2026年02月
148

 寒の時季になると、酒粕プロジェクトの話で盛り上がる。今年も2~3月の二ヵ月間、同プロジェクトの参加飲食店で酒粕料理メニューが提供され、関西の酒粕文化復権に一役買いそうだ。酒粕は清酒づくりの過程で余った副産物。所によってはその処分に困り、産業廃棄物扱いにする事もある。ところが関西は、勿体ない精神よろしく、古くから酒粕を食材や調味料として扱って来た。だから神戸・阪神間では、新酒が出るのを待ってその副産物である酒粕を買い込んでは家庭で粕汁や酒粕鍋を作って食べるのだ。けれどいつの間にかその伝統を忘れ、粕汁さえ作らない家庭が続出。それではせっかくの酒粕文化も廃れてしまうと、12~13年前から復権を願って酒粕プロジェクトを続けている。12年目を迎える酒粕プロジェクトの発表会について今回はレポートする。プロの料理人に交じって女子大生たちも奮起。その発表ぶりも堂々たるものである。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
今年の女子大生作品は「廃さず、活かす。素材がめぐる」がコンセプト

酒粕は決して古くさい素材ではない!

H

毎年2~3月は、神戸を中心に関西圏で催される酒粕プロジェクトで盛り上がる。「福寿」の酒粕を用いて参加の飲食店が自店オリジナルの酒粕メニューで競うわけだが、その前夜祭的な趣の酒粕プロジェクト2026発表会が1月27日に酒心館ホールにて行われた。今年も多くのマスコミ陣や食関係者が会場に集い、盛況のうちに発表会を終えた。その熱気ぶりは2~3月にかけて新聞やラジオ・TVなどを通じて報道されるに違いない。
酒粕プロジェクトがスタートしたのは今からは12~13年前。大手酒造メーカーが高熱液化仕込みを採用し、その影響から市場に酒粕の出回る量が減ったのと、食文化の多様化で関西で古くから食材・調味料として使われて来た酒粕にスポットが当たらなくなったのが原因で、粕汁さえ家庭で作らなくなってしまった。このままでは、酒粕文化の危機とばかりに私が企画し、旗振り役を神戸酒心館に担ってもらったのがきっかけだ。「今さらこんな古くさい素材を持ち出されても…」と敬遠していた和食の料理人も、フレンチやイタリアン・中華のシェフ、パティシエ・バーデンダーまでも参戦するようになると目の色が変わって新作酒粕料理を毎年打ち出すようになった。それまでは粕汁や酒粕のザラメ焼きに留まっていた事例が一挙に増えて酒粕文化が再び花開いたのである。多くの料理人が酒粕の良さを再発見したのと、和洋中・スイーツ・パン・カクテルと多岐に亘って使われるようになったのは、酒粕プロジェクトの功績だと自負している。今年の発表会でもホテル日航関西空港の「オールデイダイニング ザ・ブラッスリー」が「水茄子とリンゴのビシソワーズ ロースト柚子と酒粕のピュレ」を、中華の「紅宝石」が「酒粕五目ちまき」、和歌山の個室イタリアン「イルテアトロ」が「春の芽生え」(ティラミス)、「レオニダス&ガトーエモア神戸岡本店」が「酒粕マカロン」、「パティスリー・カッサレード」が「酒粕ダブルレアチーズケーキ」を新作オリジナルとして発表した。また神戸酒心館敷地内にある蔵の料亭「さかばやし」は大阪樟蔭女子大学とコラボして大学生が創作した「恵の福包み~湯葉と酒粕の慶び~」と「板御酒のプディング」を発表会にて披露していたのである。
発表会には来られなかったが、参加している店舗でも多くの酒粕料理がこの2~3月にメニュー化されている。一例を挙げると、「BAR SLOPPY JOE」では「ポートダムール」を、「Bar SAVOY hommage」でも「~イチゴイチエ~(一期一会)」という酒粕カクテルを提供予定。串揚げの「有馬楽膳 桜」では「酒粕ポン酢」と「酒粕金柑コショウ」を作って料理に使う事になっているし、洋食屋「グリルDAITO」では「サーモンの酒粕クリームコロッケ」をメニュー化している。新作ではないが、かつて発表した作品を2~3月にメニュー化しているのは「北新地ふじもと」と「TOOTH TOOTH FISH IN THE FOREST」で、前者は以前作って好評だった「酒粕パウンドケーキ」をリバイバルさせているし、後者はこのプロジェクトから生まれた「酒粕あんぱん」を好評につき売り出す運びになっている。北野町の「キュイジーヌ フランコ シャポネーズ マツシマ」は、「冬大根と福寿の酒粕ポタージュ」が冬の名物料理になっており、この時季になるとコースに挿入して出すという。加えて「日本料理かわもと」や「日本料理湯木」では2~3月の会席料理の中に酒粕を使った料理を挿入すると言っている。このように毎年色んな酒粕料理が多ジャンルで提供される事で、一時期忘れ去られようとしていた酒粕が復活するきっかけを掴んだともいえよう。

J_270x360

北新地と心斎橋大丸内に店を持つ「日本料理湯木」の店主・湯木尚二さんは、「粕汁は関西の古くからの料理なので、昔から寒の時季になると出してはいましたが、別段注力もしていなかったのが本音。ところが酒粕プロジェクトに参加し出してからはもっと力を入れねばと思って作り出しました」と語っている。「湯木」の粕汁は鰹だしをべースに白味噌と酒粕を合わせて作るもの。具は里芋・大根・金時人参・ゴボウ・絹揚げ・青葱・柚子に鰤か鮭を加えている。「冬の素材を使ってありきたりにならないような表現方法で」と冬野菜と酒粕の融合をテーマに作っているようだ。白味噌ベースなので朱塗りの椀に盛り付けて出すと見た目にも映えて奇麗で、海外からの客にはことさら受けていると言う。「湯木」では吸物として出す場合もあるが、煮物替わりとして会席内の二品目に提供する事もあるようだ。
元あべの辻調の教授で、現在JR摂津本山駅前で日本料理店を営む川本徹也さんも同プロジェクトに参加するようになってから再び酒粕文化に着目した一人。会席内の一品として酒粕料理を入れているので、コレと決まっているわけではないが、それでも「聖護院大根と鰤の焚き合わせ 酒粕あん掛け」や「のし梅の酒粕巻き」はよく作る料理だという。「かわもと」ではすべての素材を一緒に煮ず、鰤と大根を別々に炊いて器の中で一緒に盛り付ける_、まさに焚き合わせの定義を地で行くかのように具現化しているのだ。酒粕と白味噌が合うので白味噌ベースの焚き合わせは実に評判がいいそうだ。川本さんは「酒粕というと、昔母親が炙って砂糖をつけて出してくれたおやつを思い出します。その懐かしさを再現したくて『のし梅の酒粕巻き』を作りました」と話す。同品は八寸に加えるために考えたもので、当初はマーマレードを使っていたが、それだと溶け出してしまうのでのし梅を巻くようにしたとの話。カットして盛り付ける前に炙って出しているが、毎月訪れる外国人の方に好評で、余りの旨さにお代わりされるそう。「会席料理のお代わりなんて聞いた事がない」と笑っていた。

L

発表会冒頭で川本さんと一緒にステージに上がったのは、「スロッピージョー」の生田理実さん。彼女は、将来神戸のバー業界をリードするのではと噂されている女性バーテンダーだ。昨春行われた「福寿カクテルコンペティション2025」で「ポームダムール」というカクテルで優勝を果たした。この作品に酒粕が用いられている点から今年の酒粕プロジェクトの参加に繋がった。生田さんは神戸らしいカクテルを作ろうと思い、この一杯にスイーツをイメージさせた。材料に苦いチョコシロップ、グレナデンシロップ、牛乳、酒粕、福寿純米吟醸、ピスタチオを用い、予めラズベリーパウダーを飾っておいたグラスにそれらをシェイクして注ぐ。牛乳は泡を作るラテのイメージで使っているので最後にピスタチオを載せても沈まないらしい。「酒粕は酒で柔らかくして使い、生クリームよりも軽くするために牛乳を使用しました。日本酒をいかすために甘さは控えめにし、淡いピンクになるように仕上げています」と語っている。過去に甘酒を用いてカクテルを作った経験があるので酒粕を使うのには抵抗がなかったらしい。「むしろ甘酒より保ちがいいので効率的」と言っていた。「酒粕プロジェクト2026」の発表会は、これらの作品を紹介しながら一部の参加店の料理を味わうので二時間半はかかる長丁場。それでもバラエティに富んだ8作品を味わうのだから長さは感じなかったろう。ジャンルの異なる料理人ひとりひとりに話が聞けて、それぞれの感想を総合すると更なる酒粕の可能性が見えて来た気がする。

餃子をどうしたら和風に表現できるのか?

Q

ところで酒粕プロジェクトというと、いつも女子大生作品が話題に上がる。これは酒粕文化復活には、これからの時代を担う若い人達の参加が必要と、私が受け持つ大阪樟蔭女子大学の授業内で酒粕の研究を彼女らに促しているからだ。同大学の学芸学部ライフプランニング科でフードスタディを専攻する三年生を対象に行うものだ。彼女らは授業(フードメディア演習)で酒粕文化に触れ、酒粕の使い方の新たな可能性を見出すべく全く世の中に存在しなかった酒粕レシピを創作して行く。ブレストと試作を繰り返す中で生まれた作品を神戸酒心館にプレゼンしてその合否を仰ぐのだ。選ばれた作品は1月27日の酒粕プロジェクト発表会でマスコミ陣を前に披露されるばかりか、2~3月に「さかばやし」でメニュー化が約束されている。つまり大学生が創作したレシピが大谷料理長の手で具現化され、一般客に食べてもらう機会を得るのである。今回栄えあるメニュー化を獲得したのは、長野由依さん・松波鈴奈さん・宮本朋花さん・牛山美咲さんが考案した「恵の福包~湯葉と酒粕の慶び~」だ。彼女達はブレストを繰り返す中で、餃子を和風化できないかと思った。そこで餃子の成り立ちを勉強すると、そもそもは献上品で今でも結婚式などお祝いの席で出されている事がわかった。中国で餃子というと、水餃子か、蒸し餃子を指す。それらが残ると使用人に払い下げる。つまり焼き餃子は存在せず、残り物の処理法に過ぎず、鍋貼(コーテル)と呼んで使用人らが焼いて食べるのである。献上品と残り物_、同じ餃子でもその意味あいが異なる点に着目した。だからあえて献上品のような蒸し餃子の具を残ったもので描いたのである。コンセプトは、〔廃さず、活かす。素材がめぐる〕で、いかにもSDGs観点に目敏い若い子達の発想であろう。コンセプトに合わせるなら中味の餡は何かの副産物であらねばならない。そこで酒粕(清酒の余り物)を主軸に、豆腐の余り物であるおからや豚肉の余りものであるミンチ肉を加えて構成するようにし、味わいを持たせる意味で海老を、食感をつけるために蓮根を加えて餡を作る事にした。
だが、餃子は中華料理なので「さかばやし」で出すためには純然たる和食にせねばならない。そこで餃子の皮は用いず、湯葉で包み、しかも奉書風にして熨斗を飾るようにして和風の域まで落とし込んだ。ちなみに熨斗デザインにするためには酢漬けにした大根と人参で紅白に見せ、それを結んだのである。餃子の原点が蒸すか茹でるなので、余り物で作った餡を湯葉で奉書風に巻き、蒸して料理を作っている。餃子の漬けダレは、白だし・みりん・淡口醤油・白味噌に酒粕を混ぜて作り、もう一方は酒粕酢であるミツカン「三ツ判山吹」を添えて味変を楽しむように演出している。酒粕が入ったタレに漬けると和風になり、「三ツ判山吹」に漬けると中華風になるという摩訶不思議な味わい方になっているのだ。日本で初めて餃子を食べたのは、水戸光圀(水戸黄門)。明の儒学者である朱舜水が献上品として差し出したのがそれで、その時の餃子を“福包(ふくづつみ)”と称した。彼女らは、そのネーミングからとって今回の作品を「恵の福包」とし、わかりやすいよう副題に「湯葉と酒粕の慶び」と添えたのである。彼女らが指す恵みとは、酒粕やおからなど正規品を造る過程で残ったものの事で、“恵みを捨てずに活かす”がテーマとなっている。この「恵の福包」は、コンセプトからよく考えられており、多くのマスコミ関係者から絶賛された。ブラッシュアップ役の大谷料理長からも「別段レシピを変える所もなく、初めから上手くできていました。私がした点といえば、海老や蓮根を大きめに切ったのと、漬けダレに白味噌を入れたらとアドバイスしたくらい。大学生だけに歴史上の伏線から、コンセプトづくりまでよく勉強した上での結果だと思います」とのお褒めの言葉をもらっていた。プロの料理人達に交じり、授業での成果を発表した四人の女子大生を称えたい。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい