2014年06月
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ハンバーグは、洋食なら必ずといっていいほどラインナップしているメニュー。子供が好む料理として常にカレーと並んで挙げられる、いわば王道の品だ。この定番メニューに風変わりなアイテムが登場した。その名も「R18ハンバーグ」と「R20ハンバーグ」。ともに子供はお断りと銘打っている。そして輪をかけて面白いのがマンガから抜け出してきたような「まるで漫画な原始肉・マンモス君」。今回は、アイデア溢れるハンバーグで勝負しようとしている温泉地の洋食屋をレポートしたい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
悪のりの末に誕生した名物料理とは・・・・

昔、マンガで見たマンモスの肉を再現

神戸産の野菜

有馬温泉の公衆浴場「金の湯」の前に「有馬玩具博物館」なる施設がある。読んで字の如く古今東西のおもちゃを展示しているミュージアムなのだが、この2階に同温泉地には珍しい「有馬食堂」という洋食屋がある。この店のコンセプトは、野菜とハンバーグが美味しい店。ハンバーグはもとよりカレー、オムレツなどのメニューには、どれも「これでもか!」というほど野菜が載っている。店内の鉄板で焼いた野菜は彩りもあってどれも食指が伸びそうな品ばかりだ。「有馬食堂」と「有馬玩具博物館」を経営するのは、かの有名な老舗旅館「御所坊」、そう聞くだけでグルメにはなかなか期待が持てるとの認識が得られるのかもしれない。

神戸産の野菜 「御所坊」は、1191年と、日本で最古に近い(多分、最古は北陸の「法師」だと思う)歴史を有しながらも、なかなか革新的。オーナーの金井啓修(日本の観光カリスマ)を始めスタッフが、遊び心たっぷりな企画を打ち出してくることでも知られている。15代目陶泉主・金井啓修さんのジュニア・金井庸泰さんが担当しているのが、今回話をする「有馬食堂」だ。  金井庸泰さんは、かねてからマンガ肉を商品化したいと考えていた。マンガ肉とは、昔のアニメ「はじめ人間・ギャートルズ」に出てきそうなマンモスの肉を指す。流石に現代でそんな肉は手に入るわけもないので、マンガに出てくるぐらいの大きさの肉と思ってほしい。肉は巻きつければ、いくらでも大きくなるが、足らないのは骨部分。牛や豚の骨を鶏の骨のようにして持つわけにはいかず、考えた末にマンガに出てくる形をした骨のようなものを陶器で作ってしまった。この悪のりに近くの陶芸家が応えたというから面白い。結局、三本のマンモスの骨(?)が出てきてしまった。

神戸産の野菜

「この骨に肉をつけて商品化したい」と頼んだ先が元辻学園の西洋料理教授で、現在、京都精華大学などで教えている藤本喜寛先生。これまた肩書に似合わず悪のりしそうな料理人である。藤本先生は、骨に肉を巻きながら色んなパターンを試したそうだ。そこで気がついたのが、ただ単に肉を巻きつけるのではなく、食感の違いをつけること。まず陶器で造った骨の周りに豚肉を巻き、その上にミンチ肉をつけてふくらみを出す。そして最後に牛バラ肉を巻いて仕上げたそうだ。一本が700gもする巨大なハンバーグ(⁈)をオーブンに入れ、約40分かけて焼き上げるのだが、骨の特性により中からも熱が入り(陶器なので熱を持つ)、それはそれはうまく仕上がるというわけ。流石に約40分ほどかかるので予約でないと対応しきれない。しかも骨は三本しかないのだからなおさらである。基本的には一本が700gで4500円(税別)。一本で4~6人が食べると思えば妥当な値段であろう。もっと多くの人で食べたいと思う人は肉の追加を。100gごとで500円アップするらしいが、1㎏を超えるとなかなか火が通りにくくなるために「そのぐらいの大きさまでで打ち止めした」と金井庸泰さんは話していた。
こんなユニークな商品にどんな名前がいいのだろうと聞いてきたので、私が「まるで漫画な原始肉・マンモス君」と名づけておいた。昨今はネット全盛時代、検索しようとして思い浮かぶのは‟マンガ肉”であったり、‟原始肉”であったり、はたまた‟マンモスの肉”であったりするためにそのどれでもヒットするようにと全てのフレーズが入ったそんな長~い商品名を思いついたのだ。

ありそうでないのが激辛ハンバーグ

神戸産の野菜それとは別に金井庸泰さんと、「御所坊」の総料理長・河上和成さんは、有馬らしい名物ハンバーグをと考えを巡らしていた。そこで私と藤本先生を含めた悪のり三人組がブレストして思いついたのは、「R20」「R18」のハンバーグである。そもそも有馬は山椒が有名で、和食で有馬煮とか、有馬焼きとか記せば、山椒味のものをいう。そんな背景から悪のり4人組は、山椒を用いた辛いハンバーグを考案することになった。なぜ辛いのかというと、色んなハンバーグが世に溢れているが、激辛タイプのものだけはなかったからだ。韓流ブーム以来、辛い味は日本で市民権を得たにも関わらず…。それに有馬=山椒のイメージもマッチすると思った。
このストーリーを託されたのは、これまた藤本先生。山椒や豆板醤を駆使して「有馬辛~いソース」が誕生した。食べてみると、激辛。だが、クセになる旨さが隠されている。フライドポテトにつけると、これまた格別で、ついつい手が伸びてしまうのだ。「有馬辛~いソース」は、デミグラスタイプと味噌タイプの二つを作った。前者はオリジナルのデミソースをアレンジしたくて、そうしたのだが、味はやはり辛い。後者はそれ以上に辛く、私はどちらかというと、この味の方が気に入っている。これまた‟激辛ハンバーグ”では面白くないと、映画のようにR指定にした。デミタイプが「R18」で18歳以下はお断り、味噌タイプは「R20」で20歳以下はお断りと銘打っている。この二歳の違いはどこから来るのかと問われれば、はっきり説明することはできないが、食べてみれば、何となくわかるような気がする。

神戸産の野菜

こんな悪のり三商品ができたのだからと、若干名のマスコミ関係者を呼び、お披露目することにした。訪れたのは12名、新聞社、ラジオ局、雑誌社の面々である。なぜに12名かというと、「マンモス君」の骨が三本しかないから。一本を撮影用にしたとして食べるのが二本であれば、12名が限界で、それ以上呼ぶと当たらない人が出てくるのだ。そして食べてもらって結局、皆が「面白い!」と言い、各メディアで取り上げてくれることになった。「食感が違ったのがいい」とか、「あきない味で美味しかった」「話に聞いた時に想像した味とちょっと違ったが、いい方に違っていたのでよかった」などの感想が寄せられた。ただ、そんな感想を述べながらも「骨を陶器で作ったり、三つしか予約できないものを考えたり、試作に有名料理人を使ったりと、遊びに金をかけすぎてませんか?」とは、12人の参加者全員が発していた感想だ。「R18」と「R20」のハンバーグに、「まるで漫画な原始肉・マンモス君」は、この6月より「有馬食堂」で提供されている。店によると、なかなか評判だそう。お金をかけた遊びでも、きちんと商品化したのだからいいではないか。(文/曽我和弘)

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