124 2024年01月料理の取材を続けていると、味と理論が一級品の人物に出会う事がある。料理を食べても納得がいく味だし、それに裏づけられた食の理論も素晴らしい。JR摂津本山駅前にある「日本料理かわもと」の店主・川本徹也さんは、そんな人物の一人である。凛とした空気の中で出て来る料理に、面白い話が付けば恐いものはなかろう。話が上手いのは当然で、彼はあべの辻調理師専門学校で長年教壇に立って教えていた経歴があるのだ。久々に彼の料理を味わいたく、岡本(摂津本山)にある「日本料理かわもと」を訪れた。そこで「白みそ」を主にした料理の数々を見せてもらった。さて日本料理の達人は、いかに「白みそ」を使いこなしたのであろうか。

日本料理かわもと 川本徹也
(「日本料理かわもと」店主)
「丸新本家の『白みそ』は、
一言で表現するなら
〝甘すぎない白味噌″。
味噌汁はもとより調理味噌にも力を発揮します。
一料理人の意見としてですが、このくらいの味わいの方が
関西には合っているのではないでしょうか」

味・理論・話と三拍子揃った日本料理店

久しぶりに摂津本山駅前にある「日本料理かわもと」を訪ねた。コロナ禍以来ごぶさただったので四年ぶりくらいになるであろう。きっかけは、私が企画する酒粕プロジェクトへのお誘い。同プロジェクトは今冬で10年目となり、神戸観光局も注目してくれているので神戸の店がもう一軒欲しかったのもあるが、それよりは店主・川本徹也さんの話が聞きたかった方が強いのかもしれない。こんな仕事をしていると、ブレーンと呼ぶべき職人が必要で、その一人が川本さんなのだ。彼の料理の旨さはさることながら、彼の言葉の含蓄が凄い。単に料理を説明するだけではなく、その裏側にある文化性まで説いてくれるのだ。沢山の情報や理論を集めて文章を書く方からするとありがたい存在といえよう。
私が川本さんと知り合ったのは、2018年の事。丁度彼が「日本料理かわもと」をオープンすべく奔走していた頃である。きっかけは新古敏朗さん。「岡本辺りに店を開こうとしている料理人がいるので会ってあげて」と紹介を受けた。川本さんと新古さんは、かつて読売テレビ系で放映していた「どっちの料理ショー」で知り合った。同番組は、1997年から2006年まで関口宏と三宅裕司の司会で放映されていた人気料理バラエティなので観た事がある人も多かろう。この番組で川本さんが湯浅醤油の「生一本黒豆」を見つけて放送したのがきっかけで懇意になったのだとか。当時、川本さんは、あべの辻調理師専門学校の先生で、マスコミにも度々登場していた。その一つが「どっちの料理ショー」だったわけだ。

オ-2
カ-2

川本さんは、あべの辻調理師専門学校で都合30年間職員として働いた。教壇に立って学生達に日本料理を教えるのが本論だろうが、彼は単に先生稼業にとどまらず、専門学校在職中に海外に料理の指導で派遣されている。ケニア、韓国、米国(ニューヨーク)、タイ、中国に行ったそうで、タイと中国はホテルに派遣されて仕事をし、韓国と米国では現地レストランで日本料理の指導を行っていた。ケニアには、日本大使館の公邸料理人としての任務を。大使館での大使や関係者の食事のみならず、そこに招く海外のVIP達への食事を作って提供していたのだ。いわば日本の外交活動に力を貸していた事になる。その後、一旦独立も考えたらしいが、鳥取県の倉吉北高校が調理科を設けるとの話が入り、立ち上げの相談に乗るばかりか、その学校の教師に納まった。倉吉北高で8年間、教壇に立ち、遅咲きながらも50代後半で店を構えた。
そんな川本さんだから、料理の理論が詳しいのも当然で、私も彼の話を時には聞きたくなるのもわかろう。久々に覗いた「日本料理かわもと」は、以前と変わらぬ凛とした空気に包まれた〝ザ・割烹″とでもいう雰囲気。店はJR摂津本山駅前すぐの立地にあるものの、少々入り口がわかりにくい。「サン岡本」なるビルの正面からでも入る事ができるが、和菓子屋の横の路地から抜けて階段を下る方がわかりやすいかもしれない。とにかく地下階段の突き当たりが、「日本料理かわもと」があるフロアなのだ。
コロナ禍は、厄介でその性質上から人との繋がりが薄れた。外食への機会も少なくなり、飲食店苦難の時代が続いた。そんなコロナ禍を経ても「日本料理かわもと」が、元気に以前のような姿を見せているのは嬉しい限りで、川本さん自身も「踏ん張ってやって来た」と話している。常連が付いているようで食事を楽しみたい折りや、他人(ひと)を接待したい時などに使う向きが多いそうだ。料理は相変わらずコース主体で、昼は6200円(税込)、夜は11000円(税込)の各々一本のみ。要予約(前日までに予約)で運営している。変わった事といえば、スタッフが抜けて一人でやっている点。「現在は一人で全てやっているので忙しい」と話していた。川本さん曰く「日本料理店には二つのタイプがある」そう。一つはクエやフグなどを出し、豪華さを売りにするタイプ。そしてもう一つは技で勝負するタイプ。「うちのような一万円ぐらいの会席料理を出している店は、前者には成り切れません。ならば技で料理の良さを表現しなくてはなりません。そこに魅力を感じ、お客様が来てくれるのだと思います」と語っている。それでも食材への追求心は流石なもの。毎日、神戸市中央卸売場東部市場へ仕入れに行き、自分の目で確かめてから買うスタイルを貫いている。「週に一回は、大阪(黒門市場や中道市場、大阪木津地方卸売市場)へも仕入れに行くんですよ」と言う。彼の料理は、ライブ感が素晴らしい。客の嗜好によって調理を変化させて作る。旨味調味料や添加物は一切使用せず、味の基本を一番だしとする。ただ客が「忙しく仕事をして来た」と話すなら多少塩分を強めたりして調味する事もあるという。そうすれば少しでも旨く感じてもらえるからだろう。そして料理についての蘊蓄が面白い。「ご飯はなぜ左に置くのか?」「正月の箸はどうして両端が細いのか?」など話の端々にそんな蘊蓄が入って来る。流石、長年教師をやってきた賜物だと思ってしまう。「長年料理人をやって来ていますが、『コレは!』と思った一番だしは数回くらい。料理は、なかなか奥深いものです」_、そんな言葉に納得してしまう。ベテランになれどもまだまだ発展途上で、飽くなき探求心は強いのだ。

「白みそ」を主体に使って三つの料理で変化を

ところで今回は「名料理、かく語りき」の取材という事で、湯浅醤油・丸新本家からいくつかの商品を送ってもらっていた。その届けられた商品群の中から川本さんは「白みそ」を主体にして調理する事にしたらしい。「ここの『白みそ』は、塩分があって甘ったるくない。甘すぎる味噌が多い中、これは甘すぎない白味噌ですね。一料理人の意見として関西では、このくらいの味を好むのだと思います。味噌汁にいいのでしょうが、調理味噌として物凄く合うように思ったので今回は『白みそ』をベースにして三つの料理を作ってみました」と冒頭に説明していた。その三つとは、①豚ロースのねぎ味噌掛け②根菜煎り味噌和え③鮭味噌レモン焼きである。
一つめの「豚ロースねぎ味噌掛け」は、まず豚ロース肉を塩コショウし、少量の油を敷いたフライパンで焼く。青唐は掃除して穴をあけておく。白葱一本をみじん切りし、ゴマ油15mℓで炒める。その白葱に、「白みそ」100g、梅金山寺味噌30g、酒30㎖、砂糖大さじ1、みりん15㎖、「樽仕込み」(濃口醤油)10㎖を加える。もとの味噌の硬さぐらいまで混ぜながら火を通す。このようにしてねぎ味噌が出来上がるのだ。あとは火が通った豚ロース肉を切って青唐(火を通したもの)を加え、器に盛り付け、温めたねぎ味噌を掛ければ出来上がり。ねぎ味噌は、濃口醤油(樽仕込み)が入っている分、温めると醤油香が立つ。「白みそ」の特性から際立った甘さを感じず、豚肉にフィットしている。「丸新本家の『白みそ』の特徴が出た料理です。今回は豚肉で作りましたが、鶏肉や焼き魚に掛けてもいいと思います」と川本さんは説明していた。

次の「根菜煎り味噌和え」は、さつま芋、ゴボウ、レンコン、海老芋を用いて作っている。さつま芋は、あえて皮を使いたかったので細いものを選んだそう。それらの材料を2cmの厚さに切って水に晒しておく。それを160度ぐらいの油で素揚げするのだ。煎り味噌は、「白みそ」100g、「カカオ醤」10g、卵白2個をよくかき混ぜて湯煎にかける。時々混ぜて、水分が飛べば裏漉しする。そうすると、下に落ちたものは「カカオ醤」風味の細かいものが、上には粒々になった「カカオ醤」風味のものが残る。下に落ちた方をもう一度湯煎してパラパラにし、上に残った方も湯煎してパラパラにしておくのだ。根菜の油を切ってパラパラになった煎り味噌(上下とも)を加えて和え、器に盛り付けると出来上がる。「湯浅醤油が造った『カカオ醤』は、今までにない新しいタイプの調味料。カカオ香を醸し、加えるとエスニック調に早変わりします。私は以前、いただいた時に調味料として使用せず、田楽味噌代わりにちょっと万願寺に載せた事がありました。提供すると、お客様は何が載っているのかわからず、そのカカオ香にびっくりしていましたよ」。今回は、そんな使い方はせず、あえて調味料使いとして煎り味噌にしたそうだ。煎り味噌の細かい方は裏漉しして下に落ちたもの。大粒のは上に残った方。「白みそ」に「カカオ醤」が加わり、カカオ香を放つ煎り味噌になっている。川本さんは、「作っておけば日持ちするので小松菜を炒めて掛けても、豚しゃぶに用いてもよく、何でも使える」と話していた。

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最後は「鮭味噌レモン焼き」だ。これはまず鮭の塩焼きを作っておく。決め手となるレモン味噌は、「白みそ」100g、玉葱のみじん切り50g、みりん15㎖、砂糖20g、酒40㎖を混ぜて火にかけ、弱火で焦げないように作る。玉葱から水分が出て柔らかくなって来たら、もとの味噌の硬さまで練る。練り上がったらバター5gを加えて冷ましておく。冷めたらレモン汁1/2個分を混ぜる。一方、レモンの皮は針に切っておく。温めたレモン味噌を鮭に掛け、天にレモン皮の細切りをあしらう。
最後の一品は、「あえて『白みそ』だけを使い、シンプルに仕上げた」そう。レモンはパンチがあるので、他の香りは入れなかったらしい。「味噌にレモン汁を入れるのは、あまり聞いた事がない」と振ると、「あえて日本料理の概念から脱却したかったので、レモンを用いたんです」と答えてくれた。「バターまで加えて練っているので保存が効くはず。鶏の胸肉を焼いて掛けるのもいいですよ」と教えてくれた。
川本さんは、今回の取材が決まった時に肉・魚・野菜の三つの料理を作りたいと思い、創作したのだという。味のベースは「白みそ」で統一するも味は同じではない。一つめが「樽仕込み」を混ぜる事で甘みが抑えられ、逆に三つめは甘みを利かせている。二つめの煎り味噌の方は、「カカオ醤」を加えた事により、カカオ香がいきている。三者三様の味を「白みそ」ベースで作った点が面白い。料理の取材が終わり、話を聞いていると、関西テレビの「よ〜いドン!」で「となりの人間国宝さん」にも取り挙げられたそうだ。同番組には「プロにお願い!ちゃちゃっとワンプレート」でも出演している。「どっちの料理ショー」で番組内を賑わした達人は、今でも健在である。

  • <取材協力>
    日本料理かわもと

    住所/神戸市東灘区岡本1-3-31 サン岡本地下1階西号室

    TEL/078-431-1231

    HP/ 公式HPはこちら


    営業時間/11:30~14:00(13:00入店まで)
    18:30~21:00(19:30入店まで)


    休み/月・火曜日

    メニューor料金/
    ※前日までに要予約
    メニュー/会席料理 昼 6200円(税込み)
         会席料理 夜 11000円(税込み)


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい