2018年12月
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 このコーナーでは、これまでに泉佐野産(もん)プロジェクトの取り組みを度々伝えて来た。松波キャベツのペースト(調味料)を作ったり、介護おやつに挑戦したりと、とにかくユニークなのだが、今年度は"松波君の嫁探し"なるキャンペーンを行い、7軒の店でその料理を提供する。松波キャベツは、泉佐野市が水茄子・泉州玉ねぎに続く第三の産物として期待を寄せる農作物だ。他種より甘みがあるのが特徴で、芯まで柔らかい。今回は、大阪・神戸にある名店のシェフ達に、この素材を主役級になるように考えてもらった。キャベツは誰もが使う食材だが、料理の主役にはなりにくい。そこに別素材を持って来ることでメニューの主役に踊り出させようと考えている。松波君(キャベツ)が引き立つような嫁(別素材)を7人の料理人が仲人役となり、探そうというのが"松波君の嫁探し"である。今回は、本キャンペーンの裏側をレポートする。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
松波キャベツに史上最高の
モテキがやって来た(!?)。
一月に開催する"松波君の嫁探し"とは、どんなもの?

このキャベツを隠れた名品にしてなるものか!

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9月初めに上陸した台風21号は、すさまじい勢いで関西を通過して行った。報道でもご存知のように関空はかなりの打撃を受けている。当然ながら関空のある泉佐野市も同様の被害に遭い、市内の農家では作物に影響が出るほどだった。泉佐野市内では、いよいよキャベツ栽培にかかるという時季だったようで、ある農家では「文字通り根こそぎ持って行かれた」と話している。農業関係者の話では、市内の多くのビニールハウスが何らかの被害を受けているそうで、「潰れてしまい、まだ復旧のめどが立っていない」と言う人もいると聞く。まさに大型台風の上陸は、夏季のみならず、来年の収穫にも影響を及ぼすと目されているくらいだ。
泉佐野市役所農林水産課では、近年市内の野菜をブランド化すべく泉佐野産(もん)と名づけて数々の企画を打ち出して来た(過去の同コーナーの記事を参照)。産物の中でも松波キャベツのPRは欠かせないもので、市でも水茄子・泉州玉ねぎに続く第三の産物として成長させようとしている。そんな矢先に猛烈な台風である。苗が飛ばされてしまい、収穫期が遅れるばかりか、松波キャベツの収穫は例年を下回るものになってしまいそうなのだ。
同市では、今年度のキャンペーンとして"松波君の嫁探し"を行おうとしていた。これは主役になりづらいキャベツを別素材と合わせることで、メニューの主役級まで押し上げてしまおうとの目論見。松波キャベツと言わず、あえて擬人化させて"松波君"と呼び、合わせる素材を"嫁"と称して面白おかしく料理を表現させる。その仲人役は、料理人が務め、彼らが"嫁探し"を実行し、松波キャベツが引き立つ材料を見つけて調理することで本当の意味のマリアージュを完成させたいと企画した。ところが、初秋の台風被害で松波キャベツ収穫の見通しが立ちにくくなってしまった。

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「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」の14階「ステーキハウスオリエンタル」の料理長・鍬先章太さんは、本企画にかなり乗っていた。ホテルの広報といっしょに松波キャベツの良さを訴求させようと、ニュースリリースまで制作していたようだ。泉佐野の農園を巡って実情を聞くうちに「こんな時だからこそ"松波君の嫁探し"をしなければ」と意を強くしたと語っている。北新地に三軒の割烹「湯木」を構える(その他に肥後橋に「ゆきや」も経営している)湯木尚二さんも同じ。「料理人が参画し、支援することで地域の農業が盛り上がればいい」と本キャンペーンを後押しした。北新地に店を営む「西洋料理店ふじもと」の藤本直久さんとて同様の思い。「甘くて味の深いキャベツ(松波キャベツ)があるのだからキャンペーンを実行することで少しでも多くの人にその味の良さを知ってもらいたい」と、企画自体の成功を促すととも同時に「農家への応援歌だ」と主張してくれたのだ。
台風被害に喘ぐ農家に応援歌を贈りたいとばかりに"松波君の嫁探し"キャンペーンに参加の意思を示したのが、大阪・神戸の7人の料理人だ。名前を挙げれば「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」鍬先章太さん、「紅宝石」李順華さん、神戸酒心館「さかばやし」加賀爪正也さん(以上神戸)、「湯木」湯木尚二さん、「農家厨房」大仲一也さん、「西洋料理店ふじもと」藤本直久さん、「日本料理竹之内」竹之内孝男さん(以上大阪)の面々である。いずれも腕に定評ある人で、和中洋の名手が仲人役を買って出たことになる。
中でも鍬先さんは、ホテルを挙げて本企画を広報するらしく、現地まで取材に行きたいと申し出た。11月9日に泉佐野市鶴原にある「三浦農園」に彼といっしょに出かけたが、実をいうと、このままでは11月末のマスコミ発表会に作物が間にあわないのではないだろうかと思うくらい収穫が遅れ気味だったのだ。「三浦農園」は、代々続く地元の農家で、現在は家族三代で無農薬、化学肥料減農薬に取り組んでいる。三浦淳さんは「代々受け継いで来た種や栽培技術を途絶えさせないように心掛けている」と熱心に農業のことを話してくれた。農林水産課の話でも「市内を代表する若手農業家の一人で、大阪エコ農産物を産している」とのこと。なにわ伝統野菜の一つで、幻の玉ねぎといわれる泉州黄玉葱の今井早生も作っている。三浦さんは「糖度が10くらいあって甘い。水に晒すことなく食せる」とこの平べった玉ねぎの特徴を教えてくれたのだ。殊松波キャベツの状況はというと、11月上旬では収穫の見通しが立っておらず、1月のキャンペーン時期には大丈夫なのだがと話すにすぎなかった。かく言う三浦さんのこところもビニールハウスが台風で潰れた。それも誤算の一つとして今後の遅れを危惧していたのだ。

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三浦さんに見せてもらった松波キャベツとF1種のキャベツ畑の違いには驚いた。後者がきちんと整列を成しているのに対して松波キャベツは不揃い、まさに機械が入らない状態である。これが松波キャベツ畑の特性らしく、農家泣かせ故に作る所が徐々に成っているそうだ。「松波キャベツのような固有種は雨に弱い、病気に弱いなど作り手を悩ませます。でも甘みはピカイチで、希少価値もある分、ブランド品になり得る存在です」と三浦さんは胸を張る。鍬先さんも栽培中のキャベツの鬼葉(外葉)をちぎって口にしたとたん「甘い!」と発したほど。外葉だけに苦みやエグみはあるものの「甘くて美味しい」と評していた。鍬先さんは、この鬼葉を持ち帰り、ザワークラフトにいったんしてからグレープシードオイルと合わせて松波ザワークラフトオイルを作るのだそう。ちなみに彼のエントリー作品は「松波君と世界一の美女、複雑な愛の行方」。神戸ビーフを嫁候補に挙げ、世界一の美女と称している点が面白く、鉄板上で繰り広げられる調理行程を"複雑な愛"と表現するほどユニークな作り方が眼前で展開されていく。「松波キャベツの中でも最も甘みのある芯部分を神戸ビーフのミンチに混ぜて贅沢なパティを作ります。そこへフォアグラを射込み、松波キャベツの葉で包んでロールキャベツにするんです。こんがりと焼き色をつけ、キャベツの葉を乾燥させて漉したコンソメスープを注ぎ、酸味と甘味のバランスがいいザワークラフトオイルを加えて風味をアップさせるんですよ」と、まさに複雑で、タイトル通りのメニューに仕上がるものと思われる。

 

キャンペーン告知のためのマスコミ発表会は大盛況

 

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ところで、市の農林水産課が行う"松波君の嫁探し"キャンペーンだが、前出の7軒の店で2019年1月中実施される。そのことを伝えるために11月27日夜にマスコミ発表会が開かれた。場所は神戸酒心館蔵内にある「さかばやし」の二階フロア。当日はかなりの盛況ぶりで多くのマスコミ関係者が訪れた。当初危惧していた松波キャベツが何とか間に合ったのだ。「一週間前までは市内のどこを探してもない」と頭を抱いており、一時は開催すら危ぶまれたが、三浦さんの尽力もあり、少しだけ収穫できたようだ。その松波キャベツを前週金曜日に各店へ送って27日(火)用の料理を作ってもらった。それを持ち寄る形で、「さかばやし」で発表会兼試食会が行われている。
冒頭に料理人を代表して挨拶した湯木尚二さんは、「長い間大阪で暮らしているが、泉佐野市の農水課から本企画の声がかかるまで松波キャベツのことを知らなかった」と話し、送られて来た現物を味わって甘みが強いのにびっくりしたと感想を述べていた。当日、「松波君タルタルの鶏南蛮サンド」を作って持ち込んだ藤本さんも「とにかく味が深い。これが隠れたままになっているのは勿体ない。本キャンペーンを成功させて多くの人にその味を知ってもらわねば…」と意気込んでいた。湯木さんの乾杯の発声「どうか松波君にいいお嫁さんが見つかりますように。本企画を成功させて全国に泉佐野産松波キャベツの名を広げましょう」は、彼らの調理の自信の表れでもあり、素材への手応えをつかんだ言葉だったに違いない。

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マスコミ発表会では、いくらキャベツのキャンペーンとはいえ、それだけではつまらないと、市側が泉佐野で穫れた野菜や米、豚肉も持ち込み、「さかばやし」の加賀爪さんに調理してもらっている。あえて列記しておくと、以下のような献立になる。
・北新地西洋料理ふじもとの「松波君タルタルの鶏南蛮サンド」
・広東料理紅宝石の「幼なじみの愛・松波君と小松菜嬢」
・蔵の料亭さかばやしの「鰆と松波キャベツのすり流し」
・蔵の料亭さかばやしの「蛸のお造り」
・神戸メリケンパークオリエンタルホテル・ステーキハウスオリエンタルの「松波君と世界一の美女(神戸ビーフ)複雑な愛の行方」
・蔵の料亭さかばやしの「犬鳴ポークと泉佐野野菜の酒屋鍋」
・泉佐野産大木米(ご飯)と赤出汁
・日本料理北新地湯木新店の「松波めんたい」
・農家厨房北浜店の「松波せんべい」
・蔵の料亭さかばやしの「酒粕アイス」
来店したマスコミ関係は、以上の料理を食べ、「どれも個性的で素材感をうまく表現していた」とご満悦気味。早速、ラジオ大阪では、この日参加したパーソナリティ・慶元まさ美さんが発表会の様子を報じていた。ラジオ関西のパーソナリティ・谷五郎さんも年末に鍬先さんの所に再度取材に行き、本企画の面白さを番組内で話したいと言っていた。彼らマスコミ人が試食していた"松波君の嫁探し"料理は、年が明ければすぐに店々に登場する。読者諸氏も出かけてみてはどうだろう。

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