2020年11月
88

 コロナ禍で飲食店が喘ぐ中で何か明るい話題はないものか?そんな声がよくマスコミの人達からよく届く。私が9月2日にぶち上げたオルタナティブアルコール流行化計画は、ノンアルで飲食店を盛り上げようとするもので、まさに脱コロナ禍の企画に映ったのではなかろうか。9月2日の発表会は多くのメディアが訪れて取材してくれたし、翌週オンエアのラジオを皮切りにNHKのニュースや民放の報道番組でも取り挙げてくれた。通信社もニュースを全国配信してくれ、新聞も大きく掲載。中でも毎日新聞は、夕刊の第一面を飾るほど大きく取り扱ってくれた。今回の企画は、文字通り脱コロナ禍を掲げるだけあって主催を「オルタナティブde流行づくり委員会」とし、京阪神45店の参加店とした。全面的協力と研究へのバックアップをミツカン大阪支店が果たしてくれ、一流バーテンダーや料理学校の先生らがレシピ開発を担った。食酢メーカー、バーテンダー、料理人らがタッグを組んで行った企画でもある。仕掛け人として私が企画し、皆が「ブームを作ろう」と一丸になって盛り上げたオルタナティブアルコールについて今回は、その経緯も含めながら話したい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
コロナ禍に、オルタナティブアルコールを
起爆剤にして打破したい!
今、ノンアルコールが市場にウケる
土壌がそこにはある。

オルタナティブアルコールが必要な理由

 

A

この秋、関西にノンアル旋風が吹いた。京阪神の飲食店やミツカンが研究開発したオルタナティブアルコールがTVやラジオ、新聞で毎週のように取り挙げられたためである。オルタナティブアルコールとは、少々聞き慣れぬ言葉であろうが、ノンアルコール飲料を指す。オルタナティブとは、既存のものに取って代わる新しいものとの意味で、この場合、アルコールに代わるもの=ノンアル飲料のことを言っている。そもそもオルタナティブアルコールとは、広義でのノンアルで、ここにはノンアルコールビールも入れば、シュラブ(フルーツビネガーをボタニカルや果実でフレーバーづけしたもの)やモクテル(疑似カクテルを意味する造語)も含まれている。実は日本ではまだまだノンアルブームは訪れていないが、欧米ではその波が確実に来ているのだ。

今回、オルタナティブアルコールを開発するにあたっては、当方の事情も大いに関係している。私は車で動くことが多く、料理屋に行くと、飲むものに困っていた。まさか飲酒運転するわけにはいかないので、日本酒やワインがあっても注文できない。しぶしぶノンアルコールビールで済ませるか、それを飲み干してしまえば、あとは烏龍茶ぐらいしか選択肢がない店が大半だった。飲みたくても飲めない人に対して何か出て来ないかと長年待ってはいたが、それを解決する術は待てど暮らせど出て来なかったのである。ならばこちらで作ってしまえ!乱暴な言い方をすれば、これが本企画の動機なのだ。

B

丁度いい具合に、2020年の1月頃、ある飲食店の店主から「ロンドンでシュラブが流行し出しているが、日本ではノンアルブームが来ないのか?」との問い合わせがあった。聞けば、知人の周りで健康を害した友人がいて、お酒を飲みたくても飲めなくなったとの話。彼らは「飲めないからコーラやジュースで無理矢理食事に合わせている」という。事情が異なれども私と同じように疑似アルコールを欲している人もいるのである。

これまでノンアルは、店にあるにはあった。でも大半は、酒が苦手な人向きに作られており、なぜかしら甘い。これは全く食事に適応しなかった。例えば、ジュース類に果汁とソーダを合わせたとしても、ソフトドリンクの域は脱せない。味を重ねるだけで、オルタナティブ(酒に代わるもの)には物足りないのだ。少しでも酒の雰囲気を感じられるには、お酢を使うのがいいと閃いた。米酢やリンゴ酢、穀物酢のような生酢でもいいが、流行の食酢飲料(ブルーベリー黒酢やヨーグルト黒酢など)なら甘みも有しているのでリキュールの役目を果たせそうな気がしていたのだ。早速、ミツカン大阪支店にこのプランを持って行くと、「面白いからやりましょう」との答えが返って来た。ミツカンの生酢や食酢飲料を試作用に沢山提供してもらい、オルタナティブアルコールのレシピづくりに春から取りかかったのである。

酢が入ることで、お酒の雰囲気が出る⁉

 

CD

そこで白羽の矢を立てたのが「サヴォイオマージュ」(神戸・花隈のバー)の森崎和哉さん。彼は、バーテンダーのカクテルコンペでは常連で、常に上位に名を連ねている。2017年に香港で催された「オールワールドオープンカップ」では、見事世界一に輝いていた。世界一のバーテンダーならオルタナティブアルコールのレシピづくりも容易(たやす)かろうと、ミツカンの商品を持って店へ行き、依頼してみた。「え~、お酢でやるんですか?個性が強いな」と森崎さんは言いつつもレシピづくりを了承してくれたのである。時は3~4月、世は新型コロナで大変な騒ぎになり、緊急事態宣言が発令され、飲食店は休業を余儀なくされていた。バーもその類いで、「サヴォイオマージュ」も4~5月は休業。これが幸いしたといったら失礼だろうが、森崎さんは連日お酢まみれの日々を過ごすことになる。そして5月下旬には、酒と見紛いそうなノンアルカクテルが出来上がった。森崎さんが考案したのは6つ。「soso」「ホワイトグルーヴ」「ベリーライト」の本格派に、「フルーティス」(ミツカンの食酢飲料)とお茶と炭酸を1:2:2で割るだけで家庭でも簡単にできる「シャイニーフレグランス」「ガーネットラブ」「サニーブレッシング」がお目見得したのである。

バーに酢を常備している所は、あまりないだろう。ところがビネガーとカクテルの関係は浅くはない。1862年にかのジェリー・トーマスが「HOW TO MIXDRINKS」でビネガーを用いたシュラブを紹介しているし、米国の黒歴史とも称される禁酒法時代には酒代わりとしてビネガーカクテルが多用されたとある。歴史は巡るではないけれど、令和の世に酢をベースにしたノンアルカクテルが蘇ってもおかしくはないだろう。

E

森崎さん以外にもレシピづくりを依頼したのは、「辻󠄀ウエルネスクッキング」の副校長である料理家・辻󠄀ヒロミさんだ。彼女には、ミツカンの生酢を渡し、カクテルの可能性を料理人の立場から探ってもらった。出来上がった「山吹グレープカクテル」「ピンクで爽やか甘酒ローズヒップ」「すっきりティーソーダ」「シンデレラビネガー」「フレッシュバナナカクテル」の5つともレベルが高い。「生酢は、多少の分量調整を意識せねばならないが、使い方を覚えたら味の広がりが楽しめる」と話していた。中でも「すっきりティーソーダ」は「ティフィン」(紅茶のリキュール)のソーダ割りと似ており、ノンアルなのに酒入りと見紛いそう。よくバーで「ティフィンソーダ」を飲んでいただけに、私としてもなかなかのお気に入りに仕上がっていた。

FG

二人のプロに挑んだのが樽谷優花さんと中尾星さんの女子大生コンビだ。プロのレシピづくりは、本物を目指す意味で必要不可欠だが、それでは身近なオルタナティブアルコールにならないのではないか。そんな気がして一般人として彼女らに参加を促した。彼女らは、私が教える大学(大阪樟蔭女子大学)の生徒で、3回生の時に私が教える授業(フードメディア研究)でいい成績を獲っていた。コロナ禍で大学は、授業がリモートになっており、大学生も消化不良気味、「何か手伝えないですか」と訪ねて来たのでプロジェクトに参加させたわけである。樽谷・中尾の両嬢は、カクテルブックを買ってそれも参考に材料を揃えて飲食店を借りて試作。家で仕上げながらレシピづくりをいくつか作った。そのオルタナティブアルコールを森崎さんに見てもらい、彼がちょっぴりアドバイスをすることで、「承和色(そがいろ)ヴィネード」「フェアリー・パール」「レッドアラーム」の3つが完成した。女子大生作品と侮るなかれ、プロも驚くほどのオルタナティブに。森崎さんも「基本はさわらず、彼女らの想いを尊重した」と言うだけにかなりレベルの高い作品となっている。現に「日本料理 湯木」や「西洋料理店ふじもと」では、彼女らの作品をメニュー化しており、かなり好評だとか。それだけでも彼女らの発想力の良さが窺えるはずだ。

H I

この4人に加えてミツカンのお酢博士こと、食酢エキスパートの赤野裕文さんもレシピづくりに参加している。彼は、色をテーマに「りんご黒酢」を用いて7色のオルタナティブアルコールを作った。沸かした「りんご黒酢」にハーブティーのティーバックを浸し、一晩置くことでその原液ができる。それを1に、トニックウォーター4の割合いで割ると、色鮮やかなノンアルコールカクテルができあがる。酢の酸味をトニックウォーターの苦みが柔らげ、トニックウォーターの苦みを酢の酸味が柔らげるという実に効果的な組み合わせになっている。

では、なぜこれらのノンアルカクテルが、酒と見紛うかといえば、酢の効用に秘密がある。酒を放っておくと、酢になるといわれるが、ともに親戚のような存在。どちらも発酵食品で、体内に吸収される過程も酒がアルコール→アセトアルデヒド→酢酸と変化するように最終的には酢と同じように酢酸となって身体に入ってしまう。アルコールも酢も分子構造は同じで吸収の仕方も胃で20%、小腸上部で80%と似ている。酢を得ることで血管が広まり、血行がよくなるばかりか、お腹も温まる。これが酔いに似た現象をもたらすに違いない。現に今回開発したオルタナティブアルコールを参加店で飲んでみたが、二杯も頼むと、汗が出て来て酒を飲んだ時のような感じになった。つまり身体が酒を飲んだと錯覚したようだ。ジュースをベースにソーダや果汁を混ぜただけでは、味を重ねたにすぎなかったのだが、酢が入ることで各々の特性を持ち上げる力が出て来てまるでカクテルのようになる。そんな酢ならではのキック力がオルタナティブアルコールには必要なのだ。

今回開発したレシピは、計21作品。これを9月~11月末まで京阪神の飲食店45店舗で出し、オルタナティブアルコールブームの火をつけたいと思っている。「サヴォイオマージュ」を始め、45店舗では21作品のいずれかをメニュー化するか、独自で開発した酢ベースのノンアルを出すかが参加の条件となっており、できれば酒のようなスタイルで提供してほしいと約束している。提供実施店については、ミツカンのキャンペーンサイト(https://bit.ly/3kBZOp9)を参考にしてほしい。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい