2019年12月
81

神戸では2月になると冬の風物詩が如く、酒粕プロジェクトが行われる。この試みからは色んな使い方が発表され、メニューとして各店舗で実際に販売されることで、消費者の舌でも確認できるようになっている。当初は「さかばやし」と有馬の「御所坊」で細々と始めた企画も年々拡大化し、参加を申し出てくれる店が沢山あるほどに。今までは、東灘区や中央区と面で展開していたところを、今年は"味の匠"と呼ばれる人達に参加を促し、点で展開することになった。なので初めて参加店が神戸市外に出るケースも。この原稿を書いている時点では、ニュースリリースを発送し、1月21日のマスコミ発表会に備えている状況なのだが、わかっていることを記すことにしたい。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
2020年の酒粕プロジェクトは"匠の技"がテーマ。ジャンルの異なる名人達がその技を競う。

中華料理に酒粕はもしや日本初?!

酒心館-021

毎年冬になると酒粕を思い浮かべる_、これが私の目指すところだ。大手酒造メーカーが技術革新により高熱液化仕込みを用いたこともあって巷に酒粕が出回らなくなり、そこに酒粕を食べるという文化が薄れ、いつしか酒粕料理や粕汁が忘れ去られようとした。それが6~7年前のことである。「このままでは酒粕文化がなくなってしまう」と危機感をつのり、6年前に企画したのが酒粕プロジェクトだった。当初はその活用を促し、あわよくば兵庫県や神戸市の郷土料理化を目論んだのだ。それが近年この時季に記者発表を行い、各マスコミが取り挙げてくれたおかげでブームにまで発展している。「今、酒粕が流行っている」とか「酒粕は酒汁だけじゃなく、洋風料理やスイーツにまで活用できるのを知っている?」などの言葉が料理人や一般大衆から聞かれるようになったのは、偏(ひとえ)にこのプロジェクトを続けて来たからだと思っている。
現在、神戸市では2月になると、色んな店が酒粕メニューを売り出すようになった。そして我々は、「その年の酒粕プロジェクトはこんなテーマだ」とばかりに1月下旬二マスコミに向けて発表会を開くのだ。
「酒粕プロジェクト2020」と銘打った今年の企画は"匠による使い方"がテーマ。各々のジャンルの優れた技を持つ人に「福寿」の酒粕を渡し、使い方の妙を探ってもらった。今回、このプログラムに参加してくれたのは以下の8ジャンル。①酒蔵②チーズ③味噌④バー⑤中華料理⑥フランス料理⑦日本料理⑧ラーメンがそれで、このうち酒蔵とは、酒粕プロジェクトの旗振り役をお願いしている清酒「福寿」の神戸酒心館を指す。同蔵では、各店々に試作用として酒粕を配ってもらうだけではなく、本番(2月中)も素材としての供給を行ってもらっている。加えて蔵内にある蔵の料亭「さかばやし」でも新たなメニュー提供を行っているのだ。当然、「さかばやし」や「日本料理かわもと」のような和食店では、酒粕が使い慣れた食材だが、彼らにはありきたりなものではなく、参考になるよう、メニュー構成にできるようなものを頼んであるのだ。フレンチや中華、バー、ラーメン店では普段酒粕はまず用いない。そんな所が本プロジェクトで新たな使用法を発表し、2月中のメニューとして販売してくれることも今回のテーマの楽しさになっている。

161107_紅宝石067DSCF4267

ちなみに各ジャンルは、こんな店や会社がエントリーしている。中華は元町・トアウエストにある「紅宝石」。この店は「名料理かく語りき」で取材しているので店舗特性はそちらで読んでほしい。和食以外でも近年は洋風料理・スイーツ・ラーメンなどでは酒粕を使った例もあるが、中華でという話は聞いたことがない。「紅宝石」の李順華さんは、「中華独得の香辛料を用いてしまうと、酒粕の香が消えてしまう。かといって淡い味に終始すると和食に近くなってしまうから難しい」と話していたが、果敢にも日本初(?)の取り組みに挑戦してくれている。

IMG_3077 マツシマ

ちなみに各ジャンルは、こんな店や会社がエントリーしている。中華は元町・トアウエストにある「紅宝石」。この店は「名料理かく語りき」で取材しているので店舗特性はそちらで読んでほしい。和食以外でも近年は洋風料理・スイーツ・ラーメンなどでは酒粕を使った例もあるが、中華でという話は聞いたことがない。「紅宝石」の李順華さんは、「中華独得の香辛フレンチは、北野町の超人気店「キュイジーヌ・フランコ・ジャポネーズ・マツシマ」。松島シェフは、フランスで修業した際に土地と文化の体現をフランス料理に発想。帰国してから和と仏がうまく融合するフレンチスタイルを創出した。そんなシェフだから本プロジェクトへの理解度は高かったように思う。

チーズ変態と呼ばれる職人や世界一のバーテンダーも参加

DSC09409酒粕らーめん

ラーメンは、鯛だしで有名な大阪の「うまい麺には福来たる」の中村英司店長が_。同店を運営するエクセル・サポート・サービスは別部署で会席料理や仕出しに鯛を多く使用するため、鯛のアラが沢山出る。それをエコ的に活用をと考えたのがこのラーメンのスープである。「酒粕も日本酒づくりで出る副産物、同じエコ的観点から酒粕ラーメンを作ってみたい」と申し出ての参戦だ。

DSCF2940-e1571290669452チーズ5種

チーズも県外からの参加店になった。紀の川(和歌山県)にある「コパン・ドゥ・フロマージュ」の宮本喜臣さんは、"チーズ変態"の異名を持つ人物。こちらも詳細は「名料理かく語りき」でどうぞ。彼は参加を決めてすぐ、神戸酒心館を見学し、「福寿」の杉樽を和歌山に持ち帰った。聞けば、この樽の中で熟成させて酒粕チーズを作るとの話だった。一風変わった作り方をする職人だけに出来上がり楽しみだ。

morisaki-009DSCF4058

花隈のバー「サヴォイオマージュ」も「名料理かく語りき」に出て来た店。ここのオーナーバーテンダー・森崎和哉さんは、今や日本のバーテンダーから注目を集める。常連のように全国大会に出て好成績をおさめており、昨年は創作カクテル部門で1位に。2017年には上海で行われた世界大会・オールワールドオープンカップで見事世界一に輝いている。酒粕プロジェクトについては二回目の参加で「前回はあの固形物がいかにしたら液体化できるかに悩んだ。今回はそんなハンデもなくなり、のびのび作ることができる」と言っていることからもユニークな酒粕カクテルが誕生すると期待できる。

shef025160926_酒心館028

東灘区の隣り町・芦屋からは、六甲味噌製造所がエントリーしている。阪神間の嗜好に合った味噌をと、長谷川憲司社長は地元色を打ち出した商品づくりを行っており、灘の酒粕を用いて造る酒粕みそも地元素材を活用した、この地ならではの商品になるのではなかろうか。「さかばやし」加賀爪料理長と長谷川社長が意見交換しながら完成させたというから、和食にはぴったりなものが出来上がるはずだ。

SK_10105 takizusi DSCF4140[1] DSCF4159[1]

酒粕を使い慣れた日本料理では、JR摂津本山駅前の「日本料理かわもと」と神戸酒心館蔵内の「さかばやし」がその使用例を披露する。前者は、元あべの辻調理師学校で教えていた川本徹也さんが営んでいる。川本さんは、会席料理の中に驚きのある品を入れることでも定評があるのだが、今回は2月の献立内に酒粕を用いた一皿と、純酒粕酢「三ッ伴山吹」で作る炊き寿司を出すと話しており、全容はまだわからないが、メジャーな料理人なので期待は大だ。後者は「さかばやし」の料理長・加賀爪正也さんが担当。流石に「福寿酒粕」を産する蔵だけに蔵信をかけて作らねばなるまい。神戸酒心館では、昨年エコ的な取り組みが評価されて第2回エコプロアワード財務大臣賞を受賞した。そのことを受けて今回は「エコ粕汁」をメニュー化するという。他料理で出た余分な食材部分を入れて煮る粕汁は栄養価たっぷりだ。「日本人のもったいない精神をうまく具現化したい」と語っており、こちらも出来上がりが楽しみ。尚、「さかばやし」では、毎月20日を"粕汁の日"と定め、一年中その日にユニークな粕汁を発表するとしている。ちなみに1月20日は、二十日正月といい、別名・骨正月と呼ばれた。正月の祝いに用意した塩ブリの骨や頭を大根などと一緒に煮て酒汁にしたことに起因している。そんなことから"粕汁の日"を定着させたいと思っているようだ。
この8人の味の匠に、若い力として大阪樟蔭女子大の三回生が加わる。私の授業「フードメディア研究」で酒粕のことを勉強し、ユニークプランを打ち出した21歳の女子達。その中から選ばれたのが、竹中優佳・樽谷優花・中尾星・中嶋咲七・松本佳子の五嬢が考案した「酔いどれ蒸し寿司」である。この料理も「さかばやし」の2月メニュー(平日限定)として出す予定になっている。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい