2026年05月
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しらすが不漁とのニュースが聞こえて来る。2024~2025年は静岡・神奈川・和歌山で記録的不漁が報告。主な原因は黒潮の大蛇行による海流変化で、その上地球温暖化による水温上昇で、片口鰯などの親魚が減少しているからのようだ。そういえば、神戸の春の風物詩だったイカナゴの釘煮も近年とんとお目にかからなくなった。今年の播磨灘でのイカナゴ漁もたった二日行っただけで終漁になったという。海の変化が叫ばれ出して久しい。漁場では漁師達が「魚が少なくなって獲れない」と嘆いている。それに呼応するかのように養殖に乗り出す業者もいて、独自のブランドを設けて成功しているケースもあるようだ。今回はそんな漁業状況に言及したい。天然魚と養殖魚_、料理や飲食店でのそんな棲み分け云々を論じている時代ではないように思うのだが…。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
魚といえば、養殖魚_、既にそんな時代に突入しているのかも?!

魚が減ったと嘆く漁師達の課題解決策は・・・?

仕事柄取材と称して各地の漁協を覗く事が多々ある。漁場によっては活気がある所と、ない所に分かれているのではなかろうか。活気のある漁港の好例は、やはり明石浦漁協だろう。明石鯛や明石ダコに代表される、いわゆる“明石の魚”の水揚げ地で、ここでは大半を活けで競り、流通させる事を心掛けている。他の港と違って漁協の一階部分には膝くらいまで浸かるテニスコート二面分くらいの大きなプールを設けていて、漁師は釣った魚を一旦そこに入れて活け越す。そこでは漁師の奥さん達が甲斐甲斐しく働いており、旦那や息子が獲った魚をセリ場に流すべく選別作業を行っているのだ。明石浦漁協の話では「全国の漁港の中でも女性の活躍が最も目立つ職場」らしい。明石浦漁協は「多くの水揚げ量を誇るのではなく、いかに活けの魚を出荷して質の良さで勝負するかがテーマ」と話している。活けの魚は高値で取引されるのは知っているが、ここまでそれにこだわる所は珍しい。釣った魚を一旦漁協のプールへ放流する事で、釣られた事による魚のストレスを緩和させる。それと共に泥吐きを行い、胃の中のものをできるだけ空(から)にする。多くの漁協は魚が細り、目方が減ってセリで不利になると嫌うが、実はこの方が旨い魚として出荷できるために自ずと取引価格が上がるのだ。「量より質を」と経営努力を行っているからこそ、明石の魚はブランドになっているのだろう。

そんな明石の漁師さえ、「最近は漁が減った」と嘆く。日本の漁獲量は1984年を境に年々減少している。ピーク時は1282万tあったものが2022年には392万tに。1/3まで減った計算でまだまだ下降線を歩むだろうといわれているのだ。「魚がいなくなった」とよく漁師は口にするが、確かに地球温暖化による海水温上昇は魚の生息域に変化をもたらしている。今までは獲れなかった魚が揚がったりする事もあるが、いなくなった事例の方が深刻だろう。フグとて昔は玄界灘が一番の産地といわれていたのだが、今や北海道が一番獲れると囁かれる。フグは基本的に西日本の魚で、消費量も断トツに関西が多い(特に大阪府下で目立って消費されている)。近年、気仙沼や北海道の港で多く水揚げされたとのニュースが報じられているが、東北や北海道ではフグ調理の免許を持った料理人が少なく、その処理に困っている。沢山獲れたとて、周囲にそれを食べる文化が薄ければ、宝の持ち腐れとなってしまうのだ。
明石浦漁協では、漁業にダメージを与えている不漁は海中の栄養塩不足にもあると考え、海底耕耘(こううん)を行うようになった。海底耕耘とは海に投入した耕耘桁をロープに結んで船で曳き、海底を耕す作業をいう。鉄製器具(耕耘桁)で貝などの堆積物をかき混ぜて硬くなった土や泥、砂を掘り起こすのだ。こうする事で中にたまっていた窒素やリンなどの栄養塩を海中に放出する。このようにして海の生物が生息しやすい環境に戻す取り組みを行っている。漁業は単に魚を獲るだけではなく、農業のように耕す事もしながら底質環境を改善しようと取り組んでいるのである。イカナゴのシンコ漁が深刻といわれ、海苔の色落ち問題も生じている。その原因を取り除くのが海の栄養不足改善。豊かな海を取り戻そうと、明石浦漁協では全国トップの延べ約2300隻がその作業に当たっている。
水産庁でも不漁による対策として実効のある資源管理や資源の持続的確保、種苗放流などによる資源増加を進めている。平目や鯛、ウニ、鮑など約70種を対象に種苗放流を行っているのはその一例。鯖や鯵などが生息する沖合域では種苗放流が難しいために生息環境の改善を。養殖場の整備についても国を挙げて取り組むことで水産資源保護に躍起になっているようだ。

養殖魚のブランド化を図る漁師達

今や「魚が獲れない」は、消費者も耳にするフレーズで、単に環境問題のみならず、後継者不足も一つの因となっている。「漁師を続けても稼げない」はよく聞かれる言葉で、息子達にまで継がせる仕事ではないと多くの漁師が考えているようだ。ところで先日取材に行った坊勢島(ぼうぜしま)では漁業が盛んで、案内してくれた坊勢島漁協の人によると「漁協組合員の平均年齢も若い」と最近では珍しい話が聞かれた。過疎に悩む島の漁業とは違うようだ。坊勢島は、姫路市の家島諸島に属す1.29平方kmの小さな島である。面積は小さいが、人口は1850人ぐらいと家島諸島では家島に次ぐ多さ。島民のうち7割もが何らかの形で漁業に関係した仕事に従事しており、漁業の島として成り立っている。その証拠に島を一周すると、色んな所に漁船が見られる。普通港に一ヵ所に集中しているのだが、坊勢島では至る所に漁船が停泊している。その総数はなんと830隻。漁協によると「漁船の保有数は日本一で、2位の厚岸(北海道)を200隻以上も引き離している」そう。「底曳き1隻、船曳き2隻とか、一人で何隻も持っている人や、仲間で5隻を所有している漁師がいるのでこのような停泊光景になるんですよ」と話していた。私が訪れた時間にすべての船は停泊しておらず、出航している船も合わせると、まさに不漁の噂はどこ吹く風とばかりに…。坊勢島の漁業は元気なのだ。
坊勢島では、鯛・海老・鰈などを獲る底曳き漁、鰆のはなつぎ漁、鯵やハマチなど回遊魚を獲る定置網漁、海苔養殖、牡蠣養殖、イカナゴ漁などが行われている。そのうち「ぼうぜ鯖」「坊勢蟹」「華姫サワラ」「白鷺ハモ」はブランド化して商標登録を行っているらしい。中でも有名なのは「ぼうぜ鯖」だろう。

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坊勢島で鯖が養殖されるようになったのは2001年から。きっかけは、鯵の畜養に鯖が紛れ込んでいた事。当時は鯵が主体で漁師は、5~8月に丸鰺を出荷していたらしい。最後まで残っていた紛れ込んだ鯖を漁師が家のおかずに食したところ、これが大層旨くて「ならば鯖を養殖してみるか!」となって島を挙げての鯖養殖がスタートした。「ぼうぜ鯖」の餌は片口鰯。獲って冷凍処理し、餌として与えていく。「生の鯖はアニサキスが怖いなんて思いがちですが、元来アニサキスは餌の中にいるものでそれを鯖が食べるから出る恐れがあるんです。予め冷凍した餌なので寄生虫のリスクが激減。これまで『ぼうぜ鯖』でアニサキスが出た例はありません」と説明していた。播磨灘で獲った鯖の稚魚を海上の生簀に移し、そこで天然と同じような餌を食べて大きくなる。片口鰯で育った鯖は、かなりの脂乗りで、食べればその違いが実感できるくらい。赤身の鮪とトロが味に違いがあるような感じで、旨みと脂乗りがわかるのだ。
坊勢島漁協は、姫路側(妻鹿)に「姫路まえどれ市場」という直売所を設けて一般消費者や飲食店向けに「ぼうぜ鯖」を始めとする坊勢島の魚介類を販売している。同所では、「ぼうぜ鯖」を専用の生簀で泳がせ、活け締めで販売している。「人の手でさわると傷むから」といって生簀から出した鯖はすぐに締めるという徹底ぶり。そうまでしないと品質を保てなくなるからだろう。ここで買った「ぼうぜ鯖」は併設の食堂で刺身・煮付け・焼物にしてくれる。加熱処理は鯖の価格にプラス220円払えばいい。「姫路まえどれ市場」の食事コーナーでは、海鮮丼や定食などが味わえる。「ぼうぜ鯖」を使ったものでは「ぼうぜ鯖定食」(2500円)や「ぼうぜ鯖御前」(3000円)が食せた。食堂では、土産用に予め料理をしたもの(この日はエビの天ぷら、イカの天ぷら、サーモンのあら塩焼き等があった)を売っていた。「姫路まえどれ市場」では、鯛に平目、シャコ、穴子、タコ、赤舌、鱸(スズキ)、鮴(メバル)、ガシラ、カワハギなどが直売コーナーで売られている(魚種は季節によって異なる)。これらを多くの消費者が求める光景を見ても坊勢島の漁業の元気な姿が伝わって来るようだ。

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ところで先日「さかばやし」で「神戸元気サーモンと吟醸酒を楽しむ会」が開かれた。これは、神戸元気サーモンを養殖する「東須磨サーモン部会」の漁師達が餌に「福寿」の酒粕を用いるようになった事を機に始まったもので、今年で三回目となる。東須磨の底曳網の漁師達が鱒の海上生簀での養殖を始めるにあたって何か神戸らしいものを餌にして郷土の雰囲気を醸したいと始めたのがきっかけ。当初は神戸らしくパン屋から出るパン屑をと考えたようだが、それでは鱒の肝臓を悪化させる恐れが生じそうと指摘を受け、ならば灘の酒蔵から出る酒粕を与えてみようと、以前より知己のあった神戸酒心館に相談し、「福寿」の酒粕を分けてもらうようになった。奥谷知生さんら東須磨サーモン部会の面々は、ミキシングした酒粕をペレットに混ぜて一日に一回の割合で与えてみると、なんと身が鮮やかなオレンジ色になり、脂濃さもなくなり、鱒特有の臭さも取れてしまった。神戸市内の料理人が「ストーリー性が合致して神戸らしい。何より旨いから使いたくなる」と絶賛しているそうで、それがこの所の評判に直結している。「神戸元気サーモン」を養殖する東須磨サーモン部会も「一般的な餌は自動餌やり機で与え、酒粕は漁師自らが船に乗って与えに行っています。酒粕を与えると、鱒が飛び跳ねて餌を取り合う様が見られます。今年からはいつもより早く二月から出荷までずっと酒粕を与えるようにしましたが、すると魚体が大きく、身も昨年以上に美味しくなったように思えます。酒粕効果も年々結果が出て段々と餌のやり方がわかって来ました」と話していた。ちなみに現在の問題点は流通だとか。出荷量とコストの問題で他のサーモンより高くなってしまうので、価格面で比較されるとスーパーなどの流通には不利なようだ。片や飲食店では、料理を工夫すれば単価も取れるので導入する店が増えて来た。何よりシェフの素材へのこだわりは導入のきっかけになるらしく、地元の漁業を応援しようとの声が聞こえて来る。「灘の酒粕で育ったサーモンというストーリー性が面白い」と後押しする料理人や飲食店経営者も少なくはない。
環境の変化から海に魚がいなくなったといわれる昨今、そのうち魚といえば養殖という時代が来るのかもしれない(現在、漁業総生産量のうち一般的な漁業が76.7%、海での養殖が22%)。関西に暮らしていると、瀬戸内や若狭、但馬の海の幸が身近に入るためにそんな風に思いにくいかもしれないが、愛媛や九州は既にその域に突入している。その辺りでは、「トレトレ、ピチピチ」というと養殖魚が出て来る飲食店が多いように思う。そろそろ天然魚より養殖魚が幅を利かす時代に入って来ているのだろう。

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