149 2026年03月和歌山県は食材の豊富。魚介類に野菜・果樹・山菜とあらゆるジャンルのものが名産となっている。同じ有田郡でも湯浅醤油がある湯浅町とは車で1時間程も離れ、山あいに佇むのが有田川町清水である。近くに景観地・あらぎ島があって有田川が流れる畔に位置するのが老舗和食店「赤玉」。ここでは地のものをアッピールすべく、川魚や山菜・猪肉を使った郷土料理が提供されている。しかも地の伝統食「わさびすし」の旨さを全国に広めようと活動している和の職人が存在するのだ。今回は有田郡でも山間部に位置する「赤玉」を訪ね、湯浅醤油・丸新本家の商品を用いた山の料理に舌鼓を打って来た。

赤玉 西林和高
(「赤玉」店主)
「珍しい調味料『カカオ醤』
と出合い、いかに地元の食材と
合わすべきか思考しました。
猪鍋に入れる事でその風味を上手く表現できたと思います。」

伝統食「わさびすし」の旨さを広めたい

和歌山県の有田川町に「あらぎ島」という景観地がある。漢字にすると「蘭島」と書くそうだが、海に浮かぶ島ではなく、棚田の事。本来は嶋新田と称すが、通称の方が通りがいいようだ。有田川沿いにΩ状に連なる田んぼで面積は24182㎡。大小54枚の水田が階段状の扇型に形成されている。有田川町のシンボルとして観光地化され、棚田百選にも選ばれている。2013年に“蘭島及び三田・清水の農村景観”として国の重要文化財景観に選定された。今回の「名料理、かく語りき」は、このあらぎ島から程近い郷土料理店からレポートする。今回の主役・西林和高さんと彼が営む「赤玉」について話をする前にこの周辺の土地の事を話さねばなるまい。「赤玉」がある有田郡有田川町清水は、かつては清水町と呼ばれ、奈良県吉野郡野迫川村と隣近する土地である。同じ有田郡にある湯浅醤油(海側)とは環境的にも異なり、山深い印象を持つ。その昔は紀州和紙で栄えたらしく、日本で最初に栽培したシュロも有名だった。この地は何といってもぶどう山椒が有名で、その生産量は日本一。どうやら日本の山椒の6~7割を占めている。そもそもは医要木勘右衛門の庭に自生していたのが起こりで、葡萄の房のような形状からぶどう山椒と呼ばれ、香り高く辛みも強い点からその昔は薬用に用いられた。「赤玉」の住所を見ると、有田川町清水となっているが、水がきれいから“清水”とつけられているのだろう。「赤玉」の西林さんによると、近くに平家の落人伝説で知られる上湯川地区というのがあってその昔は沢ワサビが自生していたらしい。なのでこの地ではワサビも活用していた歴史があり、今では「わさびすし」としてそれが残っている。今回は、山椒・ワサビ・山菜の地から「名料理、かく語りき」をスタートしたい。

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「赤玉」は湯浅醤油から車で約1時間の所にある。蛇行するように流れる有田川のそばの国道480号線沿い。棚田百選にも選ばれているあらぎ島からも程近い。春は山菜やアマゴ、夏は鮎、秋冬は猪肉・紀州鴨といった山の幸が食せる郷土料理店である。店名の由来は、西林和高さんの祖父が和歌山の堀止にあった「赤玉」なる店で働いていた事から独立時にその屋号を名乗らせてもらったのだとか。以来創業して75年ぐらいになるそうで、父の跡を継ぎ、今では三代目として西林和高さんが「赤玉」を経営している。
西林和高さんの話によると、こういった環境で育ったから店を継ぐのは規定路線で、幼稚園児ぐらいから大人になったらコックさんになると話していたそう。地元高校を卒業すると調理師を目指すべく辻学園TEC日調で学んでいる。専門学校は一年制で、卒業したらすぐに北新地にあった「粋餐 石和川」へ。有名料理人・浦上浩さんの下で日本料理の技術を習得した。「師匠の印象は、親父(おやじ)然として仕事に厳しいイメージ。入店時には色んな雑誌にも乗っていたので有名な割烹だとはわかっていましたが、それはそれは怖くてフレンドリーに接するなんて以ての外。入った時に『うちの店は自衛隊より厳しいから覚悟しなさい』と言われましたよ」と笑いながら振り返ってくれた。現に同期入社は5人だったらしいが、残ったのは西林和高さんひとりだったそうだ。厳しい環境下ながらも浦上さんの料理は学ぶべき点が多く、焼魚にトマトソースを掛けて提供したり、和食なのにバルサミコ酢を詰めて調味したりと、まさに当時としては斬新。その特徴は日調から紹介されて見学に行った時から感じていたようで「コテコテの和食じゃないから、どうしても『石和川』に入りたい」と願った一心からの思いを現場で貫いた事になる。「和歌山の田舎出身だった私を鍛え上げてくれたのは浦上師で今の自分を作ってくれたのだと感謝しています。それにいい先輩方にも巡り会えて現場でサポートしてもらえたので厳しい仕事場でもやって来られたのだと思います」と話していた。西林和高さんは「石和川」に5年いて浦上さんの料理に対する考え方や技術を学んだ。その後規定路線(「赤玉」を継ぐ事)へ進むべく、茨木の「成田屋」へ移った。「赤玉」では仕出しもやっていたのでそれを勉強するために「成田屋」で2年間働いている。「その後、祖母の体調が悪くなったのもあって27歳ぐらいで実家に戻りました」。実家に戻ってからは父親の下で料理を学び、17年ぐらい前に代替わりして三代目として店を経営している。丁度三代目としてやり出した頃に店を改装し、郷土料理色を強めたようだ。「かつては和食店といっても町の定食屋の趣もあったスタイルでしたが、私が継ぐにあたって地域色を濃く打ち出そうと考えて今のような内容の店になったんです」。現在の「赤玉」は、定食や丼・麺類もあるが、「鮎塩焼定食」や「あまご造り定食」「しし鍋定食」「しし肉うどん」「山菜そば」といったように山の幸を強く打ち出している。かといってこれまでのような「とんかつ定食」や「天ぷら定食」「カツ丼」などのスタンダードなものも取り揃えているのだ。

西林和高さんが強く打ち出そうとしているのが、この辺りの地域性である。ならば山椒料理は必で、加えて「山椒和歌山ラーメン」や「香椒麺」を新たにラインナップしたのだという。前者は今や全国区になった和歌山ラーメンに山椒を加えたもので、ぶどう山椒を練り込んだ麺と、醤油とんこつスープ、山椒パウダーの三つが相まって味を形成している。後者はその和風版ともいうべきもので、小麦粉に山椒を混ぜて製麺したオリジナルの麺を使用。ピリッとした辛みと山椒風味が漂う。口内でほんのり広がる爽やかな刺激が印象的でだしを飲むと山椒香が来るのがいい。「祖母が山椒農家なので直接引いています。麺にも結構山椒が入っているので、地元の良さが引き出された味になっていると思います」と説明していた。

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山椒と並んで西林和高さんが訴求したいのが「わさびすし」である。そもそもこの地の寿司文化は源平合戦に敗れた平維盛が隠れ住んだ事に端を発するそう。その従臣がもたらした弥助鮨に由来するという。そんな食文化の中で季節を愛でる寿司として江戸中後期以降に広まったのが「わさびすし」で、清水上湯川地区でわさび田が開墾されて栽培が始まった事によって作られ始めた。「春はわさびすし、夏には芭蕉すし、秋の祭りには名荷の葉で巻いたたこなすしと、この地域では四季で寿司を食していました。そのうちのわさびすしは、祝い時や人が集まる時によく食べたものです。地域の産物と文化を発信したくて『赤玉』では父の代に商品化したんですよ」。わさび酢とわさびの茎を混ぜた寿司飯(地元の清水米を使用)に具を色々と替えてわさびの葉で包んでいる。西林和高さんの話では「わさびの葉は2~5月に採ってかつては塩漬けさせて保持していました。それではどうしても色飛びがあるので今では真空で塩漬けしたものを冷凍保存して年中使っているんです」との話。酢飯にもワサビの軸を刻んで入れているから葉と飯の両方からわさびの風味が楽しめるように設計している。
スタンダードな具は柿の葉寿司と同様に鯖。「赤玉」では、摺り卸したわさびと刻んだわさびの茎を使った山葵、鮎の甘露煮を入れた鮎の三つを出している。これにプラスして5個入りセットではスモークサーモンと鰻も加わる。伝統の寿司文化をアレンジしながら商品化しており、店で提供するだけではなく、通販サイトでも求めるのが可能との話であった。実は西林和高さんは、有田川町清水の「わさびすし」の魅力を伝えたくて全国行脚の日々を送っている。百貨店の催しやイベントに出店したりして「わさびすし」を売り歩いているのだ。「読売テレビ系の『秘密のケンミンSHOW』で紹介された時はかなりの反響がありました。通販では400~500件問い合わせがあって店を締めて作り続けたくらい。その時は一年分ストックしておいたわさびの葉がなくなってしまった程です」と言う。今は普通に戻っているが、その時の反響は遠く湯浅醤油まで轟いていたようだ。奈良の柿の葉寿司や和歌山のめはり寿司と肩を並べるくらいのメジャーな存在にしたいと考え、その訴求に躍起になっているのが彼の話しぶりからも窺える。

「カカオ醬」を加えた猪鍋が登場

ところで私は、この紀州の山あいの地でも湯浅醤油・丸新本家の商品を使って料理を作ってもらおうとしている。予め商品を送っておいてその特性を見極めながら取材用の料理を創作してもらいたいと伝えておいた。なのでこの後に出て来るのはスタンダードなメニューではなく、取材用のスペシャリテなのだ。「赤玉」は、土地柄山菜を多用しているようだ。まず出て来たのは「イタドリのわさび金山寺味噌和え」。文字通りここには「わさび金山寺味噌」が使われている。この商品は、和歌山県印南町の真妻わさびを用いて作っている。甘めの金山寺味噌にあってわさびのピリッとした辛さがうまくマッチしたものだ。ここで料理に使用されているイタドリとは、タデ科の多年草で代表的な山菜の一つ。昔は軽くて丈夫なイタドリの茎を杖に使っていた事から漢字で記すと“虎杖”と書く。草丈は150㎝にも達する程大きくなるのもあるそうで、西林和高さんによると「この辺りではよく採れ、節分に炊いてパンパンと音を出し邪鬼を払うのに使ったりもする」そう。竹のような見た目で生だと酸味を感じる味わいがし、好きな人にとっては好物らしく、好き嫌いがわかれる山菜でもあるようだ。「赤玉」ではイタドリを春に採って塩漬けして保存しているらしく「塩漬けする事で酸っぱさがなくなる」と話していた。西林和高さんは、保存してあるイタドリを流水で洗って塩抜きをし、「わさび金山寺味噌」で和えた。「本来はごま油を入れてきんぴらのように炒めるんですが、今回は色々と調理せず、『わさび金山寺味噌』と合わせてシンプルに作りました。この方が金山寺味噌に入っているわさびの風味が残っていいと思ったんです」。イタドリ自体の酸味は残しつつも「わさび金山寺味噌」の辛みがついて山菜の良さを出している。金山寺味噌の甘さもあるからイタドリ独特の個性が柔らぎ、食べ易くなっていた。

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二品目は「アマゴのなめろう」。なめろうは本来房総半島発祥の郷土料理で叩きの一種。鰺でやることが多く、味噌・葱・生姜のみじん切りを混ぜて粘りが出るまで叩いて作る。今回は山の料理なのでアマゴで代用。丸新本家の「あえみそ」を用いて作っていた。「アマゴは和歌山県・日高町の漁協からわけてもらった養殖のものを使っています。なめろうというと叩いて作るのですが、今回は叩かず『あえみそ』と醤油・みりん・刻んだ大葉で和えました」と説明していた。「赤玉」ではメニューとしてなめろうはないらしい。なので本取材用に一から考えたものである。西林和高さんが「あえみそ」を舐めた時になめろうと作ろうと思い、郷土料理っぽくアマゴと合わせたら面白いと発想したようだ。「実は今朝考えた、いわば即興料理です」とネタばらししながら笑って説明してくれた。「夏なら鮎のブツ切りと合わすのがいいかもしれません」とも言っていた。

三品目もアマゴを用いたもので、品名を「アマゴの味噌焼き」と称す。二品目もそうだが、ここでも日高町の養殖のアマゴを素材として使用している。日高町の漁協からわけてもらうアマゴは立派で30㎝もある。プロトン冷凍にかけて保存しているので安心で、寄生虫の心配もないという。三品目の料理では、アマゴには「わさび金山寺味噌」と「あえみそ」を、お浸しには「白搾り」を使っている。皿に配された料理は中央に菜の花のお浸しが_。左横がアマゴを揚げたもの。右横と奥がアマゴの味噌焼きになっており、右横には「わさび金山寺味噌」が載っており、奥には「あえみそ」を載せてある。西林和高さんは「アマゴは淡泊なのであまり塩を入れず、『あえみそ』や『わさび金山寺味噌』の旨みで食べるようにしています。だから塩を当てて焼くだけ。上に載っている味噌が十分素材の味を引き出して調味してくれます」と語っていた。「赤玉」は、土地柄山菜が充実しており、4月にもなれば色んな山菜が揃うという。タラの芽や、若芽が強い香りとコクがあってタラの芽と並ぶ山菜のコシアブラも入るし、こごみも河原で採れるそう。「高野山から流れて来てこの地で自生している」と言っていた。

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四品目はメインディッシュとも呼ぶべき「カカオ醬で作った猪鍋」。味噌で作る猪鍋は「赤玉」ではよく作る料理だ。今回は、そこになんと「カカオ醬」を入れているから面白い。「送られて来た商品の中に『カカオ醬』が入っていて珍しい調味料なんで使ってみたくなりました。ところが地域食材をテーマにすると、何に使おうかとあれこれ悩んだのも事実。ある時、猪鍋に用いてみようと閃いたんです」。ただその分量が決まらず何回も試作して丁度いい分量に辿り着いたそう。「少なすぎると『カカオ醬』の香りが出ません。さりとて多くなるとくどすぎて食べ飽きる恐れがあります。今回は小さじ1.5を使いましたが、今から思うともう少し強くてもいいかと考えています」。この周辺には猟師もいて猪肉は和歌山産のジビエを使用しているようだ。元来、臭みもないので「赤玉」ではスープは薄めで上品な味にしている。田舎味噌は抑え気味に用い、だしは鰹節と鯖節の合わせだしを。だしに田舎味噌を溶き、醤油・みりん・酒を仕入れ仕上げ、最後に「カカオ醬」を加えて作っている。ボタン鍋発祥の丹波篠山は味噌が強い感じがするが、「赤玉」はあっさりめ。濃くはないからスープが何杯も飲める。ここに「カカオ醬」の風味が上手く重なり、いつもとは違う猪鍋が出来上がった。西林和高さんが最初に「カカオ醬」を舐めた時に「肉に合う」と閃いた発想は正解だったように思う。幾人かのシェフが試した「カカオ醬」の使い方に新たな道が開けたように思えた。「カカオ醬で作った猪鍋」の中に浦上浩イズムが覗けたようで何となく嬉しくもあったのだ。

有田川の畔に位置する「赤玉」は、創業70年以上の地域で愛されている店だが、18年前に西林和高さんが三代目として店主になってからは定食・丼・麺類は残しつつも郷土料理色の濃いメニューを打ち出している。二代目から続く「わさびすし」もそうだし、猪鍋も同じ。ぶどう山椒の産地をアッピールすべく考案した「香椒麺」や「山椒和歌山ラーメン」もそうである。特に「わさびすし」は、この地域の伝統の味でそれを伝えたくて全国を奔走する日々だという。「TVで紹介されて10年くらい前に東京の『三越』から出店依頼が来たんです。でもその時は売れませんでした。私も出し方や見せ方がわかっていなかったんだと思います」。地方の人は和歌山の「わさびすし」と聞くとやたら辛いイメージを持ち、まるでバツゲームに出て来るわさびたっぷりの辛~い寿司だと誤解したようだ。「わさびの葉で包んでいるのもわからず、草餅と勘違いした人までいました。和菓子を想像したり、辛~い負のイメージを有したバツゲーム用の商品かと思ったら売れませんよね。だから今は、とにかく食べてもらわないといけないと試食を心掛けて売っています」と話していた。地域には、地域の食文化があり、それを広めるのが地域興しの第一歩でもある。西林和高さんが行っている地方行脚は意味のある行動で、いずれその花が開くに違いない。

  • <取材協力>
    赤玉

    住所/和歌山県有田郡有田川町清水337-1

    TEL/0737-25-0371

    HP/ 公式HPはこちら


    営業時間/月火曜日11:00~13:30LO、木金曜日11:00~13:30LO、17:00~21:00LO、

    土日曜日11:00~15:00LO、17:00~21:00LO

    休み/水曜日

    メニューor料金/
    わさび寿司定食         1500円
    和歌山ミックスフライ定食    1650円
    山椒和歌山ラーメン       1050円
    香椒麺             900円
    山椒そば            900円
    あまご造り定食         1600円
    あまご塩焼き          1200円
    しし肉小鍋定食         2500円
    しし肉大鍋           4200円
    わさびすし(土産用5個入り)   1000円


筆者紹介/曽我和弘
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカと雑誌畑ばかりを歩いてきて、1999年に独立、有)クリエイターズ・ファクトリーを設立した。特に関西のグルメ誌「あまから手帖」に携わってからは食に関する執筆や講演が多く、食ブームの影の仕掛け人ともいわれている。編集の他に飲食店や食品プロデュースも行っており、2003年にはJR西日本フードサービスネットの駅開発事業に参画し、三宮駅中央コンコースや大阪駅御堂筋口の飲食店をプロデュース。関西の駅ナカブームの火付け役となった。

湯浅醤油有限会社|世界一の醤油をつくりたい