2018年08月
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飲食店プロデュースの仕事をしていると、色んなジャンルの店の話が舞い込んで来る。その多くは、巷にないものが中心で、新たなウエーブを立ち上げようと、協力を依頼して来るのだ。今回書く話は、世間でeスポーツなるものが語られていなかった頃に計画を相談されたもの。恥ずかしながらその分野には疎かった私は、コレといった相談にも乗ることができなかったのだが、経営者の思いは強かったようで見事5月末に日の目を見ている。昨今、ニュースで報じられるようになったeスポーツとは、如何なるものなのか?金井庸泰さんがオープンさせた「BAR DE GOZAR」を中心に説明しておこう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
ゲームは「やる」から「応援する」時代へ_。
eスポーツバーは、今後この手のファンを増やすアイテムに成長するのか?!

ゲームは「やる」から「観る」「応援する」へ

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最近、eスポーツと言う言葉をよく耳にするようになった。ニュース系の番組でもそれがよく報じられているし、メディアではそれにまつわる特集も組まれている。そもそもeスポーツとは、エレクトロニックスポーツの略で、コンピュータゲーム上で行われる競技を指す。個人やチームがオンライン上で対戦し、観客はそれを実際に行われている競技の如くに大型モニターなどで観戦するのだ。単なる素人対戦を見るのではなく、種目によってプロゲーマーが誕生し、彼らのゲームイベントが中継されている。eスポーツはLANパーティの中から生まれたようだ。2013年には競技人口が全世界で5500万人を超えており、欧米では高額な賞金がかけられた大会も開かれているほど。ゲーム好き素人の枠を超えてプロまで存在。その中には年収一億円を稼ぎ出す者さえいるという。
私がその言葉を始めて耳にしたのは二年くらい前。有馬の金井庸泰さんがそのことに詳しく、自身の趣味もあってか、eスポーツのバーを開きたいと言って来たことがきっかけだった。ゲームに疎い私としては、その時点でピンと来ていなかったが、何でも将来オリンピックの競技になることが決まっていると聞いて驚いた次第である。くしくも昨夏にサンケイスポーツの長谷川稔さんが大阪本社に移動になって戻って来ており、事業部に籍を置いたこともあり、私より彼の方がその分野は詳しいだろうと踏んで金井庸泰さんに紹介した。
私や長谷川さんはあまり役には立たなかったかもしれない(もとい、長谷川氏は、金井氏に色んな情報を提供していたり、その周辺の人物を紹介していた)が、金井庸泰さんは、その夢を今春果たしている。5月末には有馬温泉・金の湯のすぐ前にeスポーツバーである「BAR DE GOZAR」を開いたのだ。店名の「GOZAR」はポルトガル語で"享受する、満足する、楽しむ"との意がある。「BAR DE GOZAR」を直訳すると"楽しめる酒場"となり、音だけを聞けば"バーで御座る"にもなる。店の名前は、「御所坊」とも関わりが深い、かの総合芸術家・綿貫宏介先生が命名したという。

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eスポーツは、熱狂的なファンが存在し、2022年に中国・杭州で開かれるアジア大会では正式種目として採用されることが決まっている。日本でも来年行われる茨城国体にて都道府県別でeスポーツ大会が行われることも発表されている。元来、テレビゲームは、ドラゴンクエストやスーパーマリオなどのヒットを生んで日本で発展して来た。これらは、個人が"やるゲーム"として盛んに行われたのだが、これからは一歩進んで"応援するゲーム"として進化を遂げることになる。オリンピックやアジア大会では正式種目となると目されている通り、もはや"ゲーム"ではなく、"スポーツ"の域に入っているのだ。その潮流は、日本より欧米の方が盛んで、お隣の韓国では10年以上の歴史を有すらしく、eスポーツ先進国とも称されるほどになっている。日本ではマンガを読んだり、宿泊所代わりに使ったりするネットカフェも韓国では、オンラインゲームを主に遊ぶ利用者が多く、店舗も日本の10倍以上あるらしい。最近でこそ日本でもプロゲーマーが目立ってきたが、まだまだ後進国で世界で活躍するチームは少ない。ところが韓国は、大きな大会では必ず上位に入るほど成績が優秀で、「ストリートファイター5」でも韓国人のInfiltrationが優勝している(2016年度の大会)。

ライト層へのアプローチの場として活用

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ところで有馬の「BAR DE GOZAR」であるが、ここは一般人が気軽にeスポーツを体感できるようにと造られた。金の湯から見えるカウンター部分は、以前からあったバールで、気軽に入ることができる。ここでドリンクを買って奥のeスポーツスペースへ行くようになっている(eスポーツに興味がない人は、立ち呑みスペースでお酒を楽しむことが可能)。このバーでは、ゲームのプレイ動画を配信するtwitchの放映許諾を得て、その映像を大型スクリーンで流している。ただ、この場所にはゲーム用パソコンが備え付けられていない。そうしてしまうと、ゲームセンター化してしまうのを懸念してあえて設置していないのだろう。「ゲーマーのためだけの施設を造ってしまうと、eスポーツの持っている世界観や可能性が一般の人に伝わりにくくなってしまいます。ここは温泉場でもあるので、ふらりと立ち寄ったお父さん達が『これが今、話題のeスポーツなのか』と知ってもらうことが先決なのです」と金井庸泰さんは「BAR DE GOZAR」の存在意義を説明している。つまりコテコテのコア層ではなく、ライト層へのアプローチを狙っているのである。

DSCN1135 サッカーワールドカップで日本の初戦(対コロンビア戦)が行われた同日に「BAR DE GOZAR」でeスポーツの催しが開かれた。タイトルは「サッカー"ウイレレ"で日本代表の応援準備イベントでゴザール」なるもの。プロゲーマーのGENKIモリタさんが来て、独自の視点で「ウイニングイレブン」(略してウイレレ)で対戦ゲームを行うという内容であった。この模様は、別の場所でも観戦できたので、金井庸泰さんは「集客以上に十分宣伝になった」と喜んでいる。GENKIモリタさんは、プロゲーマーだが、自身もサッカーのコーチをするほどで、彼の視点で日本戦の模擬試合をやるというのは、eスポーツファン並びにサッカーファンには面白い内容に映ったようだ。同イベントは、決してサッカーワールドカップ関連ではないが、このようにeスポーツを盛り上げる工夫があることを知る意味でも一般人にはよかったはずだ。
このようなeスポーツバーのみならず、巷にはスポーツバーと名のつく所が沢山ある。関西で有名なのは甲子園球場周辺で、「Joe-Guy」はその先駆けとして名を馳せている。また、西宮北口には「CBGB」なる人気スポーツバーがあり、ここではプロ野球OBや関学アメフト部のOBが集まって一杯飲る姿を目にする。昨年、某紙で競馬をテーマにした店を探して取材していたら心斎橋に「とねっこ」という店があり、ここにも騎手や調教師のサインが飾られていた。店主・井坂孝さんに聞くと、彼らが飲みに来た時に書いてもらったという。噂が噂を呼んでそれくらい競馬関係者が出入りする店に成長しているのだ。そして全国の競馬好きがココに集まり、一杯飲りながら競馬冗議に花を咲かせるそうだ。「BAR DE GOZAR」は、場所柄コア層狙いとは言い難いが、一つのスポーツをテーマにすることで十分常連が得られる向きもある。さて、有馬で花開いたeスポーツバーは、今後どういった動きを示すのだろうか。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい