2020年04月
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 いろんな地方自治体が特産地をPRしようと躍起になっている。野菜もあれば、肉も魚もあり、調味料や酒、お菓子なんていうのもある。近年地元ブランドづくりが盛んな今にあって三田ポークなる素材をやたらと耳にするようになった。兵庫県といえば、但馬牛で知られるように牛肉生産王国で、そのうち神戸牛は世界に名を轟かせるくらいだ。三田にも三田牛があって、この中から神戸ビーフが出ているのだ。そんな牛肉王国・兵庫県内で、新しいブランドとして打って出た三田ポークとは、いかなるものだろう。昨年11月にJR新三田駅近くの国道176号線沿いにお目見得した三田ポーク専門のとんかつ屋「旨い豚 かつ福」を取材することで、その魅力について探ってみた。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
脂の透明度が高く、しつこさがない!
兵庫・三田市の新名物
三田ポークのとんかつとは…

牛肉王国・兵庫県でブランド豚が注目される理由

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神戸牛・近江牛・松阪牛_、これは日本の三代和牛と呼ばれ、古くからブランド品としてグルメ達の舌を堪能させて来た。牛肉は食材の中でも高級なものとしていた時代に、それが手に入らない人は、豚肉・鶏肉・鯨肉で肉の味を代用して来たのだ。かつてのような捕鯨ができなくなってからは安い肉の代名詞だった鯨も高級品に回り、庶民は豚肉や鶏肉を楽しむに至った(そのうち牛肉の値が下がり、冒頭のようなブランド牛でない限り安価で手に入るようになったが…)。そんな構図を打ち破ったのがBSE騒動である。狂牛病という言葉が出回ってからは、一時牛肉を敬遠する動きもあって豚肉や鶏肉を主に売り出す飲食店が増えて来た。この頃からやたらブランド豚(銘柄豚)とか、地鶏・銘柄鶏が持て囃されるようになったのである。

殊豚肉に至っては、今や牛肉を凌ぐ値段のものがいっぱいある。沖縄のアグー豚や鹿児島の黒豚、東京のTOKYOXなんていうのはその代表的存在だ。一時期、三元豚という名がグルメ界で踊ったが、その名をありがたがる必要なない。三元豚とは三品種の豚を掛け合わせた一代雑種のこと。ランドレース種、バークシャー種という食用に品種改良された豚はよく耳にするだろうが、現在では純粋種が単独で食用に利用されることは少なく、ほとんどが三種以上を掛け合わせたもの。つまり日本の豚は、ほぼ三元豚ということになる。ちなみに四種掛け合わせは、四元豚といい、欧米ではこちらが多くなっている。

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全国の銘柄豚産地図を見渡すと、九州・東北・関東にブランド豚が多いのに対し、関西にその名がほとんどないことがわかる。これは、昔から関西が牛肉消費圏で、豚肉よりむしろ牛肉を多用して来たから。これに対し、関東はいい牛肉が入って来なかった歴史があることから豚肉消費王国となっている。神戸牛に三田牛、淡路牛、そして但馬牛といい牛肉が揃う兵庫県も同じで、豚肉より牛肉を親しむ地が既にできている。ただ、これらのブランド牛はあまりに高値なので庶民感覚とは乖離し、兵庫県内に住む大衆が、豚肉に手を伸ばすのは当然の事象。この頃では豚肉を認める文化も生じて来たのは否めない。そうなって来ると、人はない所にもブランドを求めたがる。その中で生まれて来たのが三田ポークであり、神戸ポーク、ひょうご雪姫ポークなのだ。ひょうご雪姫ポークは、品質に何ら問題はないのだが、販売する例が偽装したとか色んなニュースが報じられたために最近は勢力が弱まっているようだ。牛肉生産王国・兵庫県の中でむしろ元気なのは三田ポークかもしれない。
三田という地は、三田牛で知られるように昔から牛の畜産に力を入れて来た。高級品として三田牛があり、その中でも「廻」というブランドをつけたものは、今や神戸ビーフより上ではないかと評価を受けているらしい。ただ、神戸に住む人が常に神戸ビーフを食せないように、三田牛も高値なのでいくら三田市在住でも高嶺の花に映ってしまう。

三田ポーク専門店が市内でお目見得

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近年、三田特産品として注目を集めている三田ポークだが、その出荷数が少なく希少価値があるためになかなか三田市内でそれを食せる所が少なかった。むしろ専門店は皆無だったといえる。市内の人にもその味の良さを知ってもらいたいとオープンしたのがJR新三田駅近くにできた「旨い豚 かつ福」なのだ。同店がオープンしたのは昨年の11月、国道176号線沿いのロードサイド店と、利用しやすい環境にあるためか、常に盛況状態を示している。「かつ福」では、三田ポーク専門と謳っているように三田ポークを用いたとんかつ屋として名が轟きつつあるようだ。

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同店を営むのは、福西文彦さん。三田市内で数多くの店を持つ福助グループのオーナーだ。福西さんは、三田生まれの三田育ちなので地元愛が強く、地元の名素材をより広く知ってもらいたいと「かつ福」を企画した。数店ある福助グループで三田ポークを半頭買いして仕入れているので高値をつけるブランド豚でもリーズナブルに出している。同店のイチ押しは、「ロースとんかつ定食」。これには厚切り(1400円)とミニ(1000円)の二種があり、スタンダードは150gある前者の方。福西さん曰く「とんかつは厚切りでないと美味しくない」とばかりに惜し気もなく、ボリュームのあるとんかつを出している。「うちはグループで半頭買いしているから150gサイズでも1400円で出せるんです。他ならこのサイズは2000円は下らないでしょうね」と話す。「かつ福」では繁忙期といえど作り置きせず、注文を聞いてからパン粉をつけて揚げる。よくあるとんかつ店のようにチルド品や冷凍品ではなく、生から揚げているから豚肉の味がしっかり楽しめるという。「三田ポークは、脂の透明度が高く、揚げても白くなりません。脂はしつこくなく、胸焼けしない特性を持っています」と話していた。流石に女性には150gは多いかもと、ミニサイズを設けたが、それでも100gはあるというからここのとんかつはボリューミーだ。

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店で聞くと、あまりに厚切りとんかつ押しが強すぎてロースばかりが出たそう。そこで他の部位も食べて欲しいと「三田ポーク食べ比べ定食」(1300円)を作った。これはロース、カルビ、赤身の三種のとんかつが皿に載って出て来る。部位によって多少の味わいが異なるため、それも面白いと、こちらは食通に人気が出ている。こだわりのあるのは、「かつ丼」(ロース980円、ロースと赤身980円の二種がある)も同じ。普通かつ丼のかつは、だしの中に入れて煮て作る。ところがそれでは、肝心のパリッとしたかつ感がなくなってしまう。「かつ福」では、揚げたてをご飯の上に載せて玉子とだしをかけるシステムを用いている。「一般の店は揚げ置きしているので一緒に煮てしまうんですが、うちは注文を聞いてからパン粉をつけて揚げるのでそんなやり方をせずともかつのパリッとした食感をいかそうと思い、独自の作り方にしています。言い換えれば、煮ないかつ丼_、つまりかつとじ丼と同じような世界ですね」。

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定食には、ご飯と味噌汁が付くのだが、このご飯もとんかつに合わせている。肉に合うご飯をテーマに試行錯誤しながら独自のブレンドに辿り着いた。地元三田米を使い、おくどさんのような釜で炊いている。その味は明らかにガス窯の飯と違い、米が立ってご飯に艶がある。ヤマフクモチをブレンドさせているそうで、餅米の香りがほのかに伝わるのもいい。「食感といい、香りといい、ご飯の甘みといい、とんかつに合うように設計しています」と言うのが食べると実感できた。福西文彦さんは、「かつ福」のみならず、JR三田駅前にある「味蔵」などでも蒸シューマイやセイロ蒸し料理に三田ポークを使うなどしてその良さを伝えて行きたいそうだ。これも全て地元愛があるからこその食材導入であり、メニュー作りだろう。全国に打って出るのもいいが、まずは地元できちんとブレンドを認知してもらい、その評判を聞きつけて行く_、本来、ブランドづくりとは、そんなやり方がいいだろうし、むしろそうしなければ長く根づくことはない。最近、めきめきと評価を高めて来た三田ポークを現地で取材して、ブランドづくりのあり方を再確認した次第である。

●三田ポーク専門店 旨い豚 かつ福
住所/兵庫県三田市福島412
TEL/079-567-0203
営業時間/平日11:00~15:00、17:00~21:00
(土日祝は11:00~21:00(土日祝は11:00~21:00)
休み/なし

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