2014年05月
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サントリーがビーム社を買収し、蒸溜酒メーカーでは世界3位になった。そんなニュースが流れたからではないだろうが、バーボンウイスキーの市場が活況を呈し始めた。旧来のバーボンもさることながら最近は若い人や女性層を狙ってハチミツ味のバーボンまで出ている。今回はそんなバーボンウイスキーの話をしてみる。ついでに私達が行ってきた「メーカーズマーク」の封蝋体験にも触れておきたい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
今年はバーボンブームの気配が・・・・

グンとアップしたバーボンウイスキー市場

神戸産の野菜

昨年からやおらバーボンが元気づいてきた。海外ブランドの洋酒には販売代理店が存在する。どこの酒類メーカーや輸入業者がそれを売り出すかによって販売力が異なるため、自ずと数量も変わっていく。昨年、アサヒビールが「ジャックダニエル」を、サントリーが「ジムビーム」や「メーカーズマーク」の日本での販売権を得たためにテレビCMが多発され、バーボンの市場がグンとアップしたといわれる。読者諸氏もレオナルド・デカプリオが「クールバーボン!」と語る「ジムビーム」のコマーシャルを何度も目にしているのではないだろうか。「ジムビーム」や「メーカーズマーク」は販売代理店がサントリーに移っただけには留まらず、今年の1月に何とサントリーがそれらを製造するビーム社を買収してしまったから驚かされる。ビーム社は前述の2種のバーボンの他にカナディアンウイスキーの「カナディアンクラブ」やスコッチの「ラフログ」など多くの酒を造っている名うての蒸溜酒メーカー。買収額は1兆6000万円で、これによりサントリーはスピリッツの業界では世界3位にまで上り詰めた。

神戸産の野菜 このようにサントリーとかアサヒビールとか、やたらと大手酒類メーカーがバーボンに力を入れ始めたために日本での売り上げは前年比33%にアップした。ビーム社の看板商品だった「メーカーズマーク」は25%も売上が上がり、「ジムビーム」に至っては8.5倍まで売上が跳ね上がっている。
さて、ここでバーボンウイスキーの定義を述べておこう。皆さんも知っての通り、バーボンはトウモロコシが原料のひとつになっている。トウモロコシを51%以上使っており、アルコールが80度以下。そしてホワイトオークの新樽を使用し、2年以上熟成したものをバーボンウイスキーと呼んでいる。このバーボンを日本に広めた人物は、北新地(大阪)のバー「十年(とうねん)」のマスター・工藤さんだろう。彼が店を大阪に持った頃、フォード、カーター、レーガンの歴代アメリカ大統領になった人物に直接手紙を送り、「日本で貴国のバーボンウイスキーを広めたい」と直訴したのだ。それに反応したのはカーターで、彼から何と工藤さんの元に親書が届いたそうだ。そこには「応援する」との力強いメッセージが書かれていた。
バーボンは80年代にもブームが起きている。なので現在50~40代半ばくらいの人達にはバーボン愛好家が多い。彼らは少しクセのあるバーボンを好み、バーに行ってはそれを注文する。その嗜好を目にするだけで、この人は80年代にバーボンにはまったのだろうとわかってしまう。

200度と高温で行う封蝋を体験

神戸産の野菜

前述したようにサントリーは、昨年からレオナルド・デカプリオをCMに起用して「ジムビーム」を売り込んでいたのだが、その甲斐もあって85%もアップしている。そして次には「メーカーズマーク」をと力を入れ始めた。「メーカーズマーク」は、スコッチ・アイリッシュ系の移民であったロバート・サミュエルズがケンタッキーに移り住んでから農業をしながら自家製ウイスキーを造り始めたことから歴史がスタートする。蒸溜所ができて本格的に製造し出したのは、ロバートの孫のテーラー・ウイリアム・サミュエルズの代から。そして中興の祖となるのが6代目ビル・サミュエルズ・シニアだ。普通、バーボンはトウモロコシ、ライ麦、大麦麦芽を原料とするのだが、ビルはパンを食べていて、スパイシーでドライなライ麦より小麦の方が口当たりがいいことに気づき、冬小麦を使うことにした。これが「メーカーズマーク」の最大の特徴となっており、「スイート&スムーズ」のキャッチコピーは、それに由来している。

神戸産の野菜 「メーカーズマーク」は、機械化が当り前となった今日でさえ、ハンドメイドのこだわりを持っている。1953年に蒸溜所の改修を行い、設備を新たにしたのだが、それでも機械まかせにせずにできる限り人の手で造ると意を固くしたらしい。このあたりの考え方は湯浅醤油に通ずるものがあるかもしれない。
そして「メーカーズマーク」の特徴ともいえる封蝋もこの時代に誕生している。そのプランを思いついたのはビルの妻マージョリー。彼女にはマーケティングの才があったらしく、製造者の印という意味の「メーカーズマーク」のブランド名をつけたり、ボトルに封蝋するというアイデアを打ち出している。ラベルに付けられた丸(円)で囲んだSIVには意味があり、Sはサミュエルズ家の頭文字で、IVは4を表したもの。本格的なウイスキーづくりを始めた3代目から数えて6代目のビルまで4代続いたことを表している。星印は以前蒸溜所があったスターヒルファームにちなんでおり、円は一家の歴史を表現している。丸(円)の所々(4カ所)が切れているのは、過去に造りたくても造れない時代があったことを示す。その4つとは南北戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦、そして禁酒法時代。そんな時代が二度と訪れないように願うためあえて記しているのだという。

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ところで私は先日この赤い封蝋づけを当社スタッフといっしょに体験してきた。場所はサントリー本社。いつもならバーテンダー向けのセミナーのひとつとして行うものを私達にも披露してくれたのである。この封蝋は、大切な人へ出す手紙や小包に蝋で丁寧に封じる習慣をボトルに転用したもの。「メーカーズマーク」のシンボルとなっているキャップ部分の封蝋は今でも一本一本手仕事で行われているそうだ。

神戸産の野菜そのため、ひとつとして同じものがないと言われている。右利きと左利きの人とでは、蝋の垂れ方も違い、人によってはクセもある。私達にはわからないが、蒸溜所内の見る人が見れば、誰が封蝋したボトルかわかるらしい。

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封蝋するためには200度という高温の蝋にボトル部分を漬けねばならない。手でさわるなんてもってのほかで、飛び散ったものが肌に付着しても火傷するので、私達は厚手の手袋、肌が少しでも露出しないようにと、長めの肘当てをし、さらにメガネまで付けて準備する。このようにかなりの防備でそれに臨むのだ。

神戸産の野菜蝋に漬ける時間は一瞬、引き上げる時に全体に蝋が行き渡るように少し回す。そして机上に置いてトントンと下に叩く。こうすることで蝋が垂れてくる。体験すると、二つとして同じものがないというのがよくわかる。漬け時間も変われば、蝋の付き具合も違う。垂れ方もその時その時で異なるので、同じものが出来ないというわけである。 5分ぐらい置くと乾燥するらしいが、それまでさわってはならない。漬けた後とはいえ、何せ200度の蝋がそこにあるわけだから危険なわけだ。

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私のボトルは、贔屓(ひいき)目だろうが、なかなかいい付き具合。このような体験は二度とないわけだから大事に持って帰り、飾っておくに限る。では、いつ飲むのか?まさか林先生じゃあるまいし、「今でしょ!」とも言えない。せっかくの封蝋を解くにはいささか勿体ない。そんなことを思案していると、サントリーの社員が、「世界に二本とないボトルなので、これは飾っておいて、飲むものは酒屋で買ってください」と―。まさにうまい営業戦略、「メーカーズマーク」が売れるわけだと思わず納得してしまった。
(文/曽我和弘)

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい