった。なので取材日を設定し、湯浅醤油・丸新本家からいくつかの商品を送ってもらった。それらの商品を田村さんが味見して考えたのが以下の三品。①キュウリと長芋の柚子梅つゆ和え②茄子と揚げの黒豆みそ和え③鶏肉の玉葱ソースがそれである。
一つめの「キュウリと長芋の柚子梅つゆ」は、タレに潰した梅肉と「柚子梅つゆ」を合わせた。輪切りにしたキュウリと、短冊に切った長芋に、そのタレを和えて作っている。仕上げにフライパンで煎った鰹節(あえてパラパラにしている)を潰して加えるのだ。鰹節を加えたのは、梅に合うからで、こうすることにより「柚子梅つゆ」との相乗効果を図っている。「柚子梅つゆが届いたので梅干も使ってみたんです。この商品は、梅つゆの割りにすっぱくなくて柔らか。醤油メーカーのものだけにうまく醤油味が施されています。味見した時にドレッシングかなと疑ったくらい味の調和がとれています。当初はサラダも考えていたのですが、それだと単に掛けるだけに終わってしまうので今回は和え物にしたんですよ。鰹節を入れると『柚子梅つゆ』を用いた料理がうまく調いました」。

二品目の「茄子と揚げの黒豆みそ和え」は、「黒豆みそ」と「生一本黒豆」を使った料理。乱切りにした茄子と小房にした黒舞茸を少し多めのサラダ油でフライパンで煎り焼きにする。厚揚げは短冊に切って焼く。タレは、「黒豆みそ」と「生一本黒豆」、少量の砂糖を混ぜて作り、焼き上がった茄子・黒舞茸・厚揚げを和えるのだ。「黒豆みそは、黒豆の粒々が残っており、赤味噌とは異なるもの。塩分が強いわけではなく、あっさりめの味わいです。うちでは一般的な赤味噌と豆板醤で『茄子と豚肉の味噌炒め』を作るんですが、それは中華風で最後にラー油で調味しているんです。黒豆の風味を残した方がいいと思ったので炒めずに和えることにしました。だから和風に。『黒豆みそ』の味が出ている一品になったでしょ」。

最後は、「鶏肉の玉葱ソース」である。この料理は、焼いた鶏肉に玉葱ソースが掛かったシンプルなものだが、このソースの作り方にポイントがある。玉葱とニンニクを擂り卸し、火にかけて少量の水とみりん、「生一本黒豆」(醤油)、少量の砂糖と少量の酒を加え、汁気がなくなるまで煮詰めて作っている。「生一本黒豆」を味見した時に濃くて甘みがあるとの印象を受けた田村さんは、煮物よりもむしろソースでこの味を表現したいと思ったようだ。「刺身醤油かと思うぐらいにコクや甘みがあったのでソース作りに使うと面白いと考えたんです。熟成した醤油なので煮物に使うと、どうしても素材の色が黒くなります。ソースだとそんな事は気にせずともいいですしね」と醤油の印象を語っている。「カルモ」では、時々玉葱ソースを作って牛肉や豚肉に掛けて出す事があるらしい。いつもなら一般商品だが、今回は「生一本黒豆」で_。醤油自体が持つ甘みがあるので、今回は砂糖を少なめでも大丈夫だと踏んだようである。玉葱ソースは、玉葱を煮詰めた色と「生一本黒豆」らしい黒さが出ている。擂り卸したニンニクが利いており、その香りが漂う。ソース自体は、そんなに甘くなく丁度いい。まさに玉葱とにんにくの醤油風味ソースというところか。焼いた大きめの鶏肉にたっぷり掛かっており、見ためには味噌が掛かったようだが、さにあらず。醤油風味の玉葱ソースなのだ。付け合わせは、エリンギとミニトマトを焼いたもの。ボリュームがあってメインディッシュにピッタリだった。

朝日放送が大淀南から福島に移転してからは、JR・阪神福島駅付近の勢力図が変わった。以前は飲食店が駅周辺に集中していたのだが、今では二号線から堂島川に至るまで沢山店舗ができた。「カルモ」が2008年にオープンした頃は、この辺りは下町風情漂う地で民家が目立った。その民家が一軒、また一軒と飲食店化して行き、いつの間にか飲み喰いする地に変貌して来た。「最近はライバル店も多く…」と嘆く田村さんだが、「カルモ」はそんな言葉とは裏腹に活況を呈している。「少し店が凹(へこ)んでいる事もあって分かりづらいですよ」と田村さん。そういえば道に面した店舗なのに設計上少し凹んでいるように見える。これが初めは苦戦した理由だそうだが、やがて本町や淀屋橋、梅田辺りに勤める人達が人伝手に聞き、次第に常連になり、いつしか繁昌店に成長したようだ。「単身赴任者も多く、せっかくなじみになったのに転勤してしまうんですよね。だからまだまだ繁昌店の域には到達していません」。そんな言葉を発しつつも「カルモ」の味と雰囲気を気に入っている人達が集って酒を酌み交わす姿が絵になっている。この酔客達にとってこの店は〝止まり木″なんだ。そう思って店内を見つめていた。

  • <取材協力>
    創作和食 やすらぎ カルモ

    住所/大阪市福島区福島2-9-11 フォーラム福島5 1階

    TEL/06-6455-6639

    HP/ 公式HPはこちら


    営業時間/17:30〜23:00


    休み/日曜日、第3土曜日

    メニューor料金/
    「カルモ」の創作おでん

    ふわふわ天 250円
    歯舞産昆布巻 250円
    玄米もち巾着 300円
    れんこん鶏ミンチ団子 300円
    菊菜とろろのせ 350円
    椎茸エビ団子 500円
    トマトチーズのせ 500円
    豆腐入りハンバーグ 900円
    ホタテのかきあげ 880円
    鶏の照り焼き 900円
    しそ入りジューシーぎょうざ 600円
    ごぼうのびっくり揚げ 650円
    さきいかの天ぷら 700円
    カキフライ 880円

筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい