2026年01月
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2025年12月5日に湯浅醤油では、新たな醤油木樽をお披露目した。今回新調した木樽は、直径3.4m×高さ5.5mのビッグサイズ。何でも国産杉を使った木樽では、日本最大級だそう。昔は醤油醸造というと、木樽(木桶)での仕込み・熟成が当たり前だった。それが効率化の波に押されてホーローやステンレスのタンクでの仕込みが一般的に。現在では国内全体の約1%まで減少しているという。そんな時代に抗いながら湯浅醤油では木樽での伝統製法を守り続けている。その動きは更に加速し、今回ビッグサイズの木樽を二基も増設させた。「食の現場から」では、12月のお披露目会の取材を受けて木樽での醸造効果と新たなビッグサイズ木樽への期待について言及したい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
日本最大級の国産杉を使った醤油木樽が誕生した!

発酵の現場で木樽仕込みが再評価されている

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木樽(木桶)仕込みが再評価されつつある。かつて発酵食品の現場には必ず木樽(木桶)があってその木の良さから醤油や味噌、酒が生まれて行った。ところが大正期にホーローのタンクが出現するや、衛生面や効率性から木がうとまれ、高度成長期以降の効率重視主義の高まりによって発酵食品は次第にホーロータンクやステンレスタンクでの仕込みに変わって行ったのである。「かつて主流だった木樽(木桶)仕込みによる醤油製造は、現在国内全体の約1%にまで減少しています」と話すのは、湯浅醤油の新古敏朗社長だ。新古敏朗さんは、以前プラスチックと壺、木の各々の材質を使って仕込みの実験をした事があるそう。メンテナンスの面で簡単なのはプラスチックだが、造る毎に味が違っていて安定しない。片や壺や木での仕込みだと美味しい醤油ができるとの実験結果を得たという。「食べ比べると味が全く異なります。壺や木の方が断然に旨い醤油ができるんです」と証言している。湯浅醤油も2000年頃に四代目が最新機械による大量生産へ舵を切り換えかけた時期も確かにあったようだ。ところが5代目にあたる新古敏朗さんが「伝統の醤油づくりをなくしてはいけない」とこれまで同様の木樽仕込みを継続している。湯浅醤油は現在、古来からの醤油づくりもさる事ながら木樽による仕込み・熟成がウケて評判を高めている。木樽が並ぶ九𫞂蔵は今や観光スポットに。伝統の製法に触れたいとばかりに休日は観光バスや車が何台もやって来る。訪れた観光客は九𫞂蔵にて古い木樽がいくつも並んでいるのを観てから、櫂入れ体験(有料)をして醤油づくりにちょっぴり触れる。そしてポタポタ搾る様を見学し、そこで造られた醤油や金山寺味噌が揃うショップ(醤館)でお土産を買って帰るのだ。九𫞂蔵は、伝統を受け継ぐ古式醸造蔵。古い木樽がいくつも並び、実際にもろみが入った杉樽に手で触れる事さえできる。見所はもろみが熟成している所をその目で見学できる点。醤油の原材料は大豆・小麦・塩で、約1〜2年かけてじっくり育てられ、やがて醤油となる。櫂入れは、熟成中のもろみをかき混ぜる作業。櫂入れする事で木樽の中に空気を送って熟成発酵の手伝いをする。年月をかけて熟成したもろみは濾過する布を300枚前後使って約1週間圧搾機で搾る。搾った生揚げ醤油は、別の木樽で2〜3週間寝かせて大豆の脂分とオリを濾過して取り除き、火入れしてから瓶詰めされるのだ。湯浅醤油では醤油が商品化されるまでに約2年〜2年半ぐらい時間を要するという。この長〜い期間に木樽の中に入っているのだから木は大事な要素。醤油の豊な風味の源は、木樽の内側に形成された微生物の生態系によるところが大きい。長期間自然発酵と微生物の生態系によって複雑で深い旨みや風味が醸し出される。ホーローやステンレスのタンクでは、半年程で醤油ができてしまうが、木樽での仕込み・熟成はその6倍。長くかかる分、効率は悪くはなるものの、長く熟成させる事で深みのある香りや、まろやかな味になるという。なので新古敏朗さんは、近代化の流れに抗いながらも木樽仕込みにこだわっている。「香り、色、味わいが違う」という言葉は、湯浅醤油の商品の良さが物語っている。

次の百年に向けてビッグサイズの木樽を新調

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湯浅醤油の木樽仕込みによる伝統製法へのこだわりは更に加速を見せている。2025年12月5日に湯浅醤油では、新しい醤油木樽のお披露目を行った。小雨が降りしきる中に地元・和歌山放送局のNHKやら、大手新聞社・地元新聞各社がこぞって取材に来たのである。
今回新たにお目見得したのは、九𫞂蔵の増設敷地に設置された二基の大きな木樽だ。直径3.4m×高さ5,5mのビッグサイズで、国産杉を用いて作られた醤油木樽としては国内最大級らしい。その高さはキリンの大きさに匹敵するという。新古敏朗さんは、「国産杉で作られた醤油木樽としては我が国で二番目の大きさになるようです。この大きな木樽で醤油を醸造・熟成する事で次の百年へ向けての第一歩が踏み出せた気分です」と清々しく展望を語っていた。
実は湯浅醤油は2016年にビッグサイズの木樽を設けている。この時の木樽は直径3m×高さ4.7mで、国産杉材では関西最大級と称した。今回の新調木樽は、それより直径が40cm、高さが80cmも上回った事になる。新古敏朗さんの話では、昨今の需要を満たすために今回も関西最大級サイズ(直径3m×高さ4.7m)を三基新調する計画をしていたらしい。ところが三基分を作る木がないと言われ、ならば小さな木樽にするしか術がないとなったそう。「増産するのに少なくなってどうする?となって喧喧諤諤(けんけんがくがく)の末、これまでのものより大きなサイズを二基据える事で話が落ち着いたのだ」という。
この最大級の醤油樽を収容するためにあえて九𫞂蔵を増設し、その設置を行なっている。流石にこのサイズのものを運搬する事は不可能なので木樽職人に九𫞂蔵まで来てもらい、その場で組み立てを行なって完成させたようだ。「製造は横浜の『日本木槽木管』に依頼しました。これだけ大きなものを作るとなると、この会社しかないようです。これだけ大きな板目材で作るとなると組み立て作業も大変で、木樽職人に湯浅まで来てもらって1カ月以上かけて仕上げました」と語っている。湯浅醤油では、このところの需要の高まりから供給するためにビッグサイズの木樽づくりを依頼したが、別に国内最大を目指していなかったらしい。ところができてみると従業員達が、「日本一かも?」と騒ぎ出し、調べてみると「大分醤油」に50cm背が高い木樽があったようだ。だから湯浅醤油では〝国産杉を用いた木樽では、日本最大級″と表現している。ちなみに国内最大の「大分醤油」の木樽も「日本木槽木管」の手によるものだ。

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木樽による醤油仕込みは国内で約1%まで落ちていると書いた。大半の醤油蔵がホーローやステンレスのタンクで仕込み・熟成を行なっているのがその因だ。木樽による仕込みは衛生面で問題が生じるとか、仕込みや熟成に時間がかかって非効率だとか言って古くから木樽による伝統製法を否定して来て今がある。ところが欧米のウイスキーやワイン、シェリー酒は未だに木樽による熟成が当たり前で、むしろその方が評価されている向きもある。現にウイスキー、ブランデー、ラム酒などの分野では木製樽市場が著しい成長と遂げているとさえいえる。そんな動きを日本でも察知しており、山崎蒸溜所を大改修したサントリーでは、色んなウイスキー原価を得ようと木製発酵槽を再導入しているそう。醤油醸造においても小豆島の「ヤマクロ醤油」が呼び掛けして“木桶職人復活プロジェクト”を実施している。これは危機が叫ばれる木桶の良さを見直そうと、木桶仕込みを続けるメーカーや関係者が集って毎年1月に小豆島で新しい木桶で作るもので、その技術を絶やさぬための木桶職人を増やすのが目的でもある。
新古敏朗さんは「醤油醸造発祥地・湯浅でこそ木樽仕込みを守り続ける意義がある」と言う。木樽の寿命は100~150年といわれており、湯浅醤油でも140年以上使用している吉野杉の古樽を修理しながら大切に使って来た。段々、木樽(木桶)職人がいなくなり、市場からそれが消えそうになっている。だからあえてこの時期に木樽を新調して今の需要に対応しようとしているのだろう。
2025年12月にお目見得したビッグサイズ木樽は、国産杉材を100本使用。釘など金属部品は用いず、木材同士を組み合わせ、外側を締め付けバンドで締め上げる事で強度と密閉性を確保している。木樽の内側には漆を塗布して杉の香りが一気に醤油に移らないような工夫も施されている。湯浅醤油では、「木樽ならではの発酵環境をいかしながらも、醤油本来の風味を損なわぬように仕込む事を可能にした」と発表していた。新たな木樽導入によって月間で4000ℓは増産が可能に。「2026年2月から仕込み始めても熟成に時間がかかるのでこれが商品化できるのは2027年12月〜2028年初めになると思われます」と語っているように商品化には多少の時間を要するのだが、その分木樽仕込みへの期待と楽しみは増すように思われる。

 

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい