2023年01月
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今の大学三年生は、入学してすぐに新型コロナウイルスが出て来て、その恐れやら何やらで学校に行くことが少なかった。大学ではリモート授業が当たり前のようになり、対面授業が激減。2022年からは少しは戻ったものの、大学生らしいキャンパスライフを楽しめずにいる。そんな彼女らに行政(泉佐野市役所農林水産課)が発表の場を設けようと、私の授業を利用して泉佐野産(もん)普及事業の一環を持ち込んでくれた。授業で地の野菜や文化を学ぶばかりか、彼女らの作品を地元ホテルでのメニュー化しようと尽力してくれたのだ。よく産学連携、産官学連携と謳って大学生を巻き込んだ商品づくりを行なっているケースを目にするが、これもその好例。しかも任意での参加ではなく、授業での取り組みとあらば、真剣度合も違って来る。今回は、泉佐野市、ホテル日航関西空港と、大阪樟蔭女子大学の私の授業がコラボした泉佐野産(もん)の企画についてお話しよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
泉佐野の地野菜の訴求に女子大生が参加。
全く新しいキャベツ料理が実現した。

松波キャベツ訴求にフレッシュな案を!

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産官学連携が新聞紙面を賑わすことが多い。やはり社会にまだ出ぬ学生が、商品づくりなどに取り組む姿は、新鮮味があってニュースになりやすいのだろう。そう書きながらも私もそれを仕掛ける一人。教壇に立つ大阪樟蔭女子大学の学生を使って酒粕プロジェクト(食の現場から第101回参照)やら、ノンアルブーム(食の現場から第88回参照)やらにチャレンジさせたりしているのだ。私の行うそれは、授業内での展開が多い。巷でよく産学連携を目にするが、その大半は既存の授業ではなく、任意で参加を促しているのが多い。私が今回行う泉佐野産(もん)のプロジェクトは、木曜2時間目に行なっている「フードメディア演習」でのもの。その出来、不出来では授業の点数に関わって来るとあって学生達の真剣度合が違って来るのだ。
泉佐野市では、地元産の農産物の良さを訴求しようと、泉佐野産(もん)普及促進事業を行なっている。その一環が今回の松波キャベツプロジェクトである。泉佐野といえば、水茄子や泉州玉葱が有名。この二大ブランドに続けとばかりに、近年スポットを当てているのが松波キャベツである。松波キャベツとは12〜2月くらいまで採れる寒玉キャベツ。静岡の種苗会社が開発した品種だが、なぜか泉佐野でよく栽培されるようになった。泉佐野の気候や土壌とマッチしたために市内の農家が積極的に取り入れたものと思われる。一般のキャベツより糖度が高く、甘さを有すのが特徴である。ただ一般のキャベツと比べると、手間がかかるためか、価格も高く、いいキャベツとの印象が持たれている。市内で聞くと、泉州の家庭では、甘みが違うと、お好み焼きの具材として用いらケースも多々あるようだ。このキャベツを一つのブランドにしようと、同市農林水産課では考えており、そのブランドづくりに私も力を貸しているのだ。
私がそのプランとして提案したのは、大阪樟蔭女子大学学芸学部ライフプランニング学科の授業(フードメディア演習)で、女子大生達にその使用方法を模索させること。授業では、泉佐野の地域性や松波キャベツの特徴を教え、それが生きるような料理プランを考えさせた。「フードメディア演習」は、演習授業なので受講数は限られている。企画すること、考えることが主題になっているのだ。その受講生を四つのチームに分けて、各グループで延々、ブレインストーミングを行わせる。そこで出た結論から新たなキャベツ料理を見出すような仕組みにしている。ただ考えただけの机上の空論では面白くないので、泉佐野市にある「ホテル日航関西空港」に協力してもらい、その優秀作をホテル内のオールデイダイニング「ザ・ブラッスリー」にて2〜3月の間のブッフェメニューとして取り入れてもらう約束にした。大学生はブレストで出た料理を試作し、プレゼンテーションに臨む。審査するのは、泉佐野市農林水産課から二人、「ホテル日航関西空港」から二人といった面々である。そのうちの一人は、同ホテルの井口晃一総料理長で、いわばプロの目から彼女らの料理が商品として耐え得るか、どうかが判断されるわけである。
私の授業は、よく人参をぶら下げていると揶揄されるが、せっかく考えたものを世に出してやろうとこちらの親心もあってホテルでメニュー化としている。人参は、そればかりではなく、今回の取り組みをラジオ大阪に「特番にして扱って」と頼んでいるのだ。放送局側は、コロナ禍でリモート授業が増えて、対面式授業が減少し、発表の場が少なくなった学生に少しでも与えるいい機会になるだろうと考えており、そのために特別に番組を作ってくれた。つまり、授業でやる気を漲らせ、頑張ってその栄誉を勝ち獲ると、ホテルでのメニュー化ばかりか、ラジオにも出演できる。こんなチャンスは、めったに巡って来ない。だからではないだろうが、彼女らは一生懸命学びを行う。企画する勉強になる上に、成果まで得られるというわけだ。

バラエティに富んだ女子大生のアイデア

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さて、彼女らは、どんなものを提案して来たのか?このテーマでの授業は10月から行われた。ブレストに、ブレストを重ね、11月17日にそれを試作する。そしてその修正をかけ直して翌週(11月24日)のプレゼン大会へ臨んだ。これは、飲食店の新メニューづくりとは異なり、いかに松波キャベツを使って地野菜をPRするかが命題。プレゼンに際して彼女らが考案した料理を作るのは勿論のこと、プレゼンシートにテーマ、コンセプトや狙い、その料理の作り方まで記して発表しなければならない。プレゼン慣れした当方と違って彼女らには新鮮で「発表に際してもの凄く緊張した」と語っている。

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彼女達が提案して来たのは、Aチーム(谷裏祐佳、榛木さくら、寺西瑞希、ムティアラ・ファクリヤー)「タフ稲荷」、Bチーム(林真優、玉島里香、並川莉奈、辻真帆)「お好み風松波キャベツクレープ」、Cチーム(安冨真衣、深見歩梨、遠藤琴美)「まるで和菓子!?松波キャベツの塩昆布最中」、Dチーム(小西眞帆、中山桃寧、土谷優里子)「こけらずし〜泉佐野もう一つの玄関口〜」であった。
Aチームは、メンバーにインドネシアからの留学生がいるので、彼女の郷土料理「タフイシ」と、日本の稲荷寿司を融合させて創作している。「タフイシ」に見られる厚揚げの中身には、キャベツと人参、酢飯を入れており、それを揚げている。外はインドネシアで、内は日本というわけだ。一方、稲荷寿司風の薄揚げの中には、野菜(キャベツ)と味付けした春雨を入れ、こちらは外が日本、内がインドネシアとして、共に食文化を融合させたのだ。この料理に関しては、「異文化融合が面白い」との審査評であった。

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Bチームは、泉州で松波キャベツがお好み焼きに多用されることから発想。捨ててしまいがちなキャベツの芯をクレープ生地に練り込み、合い挽き肉も使うことでSDGsを実現。世間には小麦アレルギーがいることも考慮して米粉を使うことでグルテンフリーとした。そしてお好み焼きらしくとんかつソースで味付けしている。「クレープの生地が甘めで、芯まで使っている」と審査員は評していた。

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Cチームは、最中の皮を使い、あんを甘くせず塩昆布あんにすることで見立てを和菓子にして意外性を狙った。甘く味付けなかったのは、スイーツではなく、惣菜としたかったのと、一口大に切って挿入した松波キャベツで甘みを表現したかったから。女子大生らしく可愛らしい一品にすることで、ブッフェで取りやすいサイズにしている。これには審査員全員が「ユニークで、女子大生らしい作品」と話していたのだ。

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Dチームは、江戸時代に大坂で流行したこけら寿司にスポットを当てたいと考えていた。酢飯に松波キャベツで作ったザワークラフトで一層を作り、桜でんぶと泉佐野産春菊、椎茸でもう一層を形成し、押し寿司にしている。そして上には、彩りよく錦糸玉子と昆布締めした鮭を置いている。キャベツをドイツのザワークラフトにしたのは「ホテル日航関西空港」が関西への玄関口(関空)に位置していること。昆布締めの鮭を使ったのは、北海道の産物が大坂へ北前船で運ばれ、和食の基礎を成すきっかけを作ったことに因するもの。そして泉佐野産(もん)の春菊まで具材に加えた。これには市役所側から「北前船は泉佐野にも寄港しており、よく地域のことを調べた上でレシピ化している」と大絶賛。ホテル側も「味のバランスがよく、商品としてよく出来ている」と評していた。

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審査は、メニュー名・発想のユニークさ・松波キャベツの使い方・味・商品の実現性の5つの視点で行われ、話し合いの結果、Dチームの「こけらずし」が選ばれ、メニュー化とラジオ出演を勝ち獲った。この料理に関しては「泉佐野こけら寿司」の名前で、2〜3月の土日祝日のディナー・ランチ、平日のランチメニューとして「ザ・ブラッスリー」のブッフェ内で提供されることが決まった。本来ならこの一品だけのはずなのだが、学生作品が甲乙つけ難しの理由からAチームの「タフ稲荷」も提供メニューに加わることとなった。但し、これは薄揚げを使った料理だけの選出にとどまった。
さて、女子大生達の考案した料理は、シティホテルのブッフェをいかに彩るだろうか。そして泉佐野に松波キャベツありとのPRができるであろうか。産官学連携がもたらしたユニークな企画が、地の野菜訴求に少しでも役立つことを期待したい。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい