2023年03月
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 前回と同様、今回も酒粕プロジェクト絡みのネタを披露したい。「食の現場から」でも毎年報じているように冬場の酒粕プロジェクトに、大学生作品を出品している。この試みは6年前から。酒粕文化継承には若い人達の力が不可欠とばかりに、私の持つ授業(大阪樟蔭女子大学「フードメディア演習」)の中で、同プロジェクトへの参加を促し、彼女らに酒粕料理を考案してもらっている。大学生は、一般のグルメとは違い、外食経験も少なければ、一級料理との出合も少ない。そんな彼女らになじみの薄い酒粕を手渡し、新しいものを創作しろとは、酷な要求かもしれないが、結果的にはいつもいい作品が出来上がっている。ブレストを重ねながら、ゼロからモノを考えるのにはまり、いつしか商品化できそうなプランに仕立て上げるのだから、実に教育とは面白いものである。今回も私の授業を受講する面々に、酒粕の使用の妙を創作させて、12月のプレゼンに挑ませた。さて、フレッシュな発想の彼女らは、いかに酒粕料理を発表したのであろうか。とくとご覧あれ。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
考える授業からは、新たな発見が生まれる!酒粕料理創作に、女子大生が臨んだ。

企画することを学び、文化継承にも触れる

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今年の酒粕プロジェクトの反響は凄い。コロナ禍明けで色んな制限がなくなったからか、マスコミの陣の反応もよく、多くのメディアでその話題が流れている。これだけ報道してくれると、10年の節目となる来年に向けてこちらもやる気が漲ってくる。今年の酒粕プロジェクト報道に気をよくしているのは、企画者の私や旗振り役の神戸酒心館ばかりではあるまい。当プロジェクトに創作料理を出品した小西眞帆・中山桃寧・土谷優理子の三嬢も一喜しているのだ。
これまでにこのコーナーで何度も紹介しているように大阪樟蔭女子大学の学生達もこの企画に参加している。私が週に一度持つ授業「フードメディア演習」を通じて3年生らに酒粕文化への参加を促しているからだ。酒粕は、灘や伏見を中心に関西の酒処を背景にして独自の文化を成立させて来た。その文化が流通量の低下や食の多様化で薄れて来たのが約10年前。このままでは、酒粕文化が廃れてしまうとばかりに神戸酒心館の久保田博信副社長らと声を挙げ、酒粕プロジェクトを始めた。関西のシェフ達を巻き込んで毎年1月に記者発表会を催し、彼らの新作酒粕料理を披露するものだから、その報道効果もあって酒粕が食材・調味料としての道を再び歩み始めたのだ。

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文化継承にはプロだけでなく、若い素人も参加すべきだとの考えから、6年前より私の授業で酒粕文化について研究させている。新酒が出た後すぐの酒粕を教室で配り、チームごとに新たな使い方を模索させる。ブレストにブレストを重ね、メンバーごとに意見を集約させ、どこにもない酒粕料理創作に臨む。頭に思い描いた酒粕料理を試作させ、そこで修正を加えながらプレゼンに駒を進める。グループごとにネーミングとレシピを考え、そのコンセプトを企画書にまとめ上げて発表するのである。当然、その料理は神戸酒心館の代表者に試食してもらい、採点してもらうわけだ。このようにして彼女らは企画することを学んで行く。それが本授業の趣旨なのだが、創作することで彼女らも酒粕文化について触れるようになる。プレゼン大会で高得点を得たチームは、酒粕プロジェクトの記者発表会に同席でき、その上、「さかばやし」にて商品化権利を得る。つまり学びながら文化継承に役立つばかりか、その名も売れて行くという一挙両得の感がそこには隠れているのだ。

 

四つのチームが鎬(しのぎ)を削りながら酒粕料理を創作

「酒粕プロジェクト2023」へ向けて今年は四つのチームが創作料理を提案した。過去にこの授業から色んな作品が生まれ、「さかばやし」の2〜3月のメニューに採用されて来た。寿司飯に酒粕を加えて調味したのも実は学生が最初(?!)だろうし、蒸し寿司の復活を掲げて酒粕料理を考案したのもこの授業からである。昨年は江戸時代に流行した居酒屋料理「竹虎・雪虎」をこの酒粕プロジェクトから酒粕料理にして復元している。つまり二十歳(はたち)そこそこの柔らかい頭は、ユニークな視点から新たな酒粕文化を創造して来た。6年間一緒になってアイデアを絞り出して来た当方からすると、今年は同じような調理法ばかりで少々酒粕使用の妙としては物足りなく映ったのは事実だが、それでも学生達は一所懸命プランニングを行なっていい作品を生んでくれた。工夫云々や相違性は別にしてもフレッシュなアイデアに評価を与えるべきだ。

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さ

今回「フードメディア演習」の授業から生まれたのは、Aチーム(谷裏祐佳、ムティアラ・ファクリヤー、榛木さくら、寺西瑞希)の「バッカス巾着」と「粕汁御結び」、Bチーム(林真優、玉島里香、並川莉奈、辻真帆)の「神戸揚げの酒粕あんかけ」、Cチーム(深見歩奈、安冨真衣、遠藤琴美)の「免疫力アップ!酒粕餅of関西・関東」、Dチーム(小西眞帆、中山桃寧、土谷優理子)の「割烹明石焼き」である。Aチームの「バッカス巾着」は、バカス鍋(酒粕風おでん)をヒントに巾着で具材を包んで酒粕+白味噌で煮込んでいる。コンセプトは、日本の調味料【さしすせそ】に次ぐ新たな調味料(酒粕)発見とし、さ(薩摩芋の甘味)、し(塩)、す(酢ではなく、スパイス【獅子唐】)、せ(醤油)、そ(味噌)を表現し、だしに酒粕を加えている。Bチームは、第一次ひょうごお魚内閣総選挙に端を発し、神戸周辺の魚介類をいかに酒粕料理に合わせるかをテーマとした。この料理では、お魚内閣から総理大臣(タコ)、外務大臣・総務大臣(真鯛)、法務大臣(鱧)をまとめて練り物にし、文科大臣(海苔)と外務・総務大臣(真鯛)を添えている。それらに酒粕のあんかけをかけて椀で提供するとのアイデアだった。秀逸なのは、生の真鯛を添えている点。そこに温かい酒粕あんがかかり、仏料理でいうミヒュイのようになって行くのが評価すべき点で、神戸酒心館側も「温かい料理に生の鯛を載せる点が実にユニークでいい」と面白がってくれた。

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せ
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Cチームは、寒さから身体を守る料理として、酒粕の免疫力に着目したようだ。免疫力のあるキノコと合わせている点もコンセプトと合致している。このチームは、一見和菓子に見えるが、実はおかず(惣菜)であるというユニークなアイデアを用いている。他チームが酒粕だしに浸ける、掛けるという似通った使い方をしているのに対し、独特の表現方法でプレゼンに臨んでいた。関西VS関東の桜餅の違いを作り方で表現。前者では道明寺粉を、後者では長明寺(小麦粉)を用いて作っている。道明寺粉にはご飯に合うようにキノコ、葱も加えて鴨つくねを、長明寺にはソテーしたキノコを、それぞれの中に入れているのだ。本来なら道明寺は、千葉のイワシを入れたかったそうだが、臭みを考慮して鶏つくねに替えたと話していた。そして酒粕と六甲味噌製造所の「酒粕みそ」を使って側の生地を作ったそう。審査でもその意外性が評価された作品であった。Dチームは、コンセプトをSDGsと、既存文化の発展・融合として創作を始めている。神戸産の里芋とホウレン草、明石のタコ、淡路島の玉葱、徳島の蓮根というローカルフードに着目し、地産地消を謳っている点が評価対象になっている。明石焼きをモデルに、それらの食材を使って里芋饅頭風にして揚げた。それをだしと酒粕を合わせた地に浸して完成させている。「明石焼きというなじみのある食文化と融合させることで、新しい創作にも親近感を持たせた」と説明していた。それを里芋饅頭とせずに「割烹明石焼き」と表現した所にユニークさが垣間見られる。饅頭を油で揚げたのもよく、「さかばやし」の大谷直也料理長は「酒粕は油っこいものと合う。その点でも理に適っていた」と評していたそうだ。

4チームとも甲乙つけ難しの内容だったが、商品としての実現性と可能性が高いとの評価からDチームが選ばれた。さらにローカルフードに着目した点も良かったのだろう。かくして「割烹明石焼き」は、「さかばやし」で2〜3月の一品料理になった。今回は、NHKのニュースが何度も酒粕プロジェクト絡みで報道してくれ、その度に小西・中山・土谷の三嬢が出演し、「割烹明石焼き」について熱く語っていた。その効果もあってか、早速「さかばやし」では、注文が通ったそう。訪れた客の一人は、「学生作品が実にユニーク。味もいいし、すばらしいアイデアです」と言い、その評価を三人の学生に伝えて欲しいとの伝言を残して帰ったようである。それを店側から彼女らに伝えると、「本当ですか!?私達に届くよう伝えてと申し出があったなんて。食べて美味しいと感じていただいたのがわかっただけでも嬉しいのに、伝言まで言付けてくれるなんて・・・」と喜びを露わにしていた。学生が知識ゼロから課題に取り組み、考えに考えた結果がカタチとして残る。それを味わった人(全く見知らぬ人)から評価を伝え聞くなんて実にすばらしいことだと思う。学生の一人は、「大学らしい授業で、楽しかった」と言っていたが、私はそれをお世辞ではなく、本音として受け取りたい。

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