2026年03月
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 泉佐野市に松波キャベツという名産品がある。一般のキャベツより糖度が高く、甘くて葉がぎゅっと詰まって大きい。そんな地元の名産品を訴求すべく、泉佐野市内の府立高校の生徒達がその活用を考えた料理を創作し、レシピを作った。この作品を2月にホテル日航関西空港では、ブッフェメニューの中に挿入して一般客に提供した。今回は、2025年夏頃から始まったそんな取り組みについてレポートしたい。地元の高校生達は、いかなる発想でホテルの料理を創作したのであろうか。ラジオ特番に出演した三人の高校生と井口晃一総料理長の声から今回の企画の全貌を読み取る事にしよう。

  • 筆者紹介/曽我和弘廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。
発想のユニークさにシェフもびっくり!高校生が考えた松波キャベツ料理

産学連携の主役は、既に高校生の時代に_。

数年前にBSよしもとで放送していた「ワシんとこ・ポスト」に二回程出演した事がある。同番組は、全国ニュースではなかなか取り挙げられない地方の出来事をリモート形式でインタビューし、放映するもの。司会を元日本テレビアナウンサーの小倉淳さんがやっていた。私は酒粕プロジェクトと有馬山椒復活プロジェクトネタで出させてもらったのだが、一つの話を結構長時間とってインタビューしてくれ、スタジオとのやりとりもあってなかなか面白い内容になっていたと思う(今では放送が終了したのは残念でならない)。番組では全国津々浦々色んなネタを拾って来ており、そのリサーチ力に脱帽してしまった。当時のプロデューサーに話を聞くと、「産学連携も大学生参加と相場は決まっていたが、今ではもう少し参加年齢が下がって高校生主体になりつつある」そうだ。新聞では、まだまだ大学生プロデュースが賑わせているようだが、近年の高校生は社会進出が際立っており、大人顔負けのプロジェクトを行っているようだ。だから「ワシんとこ・ポスト」では、地方の高校生の動向をリサーチしていると話していた。当方も大学で教鞭を取っている関係上、酒粕プロジェクトに女子大生を参加させており、産学連携を上手く実施しているが、「時代は、既に高校生なのか!」と実感した次第である。
そんな事を考えていたら泉佐野市農林水産課が「今年度の泉佐野産(もん)普及促進事業に地元高校生を参加させる企画を作られないか?」と相談して来た。泉佐野市役所によると、市内には佐野高等学校・日野根高等学校・佐野工科高等学校があるらしい。三校には料理をテーマにしたクラブ活動があってその生徒達に市内で穫れる松波キャベツを使ってレシピ創作にチャレンジさせてみたいと言うのだ。それだけでは面白くないので、高校生が考えたレシピを「ホテル日航関西空港」に渡してブラッシュアップを図ってもらい、ホテル内のレストラン(「オールデイダイニング ザ・ブラッスリー」)にてブッフェメニューに組み込んでもらうと考えているようだった。「ワシんとこ・ポスト」から「時代は既に高校生のフィールドに」と聞いていただけになかなか面白いと、当方もその企画に乗らせてもらった。

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泉佐野市農林水産課は、近年地場で穫れる野菜などを“泉佐野産(もん)”と名づけ、そのブランド化を推進して来ている。水茄子・泉州玉葱は既に全国区なのだが、それに続く第三の産物として松波キャベツを訴求したいと目論んでいる。
元来、松波キャベツは、静岡の石井育種場が開発したもので、泉佐野には昭和50年代に入って来ている。泉州では昔から玉葱栽培が盛んで、その端境期に適している事から昭和30年代にキャベツ栽培が進められていた。そんな環境下でたまたま静岡の種苗会社が開発した松波キャベツが、泉佐野の風土に合ったのだと思われる。大阪産(もん)のデータベースによると、「和泉山脈と海の間が急勾配で水はけがよく、キャベツ栽培に適している」と書かれている。よく肥えた土で育つために栄養豊富で味がよいとも。キャベツは春キャベツと冬キャベツに大別される。松波キャベツは、冬に穫れる寒玉キャベツで、葉がぎゅっと詰まって甘いのが特徴。他のキャベツより大ぶりである。糖度は甘いもので12~14度あるそうで、メロンが15~16度なのでその甘さも理解できよう(一般のキャベツは6~8度といわれている)。ただ農家に聞くと、栽培が難しいらしい。「大きさを揃えたり、苗の間隔を広めてはみ出て来ても対応できるようにするなど手間がかかる」ようだ。一般的にキャベツは、外の葉から中へ行く程甘みが増す。一番甘いのは芯で、悲しいかな我々は最も甘い部分を捨てている事になる。泉佐野市内の人は、「お好み焼きには松波キャベツが必需品」とまで言う。お好み焼きの主材料は、豚肉とか、海老、イカを挙げる人が多いが、豚玉にはイカは入っておらず、イカ玉には豚は入っていない。全てのものに入っているのがキャベツで、ならばお好み焼きの主役はキャベツだと言ってもおかしくはないのだ。泉佐野市内にあるお好み焼き店「いろは満月」の高道敦子さんは、「キャベツが替わるとお好み焼きの味が変わる」とまで断言し、冬場には進んで松波キャベツを使っている。「その甘みたるや、材料費が嵩(かさ)んでも使いたくなる」と言っているぐらいだ。全国的に見てキャベツの産地は①群馬②愛知③千葉の順。関西では兵庫県が一番多いと聞く。ところがこの所の松波キャベツの評判は尋常ではないくらいで、そのブランド力で泉州をキャベツの名産地だと錯覚させるぐらい押し上げてしまった。この10年近くの泉佐野市役所の訴求が功を奏した証でもある。

高校生達独自の発想でホテルブッフェを彩った

さて肝心の高校生参画プランだが、農林水産課では各校を巡り、松波キャベツを用いた料理レシピ作成を依頼。その呼び掛けによって佐野工科高校が調理部で、日根野高校がハンドメイド部で取り組んでくれる事が決まった。佐野高校は、2年生の課題授業で「泉佐野市の課題を解決する」とのテーマがあって商業分野の班で地元の野菜を広めるにはどうしたらいいだろうと、松波キャベツ訴求に取り組んでくれた。各々の学校で料理を創作し、レシピを作成、料理写真や訴求ポイントを添えて11月に農林水産課へ提出してくれたようだ。そのレシピを、同じ市内にある「ホテル日航関西空港」へ持って行き、井口晃一総料理長が商業的に成立できるようにブラッシュアップをして完成させている。高校生作品は同ホテル二階の「オールデイダイニング ザ・ブラッスリー」にて2月のブッフェメニューに組み込まれて一般客に提供された。その時の料理が「松波キャベツで巻いた白味噌ポテトサラダ」(佐野工科高校作品)、「松波キャベツと豚バラのポトフ仕立て」(佐野高校作品)、「松波キャベツと苺のムース」(日根野高校作品)である。

佐野工科高校・調理部を代表して村本怜亜さんに話を聞くと、「きっかけは松波キャベツの鮮やかな緑色とシャキシャキした食感をいかした料理を作りたかった点」らしい。それには白いポテトサラダが合うと思い、松波キャベツでそれを巻く事を思いついたそう。一般的なポテサラに入っているキュウリは入れずに淡い色の茹で玉子とハムだけとシンプルに作り、加熱しすぎて栄養価を損なわないように蒸し器で仕上げている。村本さんが「キャベツには白味噌が合う」と激推しし、ポテサラに混ぜ合わせて調味したという。レシピをもらった井口シェフは、味のポイントだった白味噌をポテサラに入れずにあえて外に出し、ソースとして使うようにブラッシュアップさせた。「その方が素材がわかりやすくなるし、白味噌の風味もより感じられる」と説明していた。完成作を食べた生徒達は「井口シェフのアレンジで酸味もはっきりし、美味しかった」と感想を述べている。

一方、授業内で取り組んでくれた佐野高校の面々は、本企画で地元名産の松波キャベツを知り、面白い素材だと思って研究を重ねた。煮崩れしにくい、加熱すると甘みが増すのを知ってその特徴をいかすべくレシピ提出ぎりぎりまで色々と考えたようだ。結局「冬だからあったかいものを作りたい」との思いから、キャベツが主役となるポトフを選んだ。同校の石井理仁さんは「一時間の授業内で作るのにしっかり煮込めず少々不安でしたが、井口シェフが上手く調理してくれて嬉しかった」と語っている。井口シェフも「佐野高校のレシピは、松波キャベツの甘みをしっかり感じられてよかった」と評しているのだ。本来ポトフは全ての材料を一緒に煮るのだが、ここでは材料を別々に煮て最後に合わせている。「この方が松波キャベツの風味が立つ」と考えての井口シェフのアレンジである。

ちょっとユニークな発想で創作したのは日根野高校ハンドメイド部の面々だ。彼女らは「松波キャベツは甘さが特徴」と聞き、なんとスイーツ素材にしたのである。ハンドメイド部で部長を務める譽田(こんだ)佳凛さんは「スイーツをメインに活動しているクラブなので普段からカップケーキやクッキーはよく作ります。甘さが際立つなら松波キャベツでスイーツを作ってみようと思いました。松波キャベツの緑色だけだと単調になってしまうので、苺のピンク色を組み合わせてカラフルにしてみようと考えました」と語っている。こんな発想から奇跡のマッチングが成立したようだ。「キャベツを入れすぎると青臭くなる。かといって減らしたらその風味が出ないので、なかなか調整が難しかった」らしい。それに苺とのバランスも同様にである。何度も試作を重ね、プリン型の容器内に二層のムースが出来上がっている。井口シェフは「なんとも発想がユニークで、プロでは考えもつかない」と絶賛し、上がピンク(苺)、下が黄緑色(松波キャベツ)が来るような可愛いドーム型にアレンジして作っていた。「100℃近くでゆでたり、蒸したりするとキャベツの色が飛ぶので85℃で火を入れてトロトロの状態にするとキャベツの色も風味も上手く残りました」と井口シェフ。ムースの上に載っているレモンピューレの酸味がアクセントになって爽やかさを伝えている。「ムースを試作した時に甘いなと思って上にレモンのゼリーを載せて爽やかさを加えて食べやすくしました。それを井口シェフはさらにブラッシュアップしてくれたので、いい出来栄えのスイーツになりました」と譽田さんは言っていた。

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高校生たちがチャレンジした本作品は、歴としたホテルのメニューとして提供されている。「ザ・ブラッスリー」では、その栄誉を告げてプレートにて表示し、提供する料理の後に飾っていた。訪れた一般客は、高校生の発想を知り、その料理の主素材として用いられている松波キャベツの存在も知る_、まさに一石二鳥の提供術である。今回の高校生作品のユニークさと料理の旨さを告げる「世界に届け!放課後松波キャベツ部」なる特番が1月31日(土)午後6時からラジオ大阪で放送された。出演は各校を代表して譽田佳凛さん・村本怜亜さん・石井理仁さん。それに井口シェフと私めも出て松波キャベツのPRを行った。MCの中村優菜さんがうまく話を引き出してくれて和気藹々の番組になったと思う。昨今は高校生といえども在学時から実社会と繋がりを持つ活動をすべきなんだろう_、そう思って企画したが、泉佐野市農林水産課の取り組みは、高校生達に将来への夢と創意工夫という行動の道標を与えてくれたのではなかろうか。何はともあれ、試作を重ねてユニークな料理を創作してくれた高校生達に「天晴(あっぱれ)」と拍手を贈りたい。

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